32.従魔とダンジョン
従魔さん達は楽しそうです
早朝の修練をこなして、朝食へ。今日も飯が美味い。
リシュに感謝を捧げながら食べる。
やっと休みの日が来た。機工蟻の棲家であるダンジョンは調べてある。
少し小さなヒステールという領の山にあるという。条件を聞いただけで、人が入っていなさそうなダンジョンである。またスタンピード間近とかではない事を祈る。一々足場の確保が面倒なんだよすし詰めは。
今日は従魔と一緒にダンジョンに行くので、メンバーが多すぎるから別でパーティを作ってそっちはそっちでダンジョン攻略して欲しいと伝えると、シュネー王子も玉妃を出してやりたいという理由でOKして貰った。
本来の大きさで並んで歩いたりするのは出来ないので、各自チビのままか、人化した姿で、と言うと意外に人化派が多かった。ライムだけはスライム姿で参加するようだ。
「じゃあ、今日は俺は手を出さないが、機工蟻という蟻を見かけたら、素材が欲しいんでなるべく外皮に傷をつけ過ぎぬよう倒して欲しい」
「解った、頸を跳ねればいいだろう。問題ない」
「僕も、頑張るです!頸だけ跳ねるです!」
「きゅうー!きゅきゅ!」
ぽよんと跳ねたライムは暫く思案し、人間の体の方が無駄な傷を与えないと思ったのか人化した。手の先はナイフのような刃物に変じている。
「これなら手刀で頸を落とせます」
漆黒が鉄扇でケルは爪かな。なんとかなりそうだ。
リシュに作って貰った弁当をアイテムボックスに入れ、本体に戻った漆黒に全員で乗る。
少し辺鄙な所にあるというヒステールに向けて出発だ。風除けの結界がなければ振り落とされていただろう、漆黒のスピードはかなり早い。
暫く飛んでいると、目的の山が見えた。其処で降ろして貰う。今回は黒曜に全ての経験点を回して貰うよう、3人に話してある。もう一度設定を確認するが間違いない。
山に分け入って洞窟を確認すると、丁度その洞窟からちょろりと蟻が出て来るのを見てしまった。
スタンピードが丁度今から起こる、という現場に来てしまったようだ。いや。フリじゃなかったんだ。あれは。うん。地理的にも領の規模的にも、起こりやすそうだな~と思っただけなんだ。
王に兵の訓練の巡回ダンジョンに、此処も入れて貰うよう相談する事に決める。
まあ、起こってしまったものは仕方ない。急遽、私も参戦する事を伝え、まずはでて来た蟻の頸を落とす。そのままアイテムボックスに突っ込む。出て来る蟻を次々始末しながら、内部へ突入。
皆大技で一気に仕留めたいだろうに、私の我侭に付き合って、それぞれ頸を落としてくれている。
が、そのスピードが速い。ライムなんかは手の数を6本に増やしてそれぞれ頸を狩っている。ささっと蟻の素材をアイテムボックスへ入れ、自分も蟻の頸を落としていく。
黒曜も自分の刀を下げていたので、それで無理のない範疇で仕事してくれている。お陰で範囲魔法がなくてもこちらの殲滅スピードは充分に速く、それなりの早さで1層の掃除は終わった。全部蟻だった。奥の魔物が混ざってくるほどスタンピード化が進んで居なかった様だ。
「蟻の素材は充分だから、後は好きに闘っても良いぞ」
そういうと、真っ先にライムがスライム形態に戻った。
「きゅっきゅ♪きゅうー!」
2層は百足だった。うじゃうじゃと群れている状態は、私が見ても気持ちが悪い。昆虫系のダンジョンなのだろうか。女子が居なくて良かった。
ケルと漆黒がブレスで入り口周りの敵を倒す。ライムは少し小さめのドラゴンに擬態すると、同様にブレスで対抗する。3人がブレス吐いてるだけで2層は終わった。10層までは色々な昆虫が出てきたが、どの層もブレスのみで片付いた。ブレス便利だな。ちょっと吐いてみたい。
