閑話8
厨二病展覧会です
晩餐前の本来ならば修練の時間、今日は休憩という事で皆それぞれに休んでいた。
「ねえ、マリー、ステータスに変なのついてるんだけど」
黒曜座椅子で髪を弄られながらまったりしていたマリーに、アディがひょいと顔を覗かせて訊いて来る。
「『極』か?」
「そうそれ!あたしは闇についてるんだけど、リクハルトパパは火についてて、ラライナママは氷、ソラルナ兄さんが重力でシュネーが時空、リシュが影だね。見事にバラバラ」
マリーは少し考えて、提案する。
「そうか。私は刀術で黒曜は纏龍技だ。アディ、極のついた魔法に集中してみろ」
「………あ。何か出そう」
「絶対此処で出すなよ、引っ込めろ!丁度いいから、人気のない場所で全員試し撃ちしてみよう。多分相当威力があるように思うので、洞窟内も一旦保留だな。荒野の岩にでも撃って見るか」
「解った、皆呼んで来る!」
全員が揃ったところで、荒野に転移する。少し後ろの方は崖になっており、此処まで降りて来るには飛んでくるしかない。前方は開けているが、水気も人影もなく、ぽつぽつと巨岩が在る。旧エスタークの元草原だ。
「じゃ、言いだしっぺのアディから~。何が出るのか楽しみね~」
「はーい!――闇の牙よ、光をも喰らい尽くせ!架陣闇顎鋲!!」
ぶわり、とアディの体から幾つもの球状の闇が浮かび上がる。的にした岩に目掛け飛び、まるで喰らうように岩の周りを飛び交いながら岩肌の硬さを物ともせず綺麗な球状の断面で削る。瞬く間にその岩は消え、それと同時に魔法も消えた。
「多分アレ、防御無視だな。硬い敵に有効そうだ」
「そうだな。使いどころが多そうで良い魔法だな。流石私のアディ」
「じゃあ次はパパにタッチ!」
「うむ、解った。やってみようではないか」
「火魔法に集中するんだ」
「解っておる――原初の焔よ、其の役割を果たせ。全ては灰燼と尽きる。焦熱虚無焔!」
始めはリクハルトの体を覆うように顕現した炎が、流れるように線を描いて巨岩に絡みつく。絡みつかれた巨岩は一気に溶岩と化し、そのうちただの灰となった。魔法もそこで消える。
「熱量の上がり方が凄いな。なんでも燃やして灰になりそうだ」
「格好良いわ!流石私の旦那様!」
「岩でこれだからな。金属でも変わらぬだろうな」
私を抱き締めながら、黒曜もコメントする。
「では、ラライナに次を任せよう」
ラライナは大きく息を吐いて集中する。
「凍結の女王、冬の貴婦人よ。我らの道塞ぐ愚かなる者に鉄槌を下せ!凍鉢特摩裂身!」
パキ、という音すらなかった。無音で的の岩が氷結している。誰かが立てた足音に誘われるように、ふわっと舞った岩だったものは、細かな氷塵となって辺りに舞い散る。
「マイナス何度だったんだろうな…周辺に凍気を撒き散らさない所がいいな」
「多少の氷結耐性があってもブチ抜けそうだな、流石私のラライナ」
「もう、不遇~とか言ってる場合じゃない威力だね!」
「じゃ、ソラルナにタッチするわ」
「風じゃなくて重力なのが不思議だけど、やってみる。」
残り少なくなってきた巨岩をキッと見つめ、ソラルナは詠唱する。
「――この星の中枢に御座す核よ。我らの敵を潰せ!潰鎚の一撃!」
唱えた瞬間、巨岩が地に埋め込まれる。それだけでは足りないとばかりに、周辺の地面がどんどん圧縮されてクレーターが出来上がる。そこで魔法が終わった。
「周辺にも変化が出ているが、範囲魔法と言うわけでもなさそうだな」
「ソラルナさんは~ぺっちゃんこがお好きなのかしら~…今度パニーニでも作りましょう~」
「違うと思うわよリシュ」
「じゃあリシュにタッチ」
「は~い、いきますよぉ~」
ふう、と呼吸を整えて丹田に力を込めるリシュ。
「影よ、本体を喰らえ。主従を逆転させろ、影殺:転影技天網!」
リシュが唱えた瞬間、巨岩の影に薄く小さく硬そうな歯が生える。バリバリと音を立て、影は本体を下から喰らっていき、本体が消えて影も消えるまで魔法が続いた。
これを生き物に掛けたとすれば相当な阿鼻叫喚図になる事だろう。
「……うん。心強いな!」
「うむ…凄く怖い魔法のような気もするがね」
