49.影で蠢く者
ちょっと短いですが、キリのいいとこで止めました。
ファムリタが消えた。王宮内居住区の部屋を潰して。
監視員が言うには、魔国の一つ、魔王が治めるマダルガスの地に、邪神パズスの愛し子で聖女として迎えられたという。魔国には、それぞれの国に王が居るが、それぞれ●国の王、と名乗るものであり、魔王、と名乗るのはこのマダルガスのみだ。それだけ王の存在が強い。だが、聖女はその魔王の位の上に位置する。上手く受け入れられるかも解らないのだ。
――何故、と思う。そんな国で聖女になっても、黒曜に近づくことは以前より更に難しくなったとわからないのか。
連れ去られて以来、ここ数日ファムリタの姿は無い。念の為、校長に状態異常無効と真実の目を渡しておく。
勿論家族やシュネー、黒曜は装備済みだ。邪神の愛し子となった事で、今まで封じられていた禁忌魔法が全て使えるだろう、と皆で話し合う。
生徒会も大人しくなり、学園では平穏が戻ったが、家でもそうか、と問われると首を傾げる他無い。
また暗殺者が来るようになった。恐らくファムリタからの手のものだ。出雲程の練度はないが、そこそこ強い。
まだうちに居てくれる影が頑張って掃除出来るレベルだ。
だが、中にはやはり、キュアで解除出来、今迄自分がしていたことが解らない者も混じっている。傀儡兵だ。恐らく他国の聖女を狙うなんて、という常識ある者全てを傀儡で掌握しているようだ。
折角掃除が終わった宮内にまた傀儡が蔓延って敵味方が胡乱な状態に戻したくない。
後、出雲の王からの手紙もあったんだった。黒曜には国を継がせるので、招聘してやるから家族ごと出雲で面倒を見てやってもいい(要約)というふざけた内容で、正直、怒らせる為に文を認めたのじゃないかと疑うほどだ。何目線で文章書いたんだよ。上か?遥か高みか?
そんな事もあって、只今王宮。玉座の間で、近況を報告する。頭を抱えて蹲った王が、凄く嫌そうな顔で頭を上げる。王にもきちんと状態異常無効と真実の目は装備して貰っている。
力を増した状態異常の塊みたいな女が、いつ学園に戻ってきたり、王宮に来たりするかも知れないのだ。上の人間には持っていて貰わないと困る。
「まあ、そう言う訳で、結界張りなおしする」
「…宜しく頼む…」
「――聖体守護。王城内部の人間に悪意を持つ者、この国以外の諜報、この国に悪意を持つ者、全てこの結界を通る事罷り通らぬ。王を守り、国を守れ!――重ねてキュア!」
今回は王宮の本殿のみならず、奥向きや兵舎も全て範囲に捕らえたが、以前とは勝手が違う。少し魔力が減ったかな?くらいの疲労で済んだ。早速王宮から弾かれた者や、きょとんと今迄何をしていたか解らない傀儡兵が網に掛かる。
「後は頼むわ…」
なんとなく気分的に疲れてはあーと溜息をついていると、黒曜に姫抱きされた。
お。お前。公衆の面前でなんちゅう事しやがるんだ!
降ろせ!と喚いたら、「疲れているのだろう?遠慮は要らない」と、斜め上の回答をされ、そのまま家まで帰る事になった。
終始私の顔は真っ赤で、黒曜の胸に顔を伏せて隠した。遠慮じゃないんだ、恥ずかしいのだよ黒曜君や。
家の結界はかなり強力なものを張ったばかりなのでこちらはスルー。学園へ向かう。学園にも張っておかないと落ち着かない。傀儡学生が編入してきたりすると厄介だ。
「――聖体守護。この学園に悪意を持つ者、この学園内部の人間に悪意を持つ者、この国以外の諜報、禁忌魔法を持つ者、全てこの結界を通る事罷り通らぬ。生徒を守り、教師を守り、校長を守れ!重ねてキュア!」
校門前まで弾き飛ばされてきた数人がぎょっとした顔でこちらを見ている。忘れてたよ、黒曜様は皆のもの派と生徒会。
「…私や他の生徒などへの悪意が消えたら学園に入れますんで…頑張って下さい」
生徒会会長は語彙を尽くして私を罵倒するが、それだ。それが駄目なんだよ会長。
ぽん、と憐れみの目で会長の肩を叩く。
まあ私怨であれこれやらかしてるからなあ。正直、生徒会はメンバー入れ替えが必要だと思う。校長に陳情入れとこう。
期限は一ヶ月くらいかな。それまでに改心出来なければ彼らは放校となるだろう。尚、見知らぬお嬢さん達も居たので鑑定すると、虐めの主犯格のようだ。知らない所で虐めなんてあったのか。そのお嬢さん達にも、悪意がある者は入れない事を説明し、虐めを止める様説得したが、ぎりっと歯軋りしながら私を睨むだけだ。多分言葉だけの説得で心を入れ替える事はないだろう。
黒曜様は皆のもの派は私を睨む者、天を仰ぐ者、後悔を呟くもの、それぞれの反応だったが、こちらにも同じ説明を。私や他の生徒へ対する悪意があると中には入れない事を説明。何名かは結界を潜って教室まで戻れたようだ。
後は知らん。もう説明したにも関わらず、私怨で他人に悪意を振り撒くような奴は学園に不要だと私は思う。学園は、学んだり友人を作ったりする場所であって、如何に他人を陥れるかを延々考えてるような者など要らん。
すっかり呆けた面々を置いて、今度こそ家路へ。
出雲の国王への返事は「一昨日来やがれ」をうっすいオブラートに包んで伝書梟に託した。
ファムリタはまだ学園に戻ってこない。戻ってくる前に対策しておかねばなるまい。
●ファムリタ
素敵なドレス。自由に歩き回っても、誰も文句など言わない。自由だ。
光魔法は消えうせ、代わりに邪術魔法とやらを手に入れた。殺したい相手を見つめ、死ね、と念じると本当に死んでしまう。状態異常に抵抗のある者にはほぼ通じないとはいえ、なかなか便利な魔法だ。
夜会に参加すると、見目麗しい魔族がダンスに誘ってくれる。皆があたしを褒め称えてくれる。
日に1度は、パズス様への祈りの時間。瘴気に満ちた部屋が凄く心地いい。
あたしを連れてきてくれた感謝をいつも捧げている。
そんな中で、毎日欠かさず時空魔法の訓練をする。まだスキルが芽生える感覚もないが、もう直ぐ手に入る、とあたしの中の感覚が言っている。
魔王からは婚姻の打診などもあったが、第5側妃って、何人娶る気で居るの!?あたしを其処に混ぜようと!?冗談じゃない。
一度マリーへ呪術で破滅を願って飛ばしてみたが、あっさり跳ね返って来て、死ぬような目にあった。迂闊に呪術は使えない事だけは解った。
でももう直ぐ。転移さえ覚えれば、あたしはSクラスに編入できる。魔王が言っていたのだから間違いないだろう。
その為に、短剣術や魔法などの手解きを受けている。武闘祭の時のようには行かないわ。
待っていて、黒曜様。正真正銘の聖女のあたしがお傍に参ります。
マリーなんかより、魅力的に着飾ったあたしを見て、黒曜様
絶対にあたしを選んでくれると信じています、黒曜様…
ファムリタさんは、先ず学園の門を潜れるのか?というところから問題ですね。
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