48.デート
偶にはマリーさんもデートしたい
今日の休日はデートしたいのでダンジョンはお休み、もしくは行きたい者で、安全な範疇で行って欲しいと告げると、皆の顔がにやにやと笑う。アディとシュネーのみ、自分たちもデートに行こう、と同じような空気を纏った。
「いやー。若いもんはこういう初心な所が堪らんなあ」
「ええ、なんなら私とデートします?旦那様」
「久々にそういうのもいいな。ラライナ」
そうなると、フリーのリシュとソラルナがむうっと膨れる。
「…わかりましたわ~。じゃあ、従魔の方々と行くので~、従魔の皆さんに私達と一緒に闘ってくれるよう、一言お願いできますかぁ~?」
「ああ。それも新鮮だね、リシュ!良く思いついてくれた」
従魔を呼んで、今日はリシュとソラルナと一緒にダンジョンに向かって欲しいと言うと、外に出て闘えるからか、皆喜んでOKしてくれた。
特に前衛の多い従魔達と、後衛のリシュ・ソラルナは相性がいい。
トゥルースは前衛か後衛かも解らないけど。うーん後衛っぽい気がする。が、本人はダンジョンには気が向かないようで、留守番すると言い出した。
よくよく悪戯するなよ、と言い聞かせておく。
鍛冶屋へ行くと、嬉しそうに出迎えてくれた。
未だ1人はついているが、護衛の数が減ったことで心労もかなりマシになったのだとか。エスターク国が潰れたとはいえ、まだ私達を狙っている者が居る。何処の誰かは解らないが、人質にされるよりはマシだろう。
そう、襲われているのではなく、狙われているのである。2~3人程が連れ立って、私と黒曜の様子を観察し、戻っていく。大体そんな事を仕掛けてくる奴は碌なものじゃない。気のせいか、出雲国の影と雰囲気が似ている。が、殺気がないものだから、断言できない。
話を戻して、歓迎してくれた鍛冶屋の近況を聞いて、スランプも抜けた事におめでとうを言う。
私達二人が付き合う事になった事も知らせて、おめでとうと祝ってもらう。
わいわいと話をしてるとなんとなく平和を噛み締める。暗殺者が居ないって本当にいい事だ。こういう安らげる時間を持てるのが何より嬉しい。
黒曜と共に武器のメンテナンスをして貰い、「だいぶ草臥れておるよ。もうちっと早くメンテナンスに来んか!」とちょっとお小言を貰い、苦笑する。そんな暇もほぼなく、あれこれと面倒事ばかりだったんだ。どうしようもない。
丁寧にメンテナンスをして貰い、神鋼を欲しがる鍛冶屋にちょっと卸してやる。相好を崩す鍛冶屋は相変わらずだ。
「ほいほいほい、他の面子にも、きちんとメンテナンスに来るよう伝えるんじゃぞ!!」
「わかったわかった、ちゃんと伝えておくよ!」
鍛冶屋に手を振り、今度は買い食いに行こうと商店のある方へ足を向ける。
オレンジの飴やソーセージに似た物を買い食いし、違うものを頼んで一口づつあーんで味見をする。ラムレーズンの小麦煎餅挟みを一口貰った時は、酒精の強さに少し驚いた。ああ、でもこの国は15でお酒が解禁だったな、と思い出す。黒曜は将来飲兵衛になるかも知れない。
あれこれ買ったものをちゃんと座って食べられる場所を探していると公園があった。ベンチに腰掛けてお互いあーんをしながら食べていく。欲張って買い過ぎたな、と思う。余りは家に持って帰ろう。
食休みに、露天で買ったフレッシュジュースを飲みながら黒曜に凭れる。黒曜はそんな私の頭に小さく口付けして、髪を撫でてくれる。黒曜に見とれる女性は相変わらず多い。が、美貌が過ぎて声を掛けるのは恐れ多い、という雰囲気だ。黒曜の顔が良すぎる事に感謝した。
少し近づこうとする者は居たが、黒曜が龍気を迸らせるとびくっとして逃げていく。
偶に、この国を守ってくださってありがとう、と礼を言いに来る者もいた。私の国でもありますから、と笑顔で返すと拝まれそうになる。いや、拝むのは勘弁して下さい。パレードで顔を見られた弊害か。
お互いの色のアクセサリでも買いに行こうか、と話していた時だった。
今まで様子を見るだけだった影が、目前に膝をついて現れた。
「一の若様。大変不躾で申し訳がないのですが、どうぞ某と手合わせをお願いしとう御座います」
「此処では困るな。それにデート中に野暮な事を言わないでくれ。それにしても影のフリをしてまでそなたが此処に来るとは思ってもいなかった。本国の守りはどうなっておるのだ」
「本国の守りには、拙めの弟子を5人配置しております。心配めされるな。冒険者ギルドなる場所で、若様との手合いをする場所を借りて御座います。時間も然程に取りはしませぬ。どうか」
今迄只管張り付いて様子見をしていた者たちだ。接触があるなら目的も解るだろう。
黒曜に目配せすると、溜息を吐きながら黒曜は了承した。
