66.パン屋さんとコスメ2
店の運営と学園でてんてこ舞いになっている様子です
早朝、朝の修練で、私はトリートメントの材料を作り置きしてアイテムボックスに入れておく。
他の面子は各々修練をしている。が、帰ってくる勇者の情報を聞いたのか、幾分精彩に欠けている。
リシュはパンの仕込みの監督をしに行っている。いくらかパンが焼きあがる頃、任せられると思ったのか、リシュが朝食を食べに戻ってくる。まだちょっとクロワッサンなどのパイ系・デニッシュ生地は任せられないようで、作り置きして冷凍庫に仕舞ってきたそうだ。料理人さん達も大変だ。
先にリシュのパン屋さんが開業した。パンの焼ける良い匂いが腹に直撃する感じだ。クロワッサン、テーブルロール、コッペパン、コッペパンのクリームサンド、食パン、メロンパン、アンパン、ジャムパン、林檎のデニッシュ、ピザパン、ホットドッグ、アメリカンドッグ、サンドイッチ、白いもちもちパンというラインナップで先ずはやってみると言っていた。匂いに惹かれた客がどんどん入っていく。が、どうも酵母菌は売れてないみたいだ。どれどれ、学園に行く前にと店を覗いてみる。カウンター前に並べてはいるものの、肝心の説明が目につく所にない。そりゃお客さんだって「何だこれ?」って思うよ。
学園に行くと、今朝の匂いの暴力に屈した子達がパンを買ったらしく、口々に褒めていた。「これはパンの革命だ!!」とか、「香ばしくてパンなのにふわふわに柔らかいの!」とか。それはリシュのお店なんだよ、と教えてあげると、皆リシュにお礼を言っている。「パンが美味しいと他のおかずも美味しくなる」とか、「やっと石パンから解放される!毎日買いに行くから!」とか。まあ、一度リシュのパンを食べちゃった人は石パンには戻りたくないよね。中には石パンが好きな人も居るかも知れないけど。
とりあえず皆、石パンから解放されたリシュの店が潰れない様通う気まんまんなのは解った。でも一つ問題が。リシュにPOPを作るよう提案する。酵母菌が売れないと、いつまで経ってもリシュの店でしかふわふわパンが食べられない。キャッチコピーは皆で色々と考えていくつか案が出たが、「パンがふわふわになる魔法のお水」を採用。解りやすい。
そのうちの数人が、私達の髪のツヤに気付いたようだ。触ってもいいと許可すると、「何コレ!サラサラでツルツル!良い匂いもする~!」と1人が叫んだ途端に群がられる。「ホントだ…え、これ凄くない?」「掌からスルンって抜けるよこれ」「どれどれ…」と、いつまでも髪を触っているので、少し引き攣った顔で、明日オープンする私の店で販売する事を教えると女子の目がギラっと輝いた。
昼休みも、もう売り切れちゃったんじゃない?という面子と、終業時間間近で売り切れるんじゃない?という面子が居たが、誰も売れ残る予想はしていなかった。もぐ、とリシュのコッペパンサンドを食べて笑顔になる。こんな美味しいパンが売り切れない訳がない。コッペパン、ラムレーズンのクリームが入ったやつが気に入った。また作って欲しい。
放課後になると急いでリシュの店の様子を伺いに皆で寄っていく。パンは残ってなかった。昼がピークで其処で売り切れたらしい。リシュは嬉しいやら忙しいやらで頬を染めている。明日は3倍仕込む、と意気込んでいた。
閉店時間前、しかも昼に終わってしまったのは、ちょっと思うところがあったようだ。
明日はうちも開店だけど、今商品を並べて、値札を立てて、高級ヒールポーションも並べて、用意したら後は明日の状態を放課後に聞きに寄るくらいだ。
開店時間が学園に行く時間と被っている為、朝に様子を見に来る訳には行かない。一応今日帰ったら念の為、増産だけはしておこう。錬金ギルドに行って、錬金釜(大)を5つ買って帰る。錬金部屋が釜でぎゅうぎゅうになった。
見かねたリクハルトは錬金部屋を広げてくれるという。有り難いが、時空魔法で広げられると言ったら驚いていた。外見上には何の変化もないのだが、中の容量を増やすだけなら魔法でなんとかなる。私は錬金室を3倍の容量に増やした。必要な物を一時置いておくラックを買いに一時部屋を抜け、買ってきて置いておく。これで釜も隙間を空けてきちんと収まった。バラも椿も気付いたら5倍くらいに増えていて、今日の錬金には充分だ。
製油が切れそうなので先ずバラの製油を作る。その後、花びらの色素で石鹸用の着色料を作る。
椿からも椿油を取っておく。
作り置きしておいたトリートメントの材料を混ぜて仕上げて。先ずはトリートメントを1000、シャンプーを1000、石鹸を2000個作る。余ったら笑って置こう。
店のバックヤードに作った在庫を並べ、明日早朝に来るようにお願いしてる従業員に説明すればいいかな。
晩餐時にはリシュのお店が大盛況ですぐに売り切れた話をしたり、ラライナが奥様友達に髪を自慢して回ったから、明日はトリートメントやシャンプーを買いに来るに違いない、と言ってくれたり。
そういや学園でも女子の目の色が変わっていた事を話す。
「お年頃なんだもの、そりゃそうよ」
と、ラライナは笑う。まあ、いっぱい作ったから大丈夫だ。
早朝、修練の時間でまたトリートメントの材料を作り置きしてアイテムボックスに仕舞う。売れてなかったら、いつか売れたときに混ぜて作ればいい。アイテムボックスの中は時間停止している。
