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SHE LOVES YOU

SHE LOVES YOU・・・①  三角関係


「君は佐和子が好きなのだろ?この計画に手をかせばあいつは君のものだ。」

私は動揺している。いくら彼女が好きでもそんな卑劣なまねはできない。私が黙っていると、石田はたたみかけるようにまくしたてた。

「頼むよ、君が一番望む結果になるんだぜ。」


この卑劣な計画に手を貸すことに私は悩んだ。卑劣な計画とは、私が石田の彼女の佐和子を誘う。私と彼女がいるところを石田が目撃する。石田は激怒して彼女に三下り半をたたきつける。行き場のなくなった彼女は私に傾くはずだというのだ。つまり石田は彼女と別れたがっている。別れたいのなら彼女に別れたいはっきり言えばいいのだが、自分に夢中の彼女に言えないというのだ。そこでかつての恋敵の私に声をかけてきた。


 そう半年前、石田と私は同時に同じ女性を好きになった。私が佐和子に告白をしたときはすでに彼女は石田の恋人だった。あきらめるしかない。ところが3か月もすると彼女が嫌になったらしい。自分を好きになりすぎた彼女が窮屈だという。今は別に好きな女の子ができたとか勝手なことを言っている。


「そこでお前に頼みがあるのだが、佐和子を誘ってくれないか?」

「そんなややこしいことしないで、好きな人ができたから別れようって言えばいいじゃないか?」

「そんなこと言ったらすごい執念で、おれの新しい彼女に何をするかわからないよ。とにかくあいつは恐ろしい性格だ。怖いよ。」


「はあ?」

あまりにも身勝手で人を馬鹿にした話なのだが、それでも

「ふざけたこというな!」

といえないくらい今でも私は佐和子が好きだった。

「わかった。少し考えさせてくれないか?」

「ありがとう。とにかく頼むよ。」

そこまで話をして電話を切った。


 私と石田と佐和子は3人とも大学生で別々の大学に通っている。ファーストフードのバイトで知り合った仲間だった。大学に入学してすぐ私がこのファーストフードで働き始めた時に彼女と出会った。私は理系の大学で彼女は、英文科の大学生、英語が苦手だった私は、なにげなく英語の課題を彼女に見せたら、すらすらと訳してくれた。私にとって英語は未知の世界の言葉であり、それが理解できる彼女を尊敬していた。バイトを離れても英語のレポートを手伝ってもらったりした。しかし仲が良かったが特にどこかに遊びに行ったということはない。事務所の狭い部屋でたまに休憩の時など話す程度の仲だった。


 彼女はビートルズに興味があると言ったので私が持っているレコードを貸してあげたりもした。ビートルズの英語をすらすら訳してくれる。おかげで中学校のころから好きだったビートルズの歌詞の意味を知るようになった。今まで歌詞の意味も分からずに聞いていた音楽が、歌の意味が分かるようになるとさらに楽しい。


 あの頃彼女のことが好きだったのか?当時はあまり考えもしなかった。ファーストフードの仕事がとにかく楽しかったし、ビートルズも好き、英語も勉強したい、もちろん理工学部の専門の勉強がある。とても忙しい大学生活だった。彼女を好きだったのかというと当時はあまり考えていなかったような気がする。とにかく大学生活に満足していて悩みなんてなかった。しかしこのバイトに石田が入ってきて私の生活は変わってしまった。彼は仕事も覚えないうちから佐和子に近づきだした。私に比べるとルックスもよく背も高い。またビートルズファンという共通の趣味も一致していた。私と違って彼は楽器を弾くことができ、音楽に精通しているので私の知らないビートルズを語るのだ。


「あの曲さAメジャーのキーから転調しているんだよ。音楽理論的にはありえない。それを簡単にやってのけるジョン レノンって天才だよ。」

音楽がわからない私には何を言っているのかわからない。

「曲もそうだけどここの詩がいいのよ。」

そう言ってきれいな発音で彼女が英語を読み上げる。


 2人の会話に私は入っていけなくなった。詩の意味も音楽もわからずただビートルズのレコードを買って聞いているだけの私は、小学生が大人の話を聞いているようなそんな感覚だった。彼女が石田と楽しく話す姿を何度か見かけたとき私は嫉妬した。私は正直言って石田が嫌いだった。アルバイトといっても私が先輩なので仕事を教える側なのだが必要以上には話さなかった。私がそんな思いだったのでなおさら石田は佐和子と親しくした。彼女も親切に彼に仕事を教えているようだった。


