28.クラスメイト
眼鏡くん登場ですね。そしてあの人も。
クラス分けの貼り出し板を見に行くと、どうやら実力順でクラスが決まるらしい。
いつものメンバーは全員Sクラスだった。実技のみ・筆記のみの生徒はまた別のクラスがあるらしい。
…と、いう事は、実技も取らなければ首席卒業は出来ない仕組みのようだ。養子にして貰った公爵家の恩返しにせめて主席で卒業を果たしたい。うーんと唸ってると、アディ・リシュ・シュネーの3人が寄ってくる。
「いやな。採点方式を考えると、ずっとトップクラスで居ようと思うと実技を取らざるを得ないようなんだ」
「マリー、トップクラスで居たいの?意外だな~」
「学園に通わせて貰っているんだ、首席卒業を狙ってるさ」
「うわ~ホントに意外。でも実技にマリーが行くなら面白い事になりそうだから私も取ろうかな!」
「そなたが取るなら私も取ろう。教わる相手はマリーになるだろうが」
「学校でもマリーに教わって修練できるなら~ちょっとお得に思えるねえ~」
わいわいと私の席の周りで会話していると、1人のクラスメイトがキッと睨んできた。
「ああ、すまない、騒がしくしてしまったな。少し声を落とすから勘弁して貰えないか?」
睨んできた少年は眼鏡をくいっと上げると、こちらを真っ直ぐに見つめてきた。
「実力さえ出せれば主席を維持できると言いたげだな。私も主席を狙っている。次のテストでは挽回して見せるよ」
おお。ライバル枠だ。いいねそういうの。
「ならあんたもダンジョンでレベルを上げるんだな。魔法も剣技もへなちょこばかりしか居なかった。それじゃあ私に勝てないよ」
ふ、と笑うと少年の腕に、光を反射するものが付いているのに気付く。
――これは!
「それ、時計じゃないか!何処で買ったんだ?うちにも欲しいと思ってたんだ」
「あんた呼びは頂けない。私はマルクス・フォン・メレアデス。時計は私が錬金したもので、数がないから市販はされていない」
少し得意げに胸を張ってみせるマルクス。
「マルクス君、時計は余っていないのか?」
「需要の方が圧倒的に多いな。もう手元には残っていない。マリー君…マリー君?通話装置を作ったマリエール君か?」
「え?ああ、まだ未完成だけどな。双方向通信が出来るよう改良したいんだ」
「という事は、錬金の授業でも争う事になりそうだな。宜しく頼む」
おっと以外に爽やか系ライバルだ。差し出された手を握り、握手する。
「ところで残ってないのは、素材が足りないからか?」
「まあそうだな。機甲蟻の素材で作っているのだが、そうそう手に入らない。材料があるなら作って売ってやってもいい」
「じゃあ次の休みの日にでも取りに行って来るから頼む!」
日時計・腹時計だけでは限界があるんだ。
「そうだな。片方向の今の仕様でも良いので通信機を売ってくれれば引き換えに渡そう」
「解った、作ってくる…ああ、良ければお近づきの印だ、貰ってくれ」
「…これは……嘘を暴く魔道具…?」
「正解だ。擦り寄ってくる者が信用出来る者かどうかくらいの目安になるから持っていてみてくれ」
「こんな…素材はなんだ…こんな機能が本当に…?」
「スフィンクスのドロップだな。こっちも持つか?余ってるんだ」
王家に渡して尚余った女王の真玉だ。
「淫魔の女王のドロップだ。ダンジョンに潜るなら持ってて損はないぞ」
「状態異常…無効?ああ…君の話を適当に聞き逃していたが、こんな素材も取れるなら自分で潜るのも吝かじゃないな」
「是非潜ってくれ。実技のライバルが居なくて寂しいんだ。しかし、ダンジョンに潜っていなくても毒に犯されるものなんだな。キュア」
ぽうっとマルクス君の体が光り、本人は吃驚したように胸を押さえる
「痛みが…ない、倦怠感も…」
「そりゃあ治したからな。此れからはさっきの素材を身につけることで掛からなくなる」
「ああ…有り難い。素材のみで時計を作るよ。金は要らない」
「お家騒動か何かか?気をつけて過せよ」
そこにアディが顔を突っ込む。
「マリーと仲良くするなら私も一緒に混ぜて!」
「アディ…ナンパかい?」
「違うよ。シュネーもリシュも仲良くなろうよ。折角の学園なんだから友達くらいは作ろう?」
「そういう事か。ならば私もお願いしよう」
「わたしも~!」
なだれ込んできた3人に目を白黒させるマルクスだったが、やがて微笑んだ。
「私も友達が欲しいと思っていた。宜しく頼むよ」
公爵家と王子の組み合わせである故か、他の生徒は話しかけたそうにしているがなかなか傍に寄れずに遠巻きにされている。
こっちから話掛けようにも話題がない。少し静かになった途端、急に悪口が響く。
「あれが潰れ男爵の貰い子って話よ。公爵ぶってもお育ちの下賤さは隠せないわね。臭くて傍にも寄れないわ」
おお。久々にこんなに明け透けな悪口を叩かれたぞ。男爵家に居た頃以来だ。
