表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

LET IT BE

LET IT BE ・・・① マネージャー昇格

 あれから半年が過ぎた。ファーストフードのアルバイトではあるが、店長からチーフという称号をもらい、お店の前線で働く。好きな彼女とも順調で充実した学生生活を送っていた。そんな時突然店長から呼ばれた。店長の部屋をノックする。        

「失礼します。」                                           「ごめん、忙しいところを呼び立てて。」                            「いえ。」                                              「頑張っているね。チーフとしての君の評価は高いよ。まわりのみんなも絶対の信頼を寄せているし。もう私の代わりが務まるね。」                        

「ありがとうございます。まだまだですがそんなふうに言ってくださるとうれしいです。」

「そろそろ店長の代理をやってもらおうか・・・」                       「冗談でもうれしいです。」                                    「実はね、本気で相談したい。」                              

仕事中にわざわざよびたてて冗談を言うはずはない。私は緊張した。        

「今度、隣駅に2号店をつくることになった。」

「2号店ですか?」                                         店長はやり手で1店舗の店長で満足する人ではないと思っていたが、こんなに早くお店を2つ構えるとは思っていなかった。                            

「それでね、この店の店長代行は君ということになる。主婦パートの大谷さんをチーフにしようと思っている。2号店の店長は私だが、2号店のチーフに石田君を考えている。」

やっぱりそうなるか・・・最近石田のやつ頑張っていたからな。ライバル意識はある。私は店長代行になるのだから彼の昇進を心からお祝いできる。もう彼とはわだかまりはなくなったし、心からおめでとうと言える、むこうも私の昇進を喜んでくれるだろう。

「でも・・・奥様がいるじゃないですか?」                            2号店がでるなら、店長の奥様が店長になるのがふつうだ。私はアルバイトだし。 

「実はね・・・できちゃったんだ。」                                店長はニコニコ笑っている。                                  「えっ??何ができたんですか?」                              「君は、そういうことは本当に鈍感だね。」

なんのことかわからず一瞬ポカーンとする。そう店長と奥様はまだ30歳を過ぎたばかりの若いご夫婦だ。子どもができないほうがおかしい。                

「そうなんですか?おめでとうございます。」

「ありがとう。まあ子どもが生まれたら復帰ということになるが、その時は2号店の店長は妻にさせて、引き続き君がこの店の店長をつづけてほしい。私は次なる事業拡張を考えているので。ただし失敗したらすぐおろすけどね。」                  

店長は笑いながら夢のような話をする。私は天にも昇る気持ちだった。

 

しかし・・・天にも昇る話はそこまでで、そういい話ばかりではない‥‥       

「それとね、ほかの人事だけど2号店には、石田君のほかに佐和子君もつれていきたい。二人以外はそのまま残すから。」

「えっ??佐和ちゃんを連れて行くんですか?」                     

「悩んだのだけど向こうは最初から採用しなくちゃいけないだろう?1人どうしても優秀な女の子が必要なんだ。」                                   

『志摩ちゃんではだめですか?』といいかけたが、新人の教育は佐和子が一番うまい。

「君もわかると思うが、佐和子君は周りからも信頼が厚い。2号店は1からのスタートだ。どうしても彼女の力が必要だ。それだけじゃない君のことを考えての結論だ。君は志摩君をどう評価している?」

「佐和ちゃんの方が上ですが、2番手は志摩ちゃんですね。」              

「まあ、アルバイト従業員としてみたらその通りだが、彼女には佐和子君にないものがある。」                                               「えっ??」                                             意外だった。どう見ても二人の差は歴然としているし志摩が彼女より優れている点といわれてすぐ答えられない。店長は自信ありげにこう語った。

「彼女は、クリエイティブな発想を持っている。お店を向上させるために斬新なアイデアを提供してくれると思う。つまり店長代行のマネージャーの君には志摩君は最高のパートナーだと私は考えた。」

