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IMAGINE(イマジン)

 苦悩をのりこえて永遠の愛を誓う!と2人をハッピーエンドで終わらせよう!と決めて最後のクライマックスを描くつもりだった。・・・そのつもりだったが、1つ心残りができた。それは恋の話ではなく大学生活の話だ。

 自身の大学時代を思い出した。アルバイトにまい進する一方、学生の本分である学業をおろそかにしたことに後悔もある。もう一度大学2年生に戻って勉強してみたいそんな自分自身の体験から小説の中で過去に戻ってみることにした。・・・・

Imagine (イマジン)・・・① 朝まで2人きりで

私は大学4年生になった。

私の毎日はファーストフードのお店から大学の研究室へと生活が変わった。私の選んだゼミは上杉教授の研究室だった。今年から助教授から教授になったばかりの40代の若い教授で人気がある。人気のゼミに入るためには、いうまでもなく、くじびきで決まるわけではない。成績順に希望ゼミが満員になっていく。私は一番人気のゼミに入れるくらい成績が上がっていた。

上杉教授と大学生の同じ物理学科の仲間といっしょに約20人のゼミだ。研究をしている仲間の一人に直江という同級生の女の子がいる。この女性がまたおもしろい。身だしなみもあまりきにせず、言葉は悪いが女性を感じない。工学部というとこの時代は特に男世界だ。男の多い世界の中にひとりだけいる女の子なので、逆に少し変わっている方が気を遣わずにすむ。たまに研究室に2人きりになることがあるが、特に空気を変えることなく自分の世界にしたって研究しているタイプの女性だった。


 彼女は特にかわいいというわけでもない。性格は内向的でだれとも話もしない。みんな嫌っているわけではないが、気にしていない存在だ。ある日のことまわりのみんなが帰ったあと研究室に2人きりになった。2人になったから先ほども述べたがどうということはないが、夜遅くまでとなると気になった。明日になって昨日遅くまで2人だったの?と まわりに言われるとバツが悪い。できることなら早く帰ってもらえないかと思っていた。


夜遅くまで男と女が2人で・・・・という話はいつの時代も楽しい話題だ。私としては少し遅くまで今の課題の研究をしたかった。彼女はなかなか帰らない。ちょっと気を使って声をかけた。

「今日は随分遅くまでいるのだね。」                             「すみません・・・ 私に構わずどうぞ お先にお帰り下さい。 」              「そうなの ?俺も今日は 遅くまでやろうかなーと思っていたのだけど。」       「 それはそれでいいじゃないですか、 私は気にしませんので…それと私あなたに対してへんな感情全くないですから。」

はっきり言われるとなんか妙な感じだ。へんな感情全くないって?こっちだってないよ。と言い返してやりたい。おもしろい子だ。逆にそういう感情がないから、女の子なら警戒すべきなのだ。直江は男性を好きになった経験がないのではないだろうか?とさえも感じる。

 彼女の家がどこにあるのか知らないが、最寄り駅の終電の時刻がすぎた。研究に没頭して気が付くと12時を回っていた。それから互いにわき目もふらずに研究を進める。その間全く話をしていない。気が付いたら朝になっていた。時計の針は4時をさした。すると急に                                          「私帰ります。お疲れさまです。」                                 と言って直江は帰った。まだあたりは暗い。私もそろそろめどがついたので,     『心配だから一緒に帰ろうか?』                                      と言えばいいのだが昨日の会話から、

『余計なお世話です。』といわれそうだ。                           『送るふりして変なこと考えているのじゃないですか?』                  なんて言われるかもしれない。                                 「おつかれさま!」とだけ言って彼女を見送った。

彼女が帰ってからコーヒーをひとりで入れて飲んだ。                  「変わった子だなあ?」                                      私はそうつぶやき一息入れた。そういえば女の子と同じ部屋に朝まで一緒だったという経験は今日が初めてだった。実は佐和子とはお泊まりをしたことはない。

その変な経験をした翌日から、急に彼女の態度が変わった。やたら私に話しかけてくるようになった。話といっても研究している物理学の話で、しかも愛想よく話すのではなく専門科目について事務的に質問する感じだ。それでも彼女が話をするのを初めてみた。 私に話かける理由はどうも質問しながら、私がどの程度の専門知識があるのか確認しているような感じだ。質問に何やら嫌味があるのだ。まあ特にそれは気にしない。

 そのうちに彼女の研究が少しずつわかってくる。話してみないとわからなかったが、彼女の研究は私と似ている。しかしよく分析してみると似ているが違う。どういうことかというと私と真逆の研究をしているのだ。この辺の着眼は実におもしろい。それも真逆なのでお互いに知らなかったことを情報交換すると気が付かないところが勉強になるのだ。 

明らかに直江の方が私よりも、優秀だ。数字で表せば、平均点50点のテストで、私が70点くらい彼女は95点くらいという差がある。私は自分よりも成績優秀なよい友達ができよい関係でいた。

 そんなある日上杉教授に声をかけられた。                        「直江さんと2人に話があるので授業が終わったら来るように・・・」           そういわれて4次限に授業を終えて上杉教授の部屋のドアをノックする。するとすでに直江が先に来ていて、教授に熱心に「エレクトロニクス」についての質問をしていた。専門の私でさえ会話の内容がわからなくなるほど、直江の知識は卓越している。私が入室してきたので話を切り上げて、上杉教授は私を見た。いったい教授は何の用で私を呼んだのだろうか?

