61.獄級デート2
おデートは楽しそうですねえ
早朝の修練を終え、朝食を食べる。聞くと、どうやら他の皆は高難易度ダンジョンに全員でアタックしているらしい。ヒールポーションを大目に持っていってる、と言うので、今朝錬金したばかりの超級ヒールポーションをどっさりと渡した。欠損までなら治る筈だ。茸は偉大だった。また見つけたら根こそぎ持って帰ろう。
シュネーは極聖剣技というのを習得したらしい。今度見せてもらおう。
今日はウルズという国の山脈の中にある獄級を選んだ。リシュのお弁当を詰めて、スポーツドリンクと飴を詰めて、黒曜と2人、少し離れた所に転移する。飛翔してまずはダンジョン周りのお掃除だ。2人でやると直ぐに終わる。
ダンジョン内部にメテオと範囲魔法。これもいつもと同じ。
足を踏み入れたら先ずは小走りで掃除だ。1~19層はいつも通りだ。しかし獄級に来てから、悪魔の出現率が高い。ボスだけじゃなく、雑魚敵もだ。お陰でホーリージャッジメントが凄く良く効いてる気がする。
20層、ボス。40層まではサクッと倒したい。勢い良く扉を開ける
「鑑定!悪魔ムルムル!弱点は聖、斬撃、無効は炎!」
「重力場、アイスシールド!」
トランペットが高らかに鳴り響く中、2人の家臣が先導する。自身はグリフォンに騎乗して公爵冠を被った兵士の姿をしている。2人の家臣がトランペットを吹いた様だが、装備はそれでいいのか?
「穢れたるもの、我が領域にその存在を認めず。清らなる聖なる光よ全てを浄化せよ。穢隔聖光陣」
重力に抗ってこちらに剣戟を寄越したムルムルはアイスシールドを壊した。が、詠唱が間に合った。
2人の家臣諸共、魔法陣が被さり、蔦の文様が描かれていく。体の中心部から始まる為、まだ自由な手で、ムルムルは剣を振るった。重力場の重さが乗ったその剣を、黒曜が受け流す。
その時、極魔法を一つ得た私はそれを詠唱する。
「女神よご照覧あれ!代行者が天罰を下す!天降雷神焦!」
雷魔法と神聖魔法との合成魔法だ。頭部から垂直に落ちた雷は、その身を縦に芯から焼き焦がす。動かなくなったムルムルを、蔦が締め上げ、魔法陣が閉じる。後には肉片と砕けた核が残った。
「極魔法か?」
「うん、新しく生えた」
「そうか。凄いな私のマリーは」
「へへ、嬉しいな」
ポロリとドロップが落ちる。
ムルムルの剣・神鋼・ムルムルの目
剣は鍛冶屋のものより弱いので売却。ムルムルの目は宝玉に似ている。鑑定すると、指揮力+20000だった。これはシュネーが持つべきだな。このダンジョンの間だけ私が借りよう。胸ポケットに入れると、片側だけボインになった感じで非常に見た目が宜しくない。宜しくないけど、黒曜しか見てないし良い事にする。次の層に移動だ。
21~39層はいつも通りのお掃除だ。お掃除だけでも結構楽しい。ズバーッと敵が倒れていくのが爽快だ。
40層、ボス部屋だ。さくっと倒せますように!さっと扉を開ける。
「鑑定!悪魔ベヒモス!弱点は火・聖・斬撃、無効は刺突!」
象の頭に人間の体。巨体に見合った鈍重さがある。
「重力場、アイスシールド!」
元もとの重量がある所為で酷く動き辛そうだ。それでも鼻を鞭のように使い、アイスシールドを破壊する。
ふ、と黒曜を見ると何かが生えたような顔をしている。
「ホーリーケージ!」
「悪しきもの断つ鉄槌の刃よ、今こそ奮え断罪の剣閃!纏龍技、浄悪魂葬!」
乱れ撃つように黒曜の刀が縦横無尽に翻る。しかし外傷が何処にもない。傷一つないまま、ムルムルはその体を横たえた。その体の上にふわりと核が浮かぶ。それを一刀で崩す。
「傷がない。何を斬ってた?」
「魂を」
「これ凄いな。素材がまるまる取れる。アイテムボックスに入れてくれ。――穢隔聖光陣使うとぐちゃぐちゃになっちゃうからなあ。どうしようもない場合以外、ちょっと使用を控えてみようかな」
リシュのお店を開くのだ。資金はいくらあってもいい。
いつの間にやら落ちていたドロップアイテムを見る
ベヘモスの皮コート・神鋼・ベヘモスの牙
コートはなかなかいい防御力と+10000の魔力増加があった。リシュかラライナに渡そう。ベヘモスの牙は錬金アイテム、または粉にして飲むとスタミナがアップするようだ。とっとこう。
「休憩するか?」
「いや、まだいいな。大分サクサク敵を倒してるからそんなに時間も経ってないしな」
スポーツドリンクと棒飴で少し疲労回復してると黒曜がむぎゅっと私を抱き締める。うーん。これが黒曜の疲労回復になるんだろうか?
