45.武闘祭
お祭りの開始ですね!
ハンデ、と称された手足に1つ100キロの錘付きのバンドが固定される。
おいおい、聞いてた重量の2倍あるんだが。まあこの程度ならそんなに支障はない。
基本的にどのクラスもダンジョンに入っている者を出してきているようだ。だが、チラホラとそうでない者の姿も垣間見える。そんな選手たちを眺めていると、信じられない人物を見てしまう。
――ファムリタ!?座学のみのクラスから人を出せるのか!?いや、どうやって闘う気なんだ?
ダンジョンに行ったようにも見えないファムリタの姿に暫し唖然としてしまう。
そんな私に気付いたのか、ファムリタが私の前でニヤリと笑う。
「あたしは来期から総合Sに行くのよ。教師だって今日の頑張り具合や実力次第で相応しいクラスへの転入を認めてくれたんだから!黒曜様の隣に座るのはあたし!」
あー。相変わらず形振り構ってられないんだな。凄いな。でもこの執念で練習したのなら、ちょっとは使え…いやムリだな。ダンジョン入ってないもん絶対。
ギラギラと光る目で高笑いなんてするもんだから衆目集めてるぞー。
予選はそれぞれ、総合・武術・魔法の3つに別れ、最後までこの3つのグループが交わる事は無い。
武闘会予選はそれぞれ6人づつに別れ、うち1人が勝ち上がりとなる。其処から準々決勝、準決勝、決勝となる。
今日は予選と準々決勝までだ。そこで3人にまで絞られる。準決勝では1人は相手が居ないのでラッキーとなる。
予選会場でAブロック、と言われてそちらへ向かうが、同じブロックにメリウェルさんを見かけた。思わず目頭を押さえる。多分生徒会だ。やってくれる。
「拡声!審判!同じクラスの者はなるべく遅く戦闘になるよう調整されていると教師に聞いたが、予選で既に同クラスの者が居るがどういう訳か聞かせて欲しい!」
「拡声!マリー!武術と魔法も予選で被ってるよ!どう考えてもわざとやったと思われるよ!」
拡声を使ってやりとりをした事で、観客席にも校長にも丸聞こえだ。
「拡声!こんな事で姑息な手出しが出来るのは、生徒会だと思われるが、心当たりはないか!?嘘を吐いたら天罰の雷(極弱)が落ちるよう女神に祈り賜う!」
「俺たちがそんなズルする訳な…ぎゃああっ!」
「そんな姑息な手を私達が…うがあああ!」
「拡声!武闘会準備委員会と教師は校長の見ている前で試合表の組み直しを提案する。このような八百長は認められない!」
「やってないって…いやぁあああ!」
その後も物申した生徒会のメンバーがほぼ全員雷を喰らい、私達の6人と生徒会の6人の試合カードがまるっと交換される、という措置で試合をする事になった。
「おのれ…マリエール…」
何故か恨みを買っているが、自分達のした事がそっくりそのまま帰ってきたんだから文句言うな。生徒会は失格、と言い出した者も少なくない状態だったのを、参加だけはさせてやってもいいのでは、と私が口を挟んだから、辛うじて試合に参加出来るんだ。有り難がられる覚えはあっても恨まれる覚えはない。
もうすっかり生徒会は生徒の信用を失っていたようで、観客席からは「生徒会は失格にしろー!」などという野次が飛ばされる。余りの屈辱に、生徒会メンバーは真っ赤な顔でブルブル震えながらこちらを睨んでいる。
そんな反応するくらいなら、最初から仕掛けて来なければ済んだものを。馬鹿しかいないのか生徒会。
さて。新しく配られたカードはSブロック、メリウェルさんはEブロックだ。成程最後まで当たらない配置だ。
ブロックの闘技場に上がる6人づつの生徒。其処にアナウンス役の生徒から生徒会の不手際を詫びる文言と、ブロックに入った生徒の紹介が軽く入る。
私達の紹介文がかかれた紙には一瞬顔を引き攣らせ、紙をぐしゃりと握りつぶした。アドリブでの紹介をされる。
「えー、Sブロックのマリエールさんは冒険者ギルドでも高い評価を受け、最高クラスに属しています。本気を出させる事が出来れば御の字、むしろ出させないで下さい、死人が出ます!」
いや、紙になんて書いてあったか知らんが、その紹介もどうかと思う。間違ってはいないけど。
