表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/155

59.獄級3

ダンジョン回ですねえ

 さて、今日はちょっと遠出でアザレスト国の東端にある空白地帯だ。今日で上がるかな?階層にも()るだろうけど。


 あ、出る前に黒曜を抱き締めてよしよししてやらないと。こんな風に甘えられるのは嫌じゃない。

 よしよしした後も名残惜しいのか、暫く私を抱き締めてから(ようや)くダンジョンに向かって転移して行った。


 私も3人を連れてダンジョンより少し離れた場所に転移する。

 先ずはダンジョン周りの敵からメテオフォールで片付けて行くが、不死者まみれで景観の悪さが半端ない。


 片付け終わったら、ダンジョンの中に向けて私はメテオ、他の面子は範囲魔法とブレス。

 ひょいと覗くと、入り口周辺には敵が残っていない。うんうん、レベルが上がるって偉大だ。

 さて此処からは少し小走りで行きますか。


 1~19層は残る敵なくさくさくっと進んだ。20層、ボス部屋である。昨日は下手こいて鳥に捕まった階層だ。今度は気をつけて行かないと。さっと扉を開ける。


「鑑定!悪魔ウコバク!弱点は氷・水・聖 無効化なし」


 大きな頭に不釣合いな細く小さい体。と言っても、私達からすれば大きいのだが。煮えた油をフライパンに満たして持っている。こちらを見るや、その油を掛けてきたのでロックウォールで防ぐ。その間にラライナの魔法が完成する


「凍結の女王、冬の貴婦人よ。我らの道塞ふさぐ愚かなる者に鉄槌を下せ!凍鉢特摩(アガナイズィング)裂身(クライズ)!」


 一発で凍りつき、さらさらと氷塵に変わる。ポロリとアイテムがドロップする。

 ウコバクのフライパン・神鋼・ウコバクの御守り


 フライパンは武器にも調理にも使える、とあるが武器としては弱いし、調理に使うには柄が長すぎる…。売るか。

 御守りは火耐性20%。悪くない。誰に持たせようか悩んでいると、前衛に居るんだからと私が持たされた。


 苦戦もなくするっと倒してしまったので、休憩なしでそのまま21~39層を突破する。こちらもさくっと終わったんだが、不死が詰まっていた為、全員の鼻が死んだ。尊い犠牲を払って、扉を開ける。


「鑑定!悪霊リューベツァール!弱点は聖・火、無効は水・風、フォークに刺されると魂を引き抜かれる、気をつけろ!」


 それは何とも言い難いキメラのような格好をしていた。禿げた頭に日本の天狗のような長い鼻をし、首のまわりには木葉が生えており、胴体は樽、右手は蟹のハサミ、左手は甲虫の足、右足は山羊、左足は鳥になっている。


 右手に持っているフォークに要注意だ。本来ならそんなフォークを持っている右手を切り飛ばしてしまいたいところだが、蟹のハサミだ。魔化する事で更に硬化しているだろう。気合を入れなおす。フォークを振るおうとする蟹の手を気を込めた斬撃で落す。その間にリクハルトの詠唱が完成した。


「――原初の焔よ、其の役割を果たせ。全ては灰燼(かいじん)と尽きる。焦熱虚無焔(インフェルノバースト)!」


「ォギャアアア!!!!」


 ドスの効いた赤子の泣き声に似た悲鳴を上げるリューベツァール。最後の足掻きとばかり、落ちたフォークを左足で拾うと、此方へ突き出してくる。

 そんな破れかぶれな攻撃が私に通用する筈もなく、足を斬り捨てフォークを遠くへ飛ばす。


「オ…オオオォァアアアアアアアア!」


 その悲鳴を最後に、全て灰と化した体がぽさっと崩れ落ちた。

 ポロリとドロップが落ちる。

 リューベツァールの小手・神鋼・リューベツァールの涙


 小手は…木製の(ごみ)だった。売る。涙だが、液体ではない。宝石に似ている。鑑定すると錬金アイテムだった。

 今回はスムーズな所為か、誰も疲れが見えないので、このまま出発する。


 41~59層もますますさくさく進むようになった為、攻略はほぼ小走りだ。ただしもう一回鼻が死んだ。強くなったアンデッドだった。何回鼻を昇天させれば気が済むのか。60層前で小休憩、息が整うまでゆったり壁に(もた)れる。