黒曜の休憩?が終わってから、次の層へ足を延ばす。
41~59層もお掃除だ。お掃除楽しいなー…キノコないかなあ。残念ながらキノコは見付からず、60層手前。
さて此処からがダンジョン、って感じだ。勢い良く扉を開ける
「鑑定!レヴィアタン!弱点は雷、無効は水・火」
蛇型の龍だ。周りには結構な量の海水が浮いて渦巻いている。
「ロックシールド!」
間一髪、レヴィアタンの炎のブレスを遮蔽する。
「ホーリーケージ!」
ケージの中でレヴィアタンが暴れる。あまり持たなさそうだ。
「女神よご照覧あれ!代行者が天罰を下す!天降雷神焦!」
「ギュアアアアアアア!!!」」
「悪しきもの断つ鉄槌の刃よ、今こそ奮え断罪の剣閃!纏龍技、浄悪魂葬!」
体の芯を雷撃に貫かれ、苦鳴を上げた所に黒曜の剣がその魂を微塵に斬る。装甲が厚いため、ほぼ物理無効に近い魔物だったのだが、魂を直接攻撃されては堪らない。最後の足掻きに大量の海水がこちらへ押し寄せる
「ホーリーケージ!」
私は黒曜と2人、ケージの中に入ってやり過ごすが、最後に罅割れたケージが持たずに割れ、壁面へと叩きつけられる。
「ごっ…ぐううううう!」
カハッと血反吐を吐く。引いて行く海水の中、両手をつく。
「グレータ、ヒール!」
自分を回復し、まともに唱えられる状態にして、黒曜にもグレーターヒールを掛けた。
「マリー、素材より命を優先でな」
「うん、ごめん。欲張るとダメだな。でも今のは穢隔聖光陣使ってても避けられなかったと思う。最後のホーリーケージを2重にするべきだった…」
レヴィアタンの遺体を黒曜に回収して貰う。
ドロップアイテムは床に落ちていた。
レヴィアタンの皮コート・神鋼・レヴィアタンの宝玉
皮コートはベヒモス皮のコートとほぼ同じ防御力と魔法力を持ついい装備だ。ラライナとリシュにどっちも渡そう
レヴィアタンの宝玉は、思い浮かべた人物の過ちが見れるアイテムだった。これは王家行きかな。
ここで一旦昼食にする。少し時間が早いがこの辺りで摂って置くのが妥当だろう。
サンドイッチにパンプキンスープ、コーンサラダだ。
サンドイッチは具材も色々変えながら結構な量があった。どれも美味しくてにこにこである。
黒曜とあーんで食べさせ合いっこしながら平らげた。
少し食べ過ぎた感もあるので、腹ごなしに黒曜座椅子に座る。癒しは大事だ。待っていたように腹部に手が回って、肩には黒曜の頭が乗って、すっぽり収まった。黒曜の髪を撫でながら時を過す。腹がこなれたら次の層だ。名残惜しげに黒曜の手が私を追いかけて伸ばされるが、諦めたのか途中で黒曜も立った。
61~79層は問題なくお掃除。お掃除楽しい。
80層、扉は普通のものだった。まだ続くんだな。さっと扉を開く。
「鑑定!堕天使バラキエル!弱点は刺突・聖、無効は雷だ」
「ロックシールド!」
放たれた雷に、シールドが間に合った
「ホーリーケージ!」
鬱陶しそうにケージに手をやったバラキエルは殴打で破ろうとするが、皹が入っただけでまだ壊れていない。
だがそう長くはもたなそうだ。
「悪しきもの断つ鉄槌の刃よ、今こそ奮え断罪の剣閃!纏龍技、浄悪魂葬!」