店長は私と佐和ちゃんがつきあっていることと、石田と志摩がつきあっているのを知っている。佐和ちゃんが石田の元カノまでは、知らないのだろう。しかし公私混同を考えるとこの人事の方がいいのかもしれない。仕事と割り切らねば…

「わかりました。店長の期待にお応えできるよう頑張ります。」


それから、店長は私の後に、主婦パートの大谷さん、石田、佐和子、志摩、の順番によんで膨大なる2号店の計画を話したようだ。呼ばれた5人はみんな時給が大幅にアップする。

それから私は嬉しいのと一抹の不安があるのとで一目散に家に帰った。            

「姉ちゃん!聞いて!聞いて!おれさあチーフからマネージャーに昇格した。すごいと思わない。」

あれ姉がいない?お風呂でも入っているのかな?                    

「聞こえているわよ!どうしたの?興奮して・・・今ね、風呂に入っているのだけど。服着てないのよ。入ろうとしたでしょ?」                             

「ごめん、ごめん・・・ねえちゃんの裸を見ようなんて思ってないから。」         

「あたりまえでしょ。楽しそうね・・・話聞いてあげるからビールとおつまみ用意して待っていて。」

「まったくもう・・・」                                         


 姉はパジャマに着替えてブツブツ文句を言いながら入っていた。兄弟だから裸を見たいと思わないが、正直言って姉はきれいだと思う。

「姉ちゃん、やっぱり胸大きいね。」                              「あっ・・・やっぱりお風呂のぞいたんだ。やらしい。佐和ちゃんとどっちが大きい?」

「何言っているの?おれは彼女をそんなふうに見ていないよ。」             

「そうですか・・・でも彼女なのだからそれくらい考えてもいいとおもうけど・・・?少なくとも姉の裸見るよりふつうよ(笑)」

「そんなことよりさ、今度うちの店2号店ができることになったの。店長がそっちに異動するので、俺今の店の店長代理でマネージャーになる。」

「そうなの?また昇進ね・・・よかったおめでとう。佐和ちゃん喜んだ?」                    「いや・・・まだ言ってない。」                                        「なんで、真っ先に言わないのよ。私より先に報告する人でしょ?」                「そうだね・・・でも店長経由で伝わっていると思うし、忙しそうだし。」             「何を言っているの?今から電話しなさいよ。」                        「もう遅いし・・・」

「なんかおかしい・・・何かあったの?」


 私はほかの人事についても姉に包み隠さず話した。石田と佐和ちゃんが2人で2号店に行くのは不安だった。石田がチーフになれば、2人で話す機会が、がぜん増えることは間違いない。

「それで、二人が抜けた後のお店ってやっぱりきついの?」                   「いや、それを見越して採用していたんだね。なんか最近店長ずいぶん採用するなって思っていた。それに主婦チーフの大谷さんって結構優秀なんだ。だからその辺は心配ない。そう、一番心配なのはおれ自身だね。」

「だったら、何を心配しているの?」                              「石田と佐和ちゃんが変なことになったら嫌だなあって・・・」                 「しっかりしなさい。その程度なのあなたたち、ちゃんと話をしときなさいよ。今日だってまず彼女と今後のこと話しなさいよ。こういう時二人で喜び合い、今後のこともしっかり話をするべきでしょ。」                                      「そうだね。俺どうかしていたよ。」                                「はい、それじゃあ今日は私の裸のぞいたバツとして、ここのかたづけはあなたがやって。」                                                 「のぞいてないって言っているじゃないか(笑)」


 それから3か月して2号店はオープンした。石田と佐和子は私のお店には出勤をしなくなった。佐和子と話す時間は少なくなったがその分ほぼ毎日のように、電話で話していた。       

「新マネージャーさん、今日の売り上げはどうでしたか?」                   「からかうなよ、2号店にお客様持ってかれちゃうので厳しいよ。」

「みんな新人だからね、でも仕事を覚えるのが早い。チーフの石田君けっこう新人に教えるの上手よ。」

「そうか、みんな頑張っているんだよな。でも2号店はみんなが早く仕事覚えて軌道に乗せることを考えればいいだろ?こっちはどうしたら売上上げられるかってそんなこと考えなくちゃいけないし難しいよ。」