「奥の方がアンデッドなのかな…だとすれば此処からどんどん臭いが酷くなるんだけど…」


「うわあ、勘弁して欲しいわ!もう鼻が生き返らないかも知れないわ…」


「ホントに勘弁して欲しい…」


「うむ…同意するぞ」


 さて、息も整ったし、さっと扉を開ける。


「鑑定!アジ・ダハカ!弱点は氷、聖、斬撃 無効は闇だ」


 3つ首の蛇とドラゴンの合いの子みたいだ。背中には皮膜の翼もついている。

 素早い動きで噛み付きをしようとしてくるのをホーリーシールドで防ぐ。聖属性に触れた頭は口の部分が爛れ落ちている。その間にラライナが詠唱を完成させる。


「凍結の女王、冬の貴婦人よ。我らの道塞ふさぐ愚かなる者に鉄槌を下せ!凍鉢特摩(アガナイズィング)裂身(クライズ)!」


 一発では終わらず、身動ぎする度に皮膚をばら撒きながら、筋肉層の見える体でこちらに突進してくる。壁が間に合わず、私が一撃を貰いつつ刀で目を刺し貫く。頭を一つ潰せたが、突進の所為でこちらも肋を持って行かれた。


重力(グラビティー)(フィールド)


 ソラルナが抑え込んで居る間に、私の詠唱も完成する。


「穢れたるもの、我が領域にその存在を認めず。清らなる聖なる光よ全てを浄化せよ。穢隔(エクソサイズ)聖光陣(イムピュアリティズ)


「ギュオオオオオン!!グガァッ!グウウウウ!!」


 重力場で抑え込まれた上に、私の魔方陣を被せられ、光の蔦に拘束される。文様が満ちて締め上げられ、アジ・ダハカは肉片となった。核を見つけて一刀で割る。

 ポロンとドロップ品が降ってきた。

 アジ・ダハカの肩当、神鋼・アジ・ダハカの牙


「グレーターヒール」


 回復魔法を使ってほっと一息。あの場面で私が避けていたら、ラライナに直撃していただろう。後悔はない。


 肩当は今までのものより大分と良いものだ。振り分けを考えていたら、皆に押し付けられた。攻撃喰らってるの大抵私だからな…。しょうがない。牙は鍛冶屋の分野だ。また相談に行こう。一応錬金アイテムとしても使えるようだ。


「そろそろ昼食にしようか」


 今日は鮭とアスパラのクリームパスタとクラムチャウダー、デザートにオレンジのジュレ

 リシュ神様、頂きます!!美味い!特にクラムチャウダーが気に入った。しっかりとしたアサリの旨みがたっぷり出ている。パスタも美味しい。アスパラが筋を感じさせる事なくほっくりと口の中で解ける。デザートまで確り頂いてから腹休めに少し話をする。


 シールドやウォール、バリアは被っても良いので、危ない時には率先して掛けて欲しい事をお願いする。それで事故率がかなり減る筈だ。

 お腹が落ち着いたら、探索の続きだ。


 61~79層は相変わらずだったが、無事(?)鼻が死んでる所為で、そこまでの臭気に悩まされる事はなくなった。80層手前。普通の扉だ。ここがラストじゃない。スポーツドリンクで喉を潤して、気合を入れて扉を開く。


「鑑定!悪魔プーシュヤンスター!弱点は聖・光・斬撃!ホーリーシールド!」


 異常に長い手足を持ち、眠気を誘発させる吐息を吐いている。状態異常無効があって良かった。眠った所に追撃の吐息を貰うと、重い倦怠感で戦闘の役に立たない程の怠け者になるという。

 びゅんびゅんと飛び交う両手、そして偶に蹴り足。詠唱が終わるまでにホーリーシールドが破られそうだ。


重力(グラビティー)(フィールド)


「ウィンドバリア!」


「アイスシールド!」


 先ほど話していた内容で反省したのか、シールドが展開される。詠唱は間に合った。


「穢れたるもの、我が領域にその存在を認めず。清らなる聖なる光よ全てを浄化せよ。穢隔(エクソサイズ)聖光陣(イムピュアリティズ)


