47.魔族
王は意外とマトモな人です
早朝。朝の修練の時間で、黒曜に頼まれたケイタイを錬金して片方を黒曜に渡す。黒曜はそれを嬉しそうに受け取ると、大事に懐に仕舞った。
で、デートは、と言うと。
はい、ムリでした。王宮に呼ばれました。学園で起こった事を過去再生で見せられるよう魔石持って学園にも行きましたよええ。
過去映像を見た王が頭を抱える。直ぐに抗議文を手配し、魔国に送るようだ。
しかし、黒幕は確実に王宮に入り込んでいる。その文書も届くかどうか怪しい。
仕方なく私が文書を持って、黒曜と共に地図からの転移で魔国へ渡り、国王に目通りを願った。
案の定、国王は病気で寝込んでいるので、代わりに私が――という者が現れる。念のため名前を聞く。
エンジュ・デラ・メトセラと名乗った。財務大臣だという。何故財務大臣が他国との話にしゃしゃり出て来るのか、と一喝すると、こちらを睨みながら渋々引き下がる。
ついでに病も治してやるから国王に逢わせろ、と外務官に言うと、こちらを警戒しながら、国王の寝所へ案内された。
うわ。呪いと毒のオンパレード。確実に内部犯だ。
朦朧としている国王に、まずピュリフィケーション、次いでキュア、最後にグレーターヒールを掛けてやる。
国王は数度瞬きし、信じられないような顔で身を起こした。そして私に礼を言う。
呪いが跳ね返ったのだろう。先ほどのメトセラの悲鳴が聞こえる。兵に捕縛するよう願い、受諾される。先ほどまで王の顔に出ていたのと同じ痣をつけたメトセラがやってくる。
「毒はまだこいつだと決まった訳じゃないですが。呪いはこいつの所為ですね」
「なんと…」
メトセラは叫ぶ。
「人間の国と友好条約など結ぼうとする暗愚な王を消そうとしただけだ!人間の国など全部屠ってしまえば良い!家畜と友になれと言うのか!!」
顔を真っ赤にして言い募るメトセラに、私は静かに問いかけた。
「トルクスで行われた闘技祭に、学園を吹き飛ばすような仕掛けをしたのは貴様か」
「私はそんな些事には関わってない!」
真実の瞳がぎょろりと目を剥く。
「嘘だな。真実の目がそう言ってる」
「何故…そんなものを持ってる!?」
「第一王子を言葉巧みに唆し、実行犯にしたのは貴様か」
「私ではない、王子が勝手にやったことだ!」
真実の目は先ほどと同じ、嘘だと判定。
「その事で学園が吹き飛ぶか、王子が犯人とされれば、二国間の戦も立ち上がると思ってやったのか」
「…」
「沈黙は是と見做す」
メトセラは開き直ったのか、胸を張って答える。親指にナイフでも仕込んで合ったのか、縄が外れて下に落ちる。
「…そうだ。聖女だなどと嘯いて、人間の国の中でも目立って鬱陶しかった」
メトセラが剣を抜いたと同時に、黒曜も刀を抜いて警戒する。
「人間なぞ家畜だ!大人しく殺されろ!」
黒曜の腹に突き刺そうと剣を抱くように深く構え、体当たりするように黒曜にぶつかる。
剣は黒曜に届く前に刀に止められ、横殴りするような動作で刀が剣を弾く。
「…王よ、コレは好きにして問題ないか?」
「認めよう。随分そちらに迷惑を掛けたようで申し訳ない」
王の認可が下りた瞬間、メトセラの四肢が吹き飛ぶ。黒曜が切り落としたようだ。
「傷口は焼いて死なぬようにしろ。まだ関与している者が居るかも知れない」
「ひっ!ぃあああああああっ!!手、私の手、足が…!」
焼き鏝で血止めされ、更に悲鳴が響く。
「あがああああああ!!止め、痛い、あ。あああ!ああああああああ!!」
「こいつから、協力者が居るかどうか聞き出してくれ」
達磨となったメトセラは、更に拷問に掛けられるだろう。
そこで、私は過去再生で起こった事を全て王に見せる。
「なんという事を…ミュラーが済まない事をした」
「大人しく非を認めて我が国に正式に謝罪に訪れるというならば、貴方の息子の怪我も治して国に帰してやる」
「あ、ああ、まだ少し身体が上手く動かせないが、明日中には必ず…!」
ずっとベッドで寝ていたのだ。リハビリもせずに体を動かすのはムリだろう。
明日でも無理だろうから、魔道具で車椅子のようなものを作成させるのだろう。
「解った。時刻は?」
「昼過ぎの2刻ほどで」
「解った、伝えよう。謝罪と和解が得られる事を望んでいる」