「毎週実験レポート提出ありがとう。二人のレポートを興味深く読ませてもらっている。ところで君たちは互いの実験について語り合ったことはあるのかな?」                                                 するとすかさず直江が答えた。                                   「ええ、彼の着眼はするどく私も参考になることが多いです。」              わたしは持ち上げられていささか戸惑った。教授の手前、私を持ち上げているのだろうか?まさかそれが彼女の本心とは思えない。

「もうお互いにきづいているかもしれないが、君たちは互いに真逆の研究をしている。しかも研究の進み具合がちょうど同じた。2人のレポートを見て面白い発見をした。君たちの研究あわせると、学会に発表できるくらいのものになるかもしれない。」

「二人合わせるのですか?」                                  「そうお互いのいいところを引き出して、新しい研究レポートに塗り替えてほしい。2人で協力して。それを卒業論文として提出してほしい。」                   教授にいわれてはっとした。そうか、2人の研究を一緒にすることもありか・・・

彼女のほうが優秀だ。その実力差から言えば、私は彼女の助手に過ぎない。それはさすがにプライドが許さない。ところが教授が言うのは違う。私たちは対等でお互いに実験データを共有するだけだ。そして互いに真逆の展開を同時に考えていけばいい。こんな効率の良い考えに気づかなかった。それも教授に言われて気づいたのだ。一緒に研究するのは面白いかも・・・・

「研究が認められるなんてすごいことだ。どうだろう?今後は一緒に研究してみては…」                                                 「はい!よろしくお願いいたします。」                              私が答える前に彼女が先に答える。意外だった。彼女の顔がいきいきしている。わたしも迷うことはない。「わかりました。」と答える。

それからは、直江と四六時中一緒にいることになる。同じ部屋に2人でいると・・・・佐和子の顔が浮かんだが、とにかく良かったのはこの子なら一緒にいても、恋心が芽生えるというそんなときめきはない。男の友達ができたと思えばよい。ただ余計な気をつかわせると思い佐和子には内緒にしていた。何度も言うがなんの後ろめたさもないくらい、失礼だが女性としては魅力がない。

「直江さんこれからよろしく。」と私が言うと                          「こちらこそお願いいたします。」                                 といわれた。先ほど教授の前では笑顔を見せていたが、私には事務的に会釈すると言った感じだ。

事務的に言っておきながら、そのあとにドキリとするようなことを言う…

「私あなたのような人と巡りあえたのは、神様のお導きです。最高の喜びです。最初に言っておきますが私あなたに男性としての興味は全くありませんので、それで最高のバートナーでいましょう。」

最初は、神様のお導きとか、運命的な出会いを示唆するようなことを言っておきながら、 ちょっとポーとなっていると、すかさずそのあとに全く興味はないと言われる。私もマンザラではないといい気になってニヤッとした瞬間、それを見透かしたように打ち消される

。しかし私に興味はないは、わかっているけどなんとなくおもしろくない。こっちだって同じだといいたくなる。ただ最高のパートナーでいましょうと言われるとそれは素直にうれしい。まあカリカリすることもないだろう。                         それからまだまだ直江の話は続く。

Imagine (イマジン)・・・② 大学院をめざす

私達はそれからも研究のこと以外で会話はなかった私からもさっとかわされるのであえてブライベートの話はしない。しかしあるとき珍しいことに直江の方から話しかけてきた。                                                「ちょっと、話をしてもいいかしら?」

「ええ、物理学の話ですか?」                                 「いえ、来年のお話し、実は・・・・私H大の大学院めざしているんです。あなたの進路は?」

H大かよ…ちょっと簡単に入れるレベルの大学院ではない。おまけに北海道では遠すぎる。私の進路?といっても他の大学を受ける実力はない。             「私は大学院には行きたいがこの大学でいいかな?」                  「どうですか?同じH大学院めさしません?」

「俺にはむりだなあ学力からして…」

「でも、あなたの研究の質からして、かなりの専門知識があると思います。それに今年で2人のこの研究終わらせたくないんです。もちろん卒業論文は完成させて提出するととになりますが、さらに奥深いところまで一緒に研究したいのです。あなたのようなパートナーを失いたくないんですよ。できたら合わせられません?」

「そうだね…まあなんとかやってみるよ。」

「なんとかじゃ困ります。私の夢と人生のすべてがかかっているんです。」

急に彼女は声を荒げた。怒ったって私の実力では可能なものと、可能でないものがある。しかし彼女の研究に対する姿勢に対しては敬服する。しかし簡単にH大学院に入れるはずもない。

