42.久々のダンジョン
超高難易度ダンジョン。皆はボスを倒せるのか?
今回選んだのは、シグニスの辺境、ナスレル連合国との国境にほど近い場所にあるダンジョンだ。超高難易度、とされていて、だからこそ高位冒険者で挑戦する者が後を断たない。それでもクリアされる事はなく、死人も多いとされている場所だ。通常の高難易度ではもう物足りないだろうと思って選んだんだが、それだけに皆に確り言っておかねばならない。
「今回のダンジョンは超高難易度だ。いつも通りでは通じない可能性もある。皆慎重に行こう。あと、60階層で終わろうが終わってなかろうが、其処で一旦戻るんで。残っていれば来週挑戦すればいいだろう。どうだろうか?」
「うーん。ちょっとだけ残るのってあんまりスッキリしないけど、難易度が高いならしょうがないかな」
「じゃ、そういう事で」
リシュには一応、昼食と晩餐の両方を用意して貰っている。棒飴もスポーツドリンクも万端だ。
しかし超難易度とはいえ、私達のレベルで通用しないダンジョンはそうそうないだろうけれど。緊張感は大事だ。
一歩中に入ろうとすると、ギガデストロールがひょっこり出てきた。
「「「「「「「……」」」」」」」
誰だ、挑戦する者が後を断たないって言ったのは。受付嬢。お前が犯人だ。
もしくは浅層だけちょこっと潜る程度の者しか居なかったから奥の方で氾濫したのか。
出てきたトロールの首を狩った私は、気の抜けた声で指示する。
「あー。全員洞窟の中に向けて範囲魔法」
「「「黒禍」」」
「聖なる渦潮」
「「大禍の嵐」」
「獄炎の宴」
「崩壊の雨」
うん、皆本気の範囲魔法撃たなくても…いや人のこと言えないんだが。多分過剰戦力だこれ。
すっとダンジョンに入ると、かなりの範囲が開いていた。
私は正面の廊下を「轟聖縦断」で一気に駆逐する。逆側の廊下は他の面子の範囲魔法でほぼ倒れている。
やはり、敵が強いと言っても、私達のレベルが上がっているので通常とあまり変わりがないようだ。
程なく1層の掃除が完了。刀技1発では死なない敵も混じっていたので奥の方の魔物と混じっている。明らかにスタンピードが起こるギリギリの水際のようだ。
「もう奥の魔物も混じってるんで、皆、今のやり方で行けると思う。ただまあ、少し強いのも混じっているので気を抜かないように」
そこから19層までは同じやり方で掃除を進めて行く。
20層にはボス部屋の扉があったので、一旦休止。各自体を休め、水分を補給する。
少し経ったらボス部屋へと向かう。扉を開けつつ鑑定を掛ける。
「鑑定!悪魔ゾーラ!弱点は光・聖・氷、斬撃!」
「「「凍れる世界の刃」」」」
「纏龍技、双極の限」
「「風斬りの鎌鼬!」」
「聖刃の霧雨」
「重鈍器、荒ぶる神の厄災」
各々の単体最高魔法と纏龍技、そして私の魔法を空気と共に吸い込んだ魔物は悲痛な声を上げて沈んだ。
20層だもんな。過剰戦力だよな。ボスには60層に期待しよう。ぽろんとドロップが出る。
悪魔の短剣・神鋼・呪われし女神像。
短剣は呪い付きの上、攻撃力がさほどないので使い道がない。とりあえず神鋼と一緒にアイテムボックスへ。
呪われた女神像は、呪われてるのが不憫なので呪いを解除した。
「ピュリフィケーション、キュア」
一気に神々しく光輝く女神像。鑑定すると、ダメージドール。所持者のHPの10回分まで身代わりする。とある。誰に持たせようか悩んでいると、また押し付けられた。身代わりのタリスマンも私が持ってるんだが!両足溶かした事を全員まだ覚えているようで、頑として譲らない。仕方なく私が持った。
昼食にしようかと声を掛けるが、まだお腹はすいていないようで、30層か40層辺りで食べたい、と言われる。じゃあ小休止としてお茶だけ飲もう、と提案し、受け入れられた。お茶請けはアップルパイをホールで2つ。
