57.獄級
久々のダンジョン回ですね
黒曜たちは、シグニス側にある空白地帯へ、私達はエスターク側の下方にある空白地帯へ飛ぶ。ダンジョンのある周辺5キロ超、食い尽くされたのか、緑一つない。
ダンジョンから溢れたモンスターは余り長い間顕現している事が出来ないという。1週間程で魔素となって消えるのだ。その1週間で村や街が見付かってしまうと襲われる。だから獄級ダンジョンの傍には何もない。
獄級ダンジョンのある場所から10キロ圏内に村や街を築く者は居ない。
昔ギリギリ10キロ圏内に村が作られた事があったが、足の速い魔物に見付かって壊滅した、という話もある。
当然、ダンジョン周りには溢れた魔物が犇いていた。空を飛び、魔物に捕まらない位置からメテオフォールで一掃していく。5度程で、ダンジョン周りの敵は消えた。地に降り立ち、ダンジョンの中へ向けて全員範囲魔法を撃つように指示する。
ダンジョンの中に入らないならメテオでいいか、とメテオフォールを内部へ送り込む。
従魔達は中に向かってブレスを撃っている。
メテオフォールが終わった頃にひょいと中を覗くとなかなか阿鼻叫喚な様になっていた。
かなり奥のほうにはまだ気配があるが、1層の3分の1程は今ので死んだようだ。
階段の安全地帯からなら使えるかも、と思う。今までフレンドリファイアが怖くて使えなかったんだ。メテオフォールの焦点を少し先の方へずらすと安全に撃てる事が解った。近接地帯は従魔のブレスで充分賄えているようだ。
全員でダンジョンに入り、小走りで索敵する。
全員に、ある程度遠くから範囲魔法で殲滅するよう指示を出しながら、こちらに余波の来ないレベルで焦点を先の方へ合わせてメテオを撃つ。漏れてきた敵は、従魔が一蹴する。開いた部分を小走りで通り過ぎ、小部屋には私も違う範囲魔法で応戦。敵の強さが違っている。全員の範囲魔法が重なって、やっと倒れるレベルだ。メテオは威力が段違いなので、一撃で屠れているようだが。
索敵で感じられる敵はあと1塊だ。メテオフォールの焦点をそちらに合わせる。
「メテオフォール!」
漏れてきた敵を従魔のブレスと皆の範囲魔法が焼くが、1匹だけ強そうな敵が残った。
瞬歩からの頭落とし。大分と硬い感触があったが、鍛冶屋のオヤジが鍛えてくれた剣の切れ味が勝った。
多分もうどの階層も敵の強さがごちゃ混ぜで、少しづつ割合が変わって行く程度だろう。ボス以外はなんとかなりそうだ。だが、今の強さの敵が犇いているとすると、最終層前は少し辛い事になりそうだ。
19層目までは同じ事の繰り返しだった。ただ、残る敵が3匹程に増えた。私と漆黒とライムで留めを刺した。
さて20層。ボスの扉が見える。20層くらいの深度なら、サクッと倒せるレベルでないと困る。最終層でのボスはレベルが跳ね上がるからだ。
「…行くぞ」
さっと扉を開け、鑑定を掛ける
「鑑定!インセクトクイーン!孵っている幼虫は溶解液を出す、卵は無視だ!弱点は火・斬撃」
詠唱に入ったリクハルトを守るため、シールドを貼る。
「ファイアウォール!」
「――原初の焔よ、其の役割を果たせ。全ては灰燼と尽きる。焦熱虚無焔!」
リクハルトを取り巻く白い炎がインセクトクイーンを絡め取る。
「ギギギ!!!ギイイイィイー!」
酷く耳触りな悲鳴が響く。全身を絡め取られ、必死で振り払おうとクイーンが身震いするが、そんな程度で尽きる炎ではない。灰になった部分から順にポソッポソッと床に落ちていく。最後に頭部が灰となった。
クイーンの死亡と同時に、幼虫と卵は石に変化する。全部倒す必要がなくて良かった。