 石田の存在で自分の気持ちがはっきりわかった。私は佐和子が好きだったのだ。そして新たに現れた彼の存在で私の生活は急に変わってしまった。まずビートルズにだんだん興味がなくなってきた。勉強もしなくなった。今私が躍起になっているのはバイトだけだった。ファーストフードの店長は私を一番評価してくれた。アルバイトの中では高い方の時給だった。そう仕事だけは石田に負けなかった。店長からそろそろチーフにならないか?そう誘われた。正直うれしかった。チーフという役職になることで石田と差をつけて佐和子の気をひこうとした。


 チーフになったら彼女に告白しよう。私は佐和子が好きだ。そう思ってがむしゃらに仕事をした。ファーストフードの仕事はけっこう覚えることがある。店長のデスクに分厚いマニュアル本があった。仕事が終わってもその本をみせてもらい店長のデスクを借りて勉強した。店長はそんな私を一番かわいがってくれる。それからしばらくして店長から「チーフ」の称号をもらった。

「これからは私の仕事も代行してほしい。」

店長代理と時給ナンバー1に昇りつめた。私の目標の一つは達成した。次の目標は佐和子を彼女にすることだ。




 チーフになった翌日、おもいきって彼女に告白をした。告白は私にとっては一世一代の決心だったので衝撃的だった。彼女が出勤する時間を待って二人になれる機会を待った。

「佐和ちゃん・・・今日からチーフになったよ。」

「おめでとう!すごいわ。」

「ところで話があるのだけど・・・これからもずっと仲良くしてほしい。」

「もちろんよ。」

「それでさ・・・」

「なに?どうしたの?」

私は緊張のあまり顔がこわばった。そして思い切って言ってしまった。


「佐和ちゃんのことが好き・・・彼女になってくれないかな?」

「えっ??」

それまで笑顔の会話だったのに彼女の顔が急にこわばった。私の真剣なまなざしは彼女に戸惑いを見せた。

「ごめんなさい。今までだまっていたけれど私、1か月前から石田君と付き合っているの。」

あっさりふられたのだ・・・・目の前が真っ暗になった。よりによって一番嫌いな奴の彼女になったのだ。もう悔しくて、悔しくてどうしようもなかった。苦労して苦労してチーフになったのにもう一つの望みは一瞬のうちに消えてしまった。


その日はまっすぐ家に帰った。本当はやけ酒を飲みたかったのだが飲む相手もお金もない。

家に帰ると2つ年上の姉がいた。

「姉ちゃん・・・・失恋しちゃった。」そういうと

「なんでそんなこと私に報告するの?・・・わかった!やけ酒につきあってほしいのね?しかもお金がないから私に声をかけてきた。」

「その通り!姉ちゃんは感がいいね!」


 結局姉と夜中まで飲んだ。姉は2つしか年の差がないのに、私よりもずっと頭がよくてしっかりしていた。なんといっても美人だから、友達を家に連れてきても「きれいな人だよな・・・」とうらやましがられた。

「あんなきれいなおねえちゃんお前にはもったいないよ。」と友人は言う。

「あのさ・・・もったいないっていったって。おねえちゃんだから、彼女じゃないのよ。」

「わかっているけどさ。」

といいながらも褒められれば悪い気はしない。私にとっては自慢の姉だ。


姉はまず私がチーフになったことを誉めてくれた。それなのにアルバイトを辞めたいといったらきつく怒られた。

「チーフになったってことは、管理職ってことでしょ?いい?佐和ちゃんも石田君もあなたにとっては部下だからね。上の人間がやめたいと、軽く口にすることじゃないよね。」

「そんなこと言ったってあの二人と一緒に働けないよ。もう仕事やめたい。」

「そう・・・やめちゃうの・・・やめたらどういうことになるかな・・・考えてごらんなさい。店長は苦労してあなたをチーフにしたけどやめるというあなたに用はなくなるのよ。あなたの代わりを育成することになるわね。まずはあたらしい新人を入れる。そして時期チーフは?石田君かしらね。あなたはチーフになったばかりで、せっかくつかんだ役職を捨ててやめていく。少したてば石田君はあなたを超えることになるかもよ。あなたは石田君になにも勝てないで終わるってこと。それでいいの?」

