閑話10
●ある女生徒
正直、マリエールさんの事は、尊敬しているんです。公爵の身分で貪欲にダンジョンに潜って成績を上げ、誰も追いつけないくらい頑張っているところとか、その武力を惜し気もなく使ってスタンピードをほぼ1人で防いだりとか。
聖女の力を使って、無料で人々を癒したりしているところも、尊敬しているんです。
ただ、分別があるように見える彼女は、クラスの中でも人気のある男子ばかりを侍らせているんです。
「私にはその気はないんだけどぉ~★」とドヤ顔で言ってるように見えます。物凄くイライラします。
あ、私は黒曜様派ではないです、マルクス様派です。あれこれとマルクス様の世話を焼いたりして気を引いてる癖に、その気がないで通用する訳ないじゃないですか!?でもマルクス様の様子を見ていると、諦める気がないようで、黒曜様とマリエールさんが別れる瞬間を狙っているように見えます。
ロッソ様も同じようですね。でもロッソ様はお昼時は御一緒でもないようなのに、何故あんなに執着されているか解りません。これはマリエールさんがその気がないのに、と言ったって問題ないと思います。
そう、お昼時です。友達だから、と言って毎日マルクス様を拉致して、誰にも見付からない場所で一緒にランチを食べているようなのです。マルクス様も黒曜様もシュネー様も手ぶらで行かれますから、マリーさんの手作り弁当なんかを食べているに違い有りません!それでどうしてその気がないだなんて言えるのでしょう!?
解ってます、マリーさんの本命は黒曜様です。黒曜様もマリーさんをとても大事に思っているのが伝わってきます。それで充分じゃないですか。どうしてマルクス様をキープするような非道な真似が出来るのでしょう!?
解っています、告白する勇気もないのにぐだぐだと言っている自分が情けない事は。でも、マルクス様がマリーさんを見るあの愛しげな目を見て、何処から勇気を出せばいいのでしょう。
マルクス様に伝えたい言葉が言えない今、私はマリーさんに言いたいことが一つあります。
頼むからそのランチ、私も混ぜてくれよ!!!!!
●黒曜
私のマリーは明るくて快活であけすけで、とても人気がある。そして何故か顔の良い男ばかりが傍に寄って来ては隙を見て私からマリーを奪おうとしているのが解る。
人の心に疎い私でも解るのに、マリーは友達だと信じて疑っていないようだ。マルクスは別に嫌味な男ではない。私から見ても好感の持てる男だ。マリーと錬金で張り合ってる所などは微笑ましく見ることも出来る。シュネーを疑った事はないが、ロッソ、マルクス、ロスクと、マリーの周りをうろうろする男は思わず叩き潰したくなる。
その所為で女友達が出来なくて私のマリーが悲しんでいるというのに。私は良いのだ。あのファムリタとかいう女を除いて特に秋波を送られた事はない。囲んできゃあきゃあ言いたいだけの女ばかりだ。しかし、ロッソもマルクスもロスクも、個人的に愛情を捧げている女性が幾人も居るではないか。マリーはもう私のものなのだから、諦めてそちらに良い返事をしてやればいいものを。
まあ、襲われる心配だけはしなくていい。マリーは強い。私などよりも余程。状況判断が出来てパーティでも指揮を取れる程だ。たった一人の男子に無理やり言い寄られてもさくっと返り討ちにする姿しか想像出来ない。私一人を選んでくれて、私だけに特別なスキンシップを許してくれている。それは充分に解っているのだ。他の男子はそれでも諦めきれずにうだうだと絡んできているだけなのだ。
女生徒達にはそれが解らないのだろうか…。マリーは明確に態度で表してくれている。だから私はマリーが心変わりする心配はしない。諦めの悪い男共が目に余るだけだ。
しかし最近、ダンジョンに分かれて潜ろうと言われて目の前が真っ暗になった。マリーは、1日の殆どを私と共に居なくても平気だというのか。私は平気ではない。毎日たっぷりマリー成分を吸収しないと禁断症状が出そうだ。
アディやリシュ、シュネーのレベルを上げてやらねばならない事くらい、頭では解っている。頭で解っていても、体は解りたくないとダダを捏ねる。ずっとマリーの傍に居たいと願うのは、そんなに贅沢な事だろうか。
いや、贅沢なんだろうな。人一人をずっと傍に置いておくなど、本来望んではならない事だろう。でも、解りたくないのだ…。マリーが埋め合わせに、2人でダンジョンデートしよう、と言ってくれた時に、この気持ちは多少は晴れた。あと1回か2回、分かれてダンジョンに潜ったら、マリーとデートだ。嬉しい。
だから。
その前に絶対に勇者は来るな。
●勇者
ファムリタが言うには、マリエールとかいう聖女を殺して欲しいらしい。まァ、結構イイ体してる女だし、言う事を聞いてやるのも吝かではねェ。
でもなァ、もしそのマリエールとかいう女が美人でイイ体してたら殺すのは勿体ねェ。俺の女にする。ファムリタが五月蝿いようならお払い箱にすればいい。誰かに縛られるなんてまっぴらゴメンだ。
まァ、元々五月蝿ェ女はそんなに好みじゃねェ。あの場所にファムリタが居たから近くで用を足しただけっつーか、執着してはいないな。でもこちらの世界に来てから閨しか見てネェってのもあんまりだと思う。
いくつかの国で観光して、その土地でイイ女が居れば抱いて、よくも俺の女を―!と歯向かって来る男は瀕死にして女を抱き潰す所を見せてやって。
うん、楽しい事をしよう。海で、山で、都市で。満喫したら、そろそろと聖女に遇いに行こう。
それまでに幾つか国が壊滅するかも知れネェけど知った事か。俺の自由にさせなかったヤツが悪ィ。力を持つってのはこういう事だろォ?俺はそれを最大限に有効活用してる賢い勇者だ。
魔王を倒せ、とか抜かす五月蝿ェ世界からこっちの世界に来れたのは良かった。
何せ皆弱ェ。俺に逆らえるヤツなんざいねェ!冒険者ギルドとかいう場所で聞いたレベルに思わず笑っちまったね。99が最大レベル?ンじゃあ俺の相手になるやつなんざいねェじゃん。もう何処行ったってやりたい放題できちまうってわけ。
金を盗ろうが女を盗ろうが文句言うヤツは全員殺したって構わない。軍が出てきたってパラメータがしょぼ過ぎて相手にもならねェだろう。いやあ、召喚されて良かったわ。その事だけは、ファムリタに感謝してるんだぜェ!
だからまだ殺してないだろう?