他のSブロックの者たちも紹介されたが、ギルド評価やどれくらいダンジョンに潜っているか、などの紹介をされていた。
そして、生徒会の紹介をしようとして、また顔を強張らせて紙を握りつぶす。
「はい、今回姑息な手で勝ちあがろうとした生徒会会長ですね。しかし、ギルドでもクラスAを手にしているとの事。何処まで勝ち上がれるか!」
「アナウンス!どうして僕たちが用意した生徒紹介を読まない!?」
「他人の悪口がふんだんに入っているからですね。次行きます!」
生徒の紹介が終わると、私達は木刀などの殺傷能力の低い武器を構えた。――んだが、隣のAブロックから鈍く光を反射する金属の輝きが…。
「はい、そろそろ失格にしますよ?」
「何故だ。刃は潰してある」
「全員木刀で統一してるのに金属持ち込んで良い訳ないでしょう」
物凄く不本意そうな顔で、金属から木刀へ持ち替える。生徒会メンバーの用意した武器はどれも全員の持っているものよりグレードが高かった為、生徒会全員が木製の普通の規格のものに変えられた。
そして各々のダメージドールに魔力を込める。予選だからか1体のみだ。ステージから落されるか、参った、と負けを認めるか、ダメージドールが破損するか。この何れかで負けが決定する。
「では、試合を始めます。各ブロック1名のみになるまで闘って下さい!では開始!」
開始の合図と共に、気を纏わせた木刀で全員の胴鎧を薙ぐ。ダメージドールが弾け、Sブロックで残ったのは私になった。
隣では会長と書記をステージの端まで追い詰め、結託した4人が木刀を振るっている。数の暴力で抑え込まれた会長と書記はダメージドールが破損する手前で技を繰り出す。
「風刃!!」
「トルネードストライク!」
囲んでいた4人は反撃が有るとも考えて居なかった様で、4人全員のドールが破損した。
「じゃあ会長、僕は降参するんで後は宜しくお願いしますね」
とんっとステージから降りた書記は観戦席へ向かった。
ふと決着のついたCブロックを見ると、なんとファムリタが勝ち抜いている。素直に凄いと思う。
Eブロックはメリウェルさんが勝ちを拾ったようだ。肩で息をしながら1人立っていた。
BとDは見たことのない生徒だったが、ダンジョンに潜って鍛えているのが解る。恐らく平民だろう。他のダンジョン通い組の中でも頭一つ抜けてると感じた。
今日は準々決勝までで、明日が準決勝と決勝だ。あと1回、今日闘うのは隣ブロックの生徒会長だ。ちょっと色々やり過ぎで腹が立つからな。ほんのちょっと本気が混ざるかも知れない。いや、殺す気はない。
ここからは、1戦毎に試合をする。並んで同時進行したりはしない。
私が準々決勝で闘うのは第一戦目だ。昼休憩を挟んで行われる。1時間後、という事で時計を確認しつつ、全員で朽ちた東屋に転移。リシュの用意してくれたご飯を食べて気力充実だ。
食べながら情報交換する。
「私は次で生徒会長と当たる。書記は降参済みだ。メリウェルさんも勝ち抜いてる……解せないのが、ファムリタも勝ち残ってる事くらいか。凄い執念を感じた」
全員が驚いたようで、間抜け面を晒している。
「あー、ウチは順当に黒曜も私も勝ち残ってるよ。次の試合では生徒会とは当たらないね。生徒会は会計が棄権したよ。残ってるのは生徒会長補佐かな。」
「わたしのところは~シュネーもわたしも勝ち残ってるよ~。生徒会副部長が次でソラルナと当たるみたい。広報が棄権した~」
生徒会、準決勝に残れるかも知れないのは生徒会長補佐だけか。
食事も終わって、ステージの方へ寄ると、ダメージドールが5体に増えていた。3つ破損した段階で決着、となるらしい。
他の選手もちらほら帰ってきており、私はダメージドールに魔力を充填させていく。対面で会長も魔力充填させており、終わり次第向かい合う。
「第一試合はSブロック、1年Sクラス、マリエール・フォン・サリエル。VS Aブロック生徒会会長、ナゼル・ジル・アズウェルステージに上がりなさい」
私達はステージに上がって向かい合う。