それを言われると返す言葉がない。


「いい?あなたには石田君よりあなたを評価してくれる店長をも裏切ることになるのよ?」

姉の言うことはもっともだ。恥も外聞もなく私は姉の前でウォンウォン泣いた。

「もっときついこと言うわよ、悔しくても石田君と仲良くするの。そうすることで石田君もそうだし、なによりも佐和ちゃんが救われるのよ。あなたは仕事の上では上司なのだからあなたからそういう態度を出すのよ。それができる男ってかっこいいなあ~」

「ねえちゃんにかっこいいって言われてもうれしくないよ。」

「あたしだけじゃないって、だれかが見ているからあなたのかっこよさを・・・」

「そろそろ寝なさい。明日学校あるでしょ?私かたづけておくから。」

姉は昔から私にとって母親のような存在でもだった。食べ散らかしたあとかたづけを押し付けて、お言葉に甘えてそのまま寝ることにした。


 悔しくても男らしくあえて嫌いな彼と仲良くする・・・・それがかっこいい男か……

それからの私はなるべく石田と話をするようになった。嫌いな彼をあえて飲みに誘ったりしたものだ。 何も気にせずに仲間としてこれからもやっていけると思った。しかし石田という男は無神経な男だった。私が佐和子を好きだということを最初から見抜いていたという。


「おれ佐和子に初めて会ったときに一目ぼれした、お前見て恋敵だってすぐピン!!と来たよ。これは先手必勝だって思ったよ。」

彼は武勇伝のように佐和子争奪戦の勝利者として語りだす。本当に嫌味な奴だった。そもそも先手必勝という言葉が気に入らない。恋愛はゲームではない。手慣れた方に勝利の女神が微笑む現実が納得がいかなかった。しかしそれだけではなかった・・・


 同じ女性を好きになったのだからしかたないと言われれば仕方がないのだが、酒を飲んだときに、佐和子とのベッドでの話を聞かされた時は殴ってやりたいと思った。石田のことがわかればわかるほどこんな奴に佐和子を取られてしまった悔しさがこみあげてくる。


 そう仕事に打ち込むことで少しづつだが彼女を忘れかけてきたころ、彼女に飽きたから新しい彼女ができたという。こちらの無視して新しい彼女をつくるなどますます許せない。しかし私の感情とはうらはらに佐和子の方は石田に夢中だという。


 悔しい気持ちになると姉に言われたことを思い出す。

『もっときついこと言うわよ、悔しくても石田君と仲良くするの。そうすることで石田君もそうだし、なによりも佐和ちゃんが救われるのよ。あなたは仕事の上では上司なのだからあなたからそういう態度を出すのよ。それができる男ってかっこいいなあ~』


SHE LOVES YOU・・・②  恋のアドバイス


 3か月たって佐和子に飽きた石田は私に彼女を誘い出せ!そう言ってきた。佐和子と私を結び付けるビートルズのレコードを久しぶりに聞いた。彼女が好きなのはビートルズの初期のころだ。音楽とは不思議なものでメロディにのせて半年前の楽しかった思い出のシーンを再現してくれる。やっぱり彼女は私と一緒の方が幸せになれる。私の結論はそこに行く。だから石田と佐和子を引き離したい。彼女に何と言って誘い出せばいいのか?石田の書いたシナリオをもう一度反芻してみる・・・


「大事な話がある。会って話したい。」といって誘う。というそして実際に会ったら「石田は、ろくでもない男だから別れた方がいい。」と言う。そしてその場所に、石田が現れておれ以外の男と二人で会わないと約束したはずだ。と激怒する。