転移で店舗に移動し、早くから店に詰めてくれている従業員に、バックヤードの在庫の事を説明し、もし店のものが売り切れたら順次出して欲しいとお願いする。トリートメントの事を訊かれたら、髪にツヤが出てサラサラになると答えるように教え込んだ。詳しくは小さいメモに『洗髪後、髪に馴染ませて少し置いてから漱ぐ』と書いてそれぞれ添付してある。お一人様につき、2セットまで、と伝えて転移で家に戻る。転売されるのは嫌だから数量限定は必至なのだ。
朝食を食べて、そういやリシュの方はどんなもんかな~と少し覗きに言ったら、うちの店の前に長蛇の列が出来ていた。開店時間にもなってないですよ!?ひえ~と思いながらこそこそと其処を通り過ぎ、リシュの店を覗く。相変わらず盛況で、今日は酵母菌も順調に売れているようだ。POPのおかげだ。解りやすい、は正義だ。
それを見届けて家に戻り、学園へ行く。
クチコミで広がった形で、今日はリシュのパンを食べた、という人数が増えていた。
「本当に美味しいの!!柔らかいだけじゃなく、中に苺のジャムも入ってて!」
「俺、限定メニューのクリームチーズデニッシュ買えたんだぜ!チーズだけじゃなくて生クリームとベリーも載ってて物凄く美味しかった!!」
あー。リシュが朝から仕込んでたのはそれか。美味そうだな。今度作ってもらおう。
「うふふ、私は朝からお母様がシャンプーを買いに行って下さったの。今晩が楽しみだわ!」
「あら、私もよ!髪がスルスルのサラサラになる、と言ったら買うわ!って張り切って今朝出かけましたの!」
「うふふ、皆さん考える事は同じねー!」
そうか、こうやってあの行列が生まれたのか。まあ大量に在庫置いてきたからな。大丈夫だろう。
昼食の時間、寛ぎながら黒曜座椅子に座る。
もう皆、あーんで食べさせ合いっこしてても慣れたのかツッこまない。今日はクロワッサンの中に生クリームが入っているデザート仕様のパンだった。感想を聞かせて欲しいとの事。食事には合わないけど、単品で食べたら凄く美味しい、と答えた。食事の時にはミートパイなんかが良いんじゃないかと要望しておく。そろそろパスタなんかも食べたいなーと言うと、パスタマシンが欲しいと言われた。あれか、にゅーって出すやつ。鍛冶屋なら簡単に作ってくれそうだ。頼んでみよう。
放課後、鍛冶屋に寄ってパスタを作る器具を説明し、作って貰う。機械に捏ねた生地を通して一旦平らなラザニア生地みたいにしてから、刻む方にそれを通してハンドルを回してにゅーっと細い麺状にする器具だ。その場で作ってくれたのでお土産に持って帰る。リシュに渡したら凄く喜んでくれた。
後は店舗を確認しようと転移する。バックヤード…空なんですけど…
外の店舗の方にはまだちょっと残ってた。だが、下手にちょっと残ってた所為で、並んでる皆さんで取り合いになっている。こんなのは誤算だった。慌てて優先販売券を作り、並んでいた順で商品を売るので、明日この券を出してくれれば必ず手に入るようにしますから、と説明して券を配って納得して貰った。
シャンプー、1500作ったんですけど…終業時間まで持たなかった…ちょっとショック…
客を捌き終わった後、店員に、販売券158枚配ったので、バックヤードに置いておいて、券と交換で出すように伝え、今日はお疲れ様です、と店舗を閉じた。回復薬もそこそこ売れていた。こっちは完売はしていなかった。リシュもこんな気分を味わったのかな…と覗いてみると、リシュの方も数が足らなかったみたいで全品完売している。お互い、明日は今日の3倍作ろう、と気合を入れた。
毎日作るのは嫌だから、3日に一回程度作れば済むようにしたいんだよこっちは。出来ればホントは1週間に一回作り溜めして足りるようにしたい…。1ヶ月ならもっといい…
帰ったらすぐ、必死になってシャンプー、トリートメント、石鹸を大量に作った。もうヤダってくらい作った。最初は軽い気持ちでお店屋さんも楽しそうだなーと思っただけなのに。でもきっと買いたい人の手に大体渡りきればこんな数は必要なくなる筈だ。
はっはっは。めっちゃ頑張りました。各6000個づつ作った。2日は持つだろう。先に商品の山をバックヤードに転移させ、黒曜に手伝って貰って店内にディスプレイする。在庫はバックヤードを空間魔法で広げて、隅の方に置いておいた。158個分のセットもすぐ渡せるよう1人分づつ袋に入れて用意する。
もう材料も乏しいので石英やら錬金溶液なんかの材料を買って帰る。バラと椿は…と見てみるが、まだ使えそうな状態になってない。一応土魔法を掛けて、バラと椿育て~と念じてみた。
願いが届いたのか、次の日の早朝、バラと椿が満開だった。落ちたり萎まない内に黒曜と手分けしてさっと摘み取り、椿油とバラの製油、バラの花弁の色素を取ってアイテムボックスに詰める。土魔法凄い!全部取り終わった後、もう一回土魔法を使っておいた。
さて、6000個づつだ。今度こそ売り切れない筈。暇を見て黒曜が作ってくれた高級回復薬もある。神聖魔法がカンストしたんだこっちは。頑張ったんだからもってくれ!いや、売れるのは嬉しいんだけどね、嬉しい悲鳴ってやつなんだけどね!元々は家族用に作って、余ったのを売ったらどうかな、くらいの気分で始めちゃった自分が情けない。
まあ女子が綺麗になるのは歓迎ですよっと。終業時間まで持ちますように!
忙しすぎて勇者?知らない子ですね。の状態に。いつになったら落ち着くのでしょうね
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