 光の魔方陣を被せられ、蔦が全身を絡め取ってプーシュヤンスターを動けなくしていく。

 その間にもう一撃。


「聖なる千剣、顕現(けんげん)し、蹂躙(じゅうりん)せよ!聖爆剣閃(せいばくけんせん)!」


 強い聖属性を持つ剣が1000本。眩いばかりのオーラを放って体内深くへ突き刺さる――そして体内で聖気を放ちながら爆発する。

 絞られた魔方陣から、でろりと溶けたような肉が落ちた。光りながら浮いている核を一刀で斬り捨てる。

 ドロップ品が落ちてくる。

 プーシュヤンスターの(かつら)、神鋼、プーシュヤンスターのミサンガ


 まさかのカツラ。効果は精神防御+20000。効果はいいんだけど、カツラ…付けたい人居るのか?取り合えず倉庫へ。ミサンガの方は身代わりだ。ダメージを肩代わりして切れる。黒曜がまだ身代わり持ってなければ渡してやろう。前衛だからな。私はまだ持ってるし。倉庫に仕舞う。


「で、今回も晩餐後2刻までなら探索でいいんだな?」


「ええ、構わないわ」


「私もいいよ」


「私もだ」


 スポーツドリンクで喉を癒し、少し小休憩を取った後、奥へ続く扉を潜った。


 81~99層は、もう誰も臭いの事について言及しなくなった。とっくに鼻の機能がバカになってしまっている。ダンジョンを抜けたらキュアで癒そう。ダンジョン内では今のままの方が便利だ。ざくざくと敵を処理する。私以外全員の火力が上がっているので雑魚には苦労しなくなった。

 そして100層。…またココが最後じゃない…120層かな、此処のダンジョン…。

 ふぅっと気合を入れて扉を開く。


「鑑定!暴力を司る悪神アエーシュマ!ホーリーシールド!火と聖、斬撃が弱点だ。無効はない。だが凶暴で素早い、気をつけろ!ホーリーシールド!」


 毛むくじゃらの体と血塗られた武器を持った大男が入ってすぐに攻撃を仕掛けて来ている。

 血塗られた蛮刀からびしゃりとシールドに血が掛かる。


重力(グラビティー)(フィールド)!」


「アイスシールド!」


 リクハルトの詠唱が終わる。


「――原初の焔よ、其の役割を果たせ。全ては灰燼(かいじん)と尽きる。焦熱虚無焔(インフェルノバースト)!」


 炎の帯に巻かれたアエーシュマは床の土の上で転がって火を消そうとするが、叶わない。それを悟って血走った目でこちらを眺める。私の詠唱も完成した。


(けが)れたるもの、我が領域にその存在を認めず。清らなる聖なる光よ全てを浄化せよ。穢隔(エクソサイズ)聖光陣(イムピュアリティズ)


 聖魔法の魔方陣から伸びる蔦で悪神を絡めとる。その途中で体からかなりの量の灰が落ちる。腕と足、耳がない。


追撃はしなくて良さそうだ。気を抜かずにアエーシュマの様子を伺いながら魔方陣が閉じるのを待つ。

閉じた瞬間、肉と共に灰が零れ落ちる。核は破損し、灰に変わりかけていた。とん、とつま先で蹴って(ちり)に変える。


 ぽろっとドロップが落ちた。

 アエーシュマの脚甲、神鋼、アエーシュマの心


 防具は私が交換し、脚甲ベルゼを偶に前線へ出て来るリクハルトに渡す。

 アエーシュマの心は…良く言えば戦闘に心が駆り立てられる。悪く言えばバーサーカーとなって攻撃力が上がる。

 これはダメです。いかんです。理性がなければどんな攻撃も避けずに受け続けて死ぬまで攻撃しかしないじゃないか。アイテムボックス禁忌コーナーでこやしになって貰う。悪いヤツの手に渡ったらとんでもない事件になりそうだ。


 とりあえずここで一服。お茶の時間にする。

 リシュのラングドシャ、口の中で溶ける~!!美味しい!あ~~~コーヒー欲しい~~~!

 皆蕩けるような顔でラングドシャを頬張っている。紅茶で体も解れる心地だ。


 さて、まったりと甘いもので癒されたので続きを攻略しよう。


 101~119層、さっき臭いのない空間で良い匂いのお菓子や紅茶を摂取した所為か、鼻が微妙に戻ってしまい、また臭いに苦しめられた。失敗した。なるべく早く抜け出したいので小走りで殲滅しながら駆け抜ける。しかし、120層前までにはまた鼻はお亡くなりになった。惜しい鼻を亡くしたものだ…。

 そんな嘆きと共に扉を開く。


「鑑定!破壊の悪魔アバドン!ホーリーシールド!弱点は聖・光・斬撃、無効は闇!ホーリーシールド!」


 角に翼。それに顔も、何処から見ても悪魔らしい姿だ。奈落の主、破壊の場などの二つ名がついている。シールドを過信し過ぎないようにせねば。


重力(グラビティー)(フィールド)


