77.獄級デート再び2
今日も獄級でおデートです
早朝、錬金部屋でオート作業の指定だけはやる。後はアディ、任せた!
朝食を食べながら行き先を決める。獄級はそれなりの数があるので選ぶ余地があって良い。
クセト連合国の北端にある獄級ダンジョンに行こうか、という話になる。少し遠いが、地図から転移するので問題ない。朝食を食べ終わると身支度をして、クセト連合国のダンジョンから少し離れた所に出る。
すると、1匹の魔物に追われている冒険者の姿があった。どう見てもまだ初心者が何故こんなところに居るんだろうか。飛燕で魔物の首を落としてやる。
「ハァッハァッハ…ッ、あんたたちダンジョンに行くのか?敵すげー多いから止めた方がいいぜ!」
「敵がイッパイだから来たんだ。悪いけどこの位置だと範囲魔法に巻き込んでお前を殺してしまう。早く街の方へ去れ」
「見るからに初心者だな。初心者向けのダンジョンに行きなさい」
「友達に…俺でも此処に来れるって言っちまって…何か素材持って行かないとダメなんだ…」
「絶対に止めろ!その魔物の素材を持ち帰るのも許さない!!!!真に受けた弱い奴らを殺す気なのかお前は!」
「え…そんな心算はなくて…」
「いいか、今お前が生きてるのも、偶々私達が通りすがったからに過ぎない。そうでなきゃお前は死んでいた。友達や、その話を聞いた冒険者が、お前でも行けるなら俺だって、と思ったらどうするんだ!そんな心算はない、じゃ済まされないぞ!お前は自分と友達を殺しに此処に来たのか!」
「そんな…、俺は…俺はただ…」
そこまで言うと少年は泣き出した。
「いいか。私達は行くが、お前は2度と此処に来るな。人殺しになりたくないならな。」
号泣している少年を強制的に一番近い町へと転移させる。一応念のため、先ほど倒した魔物をアイテムボックスに仕舞う。
「あ――誰だこんな場所に来るよう仕向けるなんて。そんなヤツ友達じゃない」
「同感だが、機嫌を直しておくれ。今からダンジョン周りの掃除だろう?」
むぎゅっと抱っこされて顔中にキスを受ける。くそ。黒曜の顔がいい。顔が良いからこれに免じて無かった事にしてやろう。最後にぱくっと黒曜の唇に噛み付いて、体を離した。
「ん、もう平気」
「じゃあ駆除から開始だな」
いつも通り、空へ上がってメテオでお掃除。ダンジョン入り口で範囲魔法とメテオ。ひょいっとダンジョン内に踏み込んで駆け足で敵を倒していく。1~19層で、範囲魔法で死なない敵は居なかった。以前みたいな破壊不能オブジェクトなんかが混じってると面倒なんだよな、と呟く。黒曜も頷いている。
20層。ボス部屋だ。
「鑑定!悪魔ウァプラ!弱点は聖と斬撃、刺突、無効は火!」
翼持つ獅子の姿だ。格好良い。
「ロックウォール!」
獅子のブレスをウォールで防いでくれる。私は飛ぶ相手にうろちょろされるのは嫌なので拘束する。
「ホーリーケージ!」
「――万物よ跪け、音にも聞こえよ我が龍術、纏龍技、一閃万葬!」
「女神よご照覧あれ!代行者が天罰を下す!天降雷神焦!」
ウァプラは爪でケージを壊したが、こちらのスキルは発動している。
黒曜の剣でブロック状に切り裂かれ、天からの雷で頭部に追い討ちが掛かったウァプラは簡単に沈んだ。
核は二つに割れていた。魔石も割れていた。
ドロップ品は、ウァプラの独鈷杵・神鋼・ウァプラの鬣
独鈷杵!?これ武器扱いなの?ええー…違うと思う…取り合えず売ろう。ウァプラの鬣は、これで筆を作ると達人のような文字が書ける、という何とも言い難い効果で…欲しい人も居るかも知れないし売ろう。
21~39層も、特に問題なく駆け足で通過。まあ普通は宝箱なんてないよね…昔の人が取り尽くしただろうな。
40層。ボス層だ。気合を入れて扉を開ける。
「鑑定!悪魔アロケル!目を見るな!弱点は聖、無効は火!」
大きな体躯の立派な馬に騎乗した、赤い獅子頭で目が赤の騎士だ。うっかり一瞬目を見てしまった。
其処にはアロケルの槍の餌食になる自分が映っていた。
