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5.マリエールがやってきた

そのうちマリエール無双な話も入れたいですねえ

 久々に娘に逢えた私は上機嫌だ。クリーンも(はかど)るというものだ。


 下拵えをした時から料理長が食事を分けてくれるようになった。


「どうせ飯を抜かれているんだろうから、(しっか)り食え」との事。有り難く頂く事にする。丸パンをそのまま齧っていると驚いた顔をされる。なんだろうか。確かに()()()()()()()()()食べ物だが珍しい食べ方でもしてしまったのか?


 あ、と気付くとぼろぼろと食いカスが下に落ちている。それを見て申し訳ない顔になる。崩れやすい食い物だからそんな顔をされていたのか。シチューのようなものは美味しかった。食べ終わると床の食いカスと食器にクリーンをかけて食器を戻した。


 実のところ、ファムリタが娘なのではないかと少し疑って居たのだが、どうにも解らない。だが、様子を見ていて早紀はこんなに性格の悪い娘ではなかったように思う。別人だと判断した。


アディについて行っても良かったのだが、元が付くとはいえ夫婦であった美鈴の下へ駆けつけたい。スラムで孤児になどなってはいないだろうか。あのふわふわした性格では身ぐるみ剥がれて打ち捨てられていてもおかしくはない。心配だ。


 いつもの時間だ。依頼を受けに出るとするか。


 この領では冒険者のクラスが平均的に低く、クラスAは私だけである。


その為、難易度が高い依頼が残りがちで、塩漬けになってしまった依頼もあるという。少しづつこなして塩漬けにならないよう依頼を引き受けているが、私は使用人の仕事もある為、泊まりになるような仕事は受けられない。アディが登録していたから、少しは改善するだろうか?


 しかし、ランクCなら数人は居る。クラス規定で1つ上のランクまでしか依頼を受けられないので、暫くは現状維持、といった所か。レベルは思っていたよりごりごりと上がる為、今の私のレベルは26だ。


 そう言えば、最近男爵家の取引先が何故か激減しているという。これが厄というものなのだろうか?


 考えているうちに冒険者ギルドに到着。酒場スペースの一つに、アデライドと、もう1人見慣れぬ少女が2人で雑談している。


「アディ?」


「あ、マリエール!おはよう!昨日ね、紹介しそびれた人が居るんだよ」


「隣の少女か?」


「そうそう!美鈴ママなんだよ!双子の姉妹なんだ、私達」


「美鈴!?」


「今はリシュリエール・フォン・サリエルだからね。リシュって呼んで上げて」


 リシュは暫くマリーを眺め、涙を浮かべた。そっとマリーを抱き締めるリシュ。


「アナタ…嬉しいわ逢えて…!でも虐げられて居たのね…酷い体だわ…もし良ければウチに…」


「行く。そちらのご家族の邪魔になってしまうかも知れないが、美鈴の居る場所が俺の居場所だよ。厄介になる代わりに下働きしても良い」


「マリー、メイドさん達や下働きの人達の仕事を奪っちゃダメ!もう父母に相談して、引き取って養子にしてもいいって言って貰ってるんだよ?部屋も余ってる。だから一緒に暮らそうよ」


「準備万端だな…」


 苦笑するマリーに、アディはにっと笑いかける。


「私だけじゃなく、ママも居たら多分マリーはこっちに来るって思ってたからね。想定の範囲内だよ!善は急げって言うし、荷物持ってウチに一先ず来てくれる?」


「荷物などないな。今身につけてる服と長剣くらいだ。魔獣の素材はアイテムボックスに入れてあるから問題ない」


「え。ちょっと男爵家潰していい?」


 (年頃に差し掛かるレディが替えの服の一つも、小物一つもない、とはどういう事だ!

