81.神の試練2
マリーさんがカンニング?
以前モグラと闘ってから、2~3日、特に何事も起こらず、無事に試験を黒曜と共に突破した。解らない問題はなかったので、ケアレスミスが無ければ満点のはずだ。
実技試験は、剣に振り回されずにきちんと相手に攻撃を当て、フェイントまで使いこなしている者がちらほら目立つ。ダンジョンに潜っている生徒たちだろう。ロスクをあわや、という所まで追い詰めた者も居て、私は拍手した。ダンジョンに潜った人間が半分、そうでない者が半分、と言ったところか。
そして、私の一家とシュネー、黒曜は、数秒でロスクを戦闘不能――拘束または喉に木刀を当てて――にした。
こればかりはどうしようもない。私達の方が圧倒的に強いのだ。
魔法の実技では、魔法を撃たないで欲しいと懇願され、その代わりに魔力量を測らせて欲しいと言われた。出てきた数字に口をかぱりと開いたまま閉じない先生の目は私達の魔力の数値に釘付けだ。
「良かった…魔法撃たれなくて…」
試験結果が貼り出されると、私と黒曜が同点1位、その後にアディとリシュの名前が並んで、マルクス君は15位だ。
マルクス君はダンジョンに行かない派なので、筆記だけでその順位だという事だ。
「やはりダンジョンに行かなければ上位は狙えないという事か…」
「ダンジョンだけじゃ無理だぞ。基礎の素振りからやらないと。魔法の基礎は学園のものでいいけど」
ダンジョンに突然行こうと思ったらしいマルクス君に言う。流石にキャリーはしない。
「毎日早朝に素振りとランニングはした方がいい。あと、初心者用ダンジョンから始めた方がいい。装備も揃えないとな」
「やはりいろいろと準備が必要なのだな…。しかしこのままではSクラスに残れるかも解らなくなって来る…ダンジョンに潜る事にする」
「そっか。頑張れよ!」
「やるからには必死にやれるだけやるさ」
「それはいいけど、無理な背伸びをすると死ぬからな。安全マージンをとれよ。命は一個しかないんだぞ」
「あれだけ授業を休んでおいて、1位なんて納得出来ない!」
「カンニングしたに違いないわ」
ざわざわと周りが騒がしくなってくる。
「私は筆記も満点だが、誰からカンニングするというんだ?」
試験時は出席番号順に席が入れ替わる。マルクス君も黒曜も席が大分離れてしまう。
「それはっ…」
試験に臨む際には念入りな持込チェックをされ、小さな紙などは特に警戒されている。魔法でそういったものの検査を受けるのでカンニングするなら他人のものを見る事くらいしか出来ない。
「な…何か魔法でも使ったに違いないわ!」
「じゃあ校長室に試験時に校内で魔法を使った者を特定出来る器具があるので見に行こうか」
それを聞いた女生徒がさっと青ざめる。ああ。自分がカンニングしてたんだなこの子。
「疑ってる者は全員ついて来い。校長室で確認して貰う」
「そ…そんな事で校長の手を煩わせるなんて…」
「カンニングの疑いは決して『そんな事』じゃない」
何人かぞろぞろと移動を始め、校長室の前まで来る。
扉をノックする
「失礼します」
「ん?マリー君か。今日はやけに沢山人を連れているんだな」
「実はカンニングの容疑を掛けられまして。試験中に魔法で覗き見したと思われているようなんです。試験時の魔法行使者履歴を確認して頂けませんか?」
「解った。構わないよ。あの日の分は…確かファイルに閉じてある筈だから…」
先生がパラパラと記録を確認する。最初に噛み付いてきた子は、帰りたいような飛び掛りたいような、物凄く挙動不審な身動ぎをしている。
「ああ、あったね。試験時間中に魔法を行使した者はハディード・ルスロ君、アンネット・リベラ君、ネスト・コルディオ君の3名。――ああ、確かにカンニングの魔法だね。3人ともストレンジロケーションを使っている。ちょっとこの3人は一度クラスを落す事にするよ。知らせてくれてありがとうマリー君」
カンニング疑惑を掛けてきたアンネットさんは私の腕を掴む。
「この人だってカンニングしてる筈です!!あんなに学校を休んだのに1位なんて納得出来ません!!」
校長先生は大きく溜息をつく。
「この中にマリー君や黒曜君の知力パラメータを知ってるヤツはいるか?」
しん、と室内が静まり返る。
「マリエール君が知力9678540、黒曜君が知力8672340だ」
「「「「「「「「「「はあ!?」」」」」」」」」」
「ダンジョンで鍛えると知力も上がるという事だ。疑問は解けたかね?」