気合を入れ、一瞬で気持ちを立て直す。迫る槍からギリギリで体を捻って攻撃を躱す。危ない。もう少し深くあの目を見ていたら今の一撃は貰った筈だ。
「ホーリーケージ!」
「――万物よ跪け、音にも聞こえよ我が龍術、纏龍技、一閃万葬!」
「女神よご照覧あれ!代行者が天罰を下す!天降雷神焦!」
技が当たると思った瞬間、敵が荒ぶる業火に身を包み、その体を守ったようだ。ホーリーケージは一瞬で壊された。
「悪しきもの断つ鉄槌の刃よ、今こそ奮え断罪の剣閃!纏龍技、浄悪魂葬!」
「ホーリーケージ!」
業火が何処まで身を守るかは解らなかったが、魂を直接刻む黒曜の纏龍技を受けて馬ごと横倒しになる。
その上にふわっと核が出てきたので刀で割る。
「…久々に綺麗に素材が取れそうだな」
「本当に久々だな」
笑い合って死体をアイテムボックスに仕舞う。
ドロップ品は、アロケルの槍、神鋼、アロケルの宝玉
槍は今誰も使ってないんで売るか。宝玉は…鑑定すると、不死の牢獄とある。死ぬことを許されず、永遠にこの宝玉の中に囚われる。割れると中の者の魂ごと割れてしまうので救出は不可能…。んんんん~最近物騒なのと関わってるし、こういうアイテムも1個くらいは必要かもな~~~悩んだ挙句にアイテムボックスにそっと仕舞った。
41~59層も特に変わった事もなく、駆け足で通り過ぎる。60層。ボス部屋だ。
「此処クリアしたら昼食食おう」
「解った」
一気に扉を開ける。
「鑑定!悪魔ハンニ!弱点は聖・氷、無効は火、物理!悪意や誹謗を司るから何かしてくる可能性がある!」
ゴオッと燃え上がる火の塊のように現れたハンニは暫くすると手に長槍と首を持った、顔の良い男に変わる。
黒曜の顔面レベルの方が上だ。と私は頷いた。
その男の顔が此方を向いたかと思うと、男はにっこりと優しげに笑った。
「…ッ!?」
その瞬間、私はいつもの昼食の場の傍で物陰に隠れながら皆が私を悪し様に罵りながら笑い合う姿を見ていた。
「学生なのに店、店、って、ありゃいつかコケるね」
「やめてよ~。私巻き込まれてるんだから~。まあ、資金から退職金持って逃げるけど~」
「あっはは!いつまでもデカい面してウチに居候。恥を知った方がいいよね」
「知ってる?黒曜も、養って貰う為に媚売ってるって」
「ヤダ~ヒモとデキてるとか最悪じゃん」
――違う。こんな事を言う奴らじゃない。皆優しくて…
「ァアアァアアアアアアア!!!」
叫んで首を振った瞬間、胸に槍が迫っているのが見えた。咄嗟に気で覆った手で受け止める。
「はぁっはぁっ…今の悪趣味な映像はお前か…!!!!」
横で涙を流しながら倒れている黒曜が見える。少し強めに蹴り付けて覚醒を促す。
殺気、覇気、聖気がどばっと堰を切って溢れ出すのが解った。ハンニがじわりと汗を流し、後退る。
私は、槍の穂先を強く掴んだまま詠唱する。
「穢れたるもの、我が領域にその存在を認めず。清らなる聖なる光よ全てを浄化せよ。穢隔聖光陣」
「ぐお…ぐがあああ!」
「女神よご照覧あれ!代行者が天罰を下す!天降雷神焦!」
「ガアアアアアァアアア!!!」
蔦文様に覆われ、雷撃に打ち抜かれたハンニは、地に足をついたところで文様が閉じ、肉片と化した。その肉片も炎に戻って消え去る。核だけがふわりと浮いたが、手で握り潰した。
黒曜は涙に塗れた目を見開きながら私を見ている。多分私に裏切られる映像か何かを体験させられたのだろう。
「黒曜、私は本物だ。解るか?今ダンジョンに居るんだ」
切れた両手にヒールとクリーンを掛け、優しく髪を撫でる。
「…私が信用できないか?」
黒曜はゆっくりと首を横に振る。
「何を見せられた?」
「役立たずは…もう…要らないって…。顔がいいから、アクセサリ代わりに連れて歩いてた…って…」
「私は一度でもそう思わせるような事をしたか?」
黒曜は首を振りながら私に抱きついてくる。存在を確かめるように強く。
「私と結婚してくれるんだろう?女神にも認められただろう?」
