40.祭りの準備と尊み
お祭りです
お祭り前特有の好奇を孕んだ空気に、どこもこういう所は変わらないんだな、とマリー達は笑う。
全員が席に着いた頃、先生が入ってきて、黒板に大きく武闘祭と書き、その下に武術・魔術・総合、と書いた。
「これに各クラスからそれぞれ2名参加して貰う。被り登録はなし、二種に同選手が出たりは出来ない。なので、まず本命選手を当てたいと思う」
全員が私達を見ているのが解る。こういう時だけ仲良いなお前ら!
「まず、総合。ここにはマリエール君を当てたい。」
カツカツと白墨で総合と書かれた下にマリエール、と書かれる。
「武術、ここには…黒曜君かアデライド君、どっちか悩ましくて先生選べなかった!ので、どちらも登録でいいか?」
「「かまいません」」
剣術、と書かれた下に、黒曜・アデライド、と書かれる。
「潰しあわない様気をつけてくれよー。で、魔術。ここもリシュリエール君かシュネー君か選びきれなかった!どちらも登録でいいか?」
「「はい」」
カツカツ、と魔術の下にリシュリエール・シュネー、と書かれる。
「こっちも潰しあわないように気をつけてくれー。で、だ。総合にもう1人誰か出て欲しいんだが…希望者は居ないか?」
しーんと静まり返った教室。予想してた、とばかりに先生は情けない顔になる。
「じゃあくじ引きで…」
「あ、あの!私…挑戦したい…です。マリーさんが無理でも、他の誰かに勝てるか試したいです!」
おずおずと手を挙げたのはメリウェル・クラスト。女子でダンジョンに潜っている向上心のある子だ。
こういうのは見てて嬉しくなるね。
カツカツ、と私の名前の隣にメリウェルさんの名前が書かれる。
「異議の有るやつはいるかー?」
「せんs」
「有るヤツの名前を此処に書き出して参加して貰う。どうだ。あるか?」
しーん
さっき何か言いかけてたヤツはなんだったんだろう。ただ文句付けたかったのか?それにしてもこう最初から名指しで指名されるとムズムズするな。まあ、挙手制じゃ誰も手を挙げなさそうだからしょうがないのか。
「じゃあ、今回の参戦者はこれで登録しておくぞ。同クラスの人間はすぐに当たったりしないよう考慮される筈だから、其処は安心して欲しい」
先生はささっと壇上机に置かれた紙にさらさらと名前を書き、懐に仕舞う。
「ホームルームはこれで終わりだが、錬金の移動教室だ。取ってる奴は付いてこいよー」
ガタガタと立ち上がる生徒の中、メリウェルさんが寄ってきた。少し頬を赤らめながら口を開く。
「あの、同じ総合同士、宜しくお願いします!マリーさんには勝てないですけれど、その他の対戦で、教えて貰った剣術や魔術を活かして見せますから!いつも指導、ありがとうございます!」
これは…!もしや友達フラグ?
「あの、メリウェルさん。私女友達が居なくて…、良ければ友人になって貰えないか…?」
「へ?え、わ、私とですか!!?えっちょしんどい、尊みが過ぎる…!!ふあああああ宜しくお願いします!!!」
がしいっと手を握られて握手をぶんぶん上下される。
「え?…あ、友達…でいいんだよな…?」
しんどい、って尊みって。何言われたんだ私。
「「「「「「「ずるいいいいい!!!!」」」」」」」
えっ、バカ騒ぎに巻き込まれたくない派の皆さん…?
「あたしの方が先にファンだったのに!」
「私の方が先よ!姉さんから聞いてそれで…」
わいのわいのと自己主張が始まったのを聞くと、マリーさんに色々迷惑を掛けない為、わざと巻き込まれたくないと主張して他の女子達との間に壁を作って手を煩わせないようにしていたとの事。メリウェルさんもその一員で、いきなり友達に1人だけ格上げされたのがずるい、という訳だそうだ。
「…っ、あ、全員友達で…」
「本当ですか!?」
「夢ですか!!!???」
「尊い…尊い……!」
「あの、気軽に話しかけてくれていいんで、拝むのは止めてもらってもいいかな…?」
「おーい!そこのマリエール君。置いて行くぞー!」
「あっ、はい!!ごめんね、授業だから、また後程話そう」
「「「「「「「尊い…!!!」」」」」」」
どう尊いのかも解らないまま、私は移動授業に足を伸ばす。良かったね、とばかりにアディがひらひら手を振っていた。黒曜も、隣で嬉しそうに私の頭を撫でている。いや、私今女子の団体に拝まれてるんだけど、これは良いのか??
「私達箱推しなんでー!」
「応援してますー!」
箱推しって何!?