冒険者ギルドに着くと、言葉通り修練所の一画を押さえてあり、ギルドから、刃を潰した武器を渡される。
相対する2人を見て、ギルドに来ていた面子は賭け事を始めてこちらを遠巻きに観戦する。
「一の若様。本気で来ないと死にますぞ。纏龍技、千傭万禍!」
「なっ…本気かこのような場所で!」
影の壮年が千人ほどに数を増やす。遠巻きに見ていた者は、慌てて巻き込まれないよう端の方まで移動する。
「…纏龍技、千刃挽歌!纏龍技、夢幻の廻!」
千に膨れ上がっていた影の分身が、光る刃に串刺しになり、攻撃を仕掛けようとしては跳ね返って消えていく。
最後に残った本体は、恭しく両膝を揃えて傅いて居た。
「真、龍を制し、纏うだけでなく龍技をお使いになる様、しかとこの目で拝見致した。その場合のみ、とお館様より言伝がありまする」
「それは多分私の望むものではないだろうが、聞くだけ聞いてやる」
「ハッ。『これまでに例のない、高位龍、しかも成龍を御すとは天晴れ也。纏龍技も自ら編み出し、または成龍より読み取り、自由に揮えるのであれば最早そなたに瑕疵はなし。此れまでに無く強大な力を持つ者として、我の次代を担う事を赦す。疾く戻れ』…以上に御座います」
「断る。私は嫁の家か、其処に程近い家に住む心算だ。出雲へ帰る気はない。せいぜいまだ龍に苦しめられておると報告せよ。我が妻はこの国から出られぬ。聖女であるゆえに。」
「お館様に相談もなく婚姻を!?耶宋の家より婚約者が選ばれて居ります。勝手をなさっては困ります」
すっと私の手を取り、女神から与えられた指輪を二つ揃えて見せる。その瞬間にぶわりと光が舞った。
――私の愛し子とその伴侶の縁を結んだのは私じゃ。誰にも解かせはせぬよ。そのまま黒曜の苦しむ様でも頭に刻んで帰るがいい。
女神を象った光が舞った事に、ギルドの面子も思わず拝んでいる。
――黒曜は龍を御せず、苦しんでいた。
「一の若様は、龍を御せず、苦しんでいた…。」
――失望したお主はそのまま出雲へ帰る。
「出雲へ…帰る…」
――そうじゃ。疾く失せよ
「はい…疾く…失せます」
すっと影の姿が消える。女神の光もすうっと後を引きながら薄れ、消えていった。
詰めていた息をはぁっと吐き出す。
女神に礼を言うと、黒曜の手を取った。
「終わったな?」
「いや完全にはまだ終わってないだろう。爺の他の影が元気な私を見ている。爺の報告に違和感を覚えるだろうな」
「いーんだよ。一先ず終わったんだ。お前は龍とは何も関係がない1冒険者だ」
アクセサリを扱う店に向かい、確りと黒曜の手を握る。
「んー。黒金剛石に、小粒の黒真珠、でどうかな。私に似合うだろうか?」
「そうだな。服を選べば問題なく似合っている。私の色を纏うそなたは美しいな」
「照れるからここじゃよしてくれ。お前のはピンクゴールドにサファイアかな」
「ラピスなども、蒼の中に金色が滲んでいて美しいな」
「戦闘で割れないか?」
「ああ、そうかそれも考えるとサファイアかな」
打ち合わせて宝飾店で腕輪にして貰う。指に付けすぎるといざという時に骨折しそうだからだ。
ペンダントは真実の瞳と状態異常無効の2つが既にぶら下がっている。
アクセサリ店の店主はその場で腕輪に加工してくれ、私達はそのまま嵌めて帰った。
晩餐前の修練を全員で行っている時だった。ズシンと振動が響き、赤と黒の光の中に、1人の女性が囚われて行くのが見えた。
「…ファムリタ…?」
確り見えた訳じゃないが、顔立ちが薄っすら確認できた。ファムリタに似ている。
男性の良く響くテノールでハハハと笑い声が聞こえる。そうして光は落ち着き、何事もなかったように周辺は落ち着きを取り戻した。
ガサっと茂みが揺れ、ファムリタの監視員が傷だらけで倒れこんでくる。片腕がない。
グレーターヒールで欠損ごと、他の傷も癒す。
「すみません、取り逃がしました…」
「誰を?」
「ファムリタと、巨大な手を」
此方からは光しか見えていなかったが、現場では大きな手がファムリタを掴み、天へと連れ去られたように見えたらしい。
「いや、君が無事で良かった。相手も連れ去るくらいだ、今の所は危害を加えたりはしないかと思う」
光やら手やらが消えたのは魔国の方面だ。王は頑張っているのだろうが、もしかすると余計な邪魔をする者が出る可能性が高くなった。
あれは人の為した事か、神が成した事か。
願わくば、人の為した事であるように……私の手でなんとか出来る範疇に収まっていればいいのだが。
どうしても横槍が入るコンビですね。爺の報告にどこまで騙されくれるか。
読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!ファムリタさんは激動続きで大変ですね