41.偽聖女
ヒール=聖女、というのが一般認識ではあります。
黒曜とファムリタの件で解ったことだが、ヒールを使える=聖女ではない。
だが、一般的にはヒールを使える者は聖女だと思われている。だからヒールを使えた者は、すわ我こそ聖女である、とばかりに増長するのである。だが、通常のように99レベルで止まる為、ヒールが大変にしょぼい。ちょっとした切り傷にも数度ヒールを当てなければならず、欠損などを治せるレベルの者はいない。
黒曜はレベルが高い為、ヒールはまっとうに使えるが、これまた欠損などには対応出来ない。せいぜいキュアを使って毒のみを払うのがいいところだ。やはり聖女、という称号ありきで高レベル魔法対応が出来るのだ。それに、鑑定を受けても聖女と出ているのはおそらく私だけだ。――という訳で。
「お帰り下さい」
折角ダンジョンに行く為の準備をしていたら家に押しかけてきた他国のナントカさん。
「そちらが撤回するまで帰る訳にいかん。物凄く不敬な事をしているのだぞお前は!勝手に聖女の名を騙って名誉を得るだなどと!!」
欠損が治せるかと聞くと、欠損を治せる者などいない、と言い切った。自国の「聖女様」は欠損が治せないのだろう。呪いに関しても聞いてみたが同じ答えだ。
「あのですね。ヒールが使えたら聖女、って訳じゃないんですよ。欠損も生まれつき四肢が無い者でも治せるのが聖女です。あと鑑定すると名前の横に聖女って書かれてるんです。どれか一つでも当て嵌まりますか?」
胡散臭さを隠しもせず言い切ると、お偉いさんの後ろに隠れた偽聖女が「酷い…」と涙目で震える。酷いのはお前とお前の言い分を信じてこんなトコまで押しかけてくるそこのオッサンの頭の中身だ。
はあ―――、と大きく溜息をついて2人を睥睨する。
「ちょっと其処で待ってろ。証人を連れてきてやる」
地図で行き先を確認し、強く念じる。あまりこのやり方で転移するのは得意ではない。
「転移」
法王の居る場所、と念じた筈だ。だからこれは何かの間違いに違いない。
壁一面に張られた私の写真を引き伸ばしたポスター、私の人形、私の抱き枕、私の縫いぐるみ…
「失礼しました!!!!!!」
「あっちょっと、ちょっと待って聖女ちゃん!これは誤解…いや誤解でもないけど、僕なりの敬意なんだよ!」
「…今から何も言わずに付いてきてくれれば許す」
「そんな事くらいいつでも応じるよ♥」
「…転移」
転移で戻ると、指に傷をつけたアディが大笑いしていた。聖女は屈辱で震えている。
「ただいま。何してんだアディ」
「いや、聖女だって言うからさ。指先に傷つくってヒールしてみて貰ったんだけど、もうしょぼくってさ。5回ヒールしてまだ治り切らないのに疲れたらしいんだよ」
「黒曜にヒールさせてみろ」
「解った。黒曜ー」
「…ヒール」
ぶわっと光が溢れ、アディの傷が治る。
「「なっ…」」
「言っとくけど、黒曜は聖女じゃないぞ。ヒールがたまたま使えるだけの冒険者だ」
「そうそう。聖女ちゃんはこの世に1人だけだよ。常に。で、マリーちゃんが聖女ちゃんだと僕が認めてるよ」
「さっきいきなり現れて、一体誰なんだお前は!?」
「法王を務めてるよ」
「法王様!?」
「なんなら一緒に聖山に来るかい?」
「ふん、いや、都合がいい。こちらのラティーファ様を聖女と認定しろ」
法王は笑顔のまま顔を強張らせてこちらを見る。
そんな目で見られたって、この言葉の通じなさは私にはどうにも出来ない。出来ないからお前を連れてきたんだ。
法王は目元を強く指で押さえてから、笑顔を作り直した。
「うんじゃあ、聖女ちゃんとそこの子、並んでくれる?」
いつまでもオッサンの影に隠れたラティーファは出てこない。しょうがないからオッサンをどかせて私が少女の隣に並ぶ。其処に法王がやってきて、私達2人を鑑定した。
「な…なんだこのありえない数値…レベル1300!!?聖女…聖女と記載されている…まさか本当に…」
「彼女は女神の愛し子であり、だからこそ聖女なのさ。亜神、ってあるだろう?彼女は人を超えた。だからこそのそのレベルと数値だよ。ひっくり返ってもこちらの平凡なお嬢さんには真似出来ない」
「そんな…だって…だってあたしはヒールを使えるから聖女だって言われて…!」
やり取りしている2人の会話がうまく頭に入ってこない。亜神?とうとう人の文字が消えた。いや、黒曜がずっと付いてきてくれるというので、かなり遠慮なく聖魔法使ったけど…ああ聖魔法10になってる…なんか神聖術とかいうの生えてる…てかやばいこの神聖術。蘇生って。それはやっちゃいかんだろ。
「あー。そろそろ納得したんなら帰って欲しいんだけど。私達これからダンジョン行きたいから」
暫くわなわなと震えながらこちらを睨みつけていたオッサンは、苛立たしそうに思い切り足音を立ててラティーファを外へ連れて行った。
法王は、なんとも言えない表情を浮かべながら、私を見る。
「今後同じ事が何度も起きそうだね。ちょっとこっちで対策するんで僕も戻るね。あ、聖女ちゃんはいつだって僕の部屋に来てもいいからね♥アポなしでも大歓迎さ!」
ちゅ、と投げキスを落とすと、法王も転移で消えた。
なんだかもう1日分の疲れが押し寄せたような状態になったけど、後ろでダンジョンを心待ちにしている家族を満足させなければ…。私は探しておいたダンジョンに皆を転移させるのだった。
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