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第32話:「否定の陣」
黒い文字は脈動しながら広場全体に広がっていく。
俺は足元から体温が奪われる感覚に襲われた。言葉の魔力が、じわじわと削がれていく。口を開こうとしても、声が砂利のように喉に引っかかる。
「これ……言語魔法の制限を突かれてる……」
ミナが額に汗を浮かべ、小さくつぶやく。
俺は必死にうなずき、否定の文字列を解析しようと目を凝らすが、形は絶えず変化し、意味をつかんだ途端に別の形へと崩れていく。まるで液体のように、理解を拒む。
広場の端で、誰かがつぶやいた。
「本当に正しいの?」「嘘くさい」「信じられない」
それは呪文ではない。ただの人間の声――だが、否定の陣がそれを拾い、力へと変えていく。虚人はその負のエネルギーを糧としていた。
カイが歯を食いしばり、剣を抜く。
「オレっちが斬る!」
彼は低く身を沈め、瞬発的な動きで虚人に斬りかかる。しかし刹那、否定の波が彼の体を押し戻し、剣が空を切った。
「クソッ……言葉が……重い!」