「始め!」
はじめ、を言い終わらない間に、生徒会長の木刀が私の目を狙う。私はそれを木刀で絡め取り、場外へ投げ捨てる。
瞬歩、居合い抜き、胴。ダメージドールが破損する。返す刀で袈裟切り、ダメージドールが破損する。喉元に突き、ダメージドールが破損する。3体破損した時点で私は攻撃を止めた。一連の動作が速すぎて飲み込めないのか、会長はポカンと口を開けて私を見る。慌てて魔法を構築しようとするが、審判に止められる。
「なっ!?私はまだ攻撃してない!試合続行だろう!?」
「会長のドール、3体破損してますのでこれで決着です」
「何かがびゅっと私の周りを飛び交っただけで、あいつの攻撃じゃない!!」
「審判、スロー再生お願いします」
私の動きがスローで再生されると、漸く事態を飲み込んだ会長が唖然とする。
「なん…なんだ…これ…人の動き…じゃない」
「納得したならステージから降りろ、会長」
「私はまだなんの技も見せていない…!卑怯だぞ!!」
「卑怯なのはフライングで私の目を突きに来た会長な。私は真っ当に勝っただけだよ」
「な…な…っ」
そこで審判が割り込んだ。
「Sブロック、1年Sクラス、マリエール・フォン・サリエルの勝利」
わあっと歓声が上がる中、会長は肩を落してふらふらとステージを降りた。
次はCブロック VS Dブロック、実は興味がある。ファムリタがどうやって勝ち上がったのか?
まあ流石に今回は凄く努力している平民の冒険者が相手だから負けるだろうけども。
「Bブロック、2年Bクラス、カッツェル VS Cブロック、1年座学部、ファムリタ、ステージに上がりなさい」
ステージに上がるや否や、ファムリタから負のオーラというか凄く黒いものが放出されるのが解る。そして鬼気迫るぎらついた目で相手を睨む。余りの迫力に相手の腰が引けている。
「は…始め!」
「キィェエエエエエエ!」
怪鳥のような鋭く大きい声で相手を威嚇し、余りの怖さで一旦逃げに転じようとした相手を許さず、背に短刀で一文字、マウントを取って体中を滅多刺しにする。瞬く間にダメージドールが3体破損し、ファムリタの勝利となった。
うわ。なんだこれ…いや俺でもこんなのが目の前に居たら怖いわ。執念を昇華させたらこうなるのか。
ぞぞっと背を粟立たせながら、私はファムリタの勝利宣言を聞いていた。
次の試合はメリウェルさんだ。何処まで喰らいつけるかな。相手の平民の子の方がちょっと強い。
「Dブロック、3年Sクラス、ラティスタ VS Eブロック、1年Sクラス、メリウェル・クラスト、ステージに上がりなさい」
メリウェルさんは緊張を隠せない様子でステージに上がる。位置について、木剣を構える。
「始め!」
「ハァッ!」
合図の直ぐ後に、相手に向かって乱れ突きが飛ぶ。それを後ろに下がって難なく回避した相手は、側面からメリウェルさんの胴に1発。ダメージドールが破損する。が、その後の隙を突いて、メリウェルさんが相手の首を水平に薙ぐ。
ダメージドールが破損する。更にメリウェルさんの方へ体を向けようとした相手の足を払い、脳天に一発。ダメージドールが破損する。立ち上がる隙にもう一発を打ち込んだが、流石に警戒していた相手に受け止められる。受け止められた剣を絡ませ、落す。驚愕した顔の相手の顔を横殴りにもう一発。3体のダメージドールが破損し、メリウェルさんの勝ちが決定した。
上手く教えた事を使えている。凄いじゃないかメリウェルさん!
「Eブロック、1年Sクラス、メリウェル・クラストの勝利!」
こうして、総合の方はかなり波乱な内容で決着した。
武術の方は黒曜とアディと生徒会長補佐が残ったとの事。
魔術の方は、リシュ・シュネー・ソラルナ、と見事に身内勝負だ。
まあ、勝っても負けても恨みっこナシのお祭りだ。存分にやれば良いとおもう。生徒会長補佐は頑張って生きろ。死ぬな。
ファムリタさんは威圧勝ちというのか恐怖勝ちというのか難しいところです
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