10層を超えると爬虫類の階層だったようで、山盛りの蛇が入り口に積まれているような状態だ。毒の心配をする間も無く、3人のブレスが飛ぶ。いくら山盛りでもこれでは意味がない。丁寧にブレスで鏖殺しながら進む。天井に張り付いているのは私がファイアボールで一掃しておいた。
19層まで色んな爬虫類が出てきたが、相も変わらずブレスでお亡くなりになった。ブレスばかりでは楽しくないのでは?と3人の様子を伺うが、楽しんでるようだ。良かった。
「敵いっぱいでブレスでゴーってやると消えていくの楽しいです」
との事だ。さて20層はボス戦だ。全員元気一杯である為、特に休息は取らずにそのまま扉を開ける。
「かんて…」
「闇憤怒!」
鑑定する暇もなく、漆黒の一撃で相手が吹き飛んだ。一応残った素材をアイテムボックスに詰める。
漆黒が他の2人にずるい、と責められているようだ。次はケルベロス、その次がライム、と順番を決めていた。
ドロップは縁の指輪、神鋼、ラミアの腕輪。
縁の指輪は2つで1対となっており、お互いの指に嵌めるとより深く相手と繋がる事が出来る、とある。
気恥ずかしいが、黒曜と私でお互いに指輪を嵌め合った。腕輪は知力+200000。かなり良いアイテムだ。帰ったらシュネーに付けさせる事にする。
気を取り直し、次の階層へ。今度は獣系だ。それでもやる事は特に変わりない。
39層まで獣が焦げる焼肉的な良い匂いを嗅ぎながら進み、40層、またボス戦のようだ。余りに攻略速度が速いのでまだ昼餐を摂る心算になれないが、一応此処のボスを倒せば昼食にする、と皆に伝える。
大扉を開けると――
「かん…」
「凍結の縹緲!」
大型恐竜のようなボスは綺麗に凍り付いて、ドロップが落ちてきた。
竜の髪留め、神鋼、竜の碧玉
髪留めは、怯まないという効果。咆哮などで一時体が硬直するのを止めてくれるアイテムだった。黒曜に付けようとしたが、逆に手を取られ、髪に留めてくれた。薄っすら頬が熱を持つ。黒曜が優しい手付きで髪を留めた後は、「とても似合っているよ」と耳に囁き、私の体がむずむずした。
碧玉だが、氷属性の威力増加だ。ケルベロスの首輪につけてやる。
「わん!ご褒美!!嬉しいです!」
首もとの玉をぺろぺろ舐めているが、すまんケルベロス、それ飴玉じゃないんだ。
尚、凍ったボスは解凍して貰ってアイテムボックスに仕舞った。
ここで昼餐を摂る。嗜好品だと言いつつも、従魔達はかなり遠慮なくがつがつと食べている。それを解っていたのか持たされた昼食の量はかなり多い。
すっかり胃の大きさが戻ったらしい黒曜もなかなか食べる。まあ…体の大きさ的に私は普通に1人前を食べる。
すっかり満腹になった一行は少しこなれるまで茶を飲みつつ休憩だ。お茶請けのクッキーまで用意されている。
さて此処は何階層まであるんだろうか。従魔が一瞬で倒してる為自覚がしにくいが、そこそこ高位ダンジョンのようだ。
休憩が終わってうーんと背筋を伸ばしていると黒曜が眺めていた事に気付く。
「そなたはどんな姿も可愛らしい」
ロイヤルな笑顔で言わないでくれ。柄にもなく照れてしまう。ぽんっと赤くなった私の髪を優しく撫でる手。
まずいなあ。恋愛に溺れて周りが見えてない人種にはならないと思っていたのに。そうなったら黒曜の所為だからな。責任取ってもらうぞ。
ふう、と息をついて仕切りなおしだ。
41層からは機械エリアというか、太古の武装兵器がみっちり詰まっていた。これ、倒しても中に入れるのか…?