なんだか今日の錬金の授業は上手く頭に入ってこなかった。ノートは取ったので後で見直そうと思う。
昼食、流石にあの状態からメリウェルさんだけ誘う訳にもいかず、結局いつものメンバーで昼食だ。何か一気に来すぎたのと、なんか友達、って思ってたのと違う…という気持ちで複雑な顔で美味しい昼食をつつく私。
「っぷふ、味方できて良かったじゃん」
「私はなんだかアレは友達というのか甚だ疑問なのだが…」
「え?何か有ったの?」
「マリーにね~、女友達?が出来たの~」
あー。何かこういうモヤっとする時は黒曜座椅子に限る。すっぽり懐に入り込んで頭を肩に預ける。癒される…。そんな私を嬉しそうに抱えたまま、黒曜はまたあーんでご飯を食べさせてくれる。自動給餌器だな。
口から零れた分は、丁寧に黒曜の指が拭って、黒曜の口の中へ。あれ。これ結構恥ずかしいやつじゃないか?
ちゅう、っと小さな音を立て、黒曜の指が唇から抜かれる。エロいです黒曜さん。
「ん?もういいのか?デザートは食べるか?」
真っ赤な顔でこくこく頷くと、黒曜が笑った。
「熟れた林檎のようだぞ。私の可愛い人」
「止めろって!もっと赤くなったらどうするんだ!」
「ああ、マリー、頼まれてた時計なんだが。教室に戻ったら渡していいか?」
見ていられない、とばかりにマルクスが別の話題を提供してくれる。
「あ、ああ。リシュとアディと黒曜とシュネーはそれぞれに渡してやってくれ。残りは私に渡してくれて良い」
これで早朝やダンジョンなんかで時間が解る。有り難い。それに武術祭か。ちょっとレベルでも上げるか?いやでもこれ以上は過剰戦力に過ぎて手加減が難しいか?
「んー、武闘祭さ、レベル上げたい?今のままのが手加減しやすい?」
「今更レベル差気にしても仕方ないと思うんだよね。単純に強くはなりたいからダンジョンには行きたいんだけど…まだ妃教育終わってなくて…」
「じゃあアディが~私達よりちょっとレベル高いの気になってたんで~、週末レベル上げたいかな~?」
「うわん、リシュが酷いよシュネー!置いてけぼりにする気だよー!」
「そなたの妃教育は何処まで行ったのだ?」
「多分まだ半分くらい…」
「充分過ぎるほど早いと思うぞ。それなら少し休みを取って、祭りまでの2週間、レベル上げに行こう」
「やった!久々のダンジョン!!」
私は苦笑しながらその様を眺める。全然武闘祭に関係ない理由だ。レベル上げに行きたいだけだこの一行は。
「レベル上げって言うけど、マリー達は一体レベルいくつなんだ?」
マルクスが少し不思議そうにこちらを見ている。あ。もう99で止まってると思われたかな。
「黒曜が989、シュネーが871、アディが900、リシュが871、ソラルナが871、私が1300だな」
「待て。ちょっと待ってくれ。私が知る限りでは99が限界値と聞いているんだが、なんだその面白い数字は!?物理法則を超えたのか…?聖女とは他を遥かに凌駕する存在…?いやでも他の面子も…」
マルクスはぶつぶつと口の中で呟き始めた。ああ。これ知ってる。ギルドの受付嬢と同じやつだ。暫く放置すると勝手に何かを悟るので、放って置くのが一番だ。生温かい目で見守っていると、カッと目を開いたマルクスが宣言する。
「考えても解らないという事が解ったのでこれ以上は時間の無駄だ。お前達は大体人外、と結論する」
そんな結論犬にでも食わせて欲しい。まあ、レベル上げたい、というのは伝わって来たので、善処する事にしよう。
昼休み以外の休憩時間に、女生徒とコミュニケーションが取れるようになった。心配してたけど、話題は意外と普通で嬉しい。ダンジョンに行かないのかと聞くと、単純にメンバーの心当たりがなくて1人では怖くて入れなかったらしい。
集まっている人間で、得意分野をそれぞれ話し、バランスを考えてパーティを組むように提案してみた。凄く喜ばれ、早速いつ向かうか相談している。うんうん、良いことだけど、安全マージンはちゃんと取ろうな。レベル上げで死んだというのはなんとも情けない話だ。
私達の方も、何処かに良いダンジョンがあるといいな。帰ったら探してみよう。
因みにマルクスが作った時計はラライナやリクハルトに喜ばれ、いいお土産になった。
女生徒の友達?が出来て良かったね!
読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!またダンジョンに潜って、何処までレベル上げするんでしょうねえ