第23話:「意味の深度」
翌朝、俺たちは遺跡を離れ、王都から派遣された言語研究官のもとを訪れていた。
「“意味が失われる”とは、面白い。だが、恐ろしい」
アークは痩身の中年男で、言葉の選び方が妙に丁寧すぎる。まるで一語一句に呪いでもかけられているようだった。
「その敵は、恐らく《意味遮断》の術式を使った。語魔法は意味の共振で発動する。意味が届かなければ、どれほど強力な詩句も無力だ」
「だったら逆に、意味を深めれば……」
俺が口にしたとたん、アークの目がぎらりと光った。
「そう。“深度”こそが鍵だ。君たちの言葉はまだ“表層”にある。だが、伝えるべき思いが深くなれば、詩もまた変わる。たとえば——」
アークが机上の羊皮紙に筆を走らせる。
その詩文は、たった五語。しかし、俺の胸にずしんと響いた。
《母の手、覚えてる?》
何かが揺らぐ。魔法でもない、ただの言葉に。
「……深度が感情を伴えば、意味は耐性を持つ。“拒絶”の魔法にも抗える可能性がある」
「なるほど……!」
ミナが顔を上げた。
「ボクたちが紡ぐ詩は、感情の深さとつながってる。だったら……もっと、自分の中を見つめていかなきゃ」
カイも、どこか真剣な顔でうなずいた。
「“心”がなきゃ、言葉はただの音ってことっすね」
俺たちは新たな決意を胸に、次の戦いへと向かうことにした。