「そうね・・・、がんばってマネージャー!!」


LET IT BE ・・・② あやまち


そう石田の頑張っているのは伝わるがこっちのお店の志摩は、まだマイペースだ。私たちはあまり仕事の話をしない。そんなある日、志摩が私に声をかけてきた。                        「マネージャー!私いつも思うのだけど、お客様を待たせるとき2台のレジに並んでもらうでしょ?例えば新人の子と私がレジにいるとして新人の子の方のレジに並んだお客様は、待たせてしまうことがあると思うの。レジが新人かベテランでお客様を待たせる時間が違うっておかしいと思うんですよ。そこで私、改善策を考えたんだけど・・・・」

 

 筆者の独り言・・・・・そう、この話は1980年頃の話、この当時1列に並ばせるという発想がなかった。例えば銀行などもキャッシュディスペンサーが5台あるとして当時は5列に並んだ。1人がやたらお金おろすのに時間がかかる人がいると後ろの人たちがいらいらしたものだ。だから1回おろしてまた後ろから並んでということもした。今は違う1列に並び、あいたキャッシュディスペンサーに移動するから待ち時間はみな一緒になる。そんなあたりまえのことに気づかなかった時代に、志摩は先見の目でそれに気づいた。


「なるほど・・・そうか、じゃあ実際どうすればいいのかな?詳しく話聞けないかな?」       「いいですよ・・・それじゃあ、仕事終わったら飲みに行きません?」              「そうだね。」

なるほど・・・今まで気づかなかったが店長の言っていることはまとを得ていた。志摩は私たちが気づかないことを指摘してくる。わたしは彼女の着眼もさることながら、なによりも店長の人を見る目は確かと感動した。私はこんなふうに店長にリスペクトの気持ちを持っていて、なによりも店長に認められることをして褒められたかった。


 お店の閉店は8時、それからあとかたづけをして、9時過ぎに私たちは近くの居酒屋に行った。お客様の接客に対する新しい考え方を熱く語り合い、明日すぐにでも実行しようと実施計画書まで作った。

「マネージャー熱心ですね。」                                  「志摩ちゃんすごいよ!気が付かなかったなあ~~」                      「私~少し酔っちゃったかな~~」                               「家まで送っていくね。」

志摩は地方から出てきて一人暮らしをしていた。私は彼女のアイデアを実行することに夢中になり、酔って彼女を送っていくところを石田に見られたら・・・なんて全く考えなかった。彼女を家まで送り届けて

「それじゃ、今日はありがとう・・・」というと・・・                         「コーヒーでも入れるからちょっと寄ってってください。」と言われた。             「もう遅いからさ・・・」 


すると志摩は                                        「ああ・・・もう一つ、マネージャーに言っておきたいことがあるの、これはハンバーガーのクオリティーを上げる方法だけど・・・」                            

「そんなことまでかんがえているの?教えてよ。」                       「それじゃあ。ちょっとだけよっていって・・・」                         「うん、それじゃあ・・・本当に少しだけ。」                            そう言って私は一人暮らしの志摩の部屋に上がり込んでしまった。

部屋に入るとコーヒーを入れてくれてそれを2人で飲んだ。  


「ハンバーガーのクオリティを上げる方法か?志摩ちゃんはお客様目線で見ているから気づきがすごいよね。さっそく教えてよ。」

「このお店に佐和子と二人でバイト始めたころの話ね・・・まだ私たち入ったばかりのころだったけど、お互いにだれか好きな人いる?って聞いたことがあるの・・・。私は気になっている人いるって言ったら、佐和子も片思いだけど気になっている人がいるって・・・だれ?って聞いたらお互いに『言わない!』っていうでしょ。」                                   彼女はいったい何お話をするつもりだろうか・・・ハンバーガーのクオリティーとどうつながるのだろか?よくわからないがだまって最後まで聞くことにした。


