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67.協会

お呼びでない方がいらっしゃいました。

 早朝の修練でまたトリートメントの材料を作り置きし、アイテムボックスへ。リシュは本日の日替わりデザートパンを仕込んでいる。そういう事をやるあたり、やっぱりなんのかんの言いながらも、リシュはパン屋さんが楽しいようだ。


 朝食を食べて、さあ学園に、という所で招かれざる客がやってくる。相手は男爵で、パン協会のトップだという。パン協会にも入らず、勝手にパンを売るとは何事だ、という事らしい。しかしそもそもこのパン協会が取り扱っているのは石パン一択で、それぞれの店で出す個数などを管理しているだけのようだ。少し泣きそうなリシュに代わって私が出る。


「そちらのパンは酵母を扱ったパンを出していますか?」


「出していないが、そちらがパン協会に入ったらそのレシピは明かして貰う事になる」


 ダメだ。ただの金の亡者だこれ。確かにそこでレシピが広まれば、ふわふわパンも広がるだろうけど、この偉そうなオッサンの協会には入りたくない。


「おい、公爵家が敬語で話してやってるのに、お前の言葉遣いはなんだ?公爵家に喧嘩を売りに来たのか?」


「んんっ、失礼を致しました。ですが、あれだけのパンの売り上げを独り占めとは頂けない事です。販売税も納めて貰わないと困ります」


 こいつ売り上げまで狙ってるのか。ダメだ。別の酵母パン協会でも立ち上げてオッサンはシャットアウトだ。


「いえいえ、わざわざいらして下さいましたが、酵母パン協会を立ち上げる心算ですので、お心遣いは無用です」


 そう言うとオッサンの口がかぱりと開いた。多分想像もしてなかったんだろう。


「そんな…!既にパン協会はあるのです。わざわざ競合相手になるようなものを立ち上げて頂かなくても!!」


 まあ、店主が子供だし、いくらでも言い包められると踏んでやってきたんだろうが。


「いえいえいえいえ、そちらで扱っているパンと、うちで扱っているパンはハッキリ申しまして別物ですから。どうぞお帰り下さい」


「…後悔する事になりますぞ」


「なりませんとも。ではどうぞお帰りを」



 ダンダンと足を踏み鳴らしながらオッサンは帰って行った。目が金しか見てないようなヤツに酵母菌を渡す気はない。もうちょっとちゃんとした協会なら加入しても良かったんだが。他の面子には先に学園に行って貰う事にする。


 私は学園に遅刻する前提で、商業ギルドへ行くと、「酵母パン協会」と「化学式コスメ協会」を立ち上げた。協会登録費は安くなかったが、オッサンに搾り取られるよか何倍もマシだ。傘下に入った店が出ても、特に税を課したりはしない。むしろ酵母がうまく使えていない店に指導に赴く程度だ。コスメに関しては、俺みたいにある程度の前世の記憶を持ち、尚且つカフスと同等の知識を得る手段がないと到底作れる物ではない。前世の手作りコスメみたいに簡単なシロモノではないのだ。パン屋は競合はするだろうけど、コスメは高級品なので、平民と貴族とで住み分けが出来ると思う。


 一応王にも連絡を取って、むしろ後ろ盾になって貰う事が出来た。どちらの店にも王族創業勅許の印をつける事が許される。布にマークを刻んで両方の店に立てておいた。店に寄って、リシュのパンをほぼ全種類1個づつ買うと、王宮へ転移し、顔パスで玉座の間に行く。王と王妃に、パンを献上した。


「以前のドーナツも美味しかったがこれも凄く美味しい、石パンとは比較にもならない」


 とお墨付きを頂き、勅許印の旗を立てた事を許された。



 遅れて学園へ行くと丁度休憩時間で、リシュに酵母パン協会のカードと、王族勅許の書類を渡す。後ろ盾が出来た事でもう心配ないだろうと話した。旗も作って立ててきた事を報告。ありがとう~!と抱きつかれた。


「リシュはああいう輩が苦手だもんな。気にするな」


 相変わらずリシュのパンのどれが美味しい、とかシャンプーとトリートメントでどれだけ髪がサラサラになったか、そういう話題で教室は姦しい。


「キッシュとかクイニーアマンとかケークサレも増やしたいんだけどなあ~手が回らないの~でもミートパイは出してみるよ~。あと、時間が少し余った日に、ホールケーキ、祝い事などを彩る特別な御菓子にして欲しいかな~」


