63.レメトゥス・ザグデ
なるべくしてなった勇者のお話
レメトゥスは荒れていた。特に良い観光地も美人もが見つからなかったので、余り遊べなかった事。トルクスというファムリタが言う国に行ったら丁度良い感じだったので国ごと乗っ取ろうとしたのに結界なんぞに阻まれて中に入る事すら出来なかった事。聖女という女を俺のものにしてやると言えば罵声が返って来た事。その女に為すすべなく痛めつけられた事。ギルド登録し、レベル99が限界の世界ならダンジョンも大した事はないだろうとタカを括っていたら、超高難易度のダンジョンのボスでいきなり躓いて逃げる羽目になった事。
何一つレメトゥスの思い通りにならない。この世界で実は自分が弱いんじゃないかと思って、そのギルドの最高レベル冒険者に喧嘩を売ってみると、まるで歯ごたえがない。あっさり死に掛ける相手に、漸く鬱憤が少し晴れた。俺は強い。俺が最強でなくてはならない。搾取される側に戻るのは御免だ。
レメトゥスの世界では平民や奴隷でも苗字があった。だからレメトゥスは貴族の出ではない。むしろ社会の底辺に近いスラムの一画にあるボロ小屋で育った。父も母も、思い通りにならない事があればレメトゥスを殴り、蹴り、鬱憤晴らしの道具として扱った。
家の外でも同じだった。強い者が弱い者から食料を取り上げ、弱いものはただ暴力に晒されるまま。時にはその場で殺されていた。この世界では強い者は弱い者に何をしてもいいんだと、レメトゥスは学び、絶望と共になんとか生きられるギリギリの食料で生きていた。
ある日、思い立つ。自分のレベルは3しかない。父母はレベル750ほどのレベルだ。勝てる訳がない。でもこのままだと自分は死んでしまう。食料も殆どなく、ずっと暴力を振るわれていれば近いうちに儚くなるだろう事は想像に難くなかった。
レメトゥスは思い切った。夜中に父の冒険者装備一式を盗み、遁走した。朝になれば気付いた父は何処で鬱憤を晴らすのかと考えると背筋が凍ったが、もう戻れない。戻りたくない。痣塗れでガリガリの体に装備はだぶついたが、一番弱い初心者ダンジョンに潜った。こちらの世界にも冒険者ギルドはあったが、登録すると父に見付かりそうで避けたのだ。初心者ダンジョンにはスライムや一角兎、ドリルモグラなどの容易い敵が沢山居た。全ての敵がノンアクティブである。容易いとはいえ、レメトゥスのレベルは3である。慎重にドリルモグラの穴に剣を突き立てる。
「ぎゅううう!!」
断末魔を聞いたレメトゥスは急いでモグラを掘り出すと、剣で毛皮を剥ぐ。生活魔法の火を使って肉を焼いた。肉なんて今迄殆ど食べた事がない。なんて御馳走なんだ!血抜きも熟成もされていない肉に調味料もなしでは余り美味しいとは言い難い肉だったが、レメトゥスには凄い御馳走だった。美味い、美味い。また殺せば食べられる。
ドロップ品に気付く。力+100の腕輪と、マイナーポーションが落ちていた。
体のあちこちが痛むレメトゥスは、恐る恐るマイナーポーションを飲む。痣が薄くなり、痛みも殆ど消えた。
家から持ち出した、一番大きな麻袋に、剥いだ毛皮を入れて、何度もモグラを殺す。お腹が少し膨れた頃、レメトゥスのレベルは10まで上がっていた。
途中で綺麗な泉があったので、皮袋に水を汲む。
その頃には解体に丁度いいナイフや、だぶついた鎧と服の間にもう一枚着れる、モグラの衣服を手に入れた。だぶつきが少しマシになった。脚力が増える腕輪+20も手に入れた。いくつかのマイナーポーションは大事に懐に仕舞ってある。
今度は角兎を狙う。もぐらより沢山身がついてる。きっと美味いに違いない。そっと草を食んでる兎を見つけそろりと音を立てずに近寄ると首を落とした。一応血抜き、という情報は知っていたので、兎を吊るして血を抜く。その間に皮も剥いで、角も外して麻袋に仕舞う。そうしてから兎を焼くと、さっきとは比べ物にならないほど美味しかった。余りに美味しくて涙が出た。今までの生活が一気に脳裏を過ぎって止まらなかった。ぐすぐすと洟を啜りながら兎を食べ終える。もうおなかはイッパイだけど、干し肉にして隣国まで逃げるのだ。そうしたら偽名でギルドに登録して素材を換金できる。塩も買える。途中で岩塩を見つけたレメトゥス――本名デグ・カリル―はせっせと角兎を狩っては肉を干して、お腹がすいたら兎を食べてダンジョンの中で過した。誰にも殴られない。安心して睡眠が取れて、目の下の隈が少し薄くなる。