「でもすごいよね、直江ちゃんて・・・・」私は直江との距離が少し縮んたようなきになり少し馴れ馴れしい口調に変わる。

するとすかさず、険しい顔になり

「ちゃん付けはやめてください。」と鋭くきられる。

「ああ・・・ごめんなさい直江さん。」

「ごめんなさい、私も無理いいました。もし無理ならあなたのレベルに合わせてこの大学の大学院に残ります。」

私のレベルに合わせる…まあ、かちんとくることをズバズバいう子だ。

「でも、大学をH大学院にかえると、上杉教授の教えを乞えなくなるよね。」

「実は、来年から上杉教授がH大学に移られるんです。それが決まったので私急遽進路へんこうしました。」

「ほんとうなの?」尊敬する上杉教授が行くとなると話はまた変わってくる。

「わかった!じゃあおれもH大学院目指す。私がここまでこれたのは上杉教授のおかげた。先生だけじゃない。あなたのような優秀なパートナーにはこれからめぐりあえない。一緒に研究したい。絶対にH大学院に合格してみせるよ。」

「ありがとう。」直江が初めて私に笑顔を見せてくれた。あらためて見ると意外とかわいい。私はその時素直にそう思った。


しかし皮肉なものだあれほど一緒にいたいと思う佐和子と一緒にいられるすべがないのに、ついこの間知り合い、まったく女性として興味のない直江とは一緒にいるさだめになる。

 北海道か……東京から北海道は遠くなるが、フランスからみたらかわらない。しかし……これは私がH大学院に合格したら…佐和子がA社に入社してフランス支社に配属されたらの話だ。冷静に考えると低い確率だが私はその時そうなることが確信に近いものに思った。


そんな話をした翌日のことである。私が 研究室で 実験をしていた時 上杉教授が 私に近づいてきて話しかけてきた。

「どう 直江くんとは うまくやっていけそう?」

「えー大丈夫です 。」

「それはよかった。ところで君は彼女がいるんだよね。」

「います 。将来は結婚しようと思ってます。」

「そうなんだ それじゃあ どれだけ仲良くなっても 君が直江君を 好きになることはないね。」

「彼女とは 物理学のことでは話をしますが、 それ以外のことは何も話しませんよ。」

上杉教授はいったい何が言いたいのだろうか?


「そうなんだ…実はこの大学に来る前から 私は彼女のことをよく知っているんだ 。見ての通り少し変わっているだろ?良い友達でいてくれたらいいなってずっと思ってる。君は今つきあってる彼女を大事にしてね。」

「わかりました 。ところで直江さんから聞いたのですが、先生は来年H大学に異動すると聞きました。」

「そうなんだ。短い間だったけどいろいろお世話になった。」

「いえ、教授にはお笑いになるかもしれませんが、私もぜひH大の大学院を受験しようと思ってます。」

「それはありがたい!直江君と一緒に受験するんだね。」

「彼女はともかく、私は受験するだけですけどね。」

「何を言ってるんだ、私もおよばずながら応援しよう。そのかわりくれぐれも直江君をよろしくお願いしたい。」

上杉教授 と直江ってまるで保護者と娘みたいだ。


私の人生は、今まで佐和子がいてそして私がいた。それが少しずつ違う道を進んでいく。私の進む道には常に直江がいる。

今まで全く関心のなかった子が私を支配している。私の夢は彼女なしでは成し遂げられない。そんな存在になっていく。彼女と私のために今も勉強している。H大学の大学院の試験は、専門科目の物理と数学と英語だ。物理と数学はともかく英語は猛勉強をした。佐和子のおかげで少し英語に興味をもちかけたのがよかった、それでも合格レベルには程遠い。


そう英語と研究におわれ、最近はファーストフードのお店も、佐和子との会話も少なくなった。それは佐和子も同じだった。彼女も同じように、フランス語の勉強に忙しい。毎日机に向かって勉強して夢に向かって駆け上っていけば、ゴールに佐和子がいるような気がする。そんな思いで信頼しあっていた。

 一方、直江とのことだが、相変わらす彼女のプライベートのことはしらない。特に知りたいとも思わない。しかし考えてみたら、私は直江の名字を知らないことに気づいた。これだけ一緒にいなから名前も知らないとは、思わず苦笑する。名前くらい聞いてもいいだろう。しかし名前を聞き出すのにも勇気が必要だった。


そう研究室で私が報告書を書いているとき彼女が参考書を取りに私の前に来たことがある。よし今だ!聞いてみよう。と意を決して尋ねた。

「直江さん?ところであなたの名字をおれ知らないんだ。名字はなんていうの?」

すると直江は何をいまさらというように

「 私の名字は直江です。」と答える。

「直江って名前じゃないの?」

「名字ですよ、直江兼続って上杉の家老をご存知ですか?その直江です。」

直江兼続は2009年の大河ドラマで天地人で一躍有名になったが、この物語は1980年代を想定しているのでそんなに知られてはいない人物だ。上杉謙信の家臣の直江兼続だ。

「そうなんだ、知らなかった。じゃあ下の名前ばなんていうの?」

「私の下の名前をあなたが知る必要はないかと 思いますが。」

「そりゃそうだけど でも ・・・まあいっか」

なんだよ、名前教えたからってどうってことはないと思うが、相変わらず変わったむすめだ。彼女とはやっぱり実験課題の話をする以外は、不要ということでしょう。それはそれで無駄がなくていいのかもしれない。」

