33.保険医
女子達のグループ分布が気になるところですね
朝の修練で、私が持っていて黒曜が持っていない魔法を片っ端から発現させてみる。
本当に覚えが早い。
半刻ほどで全ての魔法を身につけた。その後は龍を手なづけ、主人が自分である事を認めさせなければならないという。今のステータスで認められない訳がないとは思うが、その様子を伺ってみた。
「龍よ。そなたと私の間に在るのは主従の道。主たる私が命じる。降れ!我が元に降るがいい!!」
猛烈に龍が反発する。器を壊そうと、自由を得ようと足掻く様が見える。
ここで手助けをしてはならない。腕や足、胸から龍の足掻きで切れたような傷が出来て鮮血が舞い散る。脂汗を浮かべながら、黒曜は印を結ぶ。そしてありったけの気で龍を絡め取った。
「―――降れ、我が龍、楼庵!!」
バチン!と強固なラインが二者の間に通り、主が黒曜、従が龍である事が明確に示される。
「―――成った」
肩で息をしている黒曜を支え、グレーターヒールを掛ける。内側から弾けた傷なら相当に深いはずだ。
「纏龍技、双極の限」
気と勁が捩れるように渦を巻いて的を粉々に砕いた。
これは体に龍を飼っていなければ出来ない技だ。
「やったな、おめでとう」
「ああ、でもこのまま国に帰っては私を担ぎ上げる者も出よう。秘密にして置かねばな。ダンジョンの中や公爵家で使う程度なら大丈夫だとは思う」
ほんの短期間で黒曜のステータスは凄いことになっている。
黒曜・天津埜焔・皇/15歳/男/人神
レベル989
HP1058700/MP987210
力998520
体力996320
精神力1458932
知力928860
忍耐962230
徒手空拳10
刀剣術10
纏龍技3
礼儀作法10
アイテムボックス8
錬金術3
鑑定4
テイマー2
影魔法4
生活魔法10
光魔法3
闇魔法3
雷魔法2
土魔法2
緑魔法1
氷魔法2
風魔法3
水魔法1
火魔法5
時空魔法5
聖魔法3
重力魔法5
女神の加護
導師の弟子
ダンジョン踏破者
龍を裡に秘めるもの
現人神に愛を注ぐもの
現人神の眷属
龍の主
※愛し子であるマリーを幸せにしている為、加護がついた。現人神と魂をリンクさせた為、同じ寿命を持つ神族の末端になった。レベルやパラメータの上がり方は現人神のものに準ずる。器に龍を従えている。龍族への特攻+50%
共に黒曜のステータスを身ながら呆れる。スキルレベルはそれぞれ今から上げて行かねばならないが、とんだスキル量だ。
「な、お前って凄いヤツだな?」
「何を言う。全てマリーのお膳立てが無ければ成し得なかった事ばかりだ。そなたが私をこうまで変えたのだ。責任は取って貰わねばな」
「はは、そんなものは幾らでも取ってやる。お前ならばな」
他の魔法も鍛えてやろうと思っていたのに、もう朝食の時間だ。お互いクリーンを掛け合って、ダイニングへ急ぐ。
しかし、良かった。関係が落ち着いたのでもう龍は暴れない筈だ。苦しむ事ももうないだろう。ふふ、と笑顔になって席につく。
今日も朝食が美味い!焼き型を作って貰ったらしい、トーストが厚めに切られて配られる。
「好きな具材を載せたり塗ったりして食べてね~」
私はバターと苺ジャムを選択し、かぶりついた。美味しい…前世の味がする…。
思わずぽろっと涙が出た。黒曜は驚いて私の背を擦る。
「いや、何でもないんだ。前世の味を思い出しただけなんだ」
「なるほど…前世は男と聞いていたが、そなたは存外涙脆いな。そんな所も可愛い」
くしゃくしゃ、と私の髪を撫でて黒曜は笑う。
「お二人さん~早めに食べないと遅刻ですよお~?」
リシュの言葉に思わず顔が赤くなる。そこからはぱくぱくと朝食を食べるのに専心した。
しかし美味い…リシュが神なのではなかろうか。
「あ、今朝無事に黒曜が内部の龍と主従関係を結んだ。もう龍に苦しめられずに済むんだ」
「あら!おめでとうー!!長く苦しんだものね、本当におめでたいわ!」
「おめでとう黒曜、これからは痛みも苦しみも君を苛んだりしないのは本当にめでたい事だ」
「黒曜さん、良かったね!まあマリーが何とかしてくれるって私は信じていたけれどね」
「ソラルナ兄さん、それじゃ黒曜が何も頑張ってないみたいな言い方で失礼じゃない?おめでとう、黒曜!」
「黒曜さんおめでとうです~!ここから幸せな一歩の始まりですね~」
全員から祝われ、黒曜の目がまんまるになったかと思うと、すぐに潤んでつうっと頬に涙が伝った。
「おやおや、黒曜も涙脆いな。肩でも貸そうか?」
笑いながら黒曜の背を撫でてやる。黒曜の感涙はそこまで長くは続かなかった。
「あ~、登校時間です~!」
全員が慌てて用意した。転移登校すれば済む話なんだが、貴族として馬車に乗らずに行くのは格好がつかないらしい。