そう言い残すと、私は黒曜と共にトルクスの王宮へ跳んだ。
ケイタイで連絡し、今から王宮に入ると伝えた。
王宮に入って玉座へ向かい、報告代わりに過去映像を流した。
「…全て、このメトセラなる者が勝手にやった事だと?」
「いえ、それはまだ裏が取れてないですね。協力者が居るかも知れません。王は瀕死でしたし、王位継承者が黒幕、というのもありえるでしょう」
「あちらの王には戦意はないと見ていいな?」
「恐らく。治癒代貰ってないんでせいぜい吹っかけてやるといい」
「はは、そなたは頼もしいな。前回の褒章がまだなのだが…今回の事も一緒にして倍派手にしてやろう」
「ぁは…はは…」
生徒会に証明してみせられるなら、もうなんでもいいや…。
しかし、蓋を開くと魔国のお家騒動かよ…。他所でやってくれよ…。
明日、約束の時間に同行するよう求められ、私達二人は学園を休む事になった。
次の日、宣言通りの時間に、魔国の王が王宮前に転移でやってきた。待機していた私達が、王宮まで案内する。王は秘書官のような者と共に、自動で動く座椅子のようなものに乗ってやってきた。振動が体に響くようで、苦しげだった王に、グレーターヒールを掛ける。内臓の何処かが限界なのかも知れないからね。するとかなり楽になったようで礼を言われた。
王宮に辿り着き、玉座の間への目通りが叶う。
「よくぞ参られた、魔国の王よ。トルクスが王、サンディレスト・エル・タスカニア・ド・トルクスが歓迎する」
「この度は身内の恥を晒してしまい、非常に申し訳なかった。私はデグレストが王、エルフェスト・デル・レヴンズ=エル・デグレスト。謝罪の為推参仕った」
二人は表情の読めない笑顔で挨拶を交わす。
「それで、そちらの国内での内乱は収まったのであろうか。我が国にまた胡乱な輩は来ないのであろうな?」
「あい申し訳ない、そちらはまだ調査中で何とも返事が出来かねる。成るべく他国に飛び火せぬよう気をつける心算でいる。私は出来うる事ならばこのトルクスとの友好条約を結びたい。だが、膿が出切るまで暫しお待ち頂きたい…」
「内政干渉は出来かねるのでそちらでの決着を待っておるが、余りに飛び火をこちらに向けるようならば、戦になるという可能性も考えていただきたい」
「ならこれを貸してやる」
真実の目は実は余り倒している。一つ貸すくらいなら訳もない。
「真実の目という。嘘を吐いた者を凝視し、真実を語った者のは目を閉じたまま淡く光る。カタがついたら返してくれ。それと――」
まだホーリーケージに囚われたままの少年を連れてくる。
「ミュラー!」
「おっと帰すには条件がある」
「条件?」
焦りの見える顔でデグレスト王がこちらを伺う。
「あまりに教育がなってない。常識をきちんと叩き込め。他所の国の学園一つ潰そうって時に、こいつは自分の心配しかしなかった。普通では有り得ない。そういう感覚がおかしいから、今回みたいな騒ぎに利用されたんだ、こいつは。次に私に逢った時に、改善が感じられないようならもう一度捕縛する。スパルタな教師を付けて心根の芯から叩きなおしてやる。いいな?」
グレーターヒールで欠損を癒し、ケージを解いてやる。ミュラーはバッと飛び出して、父に縋りつく。
「父上!病は治ったのですね!!こいつがちゃんと癒してくれたんですね!人間とは家畜のような者ばかりだと聞いていたので心配だったんです!」
…家畜、ねぇ。メトセラが教育に噛んでるな、こいつ。
「お前は…ッ!さんざん他国に迷惑を掛けた挙句に今何と言った!?家畜だと!?誰だそのような事を吹き込んだのは!!!」
「…えっ…家庭教師がそう言ってました」
手広いなあメトセラ教。
「人間と家畜を一緒にするでないわ!!我らと同じく国家を構え運営する、いわば同族の様な者達だぞ!!私は今のお前の発言だけでもとんだ恥を掻いた!」
「え?…え、あの…?同族?家畜じゃない?」
「済まなかった聖女よ。良く縊り殺さず私の元へ帰してくれた。本当に申し訳ない…ありがとう」
ミュラーが目を見開いて父の挙動を眺めている。大方、家畜に頭を下げるなんて、と思っているのだろう。
「私は…同族の者が死傷するようなモノを他国に仕掛けていた…事になるじゃないですか…」
