8.ダンジョンへ
ダンジョン回です!
2週間も経つと、マリエールの食事量はかなり増え、まだまだ細いが大分と肉付きが良くなっていた。良くなった所為で軽鎧のサイズが合わなくなってしまうかと思ったが、サイズ調整の印が刻まれた装備であった為、事なきを得た。
容姿も一段と美貌を増し、街行く人がアディと共にマリーにも目を奪われて停止する事もある。アディが怪しい色気を伴う陰ならマリーは晴れ渡る空のように快活な陽、どちらが美しいかと言えばまだアディに分があるが、そのうちマリーも直ぐに追いつくだろう事は想像に難くない。
鎧やローブの下に着る衣服は、天上蚕と呼ばれる蟲の糸から紡がれた布で出来ている。
非常に高価ではあるが、温度調整をしてくれる事や防御力の点でも納得の出来る価格だった。武器などを下げる皮製のベルトなども、マリーばかりに世話になっては立つ瀬がない、とリクハルトが全員の分を購入した。
昼食は、リシュが作成したものがアイテムボックスに入っている。
まずは冒険者登録をする為にギルドへ行き、未登録だったリクハルト、ラライナ、リシュリエールの3人がクラスEのカードを発行される。3人ともカードが嬉しかったようで顔が綻んでいる。
家族でPT登録申請も出し、AやBに混じって、クラスEが半数以上をしめる事に少し難しい顔をされたが、無事に登録できた。
準備が整ったところで、マリーは言った。
「じゃあ、ドラゴン倒しに行くか」
初ダンジョンがドラゴンのダンジョン。公爵一行は意識が遠くなったが、マリーがなんとかするのだろうと気を取り直す。
全員のカードを合わせて薄っすら光が漏れた所で、マリーが呟く。
「PT申請」
淡い光が一瞬だけ瞬き、消える。
「これで経験値は共有されるから、レベルがある程度上がるまで、他の皆は離れて魔法攻撃をお願いする。アディも少しレベル上がるまでは下がって魔法を打っていなさい。」
なにせレベル1でHPが低いのだ。少しHPだけでも上がるまでは危なくて前線に出せない。
目的のダンジョンは王領に近い所にある。
この領にしては難易度が高く、人が少なくてやりやすいと聞いたのだとマリーは言う。マリー自身まだこのダンジョンへ赴いたことは無く、そもそも数日前に登録して、主に野外での依頼をメインに受けて居たらしい。
全員に、自分の体の何処かに触れるよう言い、触れられたのを確認してから唱える。
「転移」
世界が切り替わったような感覚。目の前には不気味な雰囲気を放つ穴が大きく口を開けている。
躊躇う公爵家一行を振り返りながらマリーは言う。
「あまりに離れると経験値が振り分けにならなくなるそうだから、一定距離を置いて付いて来て欲しい」
さっさとダンジョンに踏み込むマリーに、一行は恐る恐る後を追う。
敵がみんなでかい。一行が見たこともない巨大な敵ばかりが、痩せぎすで小さなマリーを襲うのを思わず庇いたくなる気持ちを抑えて、スパスパと見敵秒殺していくマリーを追う。
魔法攻撃はしているが、当たる前に敵が死ぬ事が多い。全員がピロピロとした音でレベルアップを告げられるが、その音が止まる事無く続いている。
せめても、とアディとリシュは、魔石や素材になりそうなものをアイテムバッグに詰め込みながらついていく。公爵家にそんな微々たる素材を売却した金銭は特に意味がないだろうが、PTとしての戦果をギルドに持ち帰りたい。
「ちょっとマリー、もうちょっと敵のHP残しておいてよ!間に合わないよ!」
「ふむ…解った」
そこからは魔法攻撃も出来るようにはなったが、今度は敵がなかなか死なない。匙加減が非常に難しいのだ。
「もう少し深めに斬れば良い具合になるか…?」
何度か調整し、今度は良い具合に全員攻撃を当てる事に成功。そのまま第一回層をクリア。此処でマリーが全員のレベルを確認、平均レベルが15程に上がっている。
此処は以前行ったダンジョンとは違ってマリーが敵にちょこっと歯ごたえを感じる程度には厳しいダンジョンだ。王都・サリエル領のどちらを見ても此処以上のレベルのダンジョンはない。ボスがドラゴンである事は知られているが、それはソルデ領の冒険者が確認した事である。マリーが倒したドラゴンはダンジョン産ではない。
家族のレベルをある程度上げ終わったら、迷宮都市として有名なソルデ領に足を伸ばしてみるのもいいか、と思いつつ、オークウォリアーの肋骨の狭間へと刀を突き入れる。
ダンジョン2層目も難なくクリア。3層目に突入する。
「…あ。モンスター部屋だなこれは。全員範囲魔法で。」
