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第28話:「交錯する刃と言葉」
剣士の右足が半歩、前に滑った。
石畳の間に詰まった砂が、かすかな音を立ててこぼれる。
次の瞬間、銀光が弧を描き、俺の視界を裂いた。
「速ぇ!」
カイの声が鼓膜を揺らすのと同時に、俺は反射的に後退する。
剣筋はまるで音を置き去りにするような速度で、斜めに振り下ろされていた。
ミナの手が宙に描く軌跡が淡く光り、空中に浮かぶ文字が形を成す。
《固定》──それは空気の流れを歪ませ、剣の軌道を一瞬だけ止めた。
だが、剣士は口角をわずかに上げ、その文字を刃で断ち切る。
砕け散った文字片は風に溶け、何事もなかったかのように消えた。
「言葉を斬った……?」
俺の背筋に冷たいものが走る。
剣士の眼差しには、ただ静かな確信だけが宿っていた。
「オレっち、次は行くぜ!」
カイの声が弾け、青い符号が彼の両拳を包む。
二撃、三撃──拳と刃が交錯するたびに、金属音が火花を散らした。
市場の観客たちは声を呑み、誰もが動けずに見守っている。
やがて剣士が距離を取った。
「……足りないな」
低く落ちる声は、挑発でもなく、ただ事実を告げるようだった。