「真実だが、臭くはないぞ。ちゃんと毎日風呂に入ってる。鼻が悪いのか?因みに私は聖女だ。王より位が上だと聞いているが、撤回はしなくていいのか?」
しん、と場が静まり返り、先ほど発言したものは屈辱で震えている。
「……撤回…します…」
「了承した。以後発言に気をつけてくれ。自分のモラルも下がってくるから気をつけろ。モラルが低いと碌な魔法が発現しないようだぞ」
ファムリタのように。
指摘された一瞬ハッとしたように目を見開くが、直ぐに此方を睨んでくる。
うん、こういう輩は簡単に反省したりしないって知ってた。
「おーい、皆席に着けー」
其処に先生がやってきた為、各自自分の机に座る。私の席はマルクス君の隣だ。考慮されたのか、アディとシュネーも隣同士で幸せそうに微笑み合っている。リシュは私の逆隣だ。アディやシュネーとあまり離れていない。
「私はこのクラスの担任であると同時に、錬金の担当もしている。まずは宜しく頼む。アデライド、リシュリエール、マリエール、のサリエル家3人とシュネー王子の特殊さはちゃんと考慮するよう通達があった。他のクラスメイトに言うべき言葉だが。喧嘩を売るな。死んでも構わないものだけ喧嘩を売れ。先生からは以上だ。右端前列から順に自己紹介をして貰おうか」
何て言い草だ。確かに売られた喧嘩は買う性質ではあるけれど。
前列よりだった私達に紹介の番が回ってくる。
「マリエール・フォン・サリエルだ。聖女をしている。あまりに露骨な嫌がらせを受けるとその者の上に落雷があるようだ。気をつけて欲しい。なお、体調不良や怪我、欠損などの障害が自分や家族にあるものは相談して欲しい。治してやる」
少しどよめきがあったが、直ぐに次の者の紹介が始まり、静かになる。どうやらこのクラスは公爵・侯爵の者が多い。雇える家庭教師の質が高い者ほどこのクラスに入りやすかったようだ。ロッソ・アフェリアという者もこのクラスの者らしいが、生まれつき病弱で、今日は来られなかったとの事。後日家のものに話をつけて癒しに行って来ようかと思う。
今日は自己紹介で終わるようだ。皆帰り支度をしている。私はちょっと隠れて鍛錬出来そうな場所を探してから帰ろうかと思う。
「マリー、どうしたの?帰らないの?」
アディが覗き込んでくる。私はアディの頭を撫でてやる。
「王子と私が居ると、学校での昼食であまり良い事がなさそうだと思ってな。修練も出来て昼食も食べられるような隠れた場所をちょっと探す予定なんだ。先に帰っていてくれるか?大勢で歩くと場所がバレてしまう」
「なるほど了解!良い場所があるといいね」
アディ達と別れると場所を探してなるべく裏の方をメインで探索する。なかなかハンパにバレそうな場所が多い。
その中でも、朽ちかけた東屋のある雑草まみれの裏庭を発見する。雑草の具合から見ても、殆ど人が通らない事を示している。これは丁度良い、と思ったが、どうやら先客が1人居るようだ。具合悪そうに東屋で横になっている。
大丈夫か、と声を掛けそうになったが、これはヒールなどでは治らない。なんて無茶をするんだ…!
「そんな未熟な器に龍などを降ろして、どちらも無事で居られる訳がなかろうが…愚かものめ!!」
「…一目で事情を見抜いた者は…そなたが始めてだ……だから、解るだろう。近づくと傷を付けてしまう。早く去っておくれ」
「気で龍を抑え込め。もう少しはマシになる筈だ」
私は相手の体から漏れ出している龍の体に手をあて、気で押し込んでいく。
「う、ぐうううっ」
「…だめだな。器が小さすぎる…気の鍛錬もしていないようだ…お前、ちょっと私について来い。冒険者カードは持っているか?」
「あ、ああ…私の国のものなら…」
「ならいい、私のカードと合わせろ。パーティを組む。経験点の配分は全部お前だ」
「何を…」
「放置したら龍もお前もただでは済まない。周りにも飛び火する可能性がある。応急処置をしてやるから付いて来い」
手を握ったまま転移すると、かなり以前にレベル上げに使ったダンジョンへ転移する。変なトラップやおかしな気候の層などない、至って普通のダンジョンだ。
こいつは此処をクリアしていないだろうから、1層からになる。
「走れるか?」
「なんとか出来なくはない」
「では私の後をついて走れ。奥のほうまで行けば、その症状も大分良くなるはずだ」
と言っても相手は病人のようなものだ。其処まで駆け足にするとぶっ倒れる可能性があると踏んで、小走りで敵を倒していく。程なく2層が見える。何度も振り返って相手が付いてきている事を確認しながら、10層ボスまで来た。
とはいえ、かなり前にも苦戦しなかった相手だ。一刀で終わった。
「少し龍が大人しくなってきただろう?」
「――ああ!」
まだあちこち龍の体が収まりきれず、黒い影がゆらゆらと揺れているが。