 因みに父が今、養子の交渉に行っている。こんな扱いをするくらいだ。幾許(いくばく)かの金銭で解決するでしょ)


 リシュも怒っているのか、不穏な空気を纏って笑っていない笑顔になっている。

「いやいや、他人様の家をこんな事で取り潰してはいけないよアディ。」

 そういやロスク君は凄く良くしてくれたのに申し訳ないな。でも私は美鈴の傍に居たいんだ…ロスク君には謝罪の手紙と…後、ドラゴンの牙でも贈っておこう。

 依頼を受けずにそのまま馬車に乗せられる。暫くすると城の様な外観の建物が見える。

 もしやと思っていると、思った通りに馬車はその城へと入っていった。



 どうやら養子交渉は上手くいったようで、先に父リクハルトは屋敷に戻っていた。母ラライナは隣に並んで立っている。リシュはマリーと手を繋ぎ、微笑みあっている。


「この方が貴方達の前世の父…?」


 柔らかい声でラライナが問うと、マリーは頷いた。


「妻と娘がお世話になっています。前世は男でしたが、女に生まれ変わりました。」


「そう…それにしても酷いわ…マトモに食べても寝ても居なかったでしょう。」


ラライナは父を眺め、ガリガリの体と、深く刻まれた隈を見る。


「そう…ですね。食べ物には困っておりましたが、最近は自力で稼いで食べ物を買える様になりました。隈は…私の修行不足です。道具倉庫で上手く丸まって寝るのが難しかったので…」


「なんてこと…!うちに来たからにはもうそんな心配はありませんよ!ゆっくり眠って欲しいところだけど、先にこの書類にサインだけ貰っても良いかしら?」


 養子手続きの書類を差し出され、丁寧にサインを入れる。後で王城に提出するらしい。


「妻や娘とまた家族になれた事に、深く感謝します…!」


 深く頭を下げ、感謝をしめすと、父リクハルトが少し笑う。


「どうやら本当に同郷の方の様だな。何かあれば頭を下に向ける仕草は、そちらでは普通なんだろうか」


「感謝や失礼をした時はそうですね、頭を下げます」


「…念のためなのだが、鑑定をしても良いだろうか?」


「ええ、どうぞ」


「ではいきますね~、鑑定!」



 マリエール・フォン・サリエル/聖女(盤倉(いわくら)圭吾)14才/女


 レベル62


 HP10310/MP16201

 力9523

 体力8200

 精神力10600

 知力7200

 忍耐13350



 徒手空拳10

 刀剣術10

 礼儀作法5

 生活魔法10

 光魔法7

 アイテムボックス7<new>

 雷魔法<未取得>

 火魔法<未取得>

 時空魔法3<new>


 大物狩り(ジャイアントキリング)

 生態クラッシャー

 ドラゴンキラー

 ビーストキラー

 女神の愛し子


 ※今世と前世のパラメータがどちらも反映されている珍しいケース。聖女の称号の所為である。ステータス成長にも影響がある。また女神の愛し子の称号で、大切にされていれば常に幸運を引き寄せる。レベルとパラメータの上昇度は他に類を見ない。


「マリエール君」


 ソラルナ兄が儚い笑みを浮かべながら言う。微妙に振動している。


「だめだ、突っ込みきれないんだけど、人外じゃないんだよね。聖女?なんだよね?」


「聖女が現れたなら報告義務があるのだが…」


「それでマリーさんが、王族に取られるなら報告して欲しくないんですけど~?」


「いや、聖女が望む生活が送れるように差配(さはい)される筈だ」


 一瞬暗雲を背負ったリシュがすぐに笑顔に戻る。


「それならいいですよお~」


「あ、マリーずるい!1人でドラゴン倒してる!私も倒したい!!」


「私はアイテムボックスというのが気になるわ」


「あ、それは冒険者登録した日にですね…」


 詳細を話し、括りに「時間停止している大きなモノ入れみたいなものです。ドラゴンの死体も入ります」という。


 それを聞いた家族が一心に「アイテムボックス…アイテムボックス…」と呟き始め、少し経った頃にアディが「あ。出た!」と嬉しそうに顔を輝かせ、遅れること暫し、リシュが「出ました~!」と喜ぶ。