かなり強引すぎるやり方だ。仮にうまくいったとして、うまくいくというかそれで彼女が仮にあきらめたとしても、そのあと佐和子は自分に傾くだろうか?かえって私が二人の仲をぶち壊したと恨まれるかもしれない。そもそも石田に夢中な彼女を自分に振り向かせられるはずがない。別れられれば石田の思うつぼになり、彼女を傷つけるだけで終わってしまう。


 だったらこの話、断ればすむのだが、この話をうまく利用してなんとか自分に彼女を振り向かせる方法はないだろうか?と考えてしまうのだった。どうしていいかわからず冷蔵庫にあった姉が買ってあった缶ビールを勝手に飲んだ。私は、未成年だが失恋のショックからお酒をむようになった。飲みながら石田の提案は卑劣だと思いながらもずっと考えてしまう。


『大事な話がある。会って話したい。』といって誘う。ここまではいい。いっそのこと石田のこのもくろみをぶちまけてやったらどうだろうか?


『石田は君を私が誘うようにけしかけた。今から何食わぬ顔をして現れるそして、おれ以外の男と二人で会わないと約束したはずだ。と激怒する。君を誘え!と私に頼んだのだ。』という。そして打ち合わせとはちょっと違う展開でやつが私と彼女の前に現れる。そうすれば少なくとも私が二人の仲をぶち壊したと恨まれることはなくなる。


 そのあとの展開はどうなるだろうか?石田の話だと

『ふられたとわかったら、すごい執念で、相手の女の子に何をするかわからないよ。』と言っていた。それがその通りだとするとなにもかもがぶち壊されるが、わたしにはどうでもいい話だ。そのあと石田と佐和子が元のさやに戻っても、ここまできたら壊れるのは時間の問題だ。そうだ!いっそのこと佐和子の復讐に手を貸したらどうなるだろうか?新しい彼女は誰なのだろう?しばらくそんなことを考えてみるがそれが全く無意味であることに気づくだけだった。そんなやり方は男らしくない。せっかく今まで引き際のよいかっこいいふられ方をしたと至極満足しているのに最後に恋敵に復讐をするみっともない男になってしまう。


 缶ビールを1本飲みほしてしまった。まだ飲み足りないと、台所に行ってもう1本飲もうと冷蔵庫を開けた。すると後から声がした。

「まだ起きていたの?」

ふりむくと風呂上がりの姉がドライヤーで髪を乾かしていた。

「眠れないのよ、いろいろと悩み多き年ごろなんでね。」

「悩みってどうせ女の子のことでしょ。」

「そうだけどね・・・姉ちゃんに聞いてもらうかな。俺の恋の悩みを。」


「いいわよ、ビール私の飲む分も残っている?」

「まだあるよ。ちょっとそこで話を聞いてよ。」

風呂上がりのパジャマ姿の姉は色気がただよい弟でも少しドキリとする。

「おねえちゃん、佐和ちゃんに似ているなあ~」


「なるほど、あんたのあこがれの君の佐和ちゃんね。男らしくあきらめられたのかな~」

2本目の缶ビールをのみながら私は、姉に今までの石田と佐和子との話をこの前の続きから話した。3か月たって新しい彼女ができたから、私に彼女を誘えと言う。姉はいちいちうなずきながら、飲み込むように「なるほどね・・・」とういなずいた。


しばらく姉は考え込んで、口を開いた。

「あなたに聞きたいのだけど・・・石田君は、佐和ちゃんのことを『ふられたとわかったら、すごい執念で、相手の女の子に何をするかわからないよ。』って言っているのよね。ほんとにそういう子だと思う?」


「そんな子じゃない。」

「自信もってうちけしたわね。お姉ちゃんに似て、可愛くてやさしい女の子なのでしょ?」

「可愛くて優しい子だけど、お姉ちゃんには似てないよ。」

「さっきお姉ちゃんに似ているって言ったじゃない。」

「ああ・・・いったっけ・・・そんなこと・・・胸が大きいところは似ている。」

「バカねえあんた。そんなところばっかり見ているから女の子にもてないのよ。」

「ハハハ・・・」


私は今日初めて笑ったかもしれない。いままで深刻に悩んでいたのだがちょっと気持ちが安らいできた。

「次の質問ね。石田君の新しい彼女に心当たりはないの?」

それは私も気になっていたことだ。私の知っている子だろうか?