それでも8人も居るので食べきれないという事はなかった。
次の層もその次の層も、段々と奥の魔物の比率を増やしながらも同じくすし詰め状態だ。
結局39層までは変わらず同じやり方でお掃除。
そして40層。ボスの扉がある。倒してから昼食にしよう、と言う事で同意。私は扉を開いた。
「鑑定!アークケルベロス!弱点は光・聖・氷・斬撃!」
「わん!凍結の縹渺!!」
自分が呼ばれたと思ったのか、嬉しそうにケルベロスがペットハウスから出て攻撃する。綺麗に凍りついた敵の姿に御満悦だ。褒めて!と強請ってくるのでよしよしと頭を撫でる。アークケルベロスVSケルベロスはケルベロスの圧倒的勝利で終わった。
「…ブロークン」
ケルベロスの言葉に従い、芯まで凍りついた魔物の氷漬けがガラガラと崩壊する。同時にドロップアイテムが降ってきた。
魔獣の首輪・神鋼・魔獣の宝玉
鑑定すると、魔獣の首輪は奴隷の首輪の従魔版だった。要らないけど悪用するヤツは居るだろうからアイテムボックスのこやしに追加。魔獣の宝玉は錬金アイテムだった。二つに割ると互いを引き寄せようと見えない魔力の糸で繋がる…携帯電話が完成するかも知れない。嬉しい。
此処で、昼休憩。皆で昼食を食べる。相変わらずリシュは何を作っても美味しい。
「さっきのドロップで携帯電話が完成しそうなんだけど一番連絡が遅れそうなのって何処だろう?」
「「「「「「リクハルトとラライナじゃない?」」」」」」
あ、やっぱりそう?同じ学校でも学年が違うから微妙に連絡取り辛いソラルナにも渡したいんだけど。
「帰りにもう一回40層寄ってもう一個取って、一組はリクハルトとラライナ、ラライナとリシュって感じで渡すと全員に早く連絡が取れるかな。出来れば3つ取ってソラルナとアディに渡したかったんだけどな」
「なんでマリーが連絡役じゃないの?」
「私が持つと、トラブルに巻き込まれて連絡取ってる暇がない、という事が起こりそうで…」
「なるほど否定できないわね。取りあえず此処で再ポップ待ちでもう一体、帰り際にもう一体…無理かしら?」
「いや、晩餐持ってきてるから出来なくはない」
「じゃ、取りあえず再ポップ待ちでゆったりしましょう」
ラライナの提案で、まったりお茶をしながら時計で時間を確認する、3時間でリポップすると聞いているからだ。
やっぱり時計は便利だ…有難うマルクス。
もう少しでリポップ時間、という所でお茶会セットは片付けられ、全員が身構える。
そしてボスが再登場するや否や、全員の単体最高魔法が炸裂し、1秒もせずにお亡くなりになった。
こやしと神鋼と魔獣の宝石をゲットする
アイテムボックスに突っ込んで、41層へ進む。
みちみちと筋肉が鬩ぎあっている。まあ、それでもやる事は同じなんだけどね。
そろそろ轟聖縦断1発だけでは死なない敵がちょこちょこ出始めている。まあ、2発撃ったら死ぬんだけど。
代わり映えのしないやり方で59層まで。60層の扉が見えてくる。
小休憩を入れて喉を潤す。そして扉を開けると同時に鑑定した。
「鑑定!悪魔バエル!弱点は聖・光・雷・斬撃!コアは体の中心部だ!」
頭は3つ、猫・人・蛙、下半身は蜘蛛だ。
「ライトニングエンチャント」
雷を付与した刀で思い切り蛙の頭部を切る。半分になった首の厚みを、勁でゴリ押し、完全に断ち切る。
隣の人の首を纏龍技、双極の限で削り取るのは黒曜だ。
残り、猫の首を落とそうとした所で、ソラルナの重魔法でグシャリと潰れる。
全ての首を処理したので、息絶えるだろうと構えて待っていると、むくむくと落としたり潰した筈の頭が生えてくる。
「しまった、核破壊でないとダメのようだ!」