 そのうちレシピ集でも出して店に置けばいい、と言っておく。絶対売れる。紙がちょっと高いんだけどな、この世界。


 お昼時になって、リクエストしておいたクリームチーズデニッシュが出て来る。大喜びで齧りついた。うん、美味い。サクサクの香ばしい生地に生クリームで少し緩めたクリームチーズ、ベリーが甘さと酸っぱさが丁度いい感じで絡み付いてくる。凄く美味い。


「もうこれ、定番入りでいいんじゃない?」


「チーズがそんなに手に入らないの~」


 あ~、この世界じゃまだレンネットを使ってチーズ作りしてるのかな。それじゃ量産は期待できないな。


「まあ、リシュの店だしな。好きなものを作るといいと思う」


 放課後になり、リシュの店に行くと、従業員が怪我をしていた。慌ててヒールを掛ける。

 話を聞くと、ならず者が店の周りを徘徊して客が入れないようだったので注意をしたら殴られたらしい。丁度店に並んでいた冒険者がそのならず者を退治してくれたらしいが、今後もやってきそうだと、心配そうに言う。


「聖体守護、この二つの店に悪意ある者は入れない。中に居るものが無事守られますよう強く願う!」


 2つの店の周囲、行列が並ぶあたりまで含めて結界を張る。多分これで防げるだろう。結界が切れてもちょっかいを出してくるようならもう一回張りなおすだけだ。


 ならず者が片付くのは思ったより早かったらしく、売り上げには響いていないようだ。もうすぐ終業時間間近、と言うところで、最後のパンが売れた。これはなかなか良いタイミングじゃないか?


 自分の店をちらっと見ると、ギリギリで行列最後の客がシャンプーセットを買っていった。

 店舗とバックヤードの在庫を見ると、合わせて1000程在庫もある。ていうか、5000も売れちゃったの?また今日作り直しだ。1日5000という数字が解っただけでも進歩した。リシュはタイミング良く売り切れたのが嬉しそうだ。もう頑張っても今日以上の数は作れないらしい。9000個が限界だと言っていた。


 こっちは6000で限界だ。一日5000の御要望に答えるのはなかなか難しい。

 帰ってから、6000づつの商品を仕込む。余っていけば休みの日だって取れる筈、と信じて頑張った。


 リシュも仕込み始める。アイテムボックスがあるので、時間経過を気にする必要がないのだ。難しいものをメインで仕込み、後のパンは店員に任せた、と言っている。いいなあ。こっちは私が錬金でやってるから、なかなか他の人に代わりを頼むことは出来ない。黒曜にはある程度頼める。

 もう少し上達してくれれば、仕込みも全部料理人にやってもらうので、そうなれば漸く手が空くと言っている。


 うむむ…羨ましい…


 こっちも最近では化学式を紙に書いて貼って、黒曜にも手伝って貰っているが、それでも6000はギリギリの数だ。これ以上増やせない。うう、良い婿を貰ったよほんと…。

 

 両店舗の売り上げは結構凄い事になっているようで、資金が増えてかなり凄い事になっている。幾許かはサリエルの家に収めようと思ったのだが、要らないから、もっと好きな事に使いなさい、と言われた。


 好きな事…うーん。リシュの味を再現出来る様、レストランなんかを経営して欲しいな。パン屋が完全に手を離れてからの話になるけども。和食広められないかなあ…。カレー食べたいなあ…。おっとヨダレがでそうだ。


 余談だが、従業員達の給料は、そこらとは比べ物にならない程良いらしく、月末に給料を渡すとほくほくしていた。


「きっと次にまた従業員を雇うような事があれば志願者が殺到しますよ」


「次なあ…次はまだちょっと目処が立たないけど、覚えておくよ。ありがとう」


 翌日、丁度昼休みの時間に、ケイタイを渡しておいたリシュの店の店員から連絡があった。ならず者がまた来ているらしい。見に行くと、結界の外から罵声を浴びせている


「こんな店のパン食えたもんじゃねえ、俺が買ったヤツには虫が入ってたぜ」


「俺なんか石が入ってた。歯が欠けそうになったぜ」


「うん、ならこんな所に来ずに石パン食べてなよ」


 素手で鳩尾に2発。2人のならず者は意識を飛ばした。その間に衛兵に来て貰うが、商売の妨害とは言え、まだ店に被害が出ていないので注意する以外はどうにも出来ない、と済まなさそうに謝られた。