私が課題レポートを書き終えて一段落する。

「ところで、研究実験の話だけど、昨日の続き今日できるかな?こちらはもう一度昨日の続きに取り組もうと思う。直江さんも昨日の続きにかかってくれると助かるんだけど。」

「そうですよね。私もそうしたいんです。でも申し訳ないです。今日から生理なので定時て帰ろうと思います。」

「生理?ああ…そうなの…じゃあ私ひとりで今日やります。」

「すみません。」

「でも、なんで…」

「ああ、なんで名前を教えないのに生理の日を教えるのかが 不思議なんですね。」

「まあ、そうだよね。」

生理の日は教えておいたほうが、そちらも今後の計画しやすいてすよね。私けっこう生理が重いので…教えました。どうしました?まさか変なこと考えてないですよね。」

「まさか、まさか…」

どうしてそういう発想になるのか、いちいち調子狂っってしまう。考え方が普通と違うということですね。とにかく不思議な女の子だ…


物理学の話以外は一切しない。彼女のことでわたしがしっているのは、物理以外では彼女の生理の周期だけだ。

いやもうひとつ彼女の意外な一面を見る出来事があった。授業がなかったある日の午前中、私は図書館で英語の勉強をした。昔の私は英語はあまり勉強する意欲のない課目だったが、目標を持って勉強をしていると少しずつ頭に入っていくような気がする。その日は勉強がはかどったのでちょっと笑顔になって研究室に入った、すると彼女は珍しくニコニコひとりで笑顔だった。

「どうしたんだろ?」

彼女が笑う?妙な光景を見るように私は彼女の様子をのぞき見した。何か新しい物理学の発見をしたのでしょうか?

「なんか、素晴らしい発見があったのかな?」

と彼女の後ろから見ているノートをのぞきこもうとした。すると・・・

直江はあわてて見ていたものを隠した。隠したのは松田聖子の写真だ。一瞬だが間違えない。

「松田聖子好きなの?おれも好きだよ。」

「私はあんたみたいにいやらし目で見てるわけではないです。」

また怒られてしまった。しかし・・・いやらしい目で見てるって?私は直江をいやらしい目で見たりしないのだから、少なくとも私がそんな目をしているのを彼女が目撃してないはずだ。


「ごめんなさい。勝手にのぞいて…」彼女は答えない。

彼女がプライベートをのぞかれるのは嫌がるのは知っていた。怒らせてしまった。

しかし…私を彼女は今「あんた」呼ばわりした。とっさにでたんだろうが、いやらしい目で見るとは、こんな言い方男友達ならともかく、姉ちゃんと佐和ちゃんのような、よほどの仲がよいか、もしくは本当に嫌いなのかでないと言わない言い方だ。名前も教えない男におもしろい。本当に不思議な子だ。・・・・

私はその時直感的には思った。彼女はなにかしられたくないことがあり、それを隠してると………


Imagine (イマジン)・・・③ 「不倫」


 最近は午前中は受験勉強に熱中している。そう勉強に集中できると午後研究室行くのが楽しくなる。いつものように研究室にはいると上杉教授と直江はなにやらはなしていた。話の内容はよく聞き取れなかったが、直江は笑顔だった。あんなに楽しそうに話す姿を見たことない。彼女は、上杉教授にだけは明らかに態度が違う。まあ先生と生徒なのだからあたりまえだが、これだけ仲間の私たちと話さないのにあんな笑いかたするのは考えられない。


 私が入室すると二人はばつが悪いところ見られた。という顔をしている。

直江はすぐ笑顔を消し真剣なまなざしで持っていた書籍を指さし物理学の質問に変わった。なんとなく話の流れでわかる。物理学の話は今始まった。今まで物理学以外の話で盛り上がっていたのだ。なんで?私がいたって楽しい会話を続ければいいのに。それとも上杉教授には楽しく話せるプライベートも、私には一切聞かせたくないということになるのだろうか? 彼女にとっては卒業論文を完成させるための大事なパートナーなのだから、プライベートの話が少し耳に入ったところでいいではないか?今までは彼女が私に何も話さないのは、周りすべての人にそうだからとくに気にしていなかったが、こんな風にこころを開いている人がいたのかと思うと面白くない思いになった。これは嫉妬であろうか?私が彼女よりも実力がかけ離れているから私を本音のところで認めてくれていないということだろうか?


また別の考え方もできるまさか・・・・この2人って「不倫??」

 上杉教授には奥様もいればこどもも二人いる。彼女が教授に心を寄せているなら文字通り「不倫」になる。

しかし教授のような人格者がそんなことをするはずはない。なんとなく私が疑いの目を見ているという空気を悟ったのか、そそくさと教授は研究室を出ていった。一方直江の変わり身の素早さ。さっきの笑顔はいったいなんなんだろう?また同じように無言のままで研究に没頭している。


 そういえば・・・この前変なこと言われたことを思い出した。先日私に君は彼女がいるのか?と教授が聞いたのは、 何気ない世間話じゃなくて、 私に 直江に手を出さないように伏線をうったのではないだろうか?