「実際、一度見た教科書の内容は暗唱できますからね、私」
「魔法威力にも関係する数値なだけに、魔法実技の先生もマリー君達に魔法を撃たせなかっただろう?校舎がなくなってしまうからだ」
アンネットさんはへたりとその場に頽れた。
「わ…私が…降級…嘘…嘘よ…」
その日のうちに、アンネットさんの席はS級からなくなった。他の2人も、下のクラスへ落とされたのだろう。
放課後、皆と連れ立って帰ろうかと話している時にそれはやってきた。
制服のまま、丸腰でダンジョンの中に居た。
『制限時間10分でこのダンジョンをクリアする事。出来なければ家族の死に様を見る事になります。ではスタート!』
色々と言いたいことはあるが、クリアしてからだ。時間制限内で助けなければならない家族が居るかも知れない。駆け足で進もうにも御丁寧に敵まで用意されている。
「篩いに掛けられよ地を踏むもの、天を這うもの、水に流れる者。我に危害を齎す者は永劫の業火に焼かれろ!聖炎の選定」
この魔法の範囲はメテオより広い。炎を纏ってふらついている魔物を掻い潜り、駆け足を止めない。
次の階層へ進み、同じやり方で走っていく。
5層まで来ると、ボス部屋の扉のようなものが見える。
一気に開け放つと、ボスと思しき大きなキメラと腰辺りまで水に沈んでいる拘束されたアディが見えた。かぁっと頭の中が熱くなり、抑えていた威圧と魔力が漏れ出す。
「ホーリーケージ」
「――夢幻の刻よ刻め、その足跡を。盤倉流奥義、無間不断刃!」
「穢れたるもの、我が領域にその存在を認めず。清らなる聖なる光よ全てを浄化せよ。穢隔聖光陣」
「女神よご照覧あれ!代行者が天罰を下す!天降雷神焦!」
「我が身に刃向けし反逆者。そなた等は内から弾けて消えよ。黙示録之大禍」
「聖なる千剣、顕現し、蹂躙せよ!聖爆剣閃!」
「九の型・無限乱刃」
そこでスキルが切れた。両腕にグレーターヒールを掛ける。
キメラは刻まれた蔦の文様をどうにも出来ずに暴れているが、体内を何度も爆破されている為、暴れているというより、のろのろと身動ぎしている、が正確だ。
「頭落とし」
3つの頭を全て落すと、蔦の拘束が一気に進み、捕らえた物を一気に肉片に変える。アディを捕らえている水槽を破壊しようとした時に、声が響いた。
『そこまでじゃ』
アディの姿も水槽もない、気付けば先日のモグラ戦のような場所に立っていた。
『そなたは身内の身の危険が迫ると強くなるようじゃな。素晴らしいタイムであった。2の試練、合格じゃ』
「…さっきのアディは本物ではないですよね?」
『偽者に決まっておる。その辺りが認識できぬようにそなたに細工はしたがな』
「ならいい」
『まだ怒っておるのか?しかしその調子では3や4の試練では耐え切れぬかも知れんのう』
「……」
『次もまた唐突に始まるので気をつける事じゃ、愛し子よ。我はそなたが天秤を倒してくれる事を切に願っておるぞ』
「―解った」
ふっと気付くと、アディが心配そうに私の顔を覗きこんでいた。
「なんだかちょっとボーっとしてたけど大丈夫?」
黒曜もマルクスに心配されている。
「ん、大丈夫だ。少しぼーっと考え事してただけだぞ」
「そう?ならいいんだけど」
「今日も材料を買って帰るから、私と黒曜は先に行く事にするよ」
「解った、あんまり遅くならないようにね!」
「マリーにはちょっと辛い試練だったか?私もそれなりの精神ダメージはあったがな」
「ん、いや、もう大丈夫だ。材料買って帰ろう」
錬金材料を買い、草も少し摘んで帰る。正直、化粧品の正確な今までの売り上げ金は解らない。商業ギルドの銀行にそのまま入るようにしてあるからだ。従業員の給料も自動で振り込まれるようになっている。多分凄い額になってると思うが、困ったことに欲しいものがそんなにない。強いて言うなら今度パーティがある時には、吊るしじゃなくオーダーメイドしてみてもいいかなあ、程度だ。
また何かを立ち上げる際の資金にする程度は余裕である。その心算は今のトコないんだけど。
試練を思い出し、私はこんな時には弱いな、と思う。この部分も鍛えられないと神になる資格がないのだろう。
3つ目と4つ目と女神は言った。私はその試練に耐え切れるだろうか?
マリーさんの弱点は家族や友達ですね。其処を上手く突かれると相手に負ける可能性があります。
読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!