83.神の試練4
マルクス君も頑張ってます
実技の時間のマルクスを見ていると、どうやら余り剣術は得意じゃない―スキルが生えていない―ようで、まともに振れては居るが、それだけだ。あれだけ頑張って生えないという事は剣の才能がないようだ。毎朝校庭10周している姿は確認している。彼は努力家だからな。
逆に、魔法実技で才能を開花させた。どっちにしろスタミナは必要なので校庭10周はして貰うが、魔術で充分に戦えそうだ。一度、鑑定しなおしてみると、未発現の魔法が3つ、短剣術が1つ。
マルクス君に謝り倒して武器を余っていたモンスタードロップのダガーに変えてもらった。魔法は。時空・重力・火がまだ発現していない。今発現しているのは水だ。それぞれ発現するところまでは指導し、アイテムボックスを欲しがってたのを思い出して、時空を鍛えるよう話をする。転移もアイテムボックスも時空だと説明すると、大喜びで時空魔法を鍛えだした。
安易に剣スキルなら男は誰でも持ってると思っちゃいかんな。先入観が強すぎた。
「あのな、マリエール…」
「なんだ?」
「レベル100超えたんだけど」
「あぁ…称号にな、導師の弟子って言うのがあるんだけど、これを持つとパラメータも上がりやすいし、レベルも限界がなくなるようなんだ」
「導師って?」
「私だな」
「っぷ、あっははは、なんだそうだったんなら別に良い。見知らぬ何かの弟子に勝手になってたのかと思ったよ」
それからは短剣術も見事に発現させ、なかなかの捌き方をしている。あれなら次の試験はきちんと上位に食い込んでくるだろう。
そして調理実習、この世界は男でも冒険者になったりすると野外調理が必要な事もあって、男もやる――は、私はまだ、前世で偶に調理して家族に振舞ったりしてたのでそこそこ出来る方だ。マルクスもそこそこ美味しそうなのが出来ていた。黒曜は全滅、シュネーも全滅、アディは食えなくもない、リシュだけ別世界のものを作ったんじゃ?という極端な分かれ方をした。パンも自分の店からデニッシュを取り寄せていた。しかも何故か全員分あった。材料取り寄せできるって言ってたもんなあ。【極】料理。
先生は挙動不審になり、点数を書く紙とリシュの料理を何度も見比べている。
味見をした先生は、「この味に点数を…!?」と、散々悩んだ末、120点を付けていた。
実食段階になって先生はリシュのご飯を食べる気まんまんでこちらのテーブルに着席する。
勿論リシュの料理は一人分足りなくなる。
「私はマリーの手作りが食べたい」
「私もアディのものが食べたいな」
「黒曜…」
「シュネー様…」
「「でも私はリシュの作ったのを食べますね?」」
いや、此処は普通お互いものを食べあうとこだろうとは思う。思うけど、見た感じ炭!としか見えないハンバーグ、しかも箸を刺すと赤い汁が出る殺人合挽きハンバーグだぞ。愛があっても食えない…!
「だけど、私の作ったハンバーグなんて普通だぞ?」
「普通に出来るのが凄いんだ。私のはああなってしまったし…」
「そ…そっか、へへ…」
「黒曜、一口くれ」
「絶対に嫌だ」
何故かマルクス君が私の作ったものを食べたがっているが、出来を見る限り、私とマルクスの料理レベルは同じようなもんだと思う。リシュのを食べたらいいのに。美味しいのに。
調理実習の先生は、リシュの料理を食べながら褒めちぎっていた。上手く綺麗に作るコツなんかも教わっている。
私とアディはリシュの作ったものをうまうま食べている。あ。マルクス君の執念か、私の作ったハンバーグを一口分奪ってる。凄く満足そうにハンバーグを頬張るマルクス君。そこまで奪い合いされるほど美味しいハンバーグじゃないんだよ、ごめんよ。黒曜も一口取られただけで人を殺せそうな目で見ない!
