34.マリーさんにも限界はある
何事も程度によりますよね
「あー…もう駄目だわ。面倒だから放置した私も悪いが」
今度は教室の机の中身がすっからかん。入れてあった筈の教材やノート等全部なくなっている。
お前らは暇人なのか?そんなに暇なのか!?
私はアイテムボックスに仕舞ってあった大き目の魔石を取り出した。
「過去再生」
ばたばた駆けて来た3人の女生徒がそろそろと辺りを見回して人が居ないのを確認すると、私の机の中の物を取り出しては片っ端から破いたり踏みつけたりしている所がバッチリ写っている。
「黒曜様もマルクス様もロッソ様も、挙句の果てにはイャンデック先生までも最近貴方の事ばかり!!顔の良い男集めて自慢かコラ」
「目障りな女!!私モテてますが?みたいな調子に乗って」
「黒曜様は皆のアイドルでしょうに独り占めが許されるとでも!?」
その後、ただのゴミでしかなくなった私の教本とノートはゴミ箱に捨てられていた。
ふ――――、と長い溜息をつき、ふっとゴミ箱を覗くと、今まで再生されていた通りのズタボロなゴミにしか見えない、しかしよ―――く見ると私の文字や赤線などが見える。
「…修復、泥汚れのみクリーン」
手元に戻っては来たが、毎度毎度こんな事やっていられない。
午前の授業で使ったロッカールームでも、制服を切り裂いたり、花壇の泥を持ってきてさんざん切ったトレーニングウェアにまぶせ、水を足してにじる様に踏みつける有様が綺麗に録画できた。
悪口を広めたのも毎度口を差し挟んで来たのも、全部この3人だ。意外と思ってたよりは敵が少ないかもしれない。
録画映像を持って校長室へ。そこで再生された映像に、校長が口を開けたまま硬直した。そうだろうそうだろう。貴方の娘が混ざっているんだものな。どんなにオマケしても退学処分は避けられない。私への不敬罪も加算されるからだ。
とどめに、階段から私を突き落とそうとしている校長の娘の姿も映し出す。実は脅した際にはもう録画していた。
「まあ他にもありますが、まずはこんなところですか。貴方の所で留めようとしたが最後、宰相である私の父の手にこの映像記録は渡っていきます」
机の上で、とんとんとん、と指を走らせるように叩く。にっこり。
「どこの誰の手まで渡っていくと思います?」
「…王、だろう。お前たちが親しくしているのは」
「正解ですね。―――で、どう落とし前をつけるおつもりで?」
校長は、何かを耐えるように手を握ったり開いたりして殺気を散らそうとしているが、衝動的に暴れだすには相手が悪い事も承知しているのだ。
「…その3人は……退学、私は、校長の座を降りる…」
「真っ当な判断力がお有りで助かりますね。で、いつ施行されますか?」
「~~~~~~い、今だ!!!!」
顔を真っ赤にした校長が出て行った後に影を呼び出す。3人と校長が誰と何処へ行くのかを確認するようお願いする。終わったら次期校長の選定を進めるように手配もお願いした。その後に校長の書類などを見て見ると、出るわ出るわの経費の横流し、賄賂、賄賂込みでのエスタークの教員採用……
「……」
ぽん、と合図を出して、もう1人の影に、外患誘致の件込みで調査をお願いする。見つけた書類も渡しておいた。
スッキリした。
正直、エスタークやら出雲やら、正体不明の怪しい者を警戒している時にああいう雑音が混じると判別の邪魔になるのだ。ひたすら鬱陶しいし。ファムリタの事もあるしなあ…。
考えていると、ぎゅっと私を抱きこむいつもの感触がする。
「居たのか、黒曜。私はもう気にしていないよ。あいつら退学だしな」
いやいや、と首を振るように頭に頬ずりされる。困ったやつだな。
「…いつも、あんな目に…?」
「いや、実行し出したのはつい最近だな。それまでは口で野次を飛ばす程度の小物だったよ。私が反撃に出なかったから調子に乗せてしまったようだ。失敗した」
「そなたを守りたいけれど、目の届かぬ場所でこそこそする輩にはどう対応していいか解らない。すまない」
「そんな事まで気にするな。私は最終的にお前が私の傍に在ればそれでいい」
「――私の可愛い人は、無欲な上に勇ましいので甘やかされてくれないな」
「ガッカリしたか?」
「いいや―――惚れ直したよ、私のマリー」
そんな所に影がスタッと現れた。校長と3人の女生徒が鬼のような顔で校舎を睨み、掲げた右手で魔法を打ってどうにかしようとしている、と、ちょっといぶかしげに言う。
ばっと外を見ると、門のところからファイアボールだのウィンドカッターを校舎に向けて撃ってはいる。撃ってはいるが、物凄くへなちょこ魔法の所為で校舎に届きもしていない。私は彼らを捉えるよう影に指示し、魔石には今回のへなちょこ襲撃事件も入れておいた。
王と司法官の前に映像魔法つきで放りだせと影に指示、それでもうおしまいにしたい。
…しかし。校舎にも届かないとは…と思わず笑いが漏れた。
3人の消えた教室は、いつもより和やかな気がした。私に数人の女子が寄ってくる。
今まで無視していたのは、あの3人の指示だったので逆らえなかった、庇えなくてすみませんでした、との事。
何処まで本当か、全部間に受ける心算はない。調子を合わせて私を詰った者も混ざっている。
「謝罪は受け取るが、どういう心算だったのかは、これからの行動で判断させて貰う」
とだけ言い残し、自分の席に向かう。
「でも…っ、黒曜様を独り占めにしてる件が納得できないのは私達もなの!」
私は訝しげにそちらを振り返る。
「納得できないも何も…私達は恋人として付き合ってるし、ほぼ神の御前で婚約を誓った仲だ。一緒に居て当たり前だろうが」
「…は?なんでアンタが黒曜様に?」
「なんでも何も」
何て答えて欲しいんだ?
そこへ黒曜が割って入る。私を抱きこんで。
「マリーは私の命の恩人だし、そんなマリーに惚れたのは私の方だ。だから、ね?根も葉もない噂を立てたりマリーの悪口を広めようとした者全て、不敬罪ですぐに牢へ案内できるから安心して欲しい」
頭上で全く目が笑わないままにっこりと笑う黒曜の雰囲気が伝わる。結構怒っていたのだな、と思うとちょっと嬉しい。うむ、と頷くと、笑顔で全員に告げる。
「これ以上勝手に人の彼氏を全員のモノ扱いにしないで欲しい。私のものだ」
「嘘…嘘よ黒曜様が…」
ふらりとよろめいたと思った女子がぺたりとその場に座り込む。
「私達の黒曜様が…」
同じように座り込んだ女生徒がうつろな目つきで項垂れる。
「じゃっ…じゃあ!マルクス様やロッソ様の件はどうなってますの!?」
「え?マルクスは友人だし、ロッソは病の治癒をしただけの仲だが」
「はあ―――!?」
「本当にお気づきじゃないの!?」
「何に?」
「マルクス様もロッソ様もあなたの――」
「其処までにしておいて貰いたいね。余りに無粋な有様だ」
「そうだよ。なんで僕たちの気持ちを君たちに代弁して貰わなきゃいけないのさ」
「…ッ…ぁ…」
マルクスとロッソの登場で、女生徒達はしん、と静まり返る。
二の句が告げられなくなった女生徒を皮切りに、授業に向けて解散となった。
一体何だったんだ?
マリーさんおこの回でした。でも暴力には訴えてないだけ、大人になったね!
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