階段から3人がブレスを吐く。漆黒がブレスの威力を上げたようで、兵器が溶けて場所が開いた。後はもう作業と化したブレスのみでの殲滅。そこから59層までは兵器相手だった。さて60層。ここがラストなのかどうなのか。
さっと扉を開くと
「鑑定!不死の王!弱点は…」
弱点を言う前に、元の姿に戻ったライムが不死の王を丸呑みし、取り込んでいた。擬態バリエーションが増えますね。
ぽんっとドロップアイテムが落ちる。
王の指輪、神鋼、王の剣帯。
指輪には魔法攻撃+100000の効果が、剣帯には中に剣を入れてある間に剣を修復する機能があり、武器攻撃力+20000
指輪は後衛に渡そう、と話し、剣帯を黒曜に付けようとするとまた手を取られた。私の今の剣帯と交換し、元の剣帯をアイテムボックスになおす。
「マリーはすぐ他人を優先にアイテムを振り分けようとするね。私は経験値を貰っているだけで有り難い身なんだよ?アイテム位はそなたが貰っておくれ」
「…私はもう結構強いんで、黒曜に渡したいのだが…解った。今回だけは貰っておく」
階段が出ている。まだ続きがあるという事だ。
行くか。
階段を下りると、不死系がみっちり詰まっていた。臭いが酷い事になっている…この不死帯を抜けた頃には鼻がバカになっていそうだ。はい、3人ともまたブレスだね。臭いが更に酷くなって少しよろめく。これはなかなか効く…。
そんな私を、黒曜が受け止めて鼻先を手で覆ってくれた。
「なるべく口で息をしよう」
口で息をしたら味がしそうな勢いで、それも躊躇いがある。
が、試しに口で息をしても味はなかった。良かった。
ブレスと一緒に私も光範囲魔法で浄化していく。早くこの地帯をぬけたい。私の願いとは裏腹に、79層まではすし詰め不死のおかわり放題だった。鼻は死んだ。尊い犠牲だった。
80層。ここで終わりなのか100層あるのか。
えいやと扉を開けると―
「か…」
「闇憤怒!」
おお?漆黒の技で一撃死していない。
「凍結の縹緲!!」
「きゅいいー!」
漆黒とケルベロスの攻撃で弱ったところをライムが丸呑み。珍しい事に、それでも内側で暴れている。
内側に居る敵だけを対象に、私は魔法を使う。
「アポカリプス」
ライムを倒した時もこの魔法だったな、と思い返す。狙ったとおり、ライムの体内で敵だけが弾け飛ぶ。
きっと強かったんだろうなあ、と思いつつ、それを飲み込んだライムが擬態出来る事に気付いた。最強に育っていきそうだな、ライム。
ぽろっとドロップアイテムが落ちてくる。
堕天使の翼、神鋼、堕天使の刀剣
ふと黒曜に武具を作っていない事に気付く。堕天使の刀剣は丁度今私が装備している黒神竜のものとほぼ同等だった。今装備している物よりは大分と良いものなので、黒曜に渡す。受け取り渋る黒曜に、うちの家族は全て同等の装備を付けている事を話すと受け取ってくれた。良かった。今度は刀以外の武具を作りに行こうな。
堕天使の翼は錬金アイテムだった。何が出来るのか解らないが楽しみに取って置こう。
どうやら80層のダンジョンだったようで、ここで打ち止め。スタンピードは防げた。全員が記録を取ってリターン。そして転移でいつものギルド前に着く。影には、先ほどの場所を兵士のダンジョン巡回ルートに混ぜてくれるよう王の下に使いを出した。
「で、またスタンピードを止めてきたと」
「そうなるな」
「マリーさんにはスタンピード察知のスキルでもあるんですかー!?」
失敬な。あったら行ってない。被害が出る前には行くかも知れんが。
「偶々引き当てただけだ。狙っていく筈がない。機工蟻の素材を取りに行ったら溢れてたんだ」
「で、ボスのリストの最後にも物申したいんですけど。なんですか堕天使ルシフェルって。何倒してるんですか。もう絶対人間じゃないですよね!!?」
「私はほぼ手出ししてない。全部従魔が倒した」
「一体何飼ってたらそんな事になるんです!!!??」
「知ってるだろうに、また聞くのか?」
「あ―――知ってます。知ってますよ確かに!!!バケモノ姫!!!」
「ならカードの処理を頼む。私は素材を売ってくる」
「堕天使の素材なんて買い取れませんよ!?」
「それなら大丈夫だ。堕天使の素材は消化されたからない」
「消化!!!??」
さくっと素材を換金し、解せない顔をしている受付嬢からカードを貰う。
「じゃあ、また休みの日にでも来る」
さっさと転移で家に戻る。他のメンバーも帰ってきていた。