「私は佐和子の好きな人が誰なのか気になって『教えて!』というと『あなたこそ誰が好きなの?』って二人して譲らなかったわ。じゃあその人の名前を紙に書いて1,2の3で見せっこしようって・・・そんなつまらないことやったの。ドキドキしながら、1.2の3って言って二人でみせっこしたら、私たち二人ともあなたの名前を書いていました・・・それから2人で冗談よ・・・冗談って・・・。お互いに打ち消しあったけど私は冗談ではなかった。佐和子だって冗談じゃなかった。」

  えっ・・・私は戸惑ったいったい彼女は何の話を始めるのか??志摩は佐和子とは対照的な魅力があった。スリムでスタイル抜群、小悪魔的な魅力の可愛いいロングヘア―の女の子だ。フフと笑う仕草がいやに色っぽかった。そんな志摩が突然変なことを言うので私は面食らった。                     「それって、過去の話でしょ?そんなこと石田に言うなよ。」                  「言わない。でも過去の話じゃない。」                              私はとっさに我を失いかけた。


「石田君は佐和子が好きだったけど佐和子はそうじゃなかった。私にあなたを好きだって言っていたくせに石田君とつきあいはじめた。許せる?」                           「過去の話だよ。」                                        「過去の話じゃないよ。今だって石田君は佐和子が忘れられないんだよ。私は佐和子の代わりなの。」                                          「そんなことないって・・・石田は君という新しい彼女ができたから佐和ちゃんと別れたいって言っていたんじゃないか。」

「それは違うよ。私はその時彼氏がいた。石田君と付き合い始めたのは最近の話、佐和子は勝手に私と浮気していると思っていたみたいどね。石田君は佐和子と別れたくなかったのよ。でも・・・あなたに返してあげるのが佐和子のためと思ったらしい。」

私は何も知らなかった昔の話を今更きいても仕方ないと思いながら聞いてしまった。『石田くんはそんなに悪い子じゃないかもしれない。』姉の直感は的を得ていることになる。石田は自分の気持ちと裏腹のことをした。ちょっと哀れでもある。志摩の話は続く・・・


「石田君だけじゃない私だってつらいおもいをしたの。あなたたちがとても仲良くしていたから、私が入り込むスキがないと思ったの。たまたまその時、合コンで知り合った男の子につきあってくれって言われてつきあうことにした。あなたをあきらめるためだったのよ。なのに佐和子は石田君と付き合った。」

信じられない話だった。だとすると佐和子がみんなを振り回したことになる。しかし…私が女の子にもててるなんて考えてもいなかったことだ。


「それとね今回のこと私、うれしかったのよ。店長に言われたことが・・・、あなたには君のようなクリエイティブの発想ができるパートナーが必要だって。あなたの一番力になれるのは佐和子じゃなくて私だって。うれしかった。だって今まで男の子で仕事が一番できるのはあなたで、女の子で一番は佐和子みんなそういう見方していた。それがはじめてあなたと私が最高のパートナーと言われた。」

「それは、仕事上での話だろ?」                                「仕事上でも佐和子より私だったのはうれしかった。佐和子が憎らしいのよ。佐和子が一番嫌がることをしてやりたい。」                               


突然志摩が真顔になり私を熱く見た。

「あなただって佐和子と石田君が抱き合っていたことを想像したら嫌でしょ。だからいいのよ・・・」

志摩は私を誘ってきた。私は彼女の考えていることが恐ろしいことだということよりも、目の前の美しい彼女を抱きしめたくなる衝動を抑えることができなかった。それからの30分の行為は私にとっては最高の快楽であり生涯の汚点になった。


「リンリンリンリン・・・」そして彼女の部屋の電話のベルが鳴った。彼女は生まれたままの姿で電話に出た。                                      

「もしもし・・・あっ 石田君?・・・大丈夫よ。・・・これから?・・・いいよ。久々に私も会いたい。じゃあ待っているから・・・」                                電話を切って彼女は言った。

