閑話
色んな影響が出てる、という説明回でもあります
●王家の悩み
赤く毛足の長い絨毯が敷かれ、繊細な彫刻の施された柱が並んでいる。
短い階段の上に一層煌びやかな装飾と、重厚な椅子が置かれており、その椅子に掛けた壮年の男は小さくため息をついた。
先日まで10年近く蝗害や旱魃、堤防の決壊などの自然災害に悩まされていた王は、その対応に追われていた。
が、最近になって急に立ち枯れた作物が急に青々と蘇り、蝗は姿をくらませた。適宜に降る恵みの慈雨。川は勢いを落とし、その濁りを澄ませて人々や農地を潤している。今年は久々に聞く豊作を各地から報告されていた。
王宮占術師によると、その全てが聖女が現れていた事と、置かれていた環境に因るものだという。
調べてみると、エデランド男爵家の名が浮かんだ。マリエールの母の死去と共に置かれた使用人の立場。いやむしろ使用人以下の酷い扱い。下手をすれば餓死する事が予想されたという。
女神の怒りにより、大地が荒れ果てるところであった。女神は今もまだ完全に怒りを納めた訳ではない。男爵家の零落ぶりは酷いものであった。使用人は逃げ出し、借金を抱え、館も抵当に入っているという事からも解る。
其処から公爵家へとマリーが養子に入った途端に国家としての災害はなりを潜め、祝福されているかのように通常ではありえない良い報告が続いている。
根ぐされた作物が蘇っただの、湿気で常に水浸しだった家がすっかり乾いただの、罅割れた荒地が急に腐葉土たっぷりの黒い土となり、木々の芽が出ただの、婆ちゃんの腰が急にピンと伸びただの、長年患ってきた私の痔が急に治っただの。
聖女が幸せである事は明らかなのだ。
だが、いつエデランド家のように、何かの拍子に粗雑に扱われる事があるかも知れない。本来は聖女の発見と共に王家で大事に保護をする事が最良であると言われている。
だが聖女は「公爵家でずっと皆と一緒に居たい」と手紙に書いて寄越したのだ。
聖女の願いは女神の願いであると同一だ。聞き届ける他無い。
私はそれを受け入れ、祝福に対する礼も伝えた。だのに。
教会が横入りしてきて騒ぐのだ。何故王家で保護しなかったのかと、ならば教会で保護すべきではないのかと。もともと女神からの遣いであるならそもそも聖女は教会の管轄ではないのかと何度も怒鳴り込んで来られて非常に面倒な事になっている。サリエル家に居る事は伏せて話したが、あちらにも情報網がある事は間違いない。そのうちにサリエル家に向かい、上から目線で一方的な都合を押しつけ、摘発に動くだろう。
本人はサリエル公爵家に居たい、と言っているにも関わらずだ!
教会のトップなぞ、老害の巣だ。信仰している女神の愛し子に物言いをする事に何故疑問を覚えないのか全く理解が出来ない。
やっと10年続いた不遇な国が立ち直る所だと言うのに、また状態が戻ってしまう事は避けたいのだ。念のため、サリエル家には王家の影の中でも腕利きを3名ほど選りすぐって忍ばせる許可を得たい。聖女の位は王位を凌駕する。
教会のトップが不敬罪で殺されても文句の1つも受け付けてやるものか!
●ファムリタの怒り
ある日から、あたしのドレスの大半が消えた。しかも気に入っている高価なものばかりが。
残ったのは装飾の少ないデイドレスばかりが2~3着。聞くと、質に入れたという。
食事も日に日に貧しいものとなり、更にはコックが逃げたという報告と共に非常にまずい料理が提供される。こんなものを食べるなんてマリエールくらいのものだ。あたしにもあんな姿になれっていうのかと父に訴えても、今はお金がないの一点張り。
男爵家よ?平民じゃない。貴族の末端なのに。
何故あたしがこんな目に合うのか納得出来ない。ドレスも大事だけれど、この状態であたしは学園に入れるのか。攻略対象にもマトモに逢えないまま、この零落していく男爵家で過せというのか?
冗談じゃない!!!!
何故かマリエールの行った家はサリエル公爵家。悪役の家じゃないの。
弟のロスクは、家から飛び出し、冒険者をやるという。やめてよ!ストーリーが崩れるじゃないの!これ以上ストーリーに添わない行動を取らないでよ!
パパだってヒロインなんて嫌に違いない。沢山の男に言い寄られても困るだろうから、あたしが変わりに引き受けてあげようと思ったのに!教師も雇えない!