隣国まで行くのに充分かな、と思える量の兎の干し肉を手に入れた。
――デグ・カリルはダンジョンで死んだ。今日から俺はレメトゥス・ザグデだ。
隣国まで行くのに、街道は通らなかった。山賊や両親などが通るかも知れないからだ。まだレメトゥスのレベルは38、とても太刀打ちできない。
森の中を慎重に歩き、岩清水を見つけたら水を補充する。
ようよう隣国に辿り着き、冒険者登録をする。その後、素材を買い取って貰った。初心者ダンジョンのものだから値段は安い。けれど、お金を貰った事のないレメトゥスは感動する。
まだ岩塩は残っているが心もとない。塩を買って美味しい肉を食べるんだ。
宿に泊まれる様になるまで、レメトゥスはノンアクティブの層で暮らした。
ここで大体レベル100まで過した。
初心者ダンジョンは3層からはアクティブモンスターばかりになり、10層でボス戦をして踏破出来るダンジョンだったが、何度も踏破した。剣の扱いにも慣れてきた。
初めて宿で料理が出てきた時には思わず泣いた。今迄食べていたのは肉だけど肉じゃなかった、と感じた。
もっと宿に泊まりたいと思ったレメトゥスは、少しづつ難易度の高いダンジョンに挑戦し、素材を売る。
この段階で漸くレベルが200を超えていた
レメトゥスは、手が届く範疇だが1人では厳しいダンジョンにどんどん挑戦していく。
そうすると、お金が溜まって、宿屋で暮らせて服も新しいものを買うことが出来た。防具は全てドロップ品に変わっていた。クリーンを覚えていたレメトゥスは、もうデグ・カリルとは随分違った印象となり、両親が見ても気付かない程度に変身していた。なによりガリガリの痩せっぽちではなく、それなりに体格の良い、強面だが整った顔立ちの冒険者となっていた。この時点で13歳である。強ければ自由である、とレメトゥスは学んだ。
15歳となり、レベルが3000を越えた頃、王が御触れを出す。勇者が我が国に居る、と。
仲間を集めるので魔王を退治して欲しい、と書かれていた。
勿論レナトゥスはそれを無視した。誰かに命令されるのはもう嫌だと思ったからだ。3000のレベルがあれば、大抵のヤツには勝てるようになった。挑んでくる冒険者を返り討ちにして身包みを剥ぐ。そうすればもっとお金が溜まった。
17歳になった頃、レベルは5000に上がっていた。もう敵など居ない。好きにする。俺は搾取する側へ来たんだ。もうされる側には戻らない。
だが兵に見付かり、丁寧に王に逢って欲しいと懇願される。
少し面倒だなと思いつつ、追い掛け回されるよりは召集に応じた方が手間がないと踏んで玉座の間へ通される。
其処には目を輝かせた女3人と男1人が控えていた。レメトゥスの姿を見た王は、その者らとパーティーを組んで魔王の討伐に向かって欲しいと言い、前金として結構な額を俺に渡す。
なんで強くなった俺に命令するやつが居るんだ?レメトゥスは仏頂面のまま、仲間を連れて街を出る。
誰も居ない辺境まで来ると、まずは男を殺した。
悲鳴を上げる女共を縛り上げ、1人づつ犯して殺す。
金は充分ある。別の国でまた名前を変えて冒険者登録のしなおしでもするか、と思った所で、レメトゥスの体を魔法陣が包み込む。はっと気付くと、其処は見知らぬ場所だった。体つきのいい女が、召喚したという。
丁度いい。河岸を変える気で居たのだ。勇者として名前の売れていない異世界の方が好き勝手できるというものだ。
自分を召喚した女を犯しながら、レメトゥスは笑いが止まらなかった。
そして、聖女に敗れる事になる――。
レメトゥスさんは、未だ搾取される側だった事を忘れていないので、弱者=搾取される 強者=搾取する、の図式が頭に刻み込まれています。一番強い存在が自分でなければアイデンティティが崩れるレベルです。
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