「あいつとは、バイト先でしか接点がないから、まあ同じバイトの子でない限りわからないよ・・・・」

「バイト先に対象になりそうな女の子いないの?」


「だって、女の人は店長の奥さんとパートのおばさんたち。それともうひとり志摩ちゃんっていうおれたちと同じくらいの年の女の子がいる。でも彼氏いるって言っていたから彼女は関係ないな・・・」


「彼氏がいるって聞いているからありえない??でも石田君も彼女がいるわけだよね。」

「そうか・・・そういうことだね。」

「でも、なによりも佐和ちゃんと志摩ちゃんは親友どうしなんだよ。そんなバカな話あるわけないじゃない。・・・・でも・・・『ふられたとわかったら、すごい執念で、相手の女の子に何をするかわからないよ。』って言っていたけど、相手が志摩ちゃんだったら親友に裏切られたのだから佐和ちゃん志摩ちゃんに何をするかわからないというのはうなずけるわけか・・・」


「何を言っているのよ、あんたは?さっき『佐和ちゃんはそんなことする子じゃない!』そうきっぱり否定したわよね。まずは石田君の言っていることより、自分で見ている佐和ちゃんが本当の佐和ちゃんだと思わなければ判断を間違えるのよ。」

そうだ、そもそも石田の言っていることが一番信じられないのだからこの際それは考えるべきじゃない。


「次の質問ね・・・その志摩ちゃんと石田君がなにかある??そんな空気を感じるような場面に遭遇したことないの。」

「それはないな・・・いや・・・まてよ・・・そういえば・・・」

 最近のシフトを考える。ファーストフードはカウンターでレジに入るのが女子、厨房で調理するのが男子それに店長と3人で仕事するケースが多いのだが、最近佐和子と私の組み合わせがやたら多い。おつきあいしている者同士が公私混同しないためにあえてそうしているのかとあまり気にも留めなかったが、私と佐和子が働いている時間は、石田と志摩は自由に外で会うことができるわけだ。仕事中は店長の目があるから何もできないだろうが・・・・とそんなことを思いつくと・・・


「それって公私混同しないためにそうしているのではなくて、逆ということも考えられるわよ。」

「どういうこと・・・」

「つまり、佐和ちゃんはあなたとシフトをあわせているとか・・・・」

「まさか・・・」

「確かにちょっと推理が飛躍しすぎね・・・・でもよく思い出してごらんなさい。なにかない?志摩ちゃんと石田君が接点になる出来事?あんた鈍感だからわからないかな・・・」

「鈍感で悪かったね!!あっ!!!!あるある!」

「何か思い当たることがあった?」


「そういえば・・・3日前のこと、一緒に働いているパートのおばさんがね、『この前ファミレスに石田君と志摩ちゃんが食事しているのをみかけた』って僕に言ったことがある。それ聞いてね、『それは志摩ちゃんじゃなくて佐和ちゃんでしょ。』と言って石田と志摩ちゃんのはずがないと訂正した。するとそのパートさん不思議な顔をいて『佐和ちゃんは、あなたとおつきあいしているのではないの?』っていいだした。『何言っているの、そんな事実はない。佐和ちゃんが男変えていると誤解するじゃない。』って少し怒った。するとパートさん『ごめんなさい。石田君かっこいいけど佐和ちゃんにはあなたの方がお似合いだって・・・ごめんなさいね、おばさんたちの噂、気にしないで・・・』変なこと言われたから本当に志摩ちゃんだったのか念を押さないで、話し終わらせてしまったことがある。」

「ほらね・・・出てきた、出てきた。だんだんわかってきたでしょ?どういうことか?」

私はいろいろな思いが駆け巡るのを少しずつ整理していく。


「そもそも石田は佐和ちゃんのことを『別れるって聞いたら、すごい執念で、相手の女の子に何をするかわからないよ。』と言っているけどさ、彼女はそんな女性ではない。じゃあなんで石田くんはそんなこと言ったのだろう?そこがポイントなのよ。今回の話は・・・・まだわかんない?