「アイスシールド!」


「ウィンドバリア!」


 3人の時間稼ぎで詠唱が終わった。


「――夢幻の刻よ刻め、その足跡を。盤倉流奥義、無間不断刃(むげんふだんじん)!」


 凄い。音速を超えて精一杯の早さで移動しているのに、動けはしなくてもアバドンの視線は私を捉えている。


「聖なる千剣、顕現(けんげん)し、蹂躙(じゅうりん)せよ!聖爆剣閃(せいばくけんせん)!」


強い聖属性を持つ剣が1000本。眩いばかりのオーラを放って体内深くへ突き刺さる――そして体内で聖気を放ちながら爆発する。


「九の型・無限乱刃」


 ここから更なる加速、100人に分身した私がアバドンの体をどんどん削る。削っている間にも詠唱を止めない。

 上半身がほぼ背骨を残してぼろぼろになった頃に詠唱が完成。


「穢れたるもの、我が領域にその存在を認めず。清らなる聖なる光よ全てを浄化せよ。穢隔(エクソサイズ)聖光陣(イムピュアリティズ)


 魔方陣を(かぶ)され、光の(つた)浸食(しんしょく)されていくアバドン。

 そこで技の効果が切れ、私は両手が使い物にならなくなっていた。


「グレーターヒール」


 まだ痺れているがなんとか腕を動かせるようになった所に、まだ拘束されていないアバドンの尻尾が私目掛けて横殴りに襲い掛かってくる。


「げふぅっ…ッア!!!」


 (あばら)が折れて臓器に刺さったのが解った。


「ぐれ、たーひ、る」


 ぶわっと光に包まれ回復する。回復したのに痛みって後引くのなんでだろうか。


「グレーターヒール!」


 もう一度回復、うん、これで動ける!まだ尻尾で仲間や私を狙っている所へ飛び込んで尻尾を根元から両断。落ちた尻尾は暫くビチビチしていたが、すぐに大人しく干からびた。


「怪我したヤツは!?」


「こっちは防御に徹してたので平気よ」


「解った」


 光の蔦はもう体の全てに―上半身は背骨だけだが―行き渡り、閉じる所だ。

 メキっと音がして上半身と下半身が二つ折りになり、其処から網を閉じるように陣が閉じた。

 ぼたぼた、とアバドンの肉が辺りに飛び散る。核は残って居たので、刀で両断した。

 ぽろっとアイテムが落ちる。

 アバドンの胴鎧、神鋼、アバドンの宝玉


 鎧は――と言い掛けた段階で私に押し付けられた。了解、前衛頑張ります

 アバドンの宝玉は、杖の魔法媒体に使える。ラライナとリシュ、どっちが使うか決めて置いて欲しい。

 あとリシュは極魔法が影だから、影の杖にした方がいいだろうな…そうするとリシュかな。


「じゃあ、後140層のボス倒したら晩餐な」


「「「わかった(わ)」」」


 121~139層は更に苛烈な腐臭が待って居たが、もうこれは作業だ、と自分に言い聞かせながら敵を掃除していく。さほど掛からずに140層手前まで来れたと思う。扉が豪華だ。ここがラスボスだ。


「晩餐食いたいやつはいるか?」


「「「帰ってからでいい(わ)」」」


 飴とスポーツドリンクで少し体力回復し、ラストの層へ挑む。

 さっと扉を開ける


「鑑定!始原の蛇、ヴリトラ!弱点は雷・聖・斬撃!水と氷は無効だ!ホーリシールド!」


重力(グラヴィティ)(フィールド)


「ウィンドシールド!」


「フレイムシールド!」


闇憤怒(ダークネメシス)


炎獄の宴(フレイムカルナバル)


 今日最後の戦闘と察したのか、従魔達が飛び出していた。


 なにせ相手が巨大なので、手が増えるのは助かる。が、ケルベロスがションボリしている。氷無効だし近づけないからな…。我慢してくれ。


「穢れたるもの、我が領域にその存在を認めず。清らなる聖なる光よ全てを浄化せよ。穢隔(エクソサイズ)聖光陣(イムピュアリティズ)