ポロリとドロップ品が落ちてくる
インセクトクイーンの矛・神鋼・月桂冠
「鑑定」
月桂冠は10%の確立で相手からの攻撃を跳ね返す効果だ。基本的に受けない立ち回りなのでちょっと微妙である。一応前衛の私が被ってみた。インセクトクイーンの矛は…矛使うヤツがいない…シュネーも聖剣を手に入れてから剣一択になっているし。売るか。
「メテオで思ったより時間が掛からずに攻略できている。40~60層辺りで昼食にしようと思うがどうか?」
「私はそれでいいわよ。でも60層で終わったらなんだか悲しいから40層でいいかしら」
「そうだな。それに私も賛成しよう」
――我等は嗜好品なだけじゃからな。いつでも良い。
「ワン!」
「きゅ!」
21~39層は今迄と変わりなく。ただやはり少しづつ奥の層の敵が多めに混ざってきている。
今迄どおり階段からメテオを打ち込んで、近めの敵はブレスと範囲魔法で焼く。それでも残った敵は飛燕で首を飛ばす。小走りになりながら、奥へメテオ、近めの敵は範囲魔法とブレス、それでも残った敵は従魔か私が留めを刺す。
「ボス部屋だな。少し休憩して行こう。倒したら部屋の中で飯にしよう」
スポーツドリンクを飲み、全員の息が整ったところで、扉を開く。
「鑑定!精霊イフリート!弱点は水と氷!物理は効かない!」
「凍結の縹緲!」
「凍結の女王、冬の貴婦人よ。我らの道塞ふさぐ愚かなる者に鉄槌を下せ!凍鉢特摩裂身!」
詠唱の早いケルベロスのスキルで足止めを喰らい、ラライナの極魔法で炎が消え去って凍りついた核が残される、足先で突くとさらさらと氷塵となって崩れた。
ポロっとドロップ品が落ちる。
フレイムソード・神鋼・炎神のカフス
うーん。属性剣って微妙なんだよな。例えば今出たイフリートにこれで斬りかかっても何のダメージも出ないだろう。倉庫に仕舞っておいて、有効な敵が出たら私が使う事にする。
炎神のカフスは炎魔法の威力+20%だ。良い装備だ!リクハルトに持たせる。
ここで一旦休憩、となり、リシュの昼食を食べる。相変わらず神がかってる。サンドイッチとミニグラタン、スープとデザートに果物。もうリシュが神でいいんじゃない?あの短時間でよく此処まで仕込めたものだ。
美味しい!癒される!あったかいスープも入っていた。啜りこむとじんわり胃の腑が温まる。
従魔達も喜んで食べている。
食べ終わって、少し寛ぎタイム。所感を述べる。
「今の所順調だけど、極魔法にガッチリ嵌っていたので、実際のところの強さが良く解らない。この先のボスで油断する事がないようにしよう」
「うん、でも私達強くなってるんだなあって実感できて、凄く嬉しいわ。ねえあなた?」
「うむうむ、ちょっと前までこんな強いダンジョンの、しかもボスを一撃で倒せるだなんて思いも依らなかったよ。強くなる、というのは楽しい事でもあるのだな」
「私も、強くなってるのが解るんだ。楽しいよマリー!」
「それは原点だな。強くなるって楽しい、っていうのが一番だと思う。楽しくなきゃほんとはやる意味ない事だと思うぞ。まあ今迄必要にかられてやっていた面が大きかったとは思うけど、そう聞くとこっちも嬉しくなるよ」
腹がこなれた所で、次へと向かう。
41~59層は、やはり同じやり方でどうにかなった。残る魔物も多くなったが、従魔達が強い。残った敵をざくざく切り裂いて行く。ライムは人型で手を刃にして数を稼いでいる。飲み込むのだと時間が掛かるからな。
60層の扉を見る限り、ここが最終層ではなさそうだ。心の準備をして扉を開く。この辺りから敵のレベルが急に上がりそうだ。
