第15話:「オレっち、恋の定義にダウンロードされる」
最近、セイとミナのヤツら、妙に静かなんだよなぁ。
夕飯も風呂も寝るときも、どことなく“言葉が遅延してる”っつーか、あのふたりの会話に割り込むと、なんかオレっちだけバグってる気がする。
……いや、言い方悪ぃな。別に悪いことしてるわけじゃない。
ただ、なんつーか、置いてけぼり感っつーやつ?
オレっち、気づいてるんだ。
ミナが最近、オレっちを見るときに目を伏せるってこと。
セイが誰かの名前を聞かれると、ほんの0.3秒だけ応答が遅れること。
“人間らしさ”ってやつは、バグにも似てるし、予測不可能で、……ちょっと痛ぇ。
そんなときに現れたのが、アイツだった。
ギルドの受付嬢──いや、正確には新人補佐。名前はリーフ。
オレっちよりちょっと背が低くて、よく笑って、すぐ怒る。
出会いは最悪。オレっちが書類に墨をこぼした。
「あんたさぁ! これはギルドの規約書! 重要文書! 五重魔封ついてるんだけどっ!?」
「やっべ、マジか……いやでも、文字が多すぎん? もうちょいレイアウト見直した方が……」
「黙れ、構文災害!」
あだ名決定だった。
でも、その後も何かと一緒に任務に回されてさ。
なんだかんだで仲良くなった。
「オレっちさ、そっち系の恋バナとかよくわかんねーけど」
「……あたしは別に、わかってほしいとは思ってないよ。でも」
「でも?」
「“わかろう”としてくれる人は、好き」
それ言われた瞬間──
なんか、胸ん中がグラフィックバグみたいにチラついた。
ヤベェ、オレっち、今の台詞で7バージョンくらいの感情同時処理走った。
「……オレっち、たぶん今、キミのこと好きになりそうなんだけど。……いや、なってるかも?」
「そ、それ、軽っ!」
「でも、真剣に“軽く言った”んだぜ? ……いや、逆か?」
「……なにそれ、ちょっとずるい」
この夜、オレっちは思ったんだ。
オレっちの“好き”は定義できないし、すぐ揺らぐし、軽いし、ガサツだ。
だけど、それでも“この瞬間”の気持ちだけは、本物だって言い切れる。
「オレっち、案外人間向いてるかもな……」
ベッドに転がって天井を見上げながら、なんとなく、そう思った。