「穢れたるもの、我が領域にその存在を認めず。清らなる聖なる光よ全てを浄化せよ。穢隔聖光陣」
ホーリーケージが壊れる前に間に合った。黒曜の技が堕天使の魂を刻む。それでもまだ震えながらもこちらに雷撃を飛ばす。お互いに避けるが、中間地点に落ちた雷は、床を伝って私達の体を焼く。
「ホーリーケージ、グレーターヒール、グレーターヒール」
2人ホーリーケージに入り、雷を避ける
魔法陣が被さり、蔦の文様が堕天使を絡め取って行く。が、足掻く堕天使は何度もこちらに雷を落としてくる。
罅割れてきたホーリーケージに重ね掛けをする
「ホーリーケージ」
蔦の侵食が止まり、堕天使を締め上げる。
「く…ぐぁあああ!!」
断末魔の悲鳴と共に、魔法陣が閉じた。肉片となって辺りに散らばる。核は肉片の上に浮かんで光っている。刀で両断し、黒曜を振り返る。
「もう痛くないか?」
「大丈夫だ」
「そっか。んじゃ進むぞ!」
81~99層。お掃除だ。範囲魔法一発で死んでくれるから捗る~!あ、茸だ。茸を根こそぎ採取する。もしかして今までの獄級にもあったかも知れない。探してなかったし。勿体無い事したなあ。
100層。普通の扉だ。まだ続くのか。一旦扉前でお茶にする。お茶請けはバームクーヘンだ。リシュ様ほんとに凄いな。ゆっくりお茶を飲んで、バームクーヘンに舌鼓を打つ。美味い!
甘味で疲れを癒されたところで、100層の扉を開く。
「鑑定!悪神ラーヴァナ!弱点は聖、無効は火!」
頭が10、腕が20ある異形ながらも人らしい姿をしている。其々の腕に武器を持っている。
「ロックウォール、ロックウォール!纏龍技、夢幻の廻!」
ロックウォールを壊されながら、纏龍技で残る攻撃を全てラーヴァナの背後へ返す。
「ぐおああああああ!!」
「穢れたるもの、我が領域にその存在を認めず。清らなる聖なる光よ全てを浄化せよ。穢隔聖光陣」
魔法陣が被さり、蔦の文様で動きを封じて行く。
「ホーリーケージ!」
腕が拘束されるまで持ってくれ、と願いながらケージに閉じ込める。
「悪しきもの断つ鉄槌の刃よ、今こそ奮え断罪の剣閃!纏龍技、浄悪魂葬!」
武器をもつ手は直ぐにケージを破壊するが、蔦の拘束が間に合った。腕を絡め取り、身動きが取れなくなっている所に、黒曜の剣技がラーヴァナの魂を微塵に砕く。
「お…あ。あ…」
ぎょろりと白目を剥いたラーヴァナは、侵食する蔦が魔法陣を閉じて肉片となった。肉片の上に浮かぶ核は一刀で砕く。
「拘束効かなきゃ危ない敵だったな」
「そうだな。少し背筋が冷えた」
ポロっとドロップアイテムが落ちる。
ラーヴァナの兜、神鋼、ラーヴァナの宝玉
兜。兜かあ。一応被っておこうか。宝玉は戦意と勇気の上昇30%だ。うーん。どうしようかな。戦争が起こった際の王にでも持ってて欲しい気がするのでシュネーかな。
一頻り装備に悩んだ後は、次の層へ向かう。
101~119までは変わりなくお掃除だった。茸はなかった。
120層、豪華な扉が見える。此処でラストだな。気を引き締めないと。さっと扉を開ける
「鑑定!悪魔アモン!弱点は聖!無効は火!」
「ロックウォール!ロックウォール!重力場!」