今頃マリーは沢山のドレスや宝飾品に囲まれ、優雅にダンスのレッスンなどに励んでいたりするんだわ。
ねえ、返してよ。其処はあたしの場所なのよ。王族と親戚になり、華やかな毎日を送るのはあたしだった筈なのに。あたしだったらあの家がやっている麻薬の取引を上手く隠し通して罪科もなかった事にしてあげられる。
噛み過ぎてぼろぼろになった爪を噛み、ぐるぐると部屋を歩く。八つ当たりをしたくても、壊せるものなどもうなくなっている。残されたのはベッドとチェストだけという、広いだけの牢のような部屋。
「許せない…マリエール…絶対にあたしの目の前で顔に土をつけてやる…」
奨学生制度。というものがある事は知っていた。知識や技量があっても、金銭的に困っている者に、無料で学園を利用できるように。主に平民に向けた制度だ。
教科書は残っている。これを使えば一人でも学園に入れる程度には学べる筈だ。
あたしは復讐心を糧に、只管書物を読み、魔法の練習をした。
●ロスクと鍛冶屋
マリーが居なくなってから、僕も思い切って独り立ちしようと思った。日に日に家族の発狂したような罵声で満ちていくこの家にもう居たくない。
マリーはあれから冒険者をやれているのだろうか。公爵様はそんなマリーを受け入れてくれるのだろうか。
しかし、マリーの心配より自分の生活を心配する必要があって、苦笑が滲む。
幸い、僕の貯金は隠してあったため、持ち出すことが出来たが、そんなに持たない。宿屋で1週間も過せばなくなってしまうだろう。
それでも武器が要る。最近有名になってきた鍛冶屋に行って、予算内で武器を見繕って貰うか、マリーから貰った牙を使ってもらって少しでも安くしてもらうか。
袋に、金貨や銀貨と共に入れている牙を探る。――よし。
ロスクは鍛冶屋を訪れた。飾ってある武器は殆どが物凄く高価だ。龍とつく名前の物ばかりだが、ドラゴンの素材を扱える腕だという事なのだろう。
「すいません、コレを使って武器を打って貰えませんか?」
「ほいほいほい、ん?これは…ドラゴンの牙じゃな…お主、名前は?」
「ロスクと言います」
その瞬間、鍛冶屋の顔が笑顔になる。
「武器は何を使う?」
「ハルバードが一番使いやすいです」
「ほい。解った打ってやろう」
「あの!お代は如何程に?」
「不要じゃな。お主はマリエールの名を知っておろう?あやつから頼まれてな。もしドラゴンの牙を持ったロスクという奴が来た時には良くしてやって貰えないかとな。幸運じゃの、お主は」
僕はびっくりして目を見開く。
「マリー…が?なんで僕にそんな…ていうか、僕を覚えていてくれたんだな…ありがとうマリエール…」
「ほいほい、しっかり感謝しておくのだぞ。良い仲間を持っておるな」
思わず涙が零れていた。流れるままに、笑顔で返事する。
「はい、最高の…友達です…!」
●受付嬢ソルナ
ハッキリ言うと、いくら王都が近かろうが、王都には王都のギルドもあるし、うちのギルドは小さくて廃れ気味なんですよ。なので本部から回って来る予算でギリギリ回せている、という状態。
マスターは豪快な人で、人が来ないなら来ないで楽でいいじゃないか、などという始末。いや、金がないのは死活問題なんですよ!?このままじゃ潰れてしまいますから!
というような、しけたギルドだったのですが、マリエールさんが来られてから状況は一転しました。
やたらと値の張る素材をどんどんとギルドへ持ってきて、今度は違う意味でお金が足りません。ギルド総本部に泣きついて資金を特別に出してもらい、素材を買い取って、少し余裕が出来てきた。マリエールさんはギルドの希望だ。と思っていたらドラゴン丸々一頭、致命傷以外はほぼ傷ナシという上物過ぎる素材を持ち込まれる。いくら総本部に泣きついてもこれは流石に価格が天上知らずで買い取れなかった。
その後はいきなりレベル1の者ばかりを連れてきて、PTを組むと言い出す。
マリーさんの快進撃もここまでか、とため息をついて、一行を見送った。
が、マリーさんが普通でない事を忘れていた。
全員のレベルを一日で50まで叩き上げ、いつもより断然大量の素材を持ち込んだのだ。
有り得ない。なんでこんなにマリエールさんは普通じゃない事ばかりなの?マリエールさんだから仕方がないの?くらっとする頭を振って向き直る。
今日の素材も良いものばかりだった。更にギルドは潤う。更に明後日にスタンピードが控えている。乗り越えさえ出来れば、素材換金で確実にもっと稼げる筈だ。
先ずは金銭問題を。そしてマリーさんが居る限りは後1人人員が欲しい。
きっとギルドは蘇る筈だ。そして希望はマリエールさんの中にあると確信している。
関わって来た人たちの現状ですね。そのうち教会からの接触もあるでしょう
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