第30話:「重なる声、重なる光」
「まだ……終わっちゃいねぇ」
喉から絞り出すような声が、俺の耳に届いた。カイだ。
次に、ミナが唇を震わせて一語を紡ぐ。
「……繋がれ」
それは細い糸のように脆く、しかし確かに俺の心に触れた。
胸の奥に熱がこもる。
俺もまた、その糸に自分の声を乗せた。
「……届け」
三つの声が、同じ呼吸の中で重なった。
その瞬間、世界が震える。
足元から湧き上がった光が、熱を帯びて身体を包み、皮膚の内側から溢れ出した。
白と金が混じり合い、炎のように揺れながら市場全体を照らす。
その温もりは物理的な熱だけではなく、胸を満たす確かな安心感を伴っていた。
観客たちが目を細め、互いの肩に手を置き合う。
路地に潜んでいた子どもが、光に導かれるように外へ出てくる。
その表情から、恐怖が少しずつ溶けていく。
剣士の影が光の中に溶け、刃先が震える。
やがて彼はゆっくりと刃を下ろし、わずかに目を伏せた。
「……その言葉、忘れるな」
静かにそう告げると、彼は外套を翻し、群衆の間へ消えていった。
残された熱と光はしばらく市場を包み、俺たちはただその中心で立ち尽くしていた。
その温もりの中で、俺たちは――言葉が、ただの道具ではないことを、改めて深く知った。
ないことを、改めて深く知った。