 初手から相手を拘束する。その巨大な体で動かれるとこちらが圧死してしまう。

 体の大きさの所為か、なかなか(つた)が全身を絡め取れない。それでも相手の動きをかなり制限してくれている。


「余り近寄られないようにしろ、圧死させられるぞ!」


 全員立ち位置を調整し、拘束魔法が聞いているうちに、と極魔法を放つ


「――この星の中枢に御座おわす核よ。我らの敵を潰せ!潰鎚(グラビティ)の一撃(スクウィッシュ)!」


「シャアアアア!!」


 ただでさえ重そうな巨大蛇がその体重を10倍まで上げられ、苦鳴を上げながら床をブチ抜いて埋まる。


「――原初の焔よ、其の役割を果たせ。全ては灰燼(かいじん)と尽きる。焦熱虚無焔(インフェルノバースト)!」


 床に埋まったヴリトラを、更にリクハルトが地面ごと焼き尽くす。それでもまだ諦めていない目が私達を睨んでいる。


「――夢幻の刻よ刻め、その足跡を。盤倉流奥義、無間不断刃(むげんふだんじん)!」


音速を超え、ヴリトラに接近。


「聖なる千剣、顕現(けんげん)し、蹂躙(じゅうりん)せよ!聖爆剣閃(せいばくけんせん)!――聖なる千剣、顕現(けんげん)し、蹂躙(じゅうりん)せよ!聖爆剣閃(せいばくけんせん)!」


 強い聖属性を持つ剣が2000本。眩いばかりのオーラを放って体内深くへ突き刺さる――そして体内で聖気を放ちながら爆発する。ダメだ、近づきすぎては危ない、と頭の中でアラートが鳴る。


聖なる(ホーリー)渦潮(ワールプール)


 せめて音速状態が切れるまでに頭とは反対側を削って…


「九の型・無限乱刃」


 半分程体を削った所でパキン!と胸元から音がする。慌ててヴリトラの上から跳び退(すさ)る。身代わりが割れた。もう一つの身代わりを身につける。尻尾か!どうやら尻尾に圧し潰されたらしい。

 そこで技が切れ、腕が動かなくなる。


「グレーターヒール。ホーリーシールド」


 こちらへ狙いをつけた尻尾の先がもう一度私を圧し潰そうとした途端、蔦文様(つたもんよう)がそこに刻まれ、動かなくなる。


「シュギュウウウウウウウウウァアア!!!」


 全身を絡め取り終わった文様が、閉じようとしている。めりこみ、鱗が剥がれ、必死に体を揺する蛇の頭が灰になって落ちる。其処からは一気に文様が閉じ、肉片に変わる。

 後には、灰と肉の上に浮かぶ核だけが残った。一閃して核を割る。

 ぽろっとドロップアイテムが落ちた。


全員が床に座り込んではあーっと息をついていた。


「ちょっと!近寄らないようにって私達には言ったのに、自分は近づいて殺され判定貰ってるってどういう事なのマリー!」


 う。これはちょっと言い返せない。反省するしかない。


「ちょっとでも削れないかと思ったんだが、軽率だった…反省している…」


 しょんぼりしていると、ラライナは頭を撫でてくれる。


「独りでどうにかしようとしないでもっと頼って!ちゃんと私達も強くなるから!ごめんね、弱いから頼りなくてそうなっちゃうんだろうね。早く強くなるから、許してね」


 ぽろぽろと涙を零しながら抱きついてくるラライナの暖かさを感じてほっとする。おずおずと抱き締め返した。


「ううん、独りで闘ってた頃の癖が抜けてないんだと思う。これからはちゃんと頼るから、そんな事言わないで」


 ああ…家族だ。私には家族が居る。皆をもっと頼りにしよう。

 一頻(ひとしき)り反省を終えて、ドロップアイテムを見る。

 ヴリトラの手甲・神鋼・ヴリトラの宝玉


「あ、宝玉2つめ…リシュもラライナも杖の新調が出来るぞ」


「で、手甲はマリーが付けなさいね」


「あ、はい…」


 これでとうとう私は鍛冶屋の装備ではなく、全身がドロップアイテムになった。次に出たら、同じく前衛の黒曜に装備だな。


 全員がカード登録してリターンで外に出る。もう大分薄暗くなってきている。

 とり合えず全員にキュアを掛けて、死んだ鼻を蘇らせる。

 転移でさっと冒険者ギルド前に到着すると、カードは私、残り3人は素材売却に行った。


「で、今日は何をやらかしてきたんです?」


 凄い身構えてるけど、嫌われてるのかな私。


「ふんふん、今日も獄級に…140層!?えっ…1日で!?何記録更新してるんですか!!おめでとう御座います!!」


 凄い。こんなにちっとも褒められた気がしない褒め言葉初めて聞いた。


「で、アバドン!!!??にヴリトラ!!!!!!…人間が倒せる敵じゃないですからね?そこんとこちゃんと常識として覚えておいて下さいね!?」


 私は昔ココの人間はもっと強くてちゃんと対抗出来てたのが、どんどん弱体化したんじゃないかと思ってるんだけどな。だっておかしいもん。獄級や超高難易度って。ココのレベル99限界の人達の世界にあっていいものじゃないと私は思うんだ。何があったんだろうか。


