第25話:「分断の詩」
俺たちはなんとかダウトリィを退けたが、深く傷ついた。
特にカイが、詩魔法の“反響干渉”で精神にノイズを負っていた。
「オレっち……ちょっと、休みたいっす」
そう言って、宿屋のベッドに潜り込んだまま、カイは動かなかった。
ミナはミナで、どこか浮かない表情をしている。
勝ったのに、空気が重い。
「俺たちにも……やっぱり限界があるのか?」
俺もまた、胸に鉛を抱えていた。
そんな俺たちにまた、ギルドからの緊急招集がかかった。
《語断症》が王都に発生したというのだ。
人々が急に“言葉を使えなくなる”現象。思考と感情の表現が遮断され、やがて発狂に至る。
その中心には——《サイレンサー》の名があった。
「奴が戻ってきた……!」
俺たちはもう一度、立ち上がらなければならない。
だが、このとき——ミナが突然、俺たちから距離を取ろうとしていた。
「ボク、ちょっとひとりで考えたい」
ミナの目には、いつもの柔らかさがなかった。
「ボクが、“語”を使える存在であること自体……ほんとうに、良かったのかなって」
それは、疑問であり、揺らぎであり——予兆だった。
俺たちのチームが、初めて“分断”されようとしていた。
第26話:「感情、言葉を歪める」
喪失の夜を越えても、朝日は等しく俺たちを照らした。だが、その光はやけに冷たく感じた。
「……セイ、先行ってろ。オレっち、ちょっと……整理がしたいんだ」
カイが珍しく目をそらした。笑顔もなく、声にいつもの弾みもない。
ミナも言葉少なに背を向けた。
「ボクも……考えたい。自分が何を“信じて”るのか……」
俺はひとり、町の高台に立った。
──初めての敗北。仲間が言葉を失い、自分もまた、あのとき“何も言えなかった”ことに気づく。
なぜ、俺たちは言葉を操れるのに、誰の心も守れなかったのか。
風が吹き抜ける。廃墟になった建物の瓦礫が、言葉なき痛みのように転がっていた。
そのとき、俺の内側で、微かな“ざわめき”が生まれる。
「おい、待てよ、それは俺の本心じゃ──」
かすれた呟きが、石畳に反響する。
《発語エラー》
どこかで聞いたような警告音が、脳内に響いた。
「え……?」
だが、その音は俺の“感情”と連動するように、再び言葉を濁らせていく。
「そうか、俺たちの“魔法”は、感情に影響される……。つまり──」
俺は気づいてしまった。
言葉の力は、理ではなく心に引きずられる。
その頃、離れた場所でカイは叫んでいた。
「オレっちの“ギャグ呪文”が……爆発してねぇ!?」
一方ミナも──
「なんで……こんな、優しさしか出てこないの……。敵なのに……!」
言葉が、感情に左右される。
それは人間として生きる“宿命”だった。
──三人は別々の場所で、同時に、自分の中の“歪み”に気づき始めていた。
そして、それは新たな危機の始まりでもあった。