「鑑定!悪神シュールパナカー!弱点は聖と鼻と耳、無効攻撃もなし!」
ソラルナが詠唱に入ったのを受けて、従魔が近接で足止めに回る。
「アポカリプス!」
「――この星の中枢に御座おわす核よ。我らの敵を潰せ!潰鎚の一撃!」
アポカリプスを受けて腹が内部から爆発した所に、ソラルナの極魔法でクレーターが出来るほどの重力で圧し潰される。床で染みのようになったシュールパナカーから核が浮かび上がる。一刀で割り潰した。
どうやらまだ余裕があるようでほっとする。
ポロッとドロップ品が落ちる。
シュールパナカーの円月輪・神鋼・シュールパナカーの秘薬
円月輪…使いこなせるヤツが居なさそうだ…売ろう…秘薬だが、鑑定すると相手への愛に比例して攻撃力が上がる、という困った効果がついていた。何処で誰が使うんだこんなもの。こやしにしよう。
61~80層は、殆どの敵が範囲魔法では沈まなかった。従魔達が嬉しそうに瞬殺して行く。相変わらずメテオに対しては残る敵が居ない。どれだけ火力強いんだろう、メテオ…。
少し今までより時間を取られながらも今迄通り進む。そして80層の扉だが、これもラスボスではなさそうだ。
「100層まで行っても終わらなければ一旦戻ったほうが良くないか?」
「うーん…でも明日は明日で別の場所でレベル上げしたいし…晩餐後2刻経っても終わらなければキリの良いところで帰りましょうよ」
「私もそれで構わないぞ」
「私もそれでいいよ」
「解った。晩餐後2刻までは進む事にする。まあ、100層で終わりそうな気もするんだけどな…」
苦笑しながらも、気合を入れなおして扉を開く。
「鑑定!悪魔アストー・ウィーザートゥ!弱点は聖、光、無効はなし!」
死の属性を持っている。迂闊に触れられると生気を抜かれそうだ。
「ホーリーケージ!アポカリプス!」
ホーリーケージの中でアストーが身動ぎすると、ケージが少しづつ削れてパラパラと塵になって落ちて来る。
「――原初の焔よ、其の役割を果たせ。全ては灰燼かいじんと尽きる。焦熱虚無焔!」
「凍結の女王、冬の貴婦人よ。我らの道塞ふさぐ愚かなる者に鉄槌を下せ!凍鉢特摩裂身!」
「――この星の中枢に御座おわす核よ。我らの敵を潰せ!潰鎚の一撃!」
アポカリプスで胸部を内側から爆発させたが、意にも介さずケージを崩そうと身動ぎを止めない。リクハルトの極炎魔法で苦しげに動きを止め、ラライナの極氷魔法で手足と頭が凍りつき、ソラルナの極重魔法でケージごと圧し潰される。腹だったと思わしき部分から核が浮かび上がってくる。私はそれを一刀で切り捨てた。
極魔法を3発も打ち込まねばならなかった事に驚嘆する。だが、きちんとレベルを上げていけば1発で死ぬ敵だったかも知れない。手強いのは解るが、どれ程の脅威度かは計れない。
この先のボスが怖いような楽しみなような、不思議な気分だ。
さて、少し疲労が抜けるまで休憩する事にする。
お茶のセットも抜かりないリシュを拝んでおく。
お茶を飲みながら無花果のタルトを頂く。甘さ控えめでプチプチした食感が楽しい。美味しい。
ほっこりと和んだところで、棒飴も齧る。うん、少し疲労が抜けてちゃんと動けそうだ。
81~99層、範囲攻撃3つで倒れる敵が居なくなった。従魔が大はしゃぎだ。楽しんでるようだから任せる事にする。私は相変わらず遠方にメテオフォールを撃っている。特に時間もそう掛からず、100層に辿り着く。扉が豪華だ。これがラスボスとなるだろう。
「鑑定!邪神アフリマン!弱点は聖と光、斬撃!ホーリーケージ!」