 うーんやりたくなかったけど仕方がない。

 2店舗並んだ場所に再度結界を張りなおす。


「聖体守護、この二つの店に悪意ある者は入れない。中に居るものが無事守られますよう強く願う!」


 同じ結界だが、範囲を広げた。店の周辺500mは害意ある者は入れない。すぐ近所にパン屋やコスメ店がなくて良かった。これで近寄れなくなるだろうが、店に全く関係ないけど私やリシュや従業員の誰かに悪意を持ってる人が道を通れなくなるからあんまりやりたくなかったんだよな…。

 まあでも、そんな害意を持った人に近くに来て欲しくないから個人的にはOKなんだけども。

 一先ずこれで様子を見よう。


 学園に戻ると、昼食を食べる。美味しい。キッシュだ、これも好きだ。美味しい!

 リシュによると、一種づつの量を減らして、新メニューを増やしてみたそうだ。


 あと、スパゲティがあった。ボンゴレ・ビアンコだ!好き!アサリの旨みが溜まらないよな。

 皆も美味しそうに食べている。麺に慣れていないマルクスやシュネーは必死で格闘中。同じく慣れてない黒曜は私があーんしてやった。嬉しそうに目を輝かせる黒曜。こういう素直な反応が可愛いよな。アディもシュネーにあーんで食べさせて貰っている。しかし麺は奥が深い。これからどんどん出て来るなら慣れた方が良いだろう。黒曜に食べ方を教えてやる。ついでにマルクスにも。シュネーにはアディが教えるだろう。


 放課後、店を覗くと、リシュは丁度良い時間に終われそうな在庫だった。うちもそうなんだけど、バックヤードの在庫が空になっていた…。クチコミ怖い…。店舗に出ている数はあと600、閉店までは持って欲しい。


 家に帰ると直ぐに仕込みに入る。昨日と同じように6000個の在庫を作って店のバックヤードに置いてくる。

 晩餐を食べたら風呂に入っておやすみなさいだ。6000個作るの、結構しんどいんだよ…


 早朝にも、出来る限り仕込んでおく。


 朝食を食べて、学園に向かうが、昼休みにまたケイタイが鳴った。今度は兵士を連れてリシュの店に向かうが、結界の所為かそこら辺には居ない。通りを500m程(さかのぼ)ると、馬車に乗ったパン協会会長が何やら罵声を発している。


「何故此処は通れないのか!道は誰のものでもない!!早く通れるようにしろ!」


 そこに私がこんにちは。


「では、積荷をちょっと確認させて貰いますね」


 否やを言わせず、さっと荷物を覆っていた布を剥がす。すると生ゴミの臭いが一気に広がった。


「…で、この生ゴミを何処に運ばれるんですか?ゴミ捨て場は逆方向ですが」


「ち…ちょっと方向を間違っただけだ!悪かったな!!」


 悔しそうに男爵は言い捨て、臭う馬車でゴミ捨て場の方向へ向かっていく。多分リシュの店にぶちまける予定だったんだろうなあ。これで諦めてくれないかな。


 まあ何処でも美味しい利権は欲しいわけで。でも私達は独自で協会を立ち上げているのでそっち方面では嫌がらせが出来ず、物理的な嫌がらせで客を減らそうとして失敗した、という所か。


 市井でも酵母を使ったパンが焼かれるようになって来ている。そういうパン屋はうちの協会に入ってくれる。するとどんどん石パンに見切りをつけて、パン協会は萎んで行く。まあ、なるべくしてなった、としか言えない。


 コスメ協会は不気味な程に沈黙している。そもそもシャンプーやトリートメントを扱う店はなく、石鹸で全部の用を足していたのだから当然と言えば当然だ。石鹸の売れ行きに問題が出た程度だろう。普通のコスメ店はどちらかというと、化粧に使うものが多い。一度店先で鑑定してみたけど水銀が入ってた。皆に使わないよう言っておこう。


 ああ…そうなるとおしろいは私が作る事になるのか…そうか…



 がっくりと項垂れた私は学園へ戻り、しょぼくれた状態でご飯を食べた。ごはんおいしい。



既得権益との戦いなので、相手もそうやすやすとは引かないでしょうね。

読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!

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