石田君が別れ話を切り出せないのは、別れてすぐ佐和ちゃんの親友の志摩ちゃんに乗り換えるなんて佐和ちゃんにもあなたにも言えないでしょ?でもすんなり別れ話を切り出せる方法があるの?あなたと佐和ちゃんが付き合うことになれば、だれにも遠慮はいらないのよ。」

「なるほど、そうか!姉ちゃんすごいよ!それじゃあどうすればいいの?」


「あんたそこまでアドバイスしないとわからないの?もうビールないでしょ?隣のコンビニ行って買ってきて。」

「わかった。買ってくるよ。俺おごるから。」

「あたりまえでしょ、今まで飲んだビールは、私が買ってきたものなのよ。」


 私は近くのコンビニまで走った。チーフになったので来月もらう給料は少し多くなるはずと思うと気前よく買って家にもどる。

「♪ She loves you yeh, yeh, yeh  ♪ 

 ♪ She loves you yeh, yeh, yeh  ♪ 

 ♪ She loves you yeh, yeh, yeh  ♪」


私が缶ビールを買ってくると、姉はのんきにビートルズのSHE LOVES YOU をうたっていた。私も姉の歌に合わせて歌った。ジョンとポールのようにはいかないがハモってみる。

「姉ちゃん買ってきた。どうしたの?歌なんて歌って?」

「ひょっとすると~~ She loves you かもしれないってこと・・・」

「そうかな?」姉に言われてまさか?と思いながらうれしくなってきた。

「あなた、有頂天になっているけど、本当に佐和ちゃんのこと好きなのね。」

私は思いっきりうなずいた。


「ひょっとすると・・・石田君はなにもかもわかっているかもしれないわね。」

「・・・・・」

「つまりね、あなたは石田君に嫉妬していて彼が嫌い。でも石田君もあなたに嫉妬しているかもしれない。」

「どういうこと?」


「これはさ、私の想像よ、あくまでも・・・あなたと佐和ちゃんは互いにひかれあっていた。誰が見ても2人はうまくいく。さっきのパートさんたちの話ね。それに気づいていないのは当の本人たちだった。だれもがいずれ2人は結ばれるから、そうっと見守ってあげていたのよ。パートさんたちは自分達も恋愛を重ねて今があるわけでしょ。今は子育てが大変で、自分の恋愛なんて考えないけど、周りのことには敏感なのよ。仕事はあなたがチーフかもしれないけど、恋についてはあなたなんてひよこ同然なのよ。」

「ねえちゃんは、若いのに恋愛経験豊富なの?」


「あなたよりはね。私の話はいいから・・・・そんなとき石田君が入ってきた。石田君もピンときた2人はひかれあっていると思ったのよ。でも石田君も佐和ちゃんが好きになった。だからあなたに負けまいとビートルズの話で彼女に近づいた。佐和ちゃんだってかっこよくて大好きなビートルズを、ギターで弾き語りできる石田君にいいよられて悪い気はしないのよ。あなたはチーフを目指して仕事を頑張っていた。逆に自分が邪魔をしたら悪いと思ってあなたに近づくのを遠慮したのかもしれないわ。その時石田君から告白された。彼女は申し出にOKした・・・・・・


どう?私はあなた以外誰ともお会いしたことないけどあなたの話から2人の性格がなんとなくわかるような気がする。」

「石田は本当に性格悪い奴だからね・・・」

「そこなの・・・確かによくはないかもしれないけど、そんなに悪い子じゃないような気がする。」

「なんでよ、自分に夢中の彼女がいるのに、浮気しているのだよ。」

「おそらくそこが違うのよ。さっきから ♪She loves you って言っているでしょ?佐和ちゃんが石田君に夢中だって言っているのは、石田君自身でしょ。それがうそだったらこの話は何もかもつじつまが合うの。」