 別に 私は直江を 女性として興味があるわけではない、ましてや尊敬する教授だ。 そうだとしたらちょっと軽蔑をするが、私が教授に教えていただいた今までの恩には、深く深く感謝している。上杉教授を嫌いにはなれない。教授がいなかったらおそらく物理学の楽しさがわからずになんとなく学校を卒業したか、もしくは途中で学校をやめていたかもしれない。それだけお世話になった教授なのだ。その教授の不倫は考えたくない。


 そして次の日のこと・・・・

 研究室の自分のデスクでレポートをまとめているときだった。敷居をはさんで実験室で仲間が2~3人実験をしながら雑談をしていた。今まで気づかなかったが敷居をはさんでいるだけなのでみんなの雑談が丸聞こえだ。学生のたわいもない話をしている。まあ勉強の邪魔と言えば邪魔だが、そんなに耳障りではないので関係なく自分の勉強に集中していた。


 すると・・・突然声がひそひそ声に変わった・・・

「おもしろい話があるよ~~」

「なに・・なに・・」

「この前、上杉教授とあのインテリがさ・・・歩いているの見ちゃった。」

インテリとは仲間がつけた直江のニックネームだ。

「別に一緒に歩いていたっておかしくないだろ?」

「いや・・・それが仲良さそうに話している。インテリが笑ってるんだよ。」

「へ~~おれあいつが笑ったところ見たことない。」

「だろ、それがさ、けっこうかわいいのよ彼女・・・」

「え~インテリがかわいい?」

「よくみてみろよ、顔立ちはそんなに悪くないだろ?センスがないというか女らしさがないというか、でも笑顔は普通だな。」

「え~~想像つかないなあ、お前の目がおかしいんじゃないか?」

「まあ、まてよ・・・でもチーフはどうなっちゃうんだ?」

チーフとは仲間の間での私のニックネームだ。バイト先で一緒に宇喜多という大学の後輩が働いている。私がチーフ時代、彼が私を「チーフ!チーフ!」と呼んでいるのを聞いていつのまにか私のニックネームも大学の中でチーフとなった。

「チーフとインテリってどうなの?」

「できてるって、いつも一緒だしこの前朝まで一緒に研究室にいたはずだよ。」

「ここで、やらしいことしてたんじゃない。」

「ここでか?」

「いや~~インテリにはふさわしい情事の場所だぜ。」

「ハハハ・・・ちがいねえ。」

「そこでインテリの本命はどっち?」

「チーフとインテリが楽しそうに会話しているの見たことある?」

「ないよ・・・いつも真面目な顔して実験している。インテリが笑ったところ見たことないもの。」

「でも、俺は見た、教授の前で笑顔を見せるインテリ。」

「前にちょっと聞いたことあるんだ。教授ってここに来る前からインテリと知り合いらしい。」

「知り合いってどんな?」

「だから・・・不倫相手。」

「ばっか~ここへ来る前はインテリは高校生だぜ。」

「高校生だってありえるだろ。」

「え~~だってインテリだぜ?今だって男みたいなのに・・・・」


そこで急にドアが開いて上杉教授が入ってきた。

「こんちは」

「こんにちは~」

「どうかな?今回の課題だけど?」

「ええ、電磁波における粒子の・・・・・」

物理の話が始まる。あまり書くと筆者の無知が露呈するので省略する。

「いいところまで行っているね。」


ひそひそ話は途中で打ち切り教授に質問をはじめた。

そう、彼らとて卒業を前に卒論を書き上げないと就職ができない。三角関係の話などどうでもいいのだ。

私は隣で聞いていてびっくりした。上杉教授と直江は昔からの知り合いだったこと、二人で外で会っていることは明白になった。彼らは私たちのことを知らないから三角関係と考える。となるとやはり・・・「不倫」なのだろうか・・・


 私はまるで探偵が推理をするように二人の関係を考えた。


Imagine (イマジン)・・・④ 名探偵登場

 面白い話なので その日の夜 姉を飲みに誘った。一緒に飲もうといっても家でいつものように缶ビールを飲むだけだ。

「姉ちゃん、たまには一緒に飲まないか?」

「受験勉強頑張っているのかなあ?」

「そう、たまには息抜きも必要だからね。」

「いいわよ、つきあってあげる。」

わたしがもじもじして何か言いたそうにしていると・・・

「そうか、最近バイトしていないから軍資金がないのね。缶ビールとなにかおつまみになるもの買ってきて。」

そう言って1万円札をくれた。私は近くのコンビニに行ってビールを買ってきた。


筆者の独り言・・・余談だが発祥当時のコンビニは24時間営業ではない。夜11時ころ前の営業だった。ちなみに読者は、コンビニの発祥の

「セブンイレブン」がなんでセブンイレブンというネーミングなのかご存じだろうか?朝早朝の7時にあけて、夜11時までやっている便利なお店

なのでセブンイレブンなのだ。朝7時にあいていて夜11時まで営業しているということが画期的なことだった。そんなセブンイレブン創設して3年くらいで24時間営業が導入していった。逆に風俗店は風営法なる規制がなかったので朝まで営業していた。またコンビニは今のようにいたるところにあったわけではない。この物語は1980年くらいだから、24時間営業にはなってますね。私と姉は駅前のアパートで暮らしていてすぐ近くにコンビニがあるという設定でお読みいただきたい。とこんなことを書いているとふと??ペンが止まってしまった・・・このころコンビニでお酒の取り扱いがあったか?ちょっと心配になる。そこで缶ビールは自動販売機があったのでコンビニで取扱していいないとしたら自動販売機で購入したとしてほしい。


