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閑話11

●とある女生徒


 皆、どうして気付かないフリをするの?確かにあの女は以前とは違っている。でもだからと言って今までやってきた事がなくなる訳じゃない。男爵のクセに生意気だと言って、少しシュネー王子の近くに寄った、と言うだけで汚水を掛けられ嘲笑われた事も。少しお茶会で派手な髪飾りを付けていたからって(むし)りとってバラバラにされた事も。わたしは忘れていない。忘れられない。あまりに惨めで何度お茶会で泣いた事か。


 その事があるから、誰も話しかけないで触らぬ神に祟りなし、を貫いているのかも知れない。でもそんな事を気にもしていない顔でマリエールさんのグループで楽しそうに過ごすあの女が憎い。


 ねえ、お茶会でシュネー王子の傍に居たからってドレスにジュースを掛けられた子が居たでしょう?

 ねえ、お茶会で一言シュネー王子と話したからってバッグに泥を詰められた子が居たでしょう?

 ねえ、お茶会でシュネー王子に髪型を褒められたからって頭からデザートを掛けられた子が居たでしょう?


 なんで皆黙っているの?今の楽しそうなあの女を見て悔しくないの?確かにあの女は公爵家で、私達はそれに歯向かえるような大きな家の出ではない。学園で再会した時には恐ろしくて下を向いて目立たないように歩いた。でも、学園でのあの女は、まるで普通の女の子のように振舞って、シュネー王子との仲も良くなっているようなのだ。誰かがシュネー王子と話したって、まるで気にしない。シュネー王子に告白までした子も居たのに、ちょっと傷ついたような顔をするだけで報復する様子もない。


 ねえ、普通の人ぶって、私達酷い目に合わせた子達を無かった事にするのはやめてよ。

 私達は貴方にされた事を忘れない。忘れられない。

 だから、このクラスで今迄された事を大々的に発表して、その信用を地に落としてやる。きっと貴方は報復しようとするのでしょうけど、もうそんな事どうだっていい。やりたければやればいい!でも絶対に貴女を道連れにしてやる!


 ――アデライド・フォン・サリエル!




●?????


 逃げ切った。多分あの女は俺が生きてるとは思ってもみないだろう。もう関わり合いにならなければきっとこのまま見逃してくれる筈だ。だってもう俺はあの女の周辺に居ないし、周辺の人物や当人を攻撃しようだなんて思わない。


 また何処かの王家に取り入って、戦力として自分を売り込めばそれなりの待遇で雇ってくれる筈。

 今から思えば、なんであんなにあの女に固執したか解らない。そりゃ負けて悔しかったけど、ただそれだけ。


 自分が世界最強で居たいってのはあったけど、それでも負けた時点で諦めていれば良かった。

 これは勉強代だ。暫く元の自分のように強い力は使えないけれど、1月も経てば回復する。

 もう絶対に手を出さない。誓って言う。だからどうか女神よ、俺の事を見逃してくれ!




●出雲国

 どうやら我が国は、王を挿げ替える事で女神の怒りから解放されたらしい。まだ次期王に黒曜を望む者は残っているが、諦めてほしいものだ。サリエル家と和解し、我が国の食料などを買ってくれたりして、関係が良好なままで居たい。


 どうやら女神の愛し子も、ワショクの材料がある良い国だと思ってくれているらしく、先代王の事はなかった事にしてくれるようだ。


 不思議な事に、我が国の特産物である食材を、サリエル家のリシュリエール殿の方が我らより扱いに長けているようだ。ドウミョウジコやワラビコ、シラタマコという材料はないと答えると、粉の作り方のレシピと、それを使った菓子のレシピが一緒に届く。何故手元にないものの事を知っているのか本当に不思議だ。しかしこのギュウヒというものやハブタエモチ、ワラビモチ、シラタマダンゴというのは美味しいな。最近は食事の後のデザートにどれかが出て来る。きな粉や餡子の使い道も増えて嬉しい限りだ。


 これからもサリエル家との付き合いを良好に保ち、また新しい料理のレシピが届くといいなと思っている。


 だからもう、黒曜の事は、婿に出したという事で諦めろ、お前たち!



●リシュのレシピとパン屋さん


 もう、買い食いでパン生地のものが買えないのが嫌だ、とマリーが言い出した。そんな事を言われてもどうしろと?と訪ねると、パン屋を始めて、そこで酵母菌も売ったら良いんじゃないかと返って来る。酵母菌の扱いについてはメモを付けて販売する、と。


 ちょっと忙しくなるけど、それもいいなあと思ってるうちに、あれよあれよと言わんばかりに話が進む。店舗用の土地を買って、今パン屋を建設中だという。マリーはせっかちだから大人しく期を待ったりしないのだろう。


 店が出来上がり、鍛冶屋のオヤジさんが立派なオーブンも作ってくれた。もうやるしかない。

 料理人を3人、販売員を5人もいきなり雇ってきた。売れなかったらどうするの!!!とは思ったけど、冒険者収入だけで凄い額になってる。パン屋の1つ2つこけたって多分問題ないんだろう。


 料理人にパン作りを仕込んでいく。最初はこんな小娘が…と嫌な顔をされていたが、実際いくつかパンを焼いてみると顔を輝かせて作り方の講習に熱心に取り組んでくれるようになった。クロワッサン、テーブルロール、コッペパン、食パン、メロンパン、アンパン、ジャムパン、ピザパン、ホットドッグ、アメリカンドッグ、サンドイッチ、白いもちもちパン。


 とり合えずはこんなラインナップで出発だ。パンの焼ける良い匂いに釣られて客が結構やってくる。1日目に予定していた分は営業時間終了まで持たなかった。酵母菌だけは「なんだこれ?」という反応で売れなかった。


 今回の売れ方を見て、3倍の量を仕込んでみる。酵母菌のところには可愛いPOPで「パンがふわふわになる魔法のお水」と書いておいた。営業時間終了まで持たずに全部売れた。酵母菌も根こそぎ売れた。


 今家では酵母菌の培養が凄い量になっていて、店の方のバックヤードでもあちこちで培養している。それくらいしないと足りないのだ。3日目は2日目の更に3倍、これは一日に作れる数の限界だ――を作って並べた。なんとか営業時間終了間際まで持つようになったが、ギリギリだ。これ以上は無理。偶に限定で甘いクリームチーズを乗せて焼いたパンなど、種類を色々変えてデザートパンを出して見るが、出したら1時間でなくなる人気商品になってしまった。


 私の手を離れてももう従業員だけで運用できるようになった頃、今度はマリーがレストランやろう!と言い出した。


店舗は押さえてあるという。もう!!ちょっと休ませてよ~!多分私は、レストランが軌道に乗るまで休めない…


 屋台に、パン生地を使ったホットドッグなどの軽食が出回るようになってきた。試しに買ってみると、店によって色んな味がして楽しい。パン屋もレストランも、多分この国自体の食文化を改造したくてやらされてるんだなあと実感する。私も屋台の味を堪能したいので、協力はしよう。でも、ちょっとは休みも欲しいのよ。マリー、先走らないで!


 カレーを広めたいとか言わないで!こっちに香辛料が揃っているかも解らないのに!


 和食を広めたいとか言わないで!他の人は何処から米を手に入れるの!?味噌も醤油も味醂もお酢もこの国じゃ売ってないのよ!もっと言うなら乾燥昆布も煮干も鰹節もワカメもないのよ! 


 そんな風にブツブツと言いながらも、結局はマリーの押しに流されていくリシュリエールだった。



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