「今の話はあくまでも推測にすぎないの。また有頂天にならないで。さっきシフトが佐和ちゃんと一緒になることが多いって言ったけど、その時佐和ちゃんの様子はどう?前と同じ?」

「そりゃあね、私はふられたわけだから、お互いにすこし気を使いながら話しているからね。そうだな・・・最近少し元気ないかな?」


「そうか・・・じゃあ、それとなく話しかけて石田君の言うように誘ってみたら。ただし石田君には言わずに誘うの。もし私の推理が外れて、お相手が別の人だとしても、浮気されているのだからどことなく空気を感じているはずよ。だから話を聞いてあげたらいいのよ。いい?ひょっとしてあなたに相談したいかもしれない。でもそんなこと自分がふったあなたに切り出せないでしょ?いい?佐和ちゃんのデリケートな気持ちをよく考えるのよ・・・いきなり変なこと言っちゃだめよ。」

「わかった!」

姉の恋のアドバイスですっきりとした気持ちになりその日の夜はぐっすり眠れた。


SHE LOVES YOU・・・③  涙の乗車券

翌日私は学校が終わるとファーストフードのアルバイトに行く。今日も佐和子と同じシフトだった。いつもと違うのは私のポジションには、最近入った新人の高校生の男の子が厨房に入り、チーフになった私が店長のポジションにいる。店長は私にお店を任せてデスクで事務仕事をしている。そしてカウンターには佐和子がいる。


どこのタイミングで話をしようかともじもじしていた。チーフになっても色恋沙汰についてはいつまでたっても新人のようだ。どうも勇気がなく彼女に近づけなかった。お客様が途切れた時彼女の方から私に近づいてきた。


「今日は、そんなに忙しくないね。」

「そうだね、忙しくなったら店長呼ばないと・・・まだぼくには店長の代わりは荷が重いよ。」

「大丈夫・・・チーフになっただけのことある。すごく頼りがいがあるよ。」

「そう・・・ありがとう。ところで・・・今度よかったら・・・」

「なに?」

「英語の課題が出ていて見てくれたらうれしいけど・・・」

「私にわかるかな?でもいいよ。言ってみて・・・」


ドキドキしながらやっとの思いで食事に誘うことができた。考えてみたらこんな風に彼女と2人きりで話をしようと誘ったのは初めてだった。もちろん石田には内緒で。店長と石田と志摩が店にいる時間に私は佐和子と近くのレストランで会った。彼女は私と話をしたかったらしく私が何も言わなくても自分の悩みを打ち明けてきた。姉の推理は寸分の狂いもなく当たっていた。佐和子は石田と志摩の仲をうすうす気づいていた。私は姉の忠告通り余計なことは言わずに、ずっと聞き役に徹していた。


「私、これからお店に行って彼とは別れます。それで・・・お願いがあります。別れ話をした後少しの時間でいいです。私と一緒にいてくださいますか?」

「そうか、今ならちょうど石田が仕事を終える時間だね。私にお役に立てるならなんでもします。」

「ちゃんと彼のスケジュールをわかっているのね。」

「これでもチーフだからね。」

「彼に会ったらまたここに戻ってきます。ここで待ってもらっていいですか?」

「ああ・・・・もちろん。」

そして彼女は立ち去った。


彼女はまたここに戻ってくるのだろうか?・・・彼女の姿が見えなくなるまでずっとみていた。

それから20分ほど私は待った。20分という時間はとても長かった・・・・

もう戻ってこないのではないか?悪いことばかり考えていた。

それから佐和子は目に涙をいっぱい浮かべて戻ってきた。


「今彼と別れて来ました。でも彼は悪くないのです。悪いのは私です。彼が浮気をしたのは私の気持ちが変わってしまったからです。」

「あの時、あなたに告白された時、私の気持ちは変わってしまった。だから彼も変わってしまった。本当に彼に悪いことをしました・・・・・」

佐和子も自分のことが好きだったんだ…


♪ She loves you yeh, yeh, yeh

♪ She loves you yeh, yeh, yeh  

♪ She loves you yeh, yeh, yeh

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