第27話:「沈黙の剣士」
市場の喧騒が、ふと一筋だけ切り取られたように静まり返った。
その中心に立つのは、一人の剣士。
背は高く、引き締まった体躯に深緑の外套をまとい、顔の半分は影に隠れている。
だが、その視線は鋭く、まるでこちらの魂を射抜くかのようだ。
髪は銀と黒が混じり合い、夜明けの空のような淡い輝きを放っている。
外套の裾がふわりと揺れ、剣士の手がわずかに鞘へと添えられた。
指が軽く押し上げるように動き──ほんの数センチだけ、刃が鞘口から顔をのぞかせる。
その一瞬、刃に刻まれた文様が光を帯び、市場の石畳に淡い古代文字の影を落とした。
「……あれは」
俺が呟くと、隣のカイが口笛を吹く。
「オレっちのセンサーが言ってるぜ。あれ、マジでヤベぇやつだ」
ミナは小首を傾げながらも、じっと剣士の動きを観察していた。
「……言葉の残滓をまとってる。普通の剣じゃない」
剣士は何も言わない。ただ、視線をこちらへ向けた。
その無言が、喧騒よりも重く、圧倒的な威圧感を伴って市場を支配する。
そして、再び外套の裾が揺れた瞬間──俺たちは直感的に悟った。
これから始まるのは、言葉ではなく、刃で語り合う時間だと。