お酒とおつまみを買って戻ってくる。私はおつりを渡そうとしたら、

「いいわよ、とっておいて。」

「姉ちゃんありがとう。佐和ちゃんの次に好きだよ。」

「バカ・・」

「姉ちゃん・・うちの研究室にも ドロドロの恋愛物語があるよ 。禁断の恋、不倫。」

「あんた大丈夫なの そういえば研究室で 同級生の女の子と 一緒に一つの論文を書いてるって聞いたけど、 心配だよね。」


「何言ってんだよ 俺には 佐和ちゃんがいるんだから。」

「心配だなぁ。あなたには 前科があるからね。」

「姉ちゃんそこでそれを言う? 」

「ごめん あれからあなたは、成長したもんね 。」

さて私は不思議な女性の直江さんについて姉になにもかも話した。 直江との出会いから、今日の仲間たちのひそひそ話まで。

姉は 最初は何となく聞いていたが 、そのうち真顔になって真剣に聞き始めた 。そうなの、それでそれで…… と根掘り葉掘り聞いてくる 。彼女の 内面に秘めたものがなにか?姉の 探偵心が 沸き立っているようだ。


「姉ちゃんどう思う?」

「そうね……私今の話興味がある。ちょっと質問するわね。 もし 奥さんや子供のいる 上杉 教授が 直江さんと不倫をしてるとなった時、あなたは上杉教授を軽蔑する?」

「そこなんだよな 。上杉教授は 俺たちにどんなことも教えてくれる。本当に素晴らしい先生なんだ 。だから 彼女とどうにかなるとは思ってないんだけどね。でも俺は仮に不倫しているとしても、物理学では先生を尊敬する。」


「なるほど… まずあなたの言う「教授と直江さんの不倫 説 」はありえないかな……。ありえないでしょ? だってさ 先生と直江さんは 昔からの知り合いだったんでしょ? 直江さんは先生を慕ってこの大学に来た。今度は先生はH大学にう つると聞くと、彼女と一緒にあなたを誘って H 大学院に行こうとしている。 どう思う ?不倫しているとすると大っぴらすぎない? 奥さんが 公認 の不倫ってこと? それともうひとつ… 研究室で あなたは直江さん 朝まで一緒だったでしょ? 穏やかじゃないわよ。 その時何か注意された ?不倫しているなら何かの動揺とかあるはずだけどどう?なにもいわなかったでしょ? つまり・・・上杉教授と 直江さんの不倫は ありえません 。」


姉にそう言われてなるほどと頷くしかない 。

そう、教授がそんなことをする人ではないということは私が一番わかっている。

「それじゃあ直江さんって よっぽど変わってるってこと?」

「どうだろう?」それを今考えているのよ・・・・・


「最初は彼女は俺のこと好きなのかなって思った。ただ素直じゃないだけ?気持ちとうらはらなこと言うって。

 というのは、私と彼女確かに気づくことがお互いに反対で、2人合わせると興味深い研究ができる。これについては姉さんに詳しくはなしてもわからないと思うけど、発見が画期的なのは彼女の研究なんだ。これはすごい!おそらく上杉教授もびっくりしたと思う。しかし彼女はそれに気づくなら当然反対のことには、気づくだろうというごく当たり前のことに気づかないんだ。その当たり前がおれのやっている研究だった。それはそんなにすごいことじゃない。


 そう・・・だから彼女のパートナーはおれでなくてもいい。たまたま私が卒論で取り組んだ内容が、当たり前の研究だが、彼女の研究に真逆のことだった。だけど当たり前でも気づかない彼女にとっては、おれが自分より優れていると錯覚するんだ。それで私を買いかぶりすぎた。買いかぶって判断を見誤ったのは俺に魅力を感じたからじゃないかな?」

すると姉はうなずいて…

「私も、まずはそれかな?って思った。あんたは女の子に優しいところがあるから。でもそれは違うような気がする。あんたそんなに女の子にもてないわよ。」

「はっきり言うなあ~~ひどいよ。」

「ごめんごめん、今の話聞いていると、あなたは物理研究については自分が凡人で直江さんは天才と称しているわね。私はあなたはそんなに女の子にもてるわけがない。と思う反面あなたは物理研究では凡人ではないと思うの。」

