79.真勇者再臨
勇者さんはどれくらい強くなったんでしょう
早朝に起きて錬金部屋でオート設定をする。その後修練場に行って太陽魔法と龍魔法のレベルを上げる。案外さくっと10になった。
黒曜も来ていたが、レベルは10になったようだ。
【太陽魔法】太陽落炎(擬似太陽が落ちてくる)
【龍魔法】迎龍降臨(己の属性の宿った龍へと姿を変える)
【太陽+神聖】聖炎の選定(辺り一帯を聖炎が焼き尽くし、魔物と敵対者のみを塵になるまで消えぬ炎で包む。)
【時空+神聖】永劫の枷(U字型の枷が敵に打ちつけられる。手足・首・胴までを拘束すると固定化される。死ぬ事で解除される。単体魔法)
神聖は、それ自体にスキルがほぼ存在しない代わりに、他の属性との高等合成魔法になりやすいようだ。
でも今更何故時空と神聖?動きを止めたい、って思ってたからかもしれないな。
「意外と合成魔法が使えそうだ。そっちは?」
「こっちも合成スキルがそこそこ良い」
【纏龍技+龍】龍顎魂滅(外から纏龍技で攻撃し、内から体内に巣食った竜が出て来て相手に突き刺さり、臓腑を喰らい掻き回して暴れる。)
「スキルと魔法の合成は初めて見たな」
目標達成したので、朝食を食べに行く。他の皆はまだ修練中だ。
オムライスだ!好き!ケチャップでハート型が描かれていて可愛らしい。後はシーザーサラダとコーンスープ、デザートはプリンアラモード。プリンって一回くらいバケツサイズで食べたくなるよな。食べきれるか解らないけど。
黒曜座椅子で嬉しそうに朝食を食べてると、また凄くナデナデされた。私が美味しそうに飯を食うとナデナデしたくなるのか?なかなか食べない黒曜に、あーんしてやる。其処からはあーんし合いながら最後まで平らげた。
冒険者装備に着替えて、不備がないか確認する。確認し終えて、黒耀と2人、王宮まで跳ぶ。まだ昼まで時間が有るが、正確な時間が解らないので早めに到着した。国王と王妃が労ってくれる。お茶を飲む部屋で待機していると、昼前にガシャン!と大きな音が聞こえた。
勇者だ。結界を破られる前に私達が出て行く。ニヤリと笑う勇者の手を取り、一気に元エスタークへ跳んだ。荒野地帯を選ぶ。
「なんだァ?何もない場所じゃねェか」
「闘うには持ってこいだろ?ところで、天秤教は居心地がいいのか?」
「あァ?強くしてくれるっつーから様子見に入っただけだ」
「で、強くして貰えたのか?」
「ぁあ!この程度にはなッ!!」
前動作なしでの逆袈裟。すれすれで躱してカウンターで鳩尾に刀を突き刺す。
勇者は信じられない、という顔で自分の腹を見ていたが、ざっと後退って、刀を腹から抜く。コートの内側に留めてあるヒールポーションを此方を警戒しながら飲む。
「お前より強くして貰った筈なんだがなァ!!お前はなんなんだ!!!聖女なら大人しく勇者の言う事を聞いていれば良いんだよ!」
また前動作なしで首を狙って来る。無拍子か。厄介だな。それを避けつつ、腕を狙って刀を振るう。腕を裂いたが、落とすことは出来なかった。そこへ黒曜が足止めを掛ける。
「重力場」
一気に10倍の重力を受けて、勇者の膝ががくがくと震える。
私は勇者の頭に狙いを定め、魔法を打った。
「アポカリプス」
勇者は頭が爆破される前に何かを食べた。爆発は起こったが、内部ではなく外部に逸らされている。
二周りほど体格が大きくなった勇者は、面影はあるが、半分崩れたような顔になっている。
「これでお前より強く!なっただろォ!?」
鋭くなった無拍子の連撃を、刀で受けて逸らす。重力場は効いてるのかどうか判別がつかない。裂いた腕に傷は残っていない。
「ァォオオオオオオオ!」
勇者の側頭部が盛り上がり、羊のような角が生える。剣筋が更に鋭くなった。黒曜と2人、その剣を捌いていく。
「ホーリーケージ!」
2撃でケージが破壊されるが詠唱が間に合った。
「時よ永劫を刻め!我が敵の自由を奪え!永劫の枷」