肩に顔を埋めた黒曜が大きく頷く。みるみる肩口が濡れていく。
「私がお前を幸せにしてやる。だからお前は私を幸せにしてくれよ」
「…る。…わたしがそなたを幸せにする…!!傍にずっと居る!」
「ん、よし。じゃあ昼ごはん食べよう。悲しい時には美味しいものって相場が決まってるんだぞ」
「え…あ、うむ…」
昼食を広げると、ピザ・ハンバーガー・ポテト・ナゲット・ケ●タのチキン・ビスケット・シーザーサラダとジャンクフード盛り合わせが出てきた。
「っはは、リシュのやつ…」
本当に私の事を考えてメニュー選択したのが解る。また涙が滲んだ。ぷるぷると顔を振る。
「ん、美味い。黒曜も早く食べろ~?」
美味しいご飯が心の隙間に入り込んでくるようにして痛みを和らげてくれる。黒曜に手掴みでナゲットをあーんしてやると、ぱくりと指ごと食べられた。脂分を舐め取るようにして解放してくれる。
「お…っお前がやると殺人級にえろいからそういう事しない!!」
真っ赤になった顔を隠そうとすると、黒曜は私を抱き上げていつものように座椅子になった。
「うん、やっぱ黒曜座椅子は落ち着くな」
「私はそなたが此処に居る事で落ち着くよ」
徐々に笑顔を増やしながら、リシュの昼食を食べ終わる頃には、もう殆どいつもの黒曜に戻っていた。
「私が言える事じゃないけどな、黒曜お前メンタル弱すぎるぞ」
「そなたに関する事以外ではそうでもないと自負しているが、そなたが絡むとダメだ。どうにも出来ない」
「…仕方ないな。じゃあマリーさんが毎日どれくらい黒曜が好きか解らせてやらんとダメだな」
ちゅ、と触れるだけのキスを贈り、頭ごと抱き締めて髪を撫で回す
「よーしよーし、大好きだぞ~黒曜~」
黒曜は目を瞠ったかと思えば赤くなり、最後には笑っていた。
ん、これで大丈夫そうだな。
ドロップ品を確認すると、ハンニの刺突剣・神鋼・ハンニの鏡
刺突剣使うやついないんで売る。ハンニの鏡は、覗いた相手の精神を崩壊させる?なんつー危険物。拷問には使えそうかな…鏡は厳重に布で覆って縛ってアイテムボックスへ。よし、次の階層へ行こう。
61~79層。これも特に変化は感じられない。駆け足で突破する。80層。ボス部屋だ。目で合図して扉を開ける。
「鑑定!悪魔フラウロス!氷と聖、斬撃が弱点、無効は無し!」
恐ろしく威厳のある豹の姿、燃え上がる炎のような目がこちらを睥睨する。
「ロックウォール!」
余りに動きが早く、爪を振るわれたのに気づくのが遅れた。黒曜のロックウォールが1撃で崩壊する。
「ホーリーケージ!」
これも長くは持たない。
「穢れたるもの、我が領域にその存在を認めず。清らなる聖なる光よ全てを浄化せよ。穢隔聖光陣」
「――万物よ跪け、音にも聞こえよ我が龍術、纏龍技、一閃万葬!」
拘束魔法を重ね掛けすると、ホーリーケージが壊れる前に頭と前足の動きは蔦文様が絡みついて封じていた。そこに黒曜の纏龍技が襲い掛かり、為す術も無くフラウロスはブロック状の肉となり、魔法陣が閉じてさらにミンチとなる。
そう、搦め手を使われなきゃこれくらいアッサリ倒せちゃうんだよな。変に策を練ってくる敵はんたーい!
ドロップ品は、フラウロスの肩当、神鋼、フラウロスの爪。
フラウロスの肩当は、私達が付けているのとほぼ同等だった為、装甲の薄いソラルナへ。
フラウロスの爪は錬金アイテムだった。鍛冶屋でも使える。
嘘を付けなくする薬が作れるようだ。とっとこう。
まだちょっとさっきのハンニが残ってるな。お茶でもしようかな。ぷるぷると震える指先に舌打ちする。
「黒曜~お茶していいか?甘い物食べたい」
「構わないぞ。こっちにおいで」
癒し処・黒曜座椅子へ誘われる。すぽっと埋まりながら、ドーナツを齧る。美味しい!あ、あ、中に生クリーム入ってる!好き!黒曜はチョコ生地にチョココーティングされたのを食べてたので1口貰う。甘い。美味しい!あ、チュロスもある!お茶を飲みながらぱくぱく甘いものを摂取する。うん、元気出てきた!