ガサガサと距離を詰め、猫の頭は黒曜を齧ろうと、人の頭は私にブレスを掛けようと、蛙の頭も私に溶解液を掛けようとしてくる。
「っホーリーウォール!」
隣の黒曜もウォール内に退避してくる。
範囲魔法を全員で掛けて内部のコアを出すほうが良かったようだ。
さっと瞬歩で間合いをとると、待っていたように他の面子が範囲魔法を撃つ。ボスだけあって大きいのだ。単体魔法では効率が悪い。
「幽体憑依、――九の型・無限乱刃!」
「「「黒禍」」」
「「大禍の嵐」」
「獄炎の宴」
「纏龍技、千刃挽歌!!」
大きく削れた、と思ったところに、蛙の頭があった場所から大量の溶解液が降ってくる。
「ホーリーシールド!!」
全員の前にシールドを掛けるが、止め切れずに決壊した溶解液が私の半身に掛かる。
どろりと溶け出す肉を覚悟したが、懐でバキっと割れる音がして、私の半身はどこも溶けずに済んでいた。
割れたのは先ほど手に入れた女神像だ。――核はもう半分顔を出して見えている。
「飛燕6連!」
核に6連撃を与えると、ピシリと石の割れる音が聞こえ、蜘蛛の下半身もその場に頽れた。
警戒を解かないまま見つめていると、ぽたりとドロップが落ちてくる。
バエルの槍・神鋼・バエルの碧玉
現在シュネーが持っている槍より、少し強い。バエルの槍はシュネーに。
バエルの碧玉は、日に1度使え、10分間無敵になるというアイテムだった。私に押し付けられた。
「また今回危ない目にあったのはマリーだからね!?自覚して!!」
と、怒られた。
約束の60階層まで達したので、40層に一度アタックして玉を手に入れてからリターンで戻る。
そして冒険者ギルドへと報告をしにいく。
「なんでまたスタンピードに立ち会ってるんですか???おかしくないですか!?」
「アンタが挑戦者が後を断たないって言って紹介してくれたダンジョンなんだ。不思議だよな?」
「…ゴホン。不幸な事故だったようですね。まだ未踏破、猶予は3日程度の状態だと?」
「ああ、60層まではクリアしたが、まだ奥に続いている」
「超高難易ダンジョンを!!スタンピードの状態で!!!1日で60層!!!!!もうホント意味が解らないですよ家族の塒さんのやる事は!!!バケモノ姫!!!」
「ああ、ボスは20層悪魔ゾーラ、40層アークケルベロス、60層悪魔バエルだった」
「悪魔バエル!!?そんなの普通の人間には倒せませんよ…!紹介した私グッジョブ…!!!」
「そういえば、黒曜をパーティに入れておいて欲しいのと、―鑑定。この映像をギルド本部に送って、ランクいくつにするのがいいか聞いておいてくれ。今Eなんだ。」
記録した魔石を渡すと、受付嬢は鑑定画面を見たまま凍りついている。
「あ…あ…っこんなのまたUMに決まってるじゃないですか!!何量産してるんですか!!??バケモノ姫!!!」
いつもの様に騒いでいる受付嬢を放置して背を向けると、メンバーに話しかける。
「皆それぞれ、やる事あると思うんだが、あの難易度でスタンピードが起きたら周辺国がなくなってしまう。明日も引き続きダンジョンを攻略するが大丈夫か?」
「ああ。私からも学園長に一筆書いておこう。後は王に伝えておく」
さらさらと紙に何事か書き付け、梟の足に結ぶ。もう1枚紙に書き付け、違う梟に結びつける。
「届けておくれ」
ばっと梟が飛び去り、片方は王宮の方へ、もう片方は学園に飛んでいく。
「じゃあ帰ろう」
さっと転移で戻った私達は、疲れてはいるけど、しっかりと晩餐を食べ、明日に備えて風呂に入ったらすぐに寝た。
60層までは大丈夫でしたね。ラスボスは勝てるんでしょうかね
読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!武闘祭とは何の関係もないけど、兎に角ダンジョンに潜りたがるメンバーです。