「敵が弱いからな、このまま小走りでクリアするぞ」
全て範囲魔法、範囲刀術で撫で斬りにしていく。以前はもうちょっとだけ苦労してたな、と感慨深い。フロアボスなど全て1撃で終わる。ダンジョンの60層でボスを倒す。相手には全てポータルの記録を取って貰っている。
レベルの上がりで大分と器が広がったようだ。今ははみ出した龍の姿がない。全て内に取り込めている。だが、龍が意思を持って暴れたくなった際などに対し、気で抑え込む術がないと周りの誰かが被害を受けてしまうだろう。
そう説明すると、幾分か顔色の良くなった相手が頷く。
「本格的にやるならウチで気の特訓や器を広げる鍛錬をやっているが、来るか?」
「い…行きたい…もう隔離されて1人で居るのは…嫌だ…!」
「ウチの家族ならその龍が暴れたくらいじゃ誰も動じないし倒せるだろうからな。丁度いい」
「恩に着る…!あ、ああ、名乗りもせず申し訳ない。私は黒曜という。状態が落ち着いていれば留学生として登校していた筈の男だ」
「私はマリエール・フォン・サリエル。強敵と闘うしか能のない女だ」
がしっと握手をすると、私は黒曜を家に連れ帰った。事情を話すと今までずっと隔離して来られたという黒曜の話に同情したラライナが黒曜の手を握った。
「私の事をお母さんだと思ってくれて構わないのよ!なんて事、隔離するだけで現状打破の方策も練らずに放置だなんて…!」
「マリーの時もそうだったな…。酷い境遇の者同士で惹かれ合ったかのようだ。マリーが連れてきた者なら信用できる。事が片付くまではいつまでもウチに泊まって構わない。――ああ、娘たちに手を出すのは御法度だからね。まあ、出せる訳もないんだが」
確かに、レベル差がありすぎる。
「明日から黒曜に気の使い方を教える心算だが、興味のある者は混ざって受けても問題ない」
――しかし、黒曜…何処かで聞いた覚えがあるような…。
少し蒸気した顔で黒曜は言う。
「今日はこのまま泊まらせて頂いても?明日はきちんと荷物を持ってくる…大したものはほぼないんだがな」
「~~~そんな所までマリーちゃんと一緒!!貴方の家族には申し訳ないけど、腹が立つわ…」
そういえばよくよく見ると黒曜の顔が今まで見たことが無いほど整っている事に気付いた。
「黒曜は綺麗な顔立ちをしていたんだな。今までどうにかしようと焦っていたから気付かなかった」
美形オーラが出すぎて眩しい。
「そう言われるのは初めてではないが…そなたの好みの顔だとしたら私は天に感謝せねばならないな」
うっとりとした顔で私をゆるく抱きしめる黒曜。
「本当に感謝している…まさかこんな時間が私に訪れるとは…ありがとう、マリエール」
「マリーでいいぞ、黒曜」
「……ま、マリー」
何故か黒曜の顔が赤くなっている。まあさっきまでずっと走って居たからな。仕方がない。
着替えがないであろう黒曜にクリーンをかけてやる。べたべたした汗や衣服の汚れが落ちたことに吃驚している黒曜。使用人などは大抵覚えている魔法だろうから、黒曜には使用人もついて居なかった、というか近づけなかったのだろう。せいぜいウチのファミリーで癒されればいい。
待っていてくれた家族と、遅めの晩餐を取ると、黒曜は目を輝かせて美味しい、とあれもこれも食べようとしていたが、今まで黒龍が暴れる所為で体が食事を取れる状態になる事がなかなかなかったらしい。初めて私がこの家で御馳走になった時のように、悲しそうな目で料理を見ている。ラライナは、あの時私にしてくれたようにそっと黒曜を抱きしめた。
「大丈夫よ。少しづつ、少しづつ食べられるようになって行くから、心配せずに食べられるだけを食べれば良いのよ」
くる、っとこちらを振り返るラライナ。
「マリーも酷い虐待で骨と皮のような状態でウチに来たの。最初はやっぱりそんなに食べられなかったけど、徐々に食べられる量を増やして、今は家族と代わらないだけ食べられるようになったわ。だから少しの間の辛抱よ?」
「マリーがそんな目に!?……そなたは強いなマリー。私は何もかも諦める寸前だった…」
食後、私は状態異常無効のペンダントを黒曜に掛けてやった。龍から来る症状に効くかどうかは定かではないが、気休めにはなるだろう。そう言ってにこりと笑うと、黒曜は更に顔を赤くした。
「すまない、このような貴重なものを…ありがたく受け取るよ、マリー」
真っ赤に熟れる黒曜の顔を見ているとなんだか落ち着かない気分になる。
メイドが片付けた客間に案内し、別れる。
風呂に入ってサッパリした私も寝る事にした。
学園モノらしくなって来たでしょうか?これからも色々巻き込まれるトラブルメーカーマリーさんを宜しくお願いしますw
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