率先してファイアストームを叩き込む。追う様にして雷・氷・風・火の範囲魔法がそこらじゅうに広がる。
「ジャッジメントフィールド」
追加で光魔法を浴びせると、部屋の中の魔獣は塵となった。
「これは素材は魔石しか取れないね」
苦笑しつつも素材を集めるアディ。
この階層も、其処まで苦戦することはなく、巨大芋虫に女性陣が嫌な顔をしながら闘った事以外は問題なかった。
4層目・5層目も同じく、敵が強くなった分、一行の火力も上がっている為、それほどの苦戦はない。レベルアップの音はレベル20を超えると急に減速する。
10層、マリーの鑑定を受けて弱点などを伝えられる。中ボスであるところのアラクネはなかなかターゲットを固定する事が出来ず、攻撃を受けるたびにそれを放った相手へとターゲットを移す。
緑魔法でグリーンバインドを命中させる事で、蔦で床に固定する。やっと大人しくなったボスに、全員からの魔法で集中砲火する。バインドを切らさずに定期的に唱えるとハマったようで、それほど時を置かずにアラクネは倒れた。
ドロップはアラクネの糸と神鋼だ。
「ふう、皆のレベルはいくつになった?」
「36だよ」
「私も36です~」
「私も36だな」
「私は37だ」
「私は36ですわ」
「――そうか。……なら、自由に攻撃をしても良い事にする。好きな手段で攻撃してみるといい。無茶な事をするようならこちらで止めてやるから安心していい」
「ほんと!?マリーの隣で闘っても良い!?」
「そうだな、少しだけ下がった位置に居てくれれば庇える」
ボス部屋は一度倒すと次にリポップするまで3時間程は安全地帯となる。ここで昼食を取る事にした。
ピクニックのようにシートを引いてバスケットを取り出す。サンドイッチの良い匂いがする。甘辛く焼かれた鶏肉が挟まっているが、まだ暖かいのだ。南瓜のスープに、つけ合わせにザワークラウト、デザートはクリームブリュレである。
皆でわいわい感想を述べながら美味しく頂く。ダンジョンでの飯風景だとは思えない。
ゆっくりと飯を食べ、少し腹ごなしの為に休憩する。食後のお茶やカップも持ってきている。
充分休憩した一行は、次の階層の前にボス部屋の隅にある白い円状の光の中に入っておけと言われてその通りにする。ポータルと言うらしく、入った事で登録される為、今までの道のりを省略してくれるものだという。今は10層に居り、5の倍数でポータルがあるという。それを登録しておけば、次の攻略時にはポータルから開始出来る。
「さて、少し駆け足で攻略するか。私とは別の敵を狙ってくれ」
「「「「「了解」」」」」
次の階層からは本当に駆け足にならなければ付いて行けなかった。モンスターが現れると瞬歩で間合いを縮めたマリーが一刀で片付けてしまうからだ。
これにはアディから物言いが。ドロップ品を納めたいからもう少し速度を落として欲しいというものだ。マリーはしぶしぶ速度を落とし、瞬歩は使わずに敵を倒すようになる。それでも早いのだが、素材が使えそうと踏んだ敵はもうそのままアイテムボックスに突っ込む事でなんとかなった。
獣が多い階層であった為、もし可愛い敵が出たらどうしようかと悩んでいた女性陣だが、生憎飢えた目をしたゴツイ敵しか出ない。安心して魔法が打てる。
鑑定するとグレーターキマイラやアークバロンウルフなど、明らかにクラスAを凌ぐ敵が次々に出てくるのだが、マリーを見ていると実感が沸かない。どれも秒殺されていて違いが解らないのだ。一度マリー抜きで後日改めて探索しよう、と思う一行だった。
20層を超える頃には、鑑定結果、ノーブルヴァンパイアなどの人型の魔物が出たが、アディとマリー以外の一行が攻撃を躊躇ってしまう。
「…暗殺者は人間だぞ。この程度で攻撃を躊躇うのなら、修行をする意味がない。どうする。帰るか?」
「っ、いや、私達が悪かった…人間を斬る事に慣れなければ身を守れないのだったな」
「そうね…此処に居るのは姿は人間に近くても魔物。此処で戸惑っていてはいけないわね」
「私も反省したよ、マリーさんは間違っていない」
「ごめんなさい~…私もっと頑張るよ~…」
マリーはうむ、と頷く。
「もうすぐで25層となるが、30層までで今日は戻ろう。全60層のダンジョンだと聞くので次で攻略すればいい。あまり時間が遅くなっては皆も困るだろう?」
「そうだね、それでいいんじゃない?」
日時計以外の時計の無いこの世界で、ダンジョンの中に居ると時間感覚が狂ってしまう。マリーはもう1刻ほどで晩餐の時間であると腹時計と勘で判断していた。