「いいじゃない!単体魔法として心強いよ!流石リシュ!素材の取れそうな敵には使わないでね!…じゃあシュネー」
「うむ」
頷いたシュネーが魔法に集中する。
「――時よ。戻れ戻れ、かの者が生まれる前に戻れ。無明在断!」
岩が堆積岩になるまえの砂のようになり、消えていった。魔法はそこで終わった。
「生まれる前まで時を戻す、か…成功率がありそうだ。失敗率を今度数えてみたほうがいいな。出来れば生きている魔物や動物で」
「バシっと決まればボスでも一撃ってところが格好良い!流石私のシュネー!」
「では次は私がゆこうか。トリはマリー、そなたに任せよう」
とん、と肩を叩かれ、私の背後から離れる黒曜。
「――万物よ跪け、音にも聞こえよ我が龍術、纏龍技、一閃万葬!」
ひゅ、と黒曜の刀が風を切る音が聞こえた、と思った。瞬間、小さなサイコロ状に斬られた岩が崩れ落ちる。
驚く事に、私の動体視力を以ってしても、最初の1振りしか見れなかった。悔しい。
一閃すると、内部で網状の斬撃を撒き散らして斬る技の為、一閃しか見れなくて当然らしい。それも凄いな。
「流石私の旦那様だ。凄い物を見せてくれた」
「こんな技で良いなら何度でも」
「まさに一撃必殺ってヤツだね!」
「んじゃトリを飾るに相応しいかどうかは解らないが、刀に聞いてみよう」
居合いに繋がるものではないようだ。静かに正眼に刀を構える。
「――夢幻の刻よ刻め、その足跡を。盤倉流奥義、無間不断刃!」
時が止まった様に見えた。いや、私の脳のクロック数が上がっている。周りは少し薄暗く、そして非常にゆっくりとした亀の如きの速度で動いている事が解った。振り抜こうとした刀が重い。重い刀を巨岩に何度も振りかざし、塵に変える。そこで剣技が終了したのか、周りの薄暗さは消え、通常の速度に戻る。全員が埃まみれなのは、私が音の壁を越えてしまい、衝撃波が発生してしまったのだろう。
「マリー…何も見えなかったんだけど…何があったの?」
そこで私は今起こった内容を説明する。速度は力だ。その分体への負担がかなり凄いようだが、鍛えたパラメータが仕事をして、私自身はそこまでダメージを受けていない。速さに巻き込まれた周辺の岩の側面が削れた程度だ。
「マリー、流石私の伴侶だ…素晴らしいよ」
「うわあ…こっちは動けないのにマリーにタコ殴りされる技ってえぐくない?」
「どうだろう。使いどころは選ぶ必要がありそうだ。少し疲れる。この技」
纏めてみると、こうなった
・アディ 「――闇の牙よ、光をも喰らい尽くせ!架陣闇顎鋲!!」
何でも喰らう闇の顎が複数出て来て敵を喰らいつくす。
・リクハルト 「――原初の焔よ、其の役割を果たせ。全ては灰燼と尽きる。焦熱虚無焔!」
全てを灰燼に帰す焔が帯状に相手を絡め取る
・ラライナ 「凍結の女王、冬の貴婦人よ。我らの道塞ぐ愚かなる者に鉄槌を下せ!凍鉢特摩裂身!」
無音の凍気が相手を完全に凍らせ、氷塵となって崩れる
・ソラルナ 「――この星の中枢に御座す核よ。我らの敵を潰せ!潰鎚の一撃!」
範囲攻撃としても使える。クレーターが出来る程の重力で相手を潰す。
・リシュ 「影よ、本体を喰らえ。主従を逆転させろ、影殺:転影技天網!」
影の周りに歯が生え、本体を足から喰らっていく。
・シュネー 「――時よ。戻れ戻れ、かの者が生まれる前に戻れ。無明在断!」
相手の生まれる前まで時間を巻き戻す魔法
・黒曜 「――万物よ跪け、音にも聞こえよ我が龍術、纏龍技、一閃万葬!」
一閃すると内部で網状の斬撃を撒き散らして斬る技。相手はサイコロ状のブロックになる
・マリー 「――夢幻の刻よ刻め、その足跡を。盤倉流奥義、無間不断刃!」
脳のクロック数を上げ、音速を超える速度で相手を好きに出来る。音の壁を越える際に衝撃波が出る
「まあ、ここまでの術やスキルを使う相手に遇うか、という点が最大の難点だな」
「あーね。いえてる」
「まあまあ、隠し玉は持ってるほうがいいと思う」
ダメだ、まだ私には中二病が足りない…もっと昇華させねばー!
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