 転生組しか通用しないやり方なのか、他の家族には出なかった。


「私生活魔法が使えなくて微妙に不便だったんだけど、今のやり方で取れるかな?」


 生活魔法、生活魔法、と暫く呟いていると、不意にアディの顔がにっこり笑顔に。


「とれた!」


「転生者とは規格外なものだな。こうも簡単にスキルを得たり、パラメータが異常だったり…うちはドラゴンが来ても問題ない戦力がある事になるな…」


 リクハルト父が遠い目で呟く。


「ああ、そうだ。娘と夫婦であったと聞いたが、今生は女性。リシュを嫁にやる訳には行かないが、納得して貰えるね?」


「ええ、私はリシュが幸せになっている所を傍で見ていたいだけですから。逆に悲しそうな時は元凶を潰そうと思います」


 思いの外欲のない、しかし物騒な応えが返ってくる。


「リシュとまた家族になれた……充分幸せですよ」


 ふわりと微笑むその表情が、真実である事を知らせている。


「「「何はともあれ、サリエル家にようこそ。マリエール・フォン・サリエル君」」」



 その日のうちに養子手続きは行われ、聖女である事も王家に届けられた。嬉しそうに微笑むマリーだが、採寸されてドレスが何着も作られる事に頬を引き攣らせた。


 あまり良い装備でもなかった為、明日はアディ行きつけの武具店で装備と武器を新調してくれると言う。目立つものを持つと全てファムリタに取り上げられる為、良い物が買えなかったマリーはその話に顔を輝かせる。


「はは…参った、参ったよアディ。リシュ。此処の世界に来て初めて私は凄く幸せだ!ありがとう、ありがとうサリエル家の皆さん!」


 嬉し涙をぽろりと零すマリーを、家族皆で囲んで抱き合いながら笑いあえる。幸せだ!



 因みに居なくなったマリーに寂しい思いをしていたロスクは、後日届いた牙を見て、苦笑いを零す。


「マリー、何か合ったら牙を渡しておくのは習い性なのかい…?」



 そしてファムリタは荒れていた。


「なんで高位貴族の養子に行くのがあたしじゃないの!?マリーなんてみすぼらしい女を選ぶなんて!公爵家の目が腐ってるとしか思えないわ!」


 部屋の中の物に枕を投げて癇癪を起こすファムリタに、家族は近づけなかった。


 ガリガリと爪を噛みながら苛立ちをベッドにぶつける。


「あのボロの貫頭衣(かんとうい)を着た、ガリガリの女の何が良かったのかしら…いくら考えても解らないけど、何の取り得もないパパを引き取った事で後悔するんだわ。そこにあたしがこの美貌で現れれば…ふふ。なんだ、簡単じゃない」


 ファムリタの自己評価は高い。まだ光魔法は発現していないのだが、入学までに発現すると思い込んでいる。


「そう、あたしは聖女になるんだから、心配する事なかったじゃない。役立たずが消えて清々したわ」


 学園に入れるのは15になってから。そしてステータス確認やデビュタントはその後に行われる。そこで自分は開花する、とファムリタは機嫌を直す。


 そろそろ新しいドレスが欲しいと呟くが、最近の父は金を出し渋るようになってしまった。型遅れなんかのドレスを着て歩けば娘が恥を搔くと思い至らないのだろうか。


 ファムリタには家の財源がガクンと減って、贅沢をしている場合ではないと言う事が解らない。


「あー、もう皆使えない。こういう時に憂さ晴らしできる汚い玩具は居なくなっちゃうし!」


 まあいい。デビュタントにもしマリーが出てきたら、思いっきり派手に馬鹿にしてやる、と不満を飲み込み、ぼすん、とベッドに沈み込む。


「ちょっと。部屋が荒れているんだけど?早く清掃しなさいよ。気がきかないわね」


 慌てて駆けつけた使用人がファムリタの壊した残骸などを片付けていく。



 そう、あと1年。1年我慢すればいいのだ

マリーが食べていたパンは、石のように硬いパンです。シチューやスープにつけて、柔らかくすればなんとか歯がたたなくもない、といったシロモノであるため、ビックリされていましたw

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