其処からは全員ヴァンパイアを攻撃できた事で、ざくざくと進んで行く事になる。
25層でポータル登録。そこからまた出現する魔物が切り替わる。
「鑑定!……レイスにリッチか…物理は効かない、魔法攻撃に切り替えろ、アディ」
「解った」
当然と言うべきか、光魔法が一番効いたが、火魔法などもかなり効いている。そこまで進行が遅れる訳ではなさそうだと判断する。
「ターンアンデッド!」
「ファイアボルト!」
マリーの標的は1瞬で浄化されて消える為、他の一行は別の魔物をターゲットにする。殆どの人がここまで到達出来ていないのか、うじゃうじゃと徘徊するアンデッド達を駆除しながら進み、目当ての30層へ。
「鑑定!…ヴァンパイア・真祖か」
少し面倒そうな顔をしたマリーは、一行に注意する。
「攻撃されるとすぐに蝙蝠や狼となって分裂し、暫くすると元に戻る。厄介だが分裂時には範囲魔法、元の姿の時には一番得意な攻撃を当てると良い」
瞬歩からの気を巡らせた頭落とし。真祖は少しだけ苦しそうにするが、ニヤリと笑うと斬られた箇所から蝙蝠の群れへと姿を変える。
「「ファイアストーム!」」
「ウィンドストーム!」
「ジャッジメントフィールド!」
「アイスストーム!」
「ストーンウォール!」
リシュのみ、相手の攻撃が届きそうだと判断し、敵との間に壁を作る。
半分ほどの蝙蝠が消え、元の姿に戻った真祖はかなり小さくなり、幼女の姿となった。
マリーは全く気にした風もなく、「刀術、飛燕6連!」と居合いからの斬撃を飛ばす。
更に苦しげな顔をした真祖は、今度は5匹の狼に変じた。
「これで終わりだ!ジャッジメントフィールド!」
マリーは魔法を打ちながら、残像の残る刀術で5匹共に両断する。
勿論他の皆の範囲魔法も炸裂した事もあり、戦闘は終了した。
此処まで1人の怪我人もない。この先に行くのもそう難しくはないな、とマリーは笑った。
真祖が落としたのは神鋼と魔法のスクロールだ。
それを拾うとポータルへ登録し、光の輪の中で「リターン」と唱えると、一行は地上へと戻る。
冒険者ギルドへ戻り、進捗報告と素材の買取をお願いする。神鋼とスクロールは手元に置いておく。
「またこれは…いつにもまして大量な…」
マリーは気が向いた時にしか素材を拾っていなかったのだから当然でもある。
なんとか買い取って貰い、家に戻ろうとすると引き止められる。
「マリーさん、特別要請です。全ての冒険者は明後日の朝に街の入り口へ集合――スタンピードです」
「やはりそうなったか。ダンジョンは見付かったのか?」
「それがまだ…」
申し訳なさそうな顔の受付嬢。だが、それとこれとは別、と切り替え、全員のレベルと得意な攻撃手段のスキルレベルを聞いてくる。今朝まで殆どレベル1だったのだ、対して期待はしていないようだ。
「私はレベル50です。得意は徒手空拳か刀剣術、どっちも10です」
「私もレベル50~、得意は土魔法10です~」
「私もレベル50だよ、得意は風魔法10」
「私も同じく50だ、得意は火魔法10だ」
「私も50ね。得意は氷魔法10よ」
「…は?…は?はあああああああ!?えっ今朝レベル1だったじゃないですか!?どういう事ですか!?マリーさんですか!?大体マリーさんの所為ですよね!???」
「レベルを上げに行ったんだ。レベルが上がっているのは当然じゃないのか?」
「いや普通じゃないですよこのレベル!!普通1日で上がるのは凄く良くて10くらいなものですよ!?」
「なら今日は運が良かったのだろう。私はレベル78、刀剣術10だ」
「運でどうにかなるもんかあああ!!!はあ!?あのレベルで更に10以上上がるんですか!?バケモノ姫って呼ばれてますよ!やだもうこの人たち…いや待てよスタンピードに備えるには持って来いの人材と言えるじゃない、ラッキー、これはラッキーな出来事よソルナ!」
何故か自分を励まし始めた受付嬢に、困った顔をする一行。
「バケモノ姫…?あ―、邪魔して悪いんだが、明後日の朝は何刻ほどに入り口へ向かえば良い?」
「マリーさんに付いた二つ名ですよ!はっ…、すいません、朝の7刻ほどにお願いします!」
「では要請を受けよう。それでは…」
「待ってください!お連れの皆さんクラスEですよね!?せめてC、アディさんはBに上げさせて下さい!クラスSは何らかの貢献が必要になるので、マリーさんは…Aのまま…いやもうSでも良いような気がしてきましたが、一応規則なので…。スタンピードでの貢献次第でSに上げさせて貰いますね!」