さて。
「黒曜のステータスでも確認するか。相当上がっただろう今日のあの様子じゃ…鑑定!」
黒曜・天津埜焔・皇/14歳/男/人神
レベル989
HP1058700/MP987210
力998520
体力996320
精神力1458932
知力928860
忍耐962230
刀術10
徒手空拳5
礼儀作法10
生活魔法10
火魔法5
時空魔法5
重力魔法5
錬金術2
女神の加護
導師の弟子
ダンジョン踏破者
龍を裡に秘めるもの
現人神に愛を注ぐもの
現人神の眷属
※愛し子であるマリーを幸せにしている為、加護がついた。現人神と魂をリンクさせた為、同じ寿命を持つ神族の末端になった。レベルやパラメータの上がり方は現人神のものに準ずる
凄いな。思ってた数倍上がりが早い。
…ん?錬金術が増えてる?もしかして…。
ぐいっと黒曜を修練所に連れて行き、ライトボール、と何度も唱えさせる。そのうちに。
「ああ、習得出来たようだ」
まさかだけども。次はホーリーサークルを。何度も唱えるうちに、ふっと黒曜は微笑む。
「できたぞ」
これで光と聖の属性魔法を操れるようになった。
こいつ、転生者と聖女の特性をどっちも引き継いでいる。神の眷属というのはそういう事か。それ以外の魔法は明日の朝の修練で行う事にし、鍛冶屋へ転移。
「鍛冶屋居るか~?」
「おお…マリーか。護衛が気になって最近武具に打ち込めておらんのよ…。」
なんだかげっそりした雰囲気の鍛冶屋がのろのろと奥から出て来る。
「そうか…では武具は頼めない状態なのか」
「いや!お前さんの依頼なら確りこなしてやるわい!!」
「有り難いが、大丈夫か?」
鍛冶屋はどんと胸を張って胸元を叩く。
「大丈夫じゃ!!で、神鋼なんじゃが…」
「ああ、持ってきている」
ゴトゴトと溜まっていた神鋼を鍛冶屋に渡す。
「ほいほいほい、神鋼じゃ!!!」
途端に嬉しそうに破顔する鍛冶屋。少し調子が戻ってきたようだ。
「今回は武器はあるので鎧周りをお願いしたい」
「武器がある?」
黒曜は堕天使の刀剣を鍛冶屋に見せる。
「ほほお~…なるほど、黒神竜のものとほぼ同等か、此方の方が少し上かも知れんな。解った、では採寸させて貰うぞい」
ささっと黒曜のサイズを測ってメモを取る鍛冶屋。
「いつ受け取りに来れば良い?」
「明日の今頃じゃな」
「解った、取りに来る。くれぐれも頼んだ、オヤジ」
「ほいほい、待っておるぞい」
転移で戻ると、晩餐の準備が既に出来ていた。
「済まない、鍛冶屋に行っていた」
「あ、それで遅かったのか~。早く食べよ?」
程よく腹もすいた所で晩餐を食べる。美味しい。今日はガーリックバゲットか。これも美味しいんだよな。
もぐもぐとトンカツを頬張りながら、ソースの出来の良さに感心する。
「とんかつソースを再現したんだな。凄いなリシュ」
「うふふ。頑張ってみました~」
「ところで黒曜が私の眷属になったんだが」
「「「「「えっなにそれ聞いてない(わ)」」」」」
「転生者と同じで、スキルが生えるし、光と聖の魔法も覚えられた。ステータスも私に近い」
「「「「「えっなにそれずるい(わ)」」」」」
「ちょ…今日のダンジョン何処行ってたの!?」
「素材を取りにヒステールに行ったんだが、スタンピード直前でな、難易度も高かったから一気にレベルが上がったんだ」
「そうなんだ?私も行ってみようかな其処」
「オススメはしない。虫が10層続く。Gも居た」
「あ、絶対行かないわ。他に良いトコあったら教えてね」
「そうだな。で、黒曜は今レベル989だ。丁度皆と同じくらいだろうから、戦力になるぞ」
「レベル抜かれてるんですけど~~~!」
「スタンピードの高難易度ダンジョンの80層までの経験点を独り占めだったからな。まあそれにしても早いとは思うが」
「次からは私も攻撃に加わっていいのか?」
「ああ、その刀も試したいだろう?また休みの日になったら誘うよ」
そうか…と呟きつつ、大切そうに刀を撫でる。
今日は色々と満足な日だった。また従魔もダンジョンに連れて行ってやろう。
美味しいトンカツを頬張る。笑顔で終われた良い休日だった。
誤字報告ほんとに有り難いです!ありがとうございます!自分じゃなかなか気付けなくて…
読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!黒曜さんは本を読んで自力で会得した、皇流刀術を使えます。