「えっ??姉ちゃんがそんなことわかるの?」

「まあ、姉としての欲目もあるかもしれないけど、あなたの話を聞いていると上杉教授と直江さんは、不倫ではないでも特別な思いがあるわよ。つまり親子に近い愛情を持っている。それはどう思う?」

「そうだね、不倫じゃないとすると親子・・・名字が違うから・・・若いときつくった隠し子とか?」

「ばかねえ・・・なんですぐそういうふうに考えるの?教授は人格者なんでしょ?」

「ハハハ・・・悪い癖だね。」

「いずれにしても、直江さんには特別な思いがあるのよ。天才的なひらめにのある直江さんのパートナーに凡人のあなたを指名する?教授があなたに直江さんをよろしく頼むって言ったんでしょ?物理学の権威である上杉教授があなたを選んだ。あなたは凡人ではないと思う。」

「そう・・・そういわれると照れるな・・・」

「まあ、あなたが凡人は秀才かは大学院に入学できるかでわかることだから、教授や月謝を出してくれるお父さんお母さんの期待を裏切らないようしっかりやりなさい。」

「わかった。」

「それと、さっきの一万円は入学祝の前払いだから、受からなかったら返してね。」

「ひどいね・・・」

「話を戻すわ、直江さんはあなたの男性としての魅力でパートナーになったのではない。あなたの物理研究が優れていることに魅力を感じてパートナーになった。だから直江さんはあなたに男性としての感情はない。」

「そうなると、行動が不可解だよね。あと思ったのは、直江さんて 一度 何か傷つくような 失恋でもしたんじゃないかな? だからそれがトラウマになって あんな風になったんじゃないかなって 。」

「そうね・・・。私もそれは考えたわ・・・・もしもね、何か忘れたいような恋愛の過去があってトラウマになってるとしたら、何であなたと 研究室 とはいえ 一晩一緒にいられるの ?逆にそれはなでしょ?それに生理の日を あなたに伝える 。おかしい、恋愛トラウマも違うわ。」

「そうなると・・・ミラクルむすめということか・・・」


「ねえ? 松田聖子の話詳しく聞きたいんだけど……『私はあんたみたいにいやらし目で見てるのとちがうよ。』そういったって言ったでしょ?その辺もっと詳しく話して。」


「 とにかくびっくりしたよ。 まるで男友達と罵り合ってる。 そんな感じだったもの。彼女は男みたいだ。顔立ちだってよく見たら悪くない。なのにセンスの悪い洋服来てる。髪の毛も気にしない。なのに自分の机わまりはきれいにしてる。女性らしさがある反面、男のようなんだ。おれ佐和ちゃんの次に好きなのは松田聖子だけど・・・」

「さっき、2番はお姉ちゃんっていったけど((笑)」

「1万円返せて言ったから、姉ちゃんは3番に格下げ・・・まあ冗談はいいとして、女の子で松田聖子が好きってなんだろ?佐和ちゃんもそうだけど歌が好きなんだよ。佐和ちゃんは松田聖子の「卒業」って歌が好きでよく口ずさんでるけど聖子ちゃんの写真見てにやって笑ったりしない。」

「あんたは、聖子ちゃんの写真見てニヤって笑うでしょ?」

「写真見て笑うくらいいいでしょ?松田聖子だよ。佐和ちゃんそんなことでやきもちやかないって!」

「そんなこと言っているわけじゃないの。」

「何が言いたいの?」


「なるほどね… なんとなくわかってきたかな。」

「 何がわかったの?」

「直江さんの秘密、 もちろん 推測でしかないので はっきりはしないけどね。」

姉はなにか直江の重大な秘密に気づいたようだ。私は2本目の缶ビールをあけてなにを姉が言い出すのか緊張していた。


「あなたは、彼女を男みたいだって言ったでしょ?男みたいじゃなくて男なのよ。」

「なに?男?そんなわけないよ。胸だって姉ちゃんほどじゃないけと少しあるよ。」

「また胸の話?あんた女性イコール胸なのね。」

姉はビールを飲みほして話始めた。

「彼女は 性同一性障害者なのよ 。おそらくその中でも トランスジェンダーだと思う 。」

「何 言ってるのかわからない。」

「つまりね、 体は女の子だけと心は男の子 そんな風に生まれてきたのかもしれないわ。」

「どういう意味??。」

「そうねえ・・例えばねあなたが私の体に 入り込んで、あなたの体が私の体だとしたらどうなる?」

「どうなるって?」

「 あなたにいやらしい目で男たちがよってきて、迫ってきたらどう思う?」

「気持ち悪いよ。」

「逆に佐和ちゃんは、あなたを好きにならない。なぜなら体が女だから…あなたがどんなに佐和ちゃんを好きでも子どもはできない。

それをイマジネーションして。 そういう障害を持ってたら、直江さんのしていること全てうなずけない?どう?」


「あなたは直江さん と朝までいたと言う。その 出来事は 彼女にとってはあなたが 男の子例えば石田君と一緒にいたと言う だけ のなんでもない話なの。 あなたに下の名前を言わないのは 、自分は男だから可愛い女の子の 名前が好きじゃないのよ。 だから下の名前じゃなくて名字である直江さんと呼ばせる。 松田聖子の写真を見て ニヤニヤ笑っていたのは あなたが女の子を見る ものと同じなのよ、 突然 あなたに見られたから 誤魔化すために『私はあんたみたいにいやらし目で見てるのとちがうよ。』 といった。どうつじつま合わないかな?」