「疲れた時は甘い物に限りますなあ~」
「私は?」
「黒曜が一番の癒しだけど?」
「ならよし」
君は一体何と張り合ってるのかね…。
お茶をして、少し腹がこなれるまで休憩して。よし、完璧だ。次の階層に行こう。
「行こうか」
「うむ」
81~99層はやはり問題なし。100層ボス部屋。扉が豪華だ。此処がラスボスになる。目で合図して一気に扉を開ける。
「鑑定!堕天使アルマロス!弱点は斬撃、魔法は無効!」
「ロックシールド!?」
確かに唱えた筈のロックシールドすらも起動しない。ホーリーケージも同じだろう。盾なしでやるしかない。
アルマロスが何事か唱えると、私達の足元から炎が吹き上がる。寸でで反応して避けられたが、今何処か欠損しても癒すことも出来ない。しかもあっちは魔法が使える。ずるい。
「――夢幻の刻よ刻め、その足跡を。盤倉流奥義、無間不断刃!」
唱えている間に何かされて即死したのだろう、フールフールの紋章が輝いた。私はアミュレットを装備する。
「――万物よ跪け、音にも聞こえよ我が龍術、纏龍技、一閃万葬!」
「九の型・無限乱刃!」
「纏龍技、夢幻の廻」
黒く小さな丸い礫が音速の世界でもそれなりの速さで黒曜の額に迫っているのを夢幻の廻で返した黒曜は凄い。背後から来た礫に打ち抜かれ、堕天使の額に小さな穴が穿たれる。
「二ノ型多重斬衝!」
「斬閃乱舞!」
そこでスキルが終わった。しまった、ここで終わってくれてないと腕に回復が掛けられない。痺れてブランとぶら下がる両手に舌打ちする。
斬撃の雨に曝された堕天使はほぼ死に体だが、終わっては居ない。地を這う腕が伸ばされる。
「纏龍技、千刃挽歌」
黒曜の最後の一撃で、堕天使は漸く血の海に沈んだ。ふわりとコアが浮かぶ。黒曜はそれを割った。
スッと空気が変わったのを感じる。
「グレーターヒール」
よし、魔法が使える。良かった。
「最後、助かった、黒曜!」
「私など毎度マリーに助けられてるからな。漸く1つ返せただけだ」
「そっちは怪我ないか?」
「ああ、足先がちょっと炭化してるな」
「!!?グレーターヒール!!足先なんて金属の足甲で見えないんだから早く申告しろよ!!痛かっただろうに!」
「マリーが」
「?」
「即死させられたの見てちょっと頭に血が上ってたから自分でも忘れてた」
「~~~~~~~ッ」
なんだろう、もう、恥ずかしい事ばっかり言うこの男は!真っ赤になった私は踏破の証を記録する。
「帰るぞ黒曜ー!」
記録した後はリターンで外に出る。冒険者ギルド前まで転移した。
「で、今日はどんな非常識なデートをしてきたんですか?」
「今日行った獄級、他のとこよりヤバかったんで他のやつには注意しておいてくれな」
「だから!!!獄級なんて行く人は、バケモノ姫とカイブツ王子くらいですから!!」
「そんなのわかんないだろ。今日新人が行こうとしてたし」
「え…それどうしたんです?」
「叱り飛ばして泣かせて町へ強制転移させた」
「あ…良かったです。死なずに済んで」
「散々言ったからもう行かないと思うけどな」
「で、どうだったんです?」
私は今日行ったダンジョンのボス構成などを話した。
「特殊属性多すぎませんか!!?良くクリアできましたね!?あ、アロケルの素材がまるままなのはその所為ですか…」
「うん、だから手強いんで他のヤツにも言っといてくれ」
「普通の冒険者は行きませんってば!!!!」
「カード」
「…わかりましたよ!」
てきぱき処理されて手元にカードが戻ってくる。
「んじゃまた明日」
素材売ってた黒曜と合流し、家に転移する。
今日の敵は手強いのが多すぎてかなりぐったりだ。晩餐食べたらクリーンだけ掛けて寝よう…
ちょっと辛い描写の多い回だったかも知れません。特殊技能持った敵を出すと手強い感じになりますねえ
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