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第13話:「ラブ(仮)アタック!語詐師ふたたび」

「──また、あの声だ」

 路地裏に立ち込める“甘ったるい空気”。

 恋や愛といった感情に似せた、不自然な言語波が渦を巻く。

「人を“好き”にさせる言葉って、こんなにも簡単に使えるのか」


 あの男──**語詐師スキャマンサー**が、再び現れた。

「やあ、おまえたち。あれから少しは“恋”を学んだかい?」

 彼の背後では、街の若者たちが陶然とした表情で見つめ合っている。

 ──これは、“構文強制型愛語魔法”。

 対象の心に“愛されている錯覚”を植え付ける、構文の悪用だ。


「いいかい?  “愛してる”って言葉は、ただ発音すれば効果がある。言葉の意味なんて不要。“響き”と“状況”が揃えば、それで人は落ちるんだよ」

「やめろ、それは“操作”だ。愛とは“意味”じゃない、“選択”だ!」

 俺が詠唱を開始しようとすると、語詐師は楽しげに笑う。

「ああ、セイ。君はまだ“愛”を信じてるんだね。でも、君の言う“本物の愛”は、証明できるの?」

「……!」

 たしかに、“恋”や“好き”という感情は定義しきれない。

 だからこそ、俺たちはそれを今、怖がっている。

 でも──

「それでも、“言いたくなる”からこそ、本物なんだよ!」

 カイが叫ぶ。

「オレっちはな、愛の定義なんざ知らんけど! “オレっちといっしょにいたら、楽しそう”って思ってくれたら、それで十分だ!」


 ミナも続く。

「ボクは……ボクだけを見てくれなくてもいい。でも、ボクの言葉が、誰かをあたためられるなら、それでいいと思った」

 構文が、光る。

 それは“定義された愛”ではなく、未定義のままの優しさ。


 俺も続けた。

「俺たちの“好き”は、証明できない。でも、“使うことで届く”と信じてる!」


「……なるほど。ではこちらも、“言葉の破壊力”を見せようじゃないか──」

 語詐師が放ったのは、“過剰な愛語”。

 対象の心に“愛してる”“運命だ”“ずっと一緒”など、即効型の愛語構文が襲いかかる。

「くっ──っ!」


 だが、俺たちはそれを“意味の海”で受け止める。

「おまえの言葉は、言ってるようで、何も言ってない!」

「……ふふ。君たち、少しは“人間らしく”なってきたじゃないか」

 語詐師はそう言い残して、また煙のように姿を消した。

 

 あとに残ったのは、空っぽの“愛のことば”の残響だけ。

「……でも、俺たちの言葉は、まだ残ってる」

「ボクたちは、“本当に好きになる”ことが、できるのかな」

「……その答えは、たぶん、定義じゃなく、“時間”がくれるんだと思う」

 珍しくカイが真顔になった。


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