フクロウの頭と狼の胴と前足、蛇の尾を持つアモンは、尻尾で跳ねるように移動し、火のブレスを展開するが、ロックウォールに阻まれて届かない。狼の前足でロックウォールを破壊する。
「女神よご照覧あれ!代行者が天罰を下す!天降雷神焦!」
「ギャオオオオォン!!」
頭から縦に体の芯を焼かれ、痛みで飛び回って居たが、段々と動きが鈍くなる。
「ホーリーケージ」
「悪しきもの断つ鉄槌の刃よ、今こそ奮え断罪の剣閃!纏龍技、浄悪魂葬!」
ホーリーケージを尾の一撃で破壊するが、黒曜に魂を刻まれ、ぺたりと地に伏せる。
そして最後の足掻きで業火を吐く。
「あぐぅ…っ」
「ロックウォール!」
ロックウォールが少し遅れた。足元を炙った火で足が炭化する。
「グレーターヒール!グレーターヒール!!」
自分と黒曜の足を癒し、アモンを見ると、死骸の上に核が浮かんで光っている。腹が立ったので素手で握りつぶした。アモンの死骸は黒曜のアイテムボックスに入れて貰う。
ポロリとドロップアイテムが落ちる。
アモンの小手・神鋼・アモンのブローチ
小手は、黒曜のつけている物より良かったので、黒曜の小手を付け替える。黒曜のお下がりはシュネーにでも渡そう。ブローチは攻撃力+20000。似たような物を私は持っているので、黒曜の服に飾った。
冒険者カードを登録し、リターンで地上に戻る。
「今日も充実してた~!」
「そなたが喜ぶ所なら、何処でも私は充実している」
にこやかに口説くの禁止~!ぼふっと顔が火照る。
「ギルド行くぞー!」
「…またデートで…2人きりで獄級120層踏破ですか…あああああああ!常識が何処かに飛んで行きそう…!ベヒモスとレヴィアタンとアモンは素材付き…買い取れるか…いや最近はかなり潤ってるからギリギリなんとか…でもベヒモスとレヴィアタンは亜龍種だし…もう、査定凄く困ってるじゃないですか!」
「捨ててきた方が良かったか?」
「いえ、素材は有り難いです!金蔵引っくり返す勢いですけども!!このバケモノ姫め!ありがとう!」
罵倒されてるのか有り難がってるのか見分けが付かない。
「じゃあカード処理よろしく」
「はいはい!」
てきぱきと処理を終え、2枚のカードが戻ってくる。当分はダンジョンは休むと話すとちょっとホッとしているようだった。黒曜はなかなか売却に難航していたようだが、無事買い取ってもらえたようだ。麻袋2つに満タンの金貨が手に入った。リシュ、開業資金をゲットしたぞー!勇者騒ぎが収まったら覚悟して貰う!
帰りに商業ギルドに寄って、土地の相談をし、丁度良い場所に空いてた店舗跡を買う。ついでに店舗の建築も頼んでおいた。
家に帰って報告すると、リシュに「マリーはせっかち過ぎるよ~!」とぽかぽか叩かれた。
私達のレベルは5500程に上がっていた。よし、勇者のレベルも追い越した!やった!
明日は朝から全員で王宮に詰める予定だと話し、晩餐を食べて風呂に入って早めに寝た。
勇者なんて追い払ってやる。
今回のダンジョン回はここまでです。長くお付き合い頂いてありがとうございました!次は勇者のターンですね。
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