こんな慌てた場面でも、黒曜は私をエスコートするのを忘れない。自然なエスコートに照れる。
学園の馬車止めでまたエスコートを受ける。そんな私へ全力でタックルを仕掛けてくる弾丸みたいな女生徒が居た。
自然と黒曜と私の手が離れる。流石に尻餅をついたりはしないが、一瞬体が浮き上がるほどの衝撃に、位置がずれたのだ。
ファムリタだ。
ファムリタはタックルを掛けた私には一瞥もくれず、黒曜に擦り寄っている。流石に気分が悪い。
「黒曜様!マリーに騙されたりしてませんか?顔の良い男に目がないので猫かぶってるんですよ!今の内に離れた方がいいです!」
多分馬車止めで隠れて待ち受けていたんだろう。このタイミングは良すぎる。
それに今や平民であるファムリタが馬車止めなどに用があるはずもないのだ。
「悪いが君と話す事など無い。それより、君は私の大事な人にあんな勢いでぶつかっておいて、謝罪の一言も無いのか。常識に欠けている。そのような感性の持ち主とは今後も離れて居たい」
「あ…っ、あの、ご、ごめんなさい」
「…何故私に謝罪する?相手が違うだろう」
ギリっとファムリタが歯噛みするのが解った。笑顔を作ろうとして失敗したような微妙な表情で私を見る。
「ごめんなさい」
冷気が漂いそうな謝罪に、私は溜息を吐いた。
「もういいよ黒曜。無駄な事はしない主義だ。そいつは反省なんてしない」
「そうよね~逢うなりタックルしてきて悪口まで披露してたしね」
「私も同意だ。放っておいて早く教室に行こう」
「遅刻しちゃいますよ~」
全員の言葉に押され、納得のいかない顔をした黒曜は、それでもファムリタを押し退けて私達と一緒に教室まで行く。
――なんで後ろについて来るんだ。仲間と思われるのは心外も良いところだ。早く自分の教室に行けばいい。
「ファムリタさんは~、なんで付いて来るんですか~?教室は逆方向ですよ~?」
「え…だって」
「ウチの教室に貴方の居場所なんてないよ。早く教室に行きなよ」
「…」
ぴたりと立ち止まったファムリタは、ブツブツ、と何かを呟き始めた。
「総合クラス…の、S…。座学は大丈夫…実技…実技をどうにかすれば…」
そしてふいっと踵を返すと自分の教室に戻っていった。
一限目は実技/物理だ。ロッカールームで着替えて、…うわズタボロだな。執念深さが凄い。実技用ウェアが泥まみれでボロボロに切り裂かれて入っていた。後ろでクスクス笑う声も聞こえる。
「修復・クリーン」
あっという間に傷ひとつない綺麗なウェアに戻ったそれをさっさと来てグラウンドに出た。周りは呆気に取られていたけど、早くしないと遅れるぞ。そこに黒曜がやってきたが、目に見えなくても毒塗れのウェアを着ている事が解る。教師に取り上げられるかも知れないから状態異常無効のペンダントは外してしまったようだ。
「キュア!」
早く光魔法のレベルだけでも上げないと、死ぬんじゃないか黒曜??
「あ、先ほどから何だか気分が悪かったんだ。毒か何か掛かっていたか?」
「お察しの通り、毒だな。執念深く満遍なく塗られていた」
私もロッカールームでの出来事を話し、2人で溜息をついた。
「そっちは本来即死毒だったようだぞ。やはり神化して大分効き難くなっているようだな」
「…早いな…本国からだと思う。何故龍を克服した事を知っているんだ…」
「あっちにも腕のいい間諜が居たって事だろう。気にしすぎるな。帰ったら炙り出してやる。まあ、お前が指定された家から出て、ウチに泊まっている事で気付かれたのかも知れないがな」
「ああ…使用人が本国との通信をしていたな…その線だろう。すまない、巻き込んでしまう」
「お前になら巻き込まれたいよ。目の届かないところで傷など受けていたらと考えるだけで腹が立つ」
ピイイッとホイッスルが鳴り、私達は先生の前に整列した。
先ずは素振りとランニング、軽く流した後は先生との手合いで悪いところを指摘して貰うとの事だが。先生、木刀でも人は死にますよ?
素振りを見ても注意もしない。呆れた私は女子には嫌われてるのでやらないが、貪欲に強くなろうとしている生徒には、体軸のズレや腕の使い方、木刀を真っ直ぐ触れるよう、ちょこちょこアドバイスした。意外な事に、独学だった所為か、黒曜も結構酷かった。何度もなおしてやった。
「見てホラ…男子生徒にばっかりベッタリよ…」
「やっぱり品性が足りていないのよあの方」
嫌味の一つも言う暇があるならダンジョンに潜れよ。
気付くと、女子の中に1人、ダンジョンでレベルを上げていると思われる動きのものが居た。
ついお節介だと解っていても木刀の振り方を教えてやる。意外だ、反発もしない。素直に教えたままに木刀を振っている。もしかして友達になれるかも知れない。確か、メリウェル・クラスト。今度話をしてみていい感じだったら昼食に誘ってみよう。私は!女友達が欲しいのだ!!
