篠原シズク
私は――冷静だった。この異常な状況の中で、不思議なくらいに。
「あーあ、こんなに早く終わっちゃうとはね」
最初に違和感を覚えたのは、ゲームの名前。
「現状が理解できていない君たちのために、残りのルールを開示するよ」
確信に変わったのは、2ラウンド目の投票中。ロキの、あの発言。
「あ、そうそう。言い忘れてたけど――脱落すると、まあ、死んじゃうんだよね」
気に入らなかった。勝手に命を賭けたゲームに参加させられたことが。
「ちゃんと考えてプレイしていれば、誰も死なずに済んだのに」
許せなかった。勝手に生かされているという、この状況が。
「じゃあ、そろそろ結果発表といきましょうか。
君たちが生かしたシズクちゃんは、一体誰を殺すんだろうね?」
ロキがそう言って、私――篠原シズクの投票結果を表示する。
篠原シズク
時間切れ
ロキは一瞬だけ、目を細めた。予想外だったのか、わずかに眉を動かす。
だが、その微かな反応もすぐに消える。
興味を失ったのか、それとも初めから持っていなかったのか、ロキはつまらなそうに肩をすくめて、ため息をひとつ吐いた。
片手を軽く持ち上げ、気だるげに指を鳴らす。
それだけで、場の空気が一変した。
処刑が始まる。ロキにとって、それはただの作業でしかないらしい。
私の足元に、冷たい感触が広がる。
ぬるりとした液体の気配。鉄と血の匂い。
いつのまにか、音声と映像が繋がっていたらしい。
画面越しに、口元が動いているのが見える。
怒っている人、泣きそうな人、謝っている人。
その光景を観て、つまらなそうにしていたロキが、笑っていた。
ロキの思い通りで終わるのが、どうしても嫌だった。
だから私は、痛みの中で、声を振り絞った。
「生きるか死ぬかなんて、本来、自分で決めるものだから。
少なくとも私は、そうありたいと思ってる。
だからーー私は後悔してないよ。
もうこれ以上、そいつの思い通りにならないで。」
処刑の音が遠ざかるように響いたあと、静寂が場を包み込んだ。
モニターには第一ステージの結果が表示されている。
第一ステージ
脱落者 篠原シズク