「これから、20分くらいで石田君ここに来るって・・・」                   「えっ??」                                             私は、罪悪感と思いながらも、素敵な時間の余韻にしたっていたい気持ちを断ち切るのに、どうしていいかわからずもじもじしていたが、一刻も早くこの場を立ち去らなければならなくなった展開にむしろ感謝した。お礼を言うのもへんだし「それじゃあ!」と言って帰って行った。私は石田と鉢合わせすることはないようにとわざわざ遠回りして変な道を通って走って帰っていった。


 家につくとさっきかすかに残っていた快楽の余韻はなくなり、私を支配するのは罪悪感と自己嫌悪だけになった。こんな時は誰とも話したくなかった。家に帰ると姉が「帰って来たの?さっきから3回くらい佐和ちゃんから電話あったわよ。」        

私が無視して自分の部屋に行こうとすると                           「電話しなくてもいいの?」と姉は言った。                          「いいよ、もう遅いし。」                                      少し怒ったふうに答えた。とても彼女に電話できるような状態じゃない。


 筆者の独り言・・・・・読者のほとんどが、「帰って来たの?さっきから3回くらい佐和ちゃんから電話あったわよ。」の意味が理解できないと思うので・・・、携帯電話がない時代を想像してください…家を留守にすると、連絡手段は家の電話のみ。家族がどこに行ったのかわからないというと、ただ3回も家族相手にもう帰りました?と電話をかけるしかない。もちろんメールなどもない時代です。3回電話をするほど大事なようでも向こうにも家族がいれば、10時以降は折り返しの電話できないのが常識でした。


LET IT BE ・・・③ 悩みの日々


次の日、志摩と顔を合わせるのはさすがにバツが悪かった。彼女今日だけでいいからお店を休んでくれないかな?そんなことも考えていた。お店に行けば会わなければならない。志摩はいつものように何もなかったかのように出勤する。

「おはよう!」 それ以外のあいさつはない。ちなみにファーストフードのお店はお昼でも「おはよう!」と声を掛け合う。私が声をかけると志摩は私に近づいてきてささやくように言った

「昨日のあなたの燃えるような情熱忘れない。あのあとの石田君との無味乾燥な行為はよけいだったわ。」                                        

そう言って何食わぬ顔をしてレジについた。


 肝心のお客様をスムーズにレジ誘導させる計画は、実施リストまで作ったのにどうでもよくなった。つらい重苦しい時間がいたずらに流れた。仕事に全くならない。チーフの大谷さんがいてくれたので救われた。しかしそういう日に限って、私と志摩は同じ時間休憩になった。いやだったので事務所の店長室で食事をする。するとノックの音がする。事務所で2人きりなのでノックの主は彼女とわかっている。

「どうぞ!」                                             「昨日のこと佐和子にだけは言うわよ。おそらく信じないだろうけど・・・あなたに確認すると思うけどうまくごまかしなさい。」                                  「石田にも言うのか?」                                     「いうわけがないでしょ。あなたから言ったら?私が石田君よりあなたとの方が感じていたって言ってやったら?」

その瞬間私は志摩のほほを思わず平手うちをしてしまった。                   「私は最低の女よ、でもね・・・あなたに私をたたく資格はないわ。同罪よ。」           その通りだ。私に彼女をたたく資格はない。そうだ自分勝手すぎる。それからしばらく悩みの日々は続いた。


 その日の夜、たまらなくなって姉に泣きついた。                       「どうしたの?今日はずいぶん深刻そうね?店長代理さん?お店がうまくいっていませんか?」                                              私は缶ビールをあけて志摩と間違えを起こしてしまったことを姉に話をしてしまった。どうしていいかわからなかった。姉だったらよいアドバイスをしてくれるはずだと思ったからだ。

「志摩ちゃんが佐和ちゃんにあの日のあやまちのこと言ったらおれたち終わっちゃうよね。」                                                 姉はだんだん険しい顔になってきた。そして一言                        「あんた最低!」                                             「わかっているよ。」                                       「わかっていない!佐和ちゃんにふられてウォンウォン泣いていた時のあなたはかっこよかったけど、今は最低!」