「実際そうだと言っている!目を醒ましてこの場の者がお前をどんな目で見ているか確かめろ!!馬鹿者が!」
そろりとミュラーが辺りを見回すが、軽蔑する者、怒りを露にする者、まるで塵を見ているような者。友好的な視線などない。私は侮蔑している目を向けている事だろう。
ミュラーの顔が瞬く間に真っ赤になり、怒りを爆発させる。
「ち…っ父上!この家畜どもは教育がなってません!人をこのような目でみる家畜など無価値ではないですか!」
そんなミュラーを傍に呼ぶデグレスト王。
笑顔で近寄ったミュラーを思い切り殴り飛ばした。
「…え?なん…なんで…?」
「ダメだ…お前の継承権は剥奪する。その上で1から教育を受けなおして貰う。すまない聖女よ。暫しの時を頂きたい。きちんと性根から叩き治して見せます」
「なんで…っ俺ばっかり悪者みたいに!!酷いよ父上――!」
いきなりわあわあと泣き出す少年。でもね。此処って外交の最中なんだよ。
「泣いたら許されると思うな!そんな段階はとっくに過ぎている!お前は馬鹿で悪者でどうしようもない奴だと自覚せい!!」
叱咤と共に、再度父親に殴られるミュラー。
「ち…父上…」
きっと今まで泣き真似すれば許される場面が多かったのだろう。甘やかされて育ちすぎだ。
「本当に何度も…何度も失態をお見せして…申し訳ない、」
「子育てにはかなりの苦労が伴うとはいえ、確かに失態だな。聖女、そこな者の言動が外に漏れぬように出来るか。デグレスト王にこれ以上の心労を掛けるのは本意ではない」
「サイレントバリア。不透明」
さあっと内側の見えないバリアに囚われ、もうミュラーの悪態や、明からに此方を軽視する態度などが覆われて見えなくなった。
とはいえ、現状魔国とトルクスで友好条約がこの場で果たせる訳ではない。魔国は内乱を収め、王子の教育をやりなおす、という誠意をこちらに見せねばならない。
「必ず…必ず貴国と友好条約が纏まる様、誠心誠意動くと約束する。次は是非調印の間で会いたいものだ」
「そなたの気概だけはしっかりこちらに伝わっておるよ。そこの少年は本当に残念だったがな」
「そちらも…次には…どうしても治らなければ、王家からの放逐をお約束します」
「ふむ。それならばなんとかなりそうであるな。膿を出すには痛みも伴おうが、確りと頑張って見せてくれ」
「はっ・・・」
「じゃあそっちの少年のバリアは魔国についたら解放されるようになってるんで、安心して帰ってくれ」
「はっ、お目汚し、真に失礼仕った。これで失礼させて頂く」
ふっと王・少年・秘書の3名が転移で消え、私は肩から力を抜く。
「話し合いへの同席、本当に助かった。聖女よ、何か褒美でも…」
「もうこれ以上はお腹いっぱいですんで。褒美って言うなら何か珍しいものでも下さいよ。こう…ちょっと小さい赤っぽい実がふんだんに実る木とか、樹液がびよーんと伸びる木とか」
言われるまでもなく、コーヒーとゴムだ。
「…ほう?解った探しておいてやろう」
次に褒美って言われたらカカオを探してもらおう。
とんだ休みの日だった。へとへとだ。なんで大事そうな外交に私が混ざらなければならなかったのか。
うー、と唸りながら黒曜の肩に頭を預けながら歩く。黒曜はそれを、ガッチリ腰をホールドする事で支えてくれる。
「なー。次の休みはデートしてみよう、デート」
ぴくっと指先が動き、黒曜の目が吃驚したように此方を見る。
「…そなたはダンジョンに行きたがるとばかり思っていたが」
「へへ。偶にはいいだろ?あ。シュネー・アディとWデートはなしな。なんか堅苦しそう。こー。鍛冶屋でメンテナンスも兼ねて様子見に行ったり、屋台を冷やかしながら食べ歩きしたり、そういうのでいい」
それを聞いた黒曜が噴出す。
「それは散歩じゃないか?」
「いーの。2人で歩けばデートなんだって」
そんな他愛もない話をしながら家に帰る私と黒曜だった。
次に逢う時に、王子は王子のままなのか、放逐されているのか。小さい頃から常識として叩き込まれた事ってなかなか治らない気もします。
読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!本当は悪い子じゃないのでミュラーがどうにかなりますようにー