動かれるとやばい、というアラートが脳内に響く。
アフリマンは鬱陶しそうにケージを破ろうとするが、それより私のスキル発動が早かった。
「――夢幻の刻よ刻め、その足跡を。盤倉流奥義、無間不断刃!」
一気に重くなる体を叱咤して、出来うる限りの速度でアフリマンに迫る。
「飛燕6連!――幽体憑依、――九の型・無限乱刃!」
このスキルを使うと敵が発泡スチロールのように柔らかいので瞬く間に上半身が消えていく。腕が千切れそうに痛い。
「アポカリプス」
下半身が内から爆発したように破裂する。其処でやっと核が露出。一刀で核を割った。
スキルを解くと、腕が痺れて動かせない。グレーターヒールをかけて、やっとマトモに動くようになった。筋断裂を起こしていたようだ。
ポロッとドロップ品が落ちる。
アフリマンの刀・神鋼・アフリマンの髪留め
刀は今の物の倍くらい性能がいい。ただ邪神の刀だと思うと呪われてないか気に掛かる。
「ピュリフィケーション。キュア」
ぼふっと瘴気が解放され、刀が光り輝く。やっぱり呪われ武器だったか。気づいて良かった…。
今の刀と交換する。
髪留めも浄化してから鑑定する。ヒールが使えるようになるようだ。
後ろの3人でじゃんけんでもして勝った人に持っていて貰おう。リクハルトとソラルナはちょっと微妙そうな顔だ。…髪留めだもんなあ…。ラライナでいいんじゃないか?
しかし、動かれるだけでヤバいと思った敵なんて初めてだった。
ダンジョン最下層でカードに登録し、地上へ戻る。いつもの冒険者ギルドの前まで転移した。
「ほうほう。獄級に。100層を1日で。――何やってんですかこのバケモノ姫!!!!!」
「レベル上げ」
「だからって獄級なんて……何かヤバい敵でもトルクスにやってくるんですか?」
「何処まで飛び火するかは解らないが、そういう事だな」
「なるほど……って、ボス!!アフリマンって…ちょっと有り得ないんですけど!?フルメンバーでもないのになんでえええ!???バケモノ姫だから?バケモノ姫はなんでもできちゃうの!!?」
「なんでもは出来ないな」
「そんなコメントが聞きたい訳じゃない!!!!!!」
リクハルトとラライナは素材を売りに行っている。ソラルナと2人、受付嬢の発狂した声を聞いている。耳が痛い。
「あ~~~もうUMより上のランクは有りませんからね?それと、定期的に獄級の掃除をするなんてことは…」
「いや、流石に勘弁してくれ」
「…ですよねー」
は――、と大きく溜息をつくと、受付嬢はカードを回収して処理してくれる。
「貴方方がレベルを緊急に上げたくなるほどの脅威が迫ってきてる事はギルド上部にも話を通しておきますね」
カードを受け取り、リクハルト達と合流して家に戻る。
肝心のレベルは、2300まで上がっていた。あと2~3個も踏破すれば5000に届くだろう。
少し遅れて黒曜が帰って来る。おかえりのハグをすると思い切り抱き締められてすりすりされた。半日離れてただけでえらい寂しがりようだ。
黒曜の側も100層で、メテオを撃ちながら進んだという。考える事は同じだな、と笑いあう。
ラスボスは全員の極魔法と技で漸く沈んだと聞いて、何処も獄級は厄介そうだなと情報共有しあう。
明日もダンジョンで早い。疲れを取る為、皆風呂に入って晩餐を取ったら直ぐに寝た。
2~3日で準備を整え終わりそうですが、あちこち旅行を楽しむ心算の勇者さんは遅れて来そうですねw
読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!