「口直しにリシュのを食べるといいぞ、マルクス君」
「口直しは要らないんだが、腹が減ってるから貰うよ」
美味しいハンバーグでマルクス君も上機嫌だ。リシュの料理はほんとに凄い。
黒曜は少し不機嫌だったが、私の作ったハンバーグを美味しそうに食べてくれた。嬉しいなあ。炭バーグ、食えなくてすまん…。
再来週の家庭科はデザート作りらしく、来週はその手順などを教えてくれるようだ。クッキーか。定番だな。チョコで名前書いたりしようかな。
黒曜は今度こそ失敗せず食べて貰う、が目標のようだ。菓子作りはきちんと軽量出来てて篩いにちゃんと掛けてればそうそう失敗しないとは思うんだけど、頑張れ!漫画とかにある、料理下手がやるオリジナル素材を入れたりする方じゃないから焼き具合と温度に気を配ってればいいよ。と、言いつつ黒曜の背中を撫でた。
確りレシピ通りの失敗のない普通の味しか作れないけど、変にオリジナル要素を入れると味が崩れそうだからやらなくていい。そういうのはリシュにお任せすれば良いのだ。
取り合えずは来週きちんと計量の分量や何処で篩いを掛けるのか、オーブンの温度などを確り見よう、と約束。
黒曜、錬金が出来るんだから大丈夫だと思うんだけどな。
放課後、いつも通り材料買って草摘んで…いい加減、薬草とトウダイグサは家で栽培しよう…帰宅。
天の魔法を修練したいんだが、どうも試練と連動しているようで、今のところ天で使える魔法がない。
公爵邸の空いている場所を借りて土魔法で土を耕し、魔力を流して栄養を与える。根付きで摘んできた薬草とトウダイグサを植えて行く。もう少し植えられそうだから、一緒にもう一度取りに行って欲しいと黒曜にお願いし、OKを貰ったところでソレは来た。
『試練4つ目じゃ。罠を超える胆力を持て』
白い部屋の中、私と、私に向かい合って立っているフードの男性。
いや、待ってくれ。これは。この相手は。緩く首を振りながら後退る。
「女神…これは本当に必要な試練なのか…?」
『天秤の奴が良く使う手じゃよ。超えないとお話にもならん』
「――そうか…」
するりと男性が――黒曜がフードを取る。その顔は険しく私を睨んでいる。
心を殺せ。相手は姿だけが黒曜だ。偽者だ。本物じゃない。
「マリー…」
「その声で私を呼ぶな!!呼んでいいのは私の黒曜だけだ!!」
戦意が萎えるかと思えば、相手の声で私の怒りが激発する。――黒曜じゃ無いくせにその姿で、声で。私の前に立つなんて……殺すしかないだろう?
「ホーリーケージ!」
「纏龍技、双極の限」
「――夢幻の刻よ刻め、その足跡を。盤倉流奥義、無間不断刃!」
纏龍技でケージは破られたが、その間に脳のクロック数を上げる
「穢れたるもの、我が領域にその存在を認めず。清らなる聖なる光よ全てを浄化せよ。穢隔聖光陣」
「女神よご照覧あれ!代行者が天罰を下す!天降雷神焦!」
「時よ永劫を刻め!我が敵の自由を奪え!永劫の枷」
完全に地面に縫い止められた黒曜の額に、私はそっと手を当てる。
「アポカリプス」
その瞬間、偽黒曜は小さく笑った。次の瞬間には、黒曜の頭部は内側から爆発した。蔦の魔法陣も閉じ、体も肉片に変わる。
『流石じゃ、我が愛し子!天秤は、その者が手を出したくないと思う者に姿を変え、何度もやってくる。本物と偽者を見分ける力も磨いておくんじゃぞ』
「ああ――…わかった」
ふっと現実に戻る。苦い顔をした黒曜が其処に居た。
「黒曜の相手は私だったのか?」
「――ああ。勝てなかった…」
「偽者なんだから、戸惑わずにぶっ倒していいんだぞ?」
「いや…そういう意味ではなく…マリーの手札が強すぎて勝てない。拘束されるし音速で動くし手がつけられなかった」
しょんぼりと黒曜は肩を落とす。
「私の目の前でそなたの声と姿で話す相手を見て猛烈に嫌悪感と怒りが沸いたんだ。そこまでは良かったんだが…」
少し使える技の見直しをする…と告げて黒曜は家に入った。
多分私が傍に居ると邪魔になると思ったので、私は薬草とトウダイグサを追加で根ごと摘んできて、菜園にびっしりと植えた。これでわざわざ草原に出なくても材料が手に入る。最後に土魔法で「良く育ちますように~」とやると、土がしっとりと黒い土に変わる。大丈夫そうかな。
しかし…黒曜が負けて来るとは思わなかった。そういや私は神聖属性との合成魔法を主に使っているからな。黒曜が使えない魔法を結構酷使してるな…。
「私、そんなに強かったのか……?」
マリーさんはチートなので、倒すにはちょっと鍛錬が必要なようです