「人はだれでも過ちを犯すの?佐和ちゃんだって石田君だって・・・言っていることはめちゃくちゃだけど、志摩ちゃんだって彼女は彼女なりにあやまちを犯した理由がある。でもあなたのしたことになにか理由がある?弁明の余地がないでしょ。ただ不潔なだけ!志摩ちゃんをたたいた?最低!あなたがたたかれるべきよ。『私は最低の女よ、でもねあなたに私をたたく資格はないわ。同罪よ。』 って志摩ちゃん言ったっていうけど同罪じゃない。あなたの方が罪は重い。」

「そこまでなの・・・?」                                       「じゃあ、なにか言い訳してごらんなさいよ。自分を正当化するものがあるなら言ってみなさい。」                                             「そりゃあね・・・誰だって・・・」                                  私はそこで何も言えなくなった。

「誰だってなに?男だったら志摩ちゃんみたいにロングヘア―のスリムな女性に見つめられたら衝動を抑えられない??そうでもいいたいの??」                

 私が思ったことをそのまま言われてしまった。


 じゃあ、あんた、おいしそうだったらよそ様のもの盗んでたべるの?コンビニでお金払わずにビール飲むの?そしてのどが渇いていたからと言い訳するの?」                          「わかったよ、おれが一番悪い。」                               「そう、あんたが一番悪い。」                                  「じゃあどうすればいいの?」

しばらく姉は黙った。おもむろに姉はビートルズのレコードを持ってきて私に聞かせた。


When I find myself in times of trouble                              Mother Mary comes to me                                    Speaking words of wisdom let it be

Let it be let it be let it be let it be                                 There will be an answer let it be

私が悩み苦しんでいるときに マリア様がやってきて                       優しい言葉をささやいてくれる  LET IT BE なるがままに・・・ 


「LET IT BEか・・・・ねえちゃんはマザーマリアのように優しく言葉をかけてくれないじゃない。」                                             「最低!不潔!それを自覚しなさい。そして3人の仲間に償いなさい。大事な仲間どんなことがあってもあなたは、大事にしなくちゃいけない。石田君に殴られても、佐和ちゃんに愛想つかされても、志摩ちゃんにたたかれても、あなたが最低なのだからみんなに償うのよ。」


そうだ、私が一番悪い。みんなも少しずつだけ悪いところはあるが一番悪いのは私だ。みんなに愛想つかされても私がみんなを悪く思ってはいけない。         

「わかった。俺みんなからどんなこと言われてもみんなのこと大事にするよ。かけがいのない仲間だもの。」                                       

「そう、わかったならあとは耐えなさい。」                           「ところで姉ちゃんさ、なんで志摩ちゃんがスリムでロングヘア―だって知っているのさ?」

「当たっていた??実はね、お店がオープンした時の会社の集合写真見せてくれたでしょう?真ん中で写っている店長とおなかの大きい奥さんはわかるけど、あなたの話からおそらくこの子が、佐和ちゃんで・・・この子が志摩ちゃん・・この子が石田君って想像していたの。どうやら当たったようね。」

「姉ちゃんてさ・・・探偵にでもなったら?」                           「そうね・・・それもありかな。」


LET IT BE  第4章  新しい命

翌日佐和子に電話をした。                                   「マネージャー本日の売り上げは?」                               「昨比120%だよ。」                                        「すっごい~~さっすが店長代理だね。」                            佐和子はくったくなく私をほめちぎる。

「いや、実はねチーフの大谷さんのお子さんの保育園でお楽しみ会があってハンバーガーを大量に注文してくれたんだ。それが上乗せになったので120%」

「よかったね、そうそう前にね・・・・大谷さんから聞いたのだけど。あなたにすごく感謝しているみたいよ。あなたの評価が上がるように何とか協力してあげたいって。」               「私が店長に推薦したんだ。チーフは石田と大谷さんだって・・・」

