31.生徒会
生徒会の皆さんは選民意識が高いです
昼食後、とこの青年は言った。ならばせいぜいゆったりと昼食を楽しもうではないか。殊更にゆっくりとリシュの料理を楽しむ。
「…おい、こういう場合は急いで食べてこちらに同行すべきだろう!?」
すっと目を眇めてそちらを睥睨する。
「下がれ。生徒会の場所は知っている。それと、私はお前に直答する権限を与えない。黙って帰れ」
「な…」
「喋るなと言ったぞ。無礼討ちが好みか。吝かではない」
ちらっと殺気を込めて睨んでやると、慌てたように青年は踵を返す。
「チッ…!」
――ここにも結界を張っておこうかな。放置されていたんだし、構わないよな。
私は人避けの結界を張る。単純な結界だからか、1年は持ちそうだ。
「一先ず、お呼びでない闖入者の出入りを禁じる結界を張った。私達の誰かと手を繋いでいれば通れる」
「まさかこんな場所が見付かるとは思ってなかったよねえ」
「マリー、その…1人で行って大丈夫か?私も付いていこうか?」
心配げな様子のマルクスがおずおずと言い出す。
「心配するな。私に多少徒党を組んだだけで勝てる者はそういないぞ」
「いや…勝てるかどうかじゃなくて…」
そこまでマルクスが口にしたところで、黒曜が私を引き寄せる。
「その場合は私が付き添う。そなたの出番ではない」
「…ッ。解ってるよ」
不貞腐れたように、マルクスがぷいと横を向く。まあ私が口を挟むと拗れそうな予感しかしないので、もぐもぐと唐揚げを頬張る。下味がきちんと沁みこんでいて非常に美味だ。
卵焼きは、出汁巻きが好みだったのだが、出汁がまだ見付からないらしい。残念だ。でも卵焼きでも美味いので問題はないのだが。
人数分用意されたグラタンを取り、味わう。こちらにはホワイトソースなどの調味料がない為、1からリシュの手作りだ。コンソメ作るの面倒だったろうな、と考えていると、時空魔法で時間短縮しているらしい。リシュが胸を張って話していた。魔法が料理にも使えて嬉しかったんだろう。黒曜は大分と食べられるようになった。この調子でいくと結構な健啖家になりそうだ。
――昼休み、残り15分。
食べ終わってしまったものは仕方ない。名残惜しげにデザートのゼリーの最後の一口をつるりと口に含み、不承不承ながらも生徒会へ行く用意をする。黒曜にはクリーンでパンくずを取ってやる。
「付いていく。主にそなたがうっかり生徒会の面々を傷つけないように」
くす、と笑いながら、黒曜は私の手を取る。まるで王子様のようだ――あ、王子だったな。
生徒会の扉をノックすると、入れ、と返事があった為、黒曜と一緒に足を踏み入れる。
さっきの使いっ走りの顔もある。奥にはあまり穏やかな雰囲気ではない生徒会長が座している。
「先ほどヨルムが連絡をしに行ったと思ったが、随分時間が掛かったものだな。迷ったのか」
「いいや。昼食後、と聞いたので昼食を食べ終わってから来ただけだが?」
「貴様、会長になんて口の聞き方を…」
「懲りていないようだな。分を弁えるのはそちらの方だ。私は聖女だ。そもそもこのように無粋な呼び出しに応じているだけで充分な譲歩をしている。体に叩き込まねば解らんのか」
苛立ちと共に少し殺気が漏れる。
びくっと体を震わせた生徒会の面々がさっきまで睨みつけていた目線を直ぐ下のデスクに落とす。
生徒会長が一番先に我に帰った。引き攣った笑みでこちらを真っ直ぐ見つめる。
「如何にも我等が勘違いを起こしていたようですね。申し訳ない。――で、話をしても宜しいでしょうか?」
「その話とやらを聞きに足を運んだのだ。早く本題に入ってくれ」
「ダンジョン推奨のスピーチを取り消して頂きたい」
私は眉を上げる。こいつは何を言っているんだ?
「取り消す心算はないな。ダンジョンに行った生徒に実技で膝でもついたのか?」
ぐっと息を飲む会長。多分ダンジョンへ行った者に、成績で、実技で、遅れを取っているのだろうと推察する。
「…我ら高貴な家の出の者が下賤なダンジョンなどに入る訳にはいかないのですよ」
呆れるしかない。何が高貴で何が下賤か。どういう尺度を持ってそう判断しているのか全くわからない。
「そうか。ならお前たちは入らなくていいだろう?別に撤回してやる必要を感じないな」
「私が!!ダンジョンなどという下賤な場所へ足を運んだような泥まみれの輩に遅れを取るなどとあってはならない!!!」
「生徒たちのトップに居なければ我慢がならないようだな。なら相応の努力をしろ。下賤だなどと決め付けて、辛い修練から逃げたのはお前たち自身だ。努力をして成績を上げた者を、お前たちは下賤だと言う。自分では一切手を汚さずに。そんな者が学園のトップだと?反吐が出るな。一度自分でもダンジョンに行け。レベルを上げるというのがどういう事か、きちんと身を持って経験しろ。反論は、それらをこなしてきちんとお前たちが自分のレベルを上げてから聞いてやる…足を運んだ甲斐がなかったな。こんな些事で一々私を呼び出すな」
くる、と踵を返すと、まだ喚き声が聞こえる。
「――全部お前の所為だ!!最初はダンジョンなんて、と言っていた者も、どんどんダンジョンへ潜るようになり、私が、この私が底辺に追いやられようとしている!!」
「今度は八つ当たりか。私は至極当然の事を言っている。成績を巻き返されたなら、同じ手段でもっと己に厳しく修練を課せ。泥にまみれてみろ。もうお前に用はない」
言い置いて、私と黒曜は生徒会室から退室する。何やら八つ当たりするようなモノの壊れるような音が響いたが私には関係のない事だ。
「…哀れな男だな。自ら袋小路にしてしまっている」
「無駄にダンジョンを忌避して目の仇にしているとああなる。嫌なものを見た」
黒曜は無言で私を抱きしめ、額にキスをくれる。
「機嫌を直してくれ、次の授業もすぐに始まるぞ?」
「ふ、今お前が癒してくれたからもう平気だ。教室に戻ろうか」
その日のうちに、生徒会がダンジョン入り撲滅運動を始めたと聞いて、私はげんなりした。
しかしその事で話題に上がった所為で、ダンジョンへ潜る者が増えたというのは計算外だったろう。
数週間も経つと、音を上げたらしい生徒会メンバーが厳しい鎧姿でダンジョンに入る所を見た者が居るとか。
初心者がフルプレートでまともに戦闘が出来ると思っているのだろうか?何度呆れさせたら気が済むんだ。
ああ、撲滅運動までやっておいて、今更掌を返すようにダンジョンへ潜る自分達の顔を見られたくなかったのか。
しかし、既に生徒会がダンジョンに入った事は周知の事実となっている。それを嘲る者も少なくはない。
どちらにしても、生徒会は憧れの場から嘲りの場へと姿を変えた訳だ。しようもない。
まあ、焦って無茶して死人が出ていないだけ、理性が残っていると思われる。良い事だ。
ちょっと短かったですが、生徒会の顛末のキリのいいとこで終わってみました。
読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!無茶して突っ込む輩はそれなりに居ますけど、そういう者は基本的に転移石を持ってるのでギリギリまだ死人は居ません。