手合いだが、先ず私とサリエル一行は先生の手に負えないので自分達で試合をして欲しいと涙目で訴えられた。
まあ、薄々感じてはいた。先生私達に怯えてるなって。
「なら、黒曜もこっち側ですよ先生。死にますよ?」
「わ、わかりました、黒曜君もそっち側で…」
「先生!黒曜様がダンジョンに行ってるなんて聞いた事ないです!マリーさんの嘘ですわ!傍に居たいからって…!」
後ろが五月蝿い。けど、あちらの刀術で10まで鍛えてあるのだ。弱い筈がない。
「やるぞ」
「ああ」
お互い瞬歩で移動しながらの鬩ぎ合いだ。女子の声が止まった。
2~3分ほど打ち合った後、黒曜の木刀を絡め飛ばして勝負は決まる。
「まだ私に分があるな。基礎を飛ばしているとこうなる」
「ああ、解ってる。その辺りもきちんと教えてくれるのだろう?」
「当たり前だ」
「じゃあマリー!次私!」
「いいぞ」
こうしてサリエル家と黒曜の相手だけをしていればいいのかと思ったが、ダンジョン攻略組だと思われる一行が私の前に並び始めた。実力を認めて貰うのは嬉しい。さっきの女子も混ざっている。嬉しい。
ダンジョン攻略組には基礎となるダンジョン内での剣の振るい方、フレンドリファイアにならない位置取りなど、実践的な指導をしながら相手をする。生徒を取られた先生はがっくり肩を落としながらこちらを眺めている。
だから。そんな事してる暇があるならダンジョン行けって。先生なんだから、まず強くならなきゃ意味がないだろう。
確りと並んだ者の相手をし終わると同時にチャイムが鳴った。うん、気持ちいい汗を掻いたな。
ロッカールームではまた制服があちこち切られていたが、犯人探しも面倒だ。修復をかけてさっさと着替えるとロッカールームを出た。――と、思ったら。
ピンポンパンポーンという解りやすい呼び出し音。
――マリエール・フォン・サリエルちゃん、着替え終わったら保健室まで来てね♥
「…またか…」
最近の悩みはこれだ。休憩時間を狙って私を呼び出す保険医、イャンデック・フォルソ。
以前プリントか何かを渡しに行った際に、骨折した者がベッドで寝ていたので、ヒールをつい掛けてやったのだ。
そうしたら味をしめたのか、一定以上酷い怪我の者が救護室に来ると私が呼び出される。
確かに、保険医と言ってもヒールが使える訳じゃない。傷薬を塗ったり包帯を巻いたり、固定したり、そういう普通の手当てしか出来ない。そしてオネエだけど女好きという面倒な性癖の男だ。一度無視してみたら、教室までお迎えに来た。目立って仕方ない。そう、オネエの姿が全く違和感が無いほど美形なのだ。ピンクのメッシュを入れた金髪の持ち主なので、遠目にも間違う事がない。
仕方なく保健室へ足を向ける。黒曜は付いて来るようだ。
「来ました」
「んま~!待ってたわ!この子の怪我が酷いのよ!治してあげて~!」
膝の皿が見えている、解放骨折だな。
「グレーターヒール」
「あ…俺の脚…っあ、ありがとう、ありがとう!!」
まあ、保険医だからこそ、自分でどうにも出来ない歯痒さは理解出来なくも無いが。
「今日もありがと~!んもー有能で可愛いったら!チューしちゃいたい♥」
すぐに抱き付いてくるのは本当に頂けない。黒曜が直ぐに私を腕の中に奪い返す。
「セクハラだぞ先生」
「終わったんなら私は戻りますんで。あと、絶対昼休みには応じないんで、その派手な頭の中に確り記憶して下さい」
昼休み、呼び出しに応じなかったため、先生が学校中を走り回って探していた、と聞いた。
これ言うの3度目なんだが。
「だって…痛そうな子を見ると早くどうにかしてあげたくなっちゃって…」
気持ちは解るんだがなあ…。
「これは私の職務ではありません。貴方の職務でしょう。なるべく応じているんですから、ちょっとは勉学に励む生徒の気持ちも察して欲しいですね」
「……ごめんなさい、気をつけるわ…」
しゅんと項垂れた先生を見て踵を返す。次の授業が始まってしまう。
「悪い人ではないんだがな…」
苦笑混じりに黒曜が言う。
「悪い人なら私はわざわざ保健室に行ってない」
流石にその日の昼には呼び出しはなかった。私はいつもの面子でゆったりと昼食を楽しんだ。
マリー好き好き団がまた1人。生徒に職務をさせるのは駄目だと思います
読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!休み明け、辛いですね。皆様にもヒールを!ヒール!