「店長もそのつもりだったらしいけど大谷さんにはあなたからの推薦だって言ったらしい。大谷さんはあなたに感謝をしてがんばる。あなたは店長に感謝して頑張る。店長って本当に人のあつかい方上手よね。」

確かに店長は人の扱いはうまいし、また人を見る目がある。しかし結果的にはその人を見る目が私を苦悩の日々へと導いたことになるが・・・

                               

いや・・・・人のせいにしてはいけない。                            「どうしたの?なにか考え事でも?」                             「いや、なんでもない。最近志摩ちゃんとは話さないの?」

「昨日会ったわよ。あなたに混雑時のお客様の誘導を提案したのに取り上げてくれないって言っていたわよ。志摩ちゃんの提案に不服なの?」                              そうか・・私はすっかり忘れていた。

「そうだね、さっそく明日からやってみようと思ってます。ところで志摩ちゃんそのほかに何か言っていた?」

                                           

「そうね~~~ああ・・・あと石田君が、ビートルズの レット イット ビー のリードギターひいてくれたんだって超かっこいい!って・・・」                          「そうか・・レット イット ビーって、レット イット ビーのアルバムと青のアルバムのリードギターが違うんだよね。石田はそれをどっちもコピーしちゃうんだからすごいよ。」              「そう石田君はかっこいいよね。」                               「俺もポールマッカートニー目指してベースはじめようかな。」                 「ああ・・・ちょっと似合わないかも・・・」

                             

 どうやら志摩はあの日の過ちをまだ佐和子に言ってないようだ。考えてみたらそんなことを言ったら何もかも終わりになってしまう。これは永久に二人の秘密になるのだろうか?どうしていいかわからないが、私には レット イット ビーしかない。


 翌日から私は志摩の考案した混雑時のお客様誘導の実施をリストに従って実行に移した。テープを買ってきてお客様の立ち位置を明確にしてお待たせしないシステムをつくっていった。翌日から早速お客様から高評価を受けた。店長あてにお礼の手紙を書いたお客様もいる。これには店長も私たちの発案に唸ってさっそく2号店にも導入した。おかげで志摩はお店の時の人となった。店長はしこぐ満足気で機嫌がよかった。そう機嫌がよかったのはいうまでもない、もう一つビックニュースが入ったからだ。店長と奥さんの間に赤ちゃんが誕生した。いいときにいいことは続くお店も売り上げを順調に伸ばしていった。


 それから数か月の月日が流れた・・・店長と赤ちゃんをだっこした奥さんに私たち4人が一度に呼ばれた。私たち4人は一堂に店長夫妻の前に並んだ。店長が私たちに話し始めた。                                            「みなさん、ありがとう。私もお父さんになりました。この子のためにより一層仕事に励みますのでこれからもよろしくお願いいたします。」                              私たちは盛大に拍手をした。

「どうもありがとう。それではここで新しい人事をお話しします。私は2店舗のスーパーバイザーとして2つのお店を統括します。また妻も現場に復帰しますので人事も新しくします。」                                              


店長の構想はこうだ。

1号店のストアマネージャー店長代理は引き続き私がやる。そして2号店のストアーマネージャーには石田が指名された。私もびつくりしたが、なによりも当人の石田がきょとんとしている。店長は続ける。

私と一緒に働くのは佐和子、2号店で石田を補佐するのは志摩になった。チーフは今までどおり大谷さん、奥さんは2号店のチーフに就任した。今回大活躍の志摩は石田がマネージャーと聞いて泣き出した。そして私たちの前で見せつけるように石田に抱きついた。石田と志摩は前よりもずっと愛が深まったようだ。あの日のことなどなかったかのように人もうらやむような恋人のようだ。


 私と石田は店長代理本当にいい意味でのライバルとなった。奥さんに抱かれてすやすや眠る赤ちゃんが私たち4人を幸せにしてくれたのかもしれない・・・        


   LET IT BE (なるがままに・・・・)











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