全員が受付嬢の混乱ぶりに苦笑しつつカードを出す。
マリー以外全員ランクが上がった事にほくほく顔だ。
大幅にレベルが上がった事と、スタンピードへの備え。家に戻った一同は、再度全員を鑑定した。
リクハルト・フォン・サリエル 36歳/男
レベル50
HP5600/MP4500
力6870
体力6500
精神力6450
知力3500
忍耐7200
賢人9
剣術10
徒手空拳5
礼儀作法10
生活魔法10
火魔法10
女神の加護
導師の弟子
※愛し子であるマリーを幸せにしている為、加護がついた。また、導師の弟子の称号で非常にレベルとパラメータが上がりやすくなっている。
ソラルナ・フォン・サリエル 16歳/男
レベル50
HP5820/MP5500
力5870
体力6800
精神力7250
知力4200
忍耐8100
剣術10
徒手空拳5
礼儀作法10
生活魔法10
風魔法10
水魔法10
女神の加護
導師の弟子
※愛し子であるマリーを幸せにしている為、加護がついた。また、導師の弟子の称号で非常にレベルとパラメータが上がりやすくなっている。
ラライナ・フォン・サリエル 32歳/女
レベル50
HP5410/MP7500
力6870
体力6500
精神力6450
知力3800
忍耐5200
短剣術10
徒手空拳5
礼儀作法10
生活魔法10
氷魔法10
女神の加護
導師の弟子
※愛し子であるマリーを幸せにしている為、加護がついた。また、導師の弟子の称号で非常にレベルとパラメータが上がりやすくなっている。
アデライド・フォン・サリエル(盤倉 亜紀)14才/女
レベル50
HP5600/MP4500
力8870
体力7500
精神力7450
知力7300
忍耐7200
徒手空拳10
刀剣術10
礼儀作法7
アイテムボックス8
生活魔法7
鑑定6
毒吸収2
毒探知2
毒無効1
闇魔法8
緑魔法7
氷魔法4
土魔法4
風魔法6
水魔法4
火魔法10
時空魔法5
女神の加護
導師の弟子
※愛し子であるマリーを幸せにしている為、加護がついた。また、導師の弟子の称号で非常にレベルとパラメータが上がりやすくなっている。
リシュリエール・フォン・サリエル(盤倉 美鈴)14才/女
レベル50
HP4900/MP6500
力5840
体力6500
精神力8450
知力5500
忍耐6800
調理10
礼儀作法9
癒し手(精神)7
鑑定7
アイテムボックス8
短剣術8
徒手空拳5
生活魔法7
土魔法10
緑魔法3
氷魔法3
風魔法6
水魔法4
火魔法2
時空魔法5
女神の加護
導師の弟子
※愛し子であるマリーを幸せにしている為、加護がついた。また、導師の弟子の称号で非常にレベルとパラメータが上がりやすくなっている。
マリエール・フォン・サリエル/聖女(盤倉圭吾)14才/女
レベル78
HP18310/MP20201
力17523
体力17820
精神力24000
知力1520
忍耐24370
徒手空拳10
刀剣術10
礼儀作法8
アイテムボックス10
鑑定10
生活魔法10
光魔法10
闇魔法10
雷魔法10
土魔法10
緑魔法10
氷魔法10
風魔法10
水魔法10
火魔法10
時空魔法10
大物狩り
生態クラッシャー
ドラゴンキラー
ビーストキラー
導師
女神の愛し子
※今世と前世のパラメータがどちらも反映されている珍しいケース。聖女の称号の所為である。ステータス成長にも影響がある。また女神の愛し子の称号で、大切にされていれば常に幸運を引き寄せる。レベルとパラメータの上昇度は他に類を見ない。
「うむ。スタンピードもなんとかなりそうな程度に成長したな。暗殺者はもう大丈夫だと思うが、まだ鍛錬するか?もうやめておくか?」
「「「「「まだ鍛錬したい(わ)」」」」」
どうやらレベル上げに嵌ったようである。強くなるのは悪い事ではないので、マリーは頷く。
「仕事や学園も、スタンピードの間は機能していないだろう。明後日はスタンピード防衛戦だ。備えるぞ」
「「「「「わかった(わ)!」」」」」
折角居心地の良い家に迎え入れて貰ったのだ。恩返しとして街を守るのは当然の事だ。
一息吸い込んで、私は気合を入れなおした。
ちょっと…いやかなり長くなってしまいましたが、収まりの良いところまで進めました^^;
読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!