「畏れ崇めよ龍の血族。この力は滅びの一撃。龍顎魂滅!」
空から振るU字の枷が、その胴を捕らえて地面に刺さる。続いて手足に、そして首に。レメトゥスは、襲い掛かってくるU字に抵抗するように剣を振るう。手枷と首枷が破壊され、片足だけが拘束された。
黒曜の裡から龍が飛び出して勇者の腹へ入り、臓腑を食い散らかす。外からも黒曜の剣が振るわれ、その首を寸断する。が、その瞬間にぎゅるっと時が巻き戻ったかのように黒曜の裡に龍が戻され、刎ねた筈の首が戻っている。
胴の拘束と足の拘束を破壊しようと勇者が剣を振っている間に詠唱が完成する。
「――万物よ跪け、音にも聞こえよ我が龍術、纏龍技、一閃万葬!」
「穢れたるもの、我が領域にその存在を認めず。清らなる聖なる光よ全てを浄化せよ。穢隔聖光陣」
黒曜の一閃は、ガギイイイイッと耳障りな音を立て、刃が内部に達していない為ブロック状になる筈の波動が外から当たり、ダメージがない。勇者の胴と足を拘束する枷が砕けた。
蔦の文様だけはその体を侵食し、侵食した場所の自由を奪っている。
「なんだァ、2人掛かりでチマチマとよォ…舞え双剣」
自分と黒曜の首目掛け、いきなり現れた剣が薙ぐ。フールフールの紋章が輝き、何もなかったようになる。
「チッ今ので死なねェのかよ!バケモンが!」
忌々しそうに蔦文様が広がっていくのを止めようとしているが、蔦の侵食が遅れるだけだ。
私と黒曜は予備の身代わりを身につける。
「あいつ、神聖属性の入った攻撃なら効果があるみたいだ」
こそっと黒曜に囁く。黒曜は頷き、私から一歩離れて護衛をする心算のようだ。
「女神よご照覧あれ!代行者が天罰を下す!天降雷神焦!」
「がぁああああああ!!」
焦げ臭い臭いが漂い、確かにダメージを与えた感触がある。聖属性では足りないのか、蔦は半分引き千切られている。
「天道より来たりしもの、須らく邪悪を滅すべし!紅炎祓魔」
勇者の裡にあった玉のようなものと指のようなものが黒く浮かび上がり、次第にボロボロと崩れてチリになる。
「ッア!それは…ッ!ァアアアッ!!」
ぐっと勇者のサイズが縮む。その姿は此処に来る前より縮んだ感触がある。
「篩いに掛けられよ地を踏むもの、天を這うもの、水に流れる者。我に危害を齎す者は永劫の業火に焼かれろ!聖炎の選定」
この場に居る敵対者は1人である為、本来は範囲攻撃の術だが、勇者のみを聖炎が焼く。
「ンなとこで死んでたまっかよォ…!聞いてンのか天秤野郎!俺を助けろ!」
ぐわっと辺りが瘴気に満ち、薄暗い雲から青白い手が現れて勇者を掴む。聖炎は手に移ろうとするが、そのまま掻き消された。
「飛燕8連!」
手ごと勇者を攻撃するが、血を吐いたのは勇者だけで、巨大な手にはかすり傷もつかない。
「逃げるのかよ!腰抜けが!」
「へッ、生きてなきゃ再戦も出来ねェだろうがよ…もっともっと強くなって来るからな…覚悟してろ…」
「借り物の力では倒せない事を覚えておけよ!」
「知るかよッ……」
後は聞こえなかった。手のひらが天へと消えたからだ。
「…仕留めときたかったな」
「そうだな。短剣技がヤバかった…効かないと思って貰えた様だが…」
「逃げるくらいなら最初っから来るなよな…でもまあ、借り物の力は紅炎祓魔で消せるって解っただけでも収穫かな」
はー、と大きく溜息をついて呟く。
「甘い物が食べたい…」
くすっと笑った黒曜が、肩に手を回して転移する。丁度リシュが茶菓子を作ってるところだった。
「ただいま!パフェ食べたい!」
「は~い。わかったわ~」
「でもその胡桃餅もちょっと食べたい」
「食べすぎは駄目よ~?」
戦闘の後には平和な我が家があった。何故か無性に泣きたくなる。クリーンを掛けてリビングに向かった。
体調悪くて難産でした…。
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