「ねえ聞いてます!?バケモノ姫!貴方達が特殊なだけですからね!」


「聞いてるけど、聞いてどうにかなる問題なのか?」


「…ならないですね」


「―だろ?じゃあカード処理早くして欲しい」


 しぶしぶカードを受け取った受付嬢は、てきぱきと処理を終える。


「じゃまた明日」


 カードを受け取り、リクハルト達と合流し、家に帰る。

 珍しい事にまだ黒曜達が戻っていない。戻ってから晩餐にしよう、と話し合う。

 で、肝心のレベルだが、5420まで上がってた!今日の敵強かったもんなあ!


「達成だな!おめでとう!」


「なんだか全部負んぶに抱っこで来ちゃった感があるんだけど、そこはこれから恩返しするからね!」


 各自風呂に入って着替えた頃に、入り口からバタバタと足音が聞こえた。


「おかえりー」


「マリー!!黒曜の腕取れちゃったの!!早く来て!」


「おう!」


 玄関に行くと血塗れで腕を失った黒曜が居た。


「クリーン、グレーターヒール。後は増血剤飲んでおいてくれ」


 ぴたりとくっついた腕を、黒曜は不思議そうに動かす。口を開かせてあーんで薬を飲ませてやった。


「で、何があった?」


 疲れて気を失った黒曜を膝枕で寝かせてやりながら聞く。さらさらの髪を何度も撫でてやる。


「最後に出てきた160層の敵が強くて…攻めあぐねてる所に黒曜が極纏龍技(きょくまといりゅうぎ)を打って…其処から相手に隙が出来たからこっちが押してたんだけど、最後に相手の尻尾が跳ね上がって腕を切断したの…ちゃんと倒せたけど、こんな事になると思ってなくて…」


「ありがちな展開だな。今日も昨日も私は身代わりが割れたから2回死んでたってとこか。やっぱ獄級のボスは気をつけないとダメだな。黒曜側に私が居ればこんなに慌てなかったろうに、ごめんな。」


 欠損くらいならすぐにその場で治したのにな。離れててごめんな黒龍…。


「レベル、いくつになった?」


「えっ…ステータス…5210だ!5000超えたよマリー!!」


「じゃあもうこんな無理なレベル上げは一旦終了!私と黒曜は明日デートだから、他の皆は他の皆だけで行ける所で遊んでてくれるか?もう黒曜が可哀想なくらいしょんぼりでな。デートの約束してたんだ」


 もう一度黒曜の体にグレーターヒールを掛けてやると、うっすら目が開いた。


「おはよう、黒曜。ちょっと今日は吃驚した。けど、私も人のこと言えないからな。お互い様って事で」


「マリー?何を言って…あ、腕…っ!――ある…」


「うん、治した。増血剤が効いてきたみたいだな。もうクラクラしないか?」


「しない。流石私のマリー…でも聞き捨てならないな。そなたも大きい怪我をダンジョンで?」


「そりゃするさ。他の面子も庇って前衛に居るんだから。お前が居たら楽だろうな~って何度も思ってたよ」


「私もだ。マリーが居れば、と何度も思ったな」


「ん、だから最後は自分達のレベルくらい上げたいと思ってな。それでダンジョンデートに誘ったんだ」


「なるほどな。レベルだけ見れば私達だけ低いからな…悔しかったのか?」


「当たり前だろ!今迄トップのレベルだったのに!!ま、今回はしょうがないけど、後はもう他の奴らで行けるトコで頑張って貰うよ」


「で?私達は私達に行けるところで?」


「そそ。レベル上げたい!強くなりたい!楽しいから!そんで楽しいのを黒曜と共有したい!」


「…っふふ、どこでもお供するよ、私の可愛い姫」


「やった! あ、黒曜、晩餐食べないと。多分皆待ってる」


 黒曜は名残惜しそうに膝枕に頬ずりしてから立ち上がった。


「じゃ、一緒に食べに行こう」



 明日からは一緒だから、もうそんなに寂しがらないで。




やっと他の皆のレベル上げが終了しましたね!あとは2人でイチャイチャレベル上げですね!

読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