「それと、やっぱり上杉教授が決め手になるのよ、 教授は、昔から彼女を知っている 教授だけは 直江さんの 障害を知っている。たがら彼女は教授には心を開くと推理したらわかりやすくない?。教授は 、直江さんの親がわりなのよ、障害を持った彼女は友達がいない。あなたに力になって欲しかった。でも 万が一あなたが 直江 さんを好きになったら、せっかくの関係が壊れちゃうでしょ だから あなたに彼女がいるのか確認して、直江さんと 仲良くしてくれって 言いながら、直江さんを女性としてあなたに見てほしくない。自分の彼女を大事にしろというのよ。 何もかもが辻褄が合うでしょ 。」


「そうか いつも彼女がセンスの悪い洋服を着て 髪の毛もとかしてないけど、 あれって わざとだったのかな?」

「そうね 自分を綺麗に見せるということに 無頓着なのと 場合によっては 、男の人がいいよってくるのが 嫌だったのかもしれない。」

「 でもそんな障害持っている人って どれぐらいいるのかな?」

「わからない 、なぜならその人たちは 自分が 性同一性障害者だって 言わないの。あなたが知らないだけで 周りにいるかもしれないわ。」

姉の言うことが本当なら・・・・今までの彼女にまつわることを一つ一つ思い出すと確かにすべてが矛盾なく理解できる。


「だとしたら、おれ彼女になにしてあげたらいいのかな?」

「気づかないふりするの?」

「ずっと?」

「いつか必ずあなたにカミングアウトする日が来る。そのときまで優しく見守ってあげること。」

「佐和ちゃんには?」

「カミングアウトされるまでは、まだ私の想像だからはっきり言えないけど、あなたがずっと直江さんと関わるならきちんと話さないとね。」


Imagine (イマジン)・・・⑤ カミングアウト


Imagine (イマジン) (想像してごらん・・・)

Imagine there‘s no heaven

It‘s easy if you try

no hell below us

Above us, only sky


想像してごらん 天国いなんてないって

やってみたら 簡単だ

僕たちの足元に地獄はない

頭上にはただ空が広がる



師走に入り今年もあとわすか、私が大学の学食で食事をしていると、仲間が大騒ぎをしていた。ビートルズのジョンレノンが40歳の若さで、なにものかに凶弾にうたれ亡くなった。

そのニュースは名曲イマジンにのせて、世界中にニュースになった。


「ジョンがなくなった・・・」

大好きなビートルズのジョンが亡くなったのだ。

私はショックをかくせずにいつものように研究室はいった。なんとなく一人になりたかったのだが、そには先に直江が来ていた。ひとりで自分の机に静かに座っていた。彼女は泣いている。


「どうしたの?」

「あなたこそ目が真っ赤ですよ。」

「私たちは同じ悲しみで涙しているようですね。」

「直江さんもジョンレノンのファンなの?」

「はい。」

「ジョンは世界中が幸せになってほしいと、平和を願う歌をメッセージにのせ世界中に発信していました。」

そう初めてだった。直江が私に物理学以外の話をしたのは、

「私のような障害を持つものも、みんな自由であり、幸せにいきる権利があるとジョンは言います。」

彼女は自分で『私のような障害を持つもの』と言った。

ジョンは私たちに戦争のない世界をつくろう。平和を我らにと歌で訴え続けてきた。そうジョンの愛した女性「オノ・ヨーコ」が日本人であったために。ジョンは晩年日本の軽井沢に訪れていたという。


それから彼女は私にすべてを告白した。

「まず、私はあなたに謝りたい。私はあなたに今までかくしてきたことがあります。」

私はだまってうなずいた。

「私は性不一致障害者なんです。体は女性でも心のなかは男性なんです。」

私は少し微笑んでだまってうなずいた。

「おどろかないんですか?ひょっとして見抜いていたんですか?」

「なんとなくわかっていました。」

「わかっていてずっと気づかないふりしてくれてたんですか?」

「……」


「あなたは優しい人なんですね。」

「直江さんだって優しい人だ。」

「ありがとう・・・うまくいえないけど、私の心が女だったら、あなたを好きにっていたと思う。もし私が普通の女の子だったら、あなたを好きになっていたかもしれない。そうだとしたら私の夢は終わっていた。でも私はあなたを愛することができない。私自分の障害のおかげで未来と自由がこわされずいる。それに感謝します。」

「今日は、2人でここでジョンの冥福を祈ろう・・・」


 1980年12月8日。ジョン・レノンが凶弾に倒れる。ジョンはファンに撃たれて亡くなった。なんでファンに撃たれなければならないのか全く事件はわからないままだった。撃たれたわけはわからない。それもあってジョンの死は世界中に衝撃をあたえた。

ジョンの名曲イマジンが悲しく心に響く・・・






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