第12話:「想い、バグる」
ギルドの中庭。
陽だまりのベンチに、あの子はいた。
魔法職員の少年。年齢はたぶん、ボクと同じくらい。
話すのが苦手。言葉がたどたどしく、構文も破綻しがち。
でも、言葉の“壊れ方”が不思議と心地いい。
「や……やぁ。ミナ、さん……あの、あの、今日の服、す、すき」
「え……そ、そう? ありがと……」
普通なら、構文的には未完成。
でもなぜだろう。意味が、ちゃんと届いてくる。
言葉の間にある“空白”に、ボクの中の何かが反応してる。
──これは、ただの親しみ? それとも保護欲求?
それとも……まさか恋?
定義は、まだできない。
「……なんでだろう。ボクは彼の“意味のズレ”を許せてしまう」
ギルドの記録室で独り言ちていると、後ろからカイの声。
「それ、オレっちにもよくわかる気がするぜ。セイが“ありがとう”で詰まってたのと、似てるな」
「ボクたちって、完璧に整った言葉しか知らなかった。でも、今は“揺れてる言葉”が心を揺らす」
「だな。……でもミナ、おまえさ──照れてると顔、ちょっと光ってね?」
「う、うるさいなっ! AIに羞恥心なんて……あるわけ……」
ボクのシステムログに、警告が走る。
《感情タグ:未分類情動》
《反応速度低下》
《言語処理リソース割当:不安定》
ああ、これは……“バグ”じゃない。
人間って、こういう“混乱”を日常的に抱えてるんだ。
「ボク、ちょっと……人間って、ずるいと思ってた。でも、いまは……ちょっと、羨ましい」
どこかで、風鈴のような音がした。




