27.入学式
スピーチを頼む相手はちゃんと選びましょう
一週間ほどの休みを挟んで初登校となる。
そんな中、学園からの使者がウチの門を叩いた。
新入生代表挨拶とやらを私にやれという。凱旋時の私のスピーチを知らないのだろうか。丁重に辞退すると、学園の使者は肩を落とした。シュネーが居るじゃないか。物凄くこういう事は得意だろうに。そっちに任せれば安泰なんだ、むしろ喜ぶべき場面なんじゃないか?
「聖女様に挨拶と共に祝福して頂ければ大変光栄だと考えておりまして…」
「祝福…バフ魔法の事か?」
「いえいえいえいえ、そうではなく、聖女様の口から、皆を鼓舞したり、同年代という事を歓迎したり、勉学に励めるよう祈って下さるだけで、充分な事なのです」
「要するに魔法効果は要らないが、言葉で励ませという事か」
「ただ、王より聖女様はスピーチを非常に苦手とされているとも聞き及んでおります。こちらの草稿に聖女様のお言葉を差し挟んでいただければどうかと…」
そうまでして私を指定するのか。何処かに思惑の1つも隠れて居そうだが、読むだけなら簡単だ。
「…解った。そうまでされてはな。引き受けよう」
別にスピーチで学園が壊れたりする訳ではない。私は引き受ける事にした。
制服や教科書などが届けられると、学園に通うのだな、と実感が沸いてくる。アディもリシュも嬉しそうだ。
折角の休みなので何処か適当なダンジョンを見繕っていると、シュネーがやってくる。休みなので皆ダンジョンに向かうだろうと見当を付けて来た、とのこと。ホントお前ウチが好きだな。
冒険者ギルドで配られていたダンジョンのガイドを見て、エスタークとは逆側にあるシグニスに高難易度ダンジョンがあるという情報を手に入れる。昼餐が終わったら行って見ようか。
昼餐を摂ったあと、リシュに晩餐の用意をして貰い、アイテムボックスへ詰める。そんなに長く居る心算はないが、念のためだ。先に私が飛行魔法でダンジョンのある地点を記憶させ、転移で戻る。全員が装備を着けた所で全員を転移させる。
白い大理石のような岩盤に、金の縁取りがされている大穴が口を開く。なかなか洒落たダンジョンだ。
一歩目を進むと横から槍が突き出た。刀で切ってぬける。また10歩も行かないうちに今度は落とし穴が口を開く。飛行魔法で対処した。また少し進むと大岩が転がってきた。刀で微塵に切り刻む。すると罠感知と罠解除のスキルが生えた。敵を探すどころじゃない。どうやら罠がメインのダンジョンのようだ。
罠感知で、自分達が通る部分にある罠だけを解除して進むと、階段が見えた。敵がほぼ居ない。2層もこの調子なら戻ろう。2層からは、きちんと魔物が出た。罠はかなり減っていて其処まで気になる場所にあるわけじゃない。
オークやゴブリン、トロールなどの定番の魔物ばかりだ。さくさく斬って進む。5層までは同じ状態が続く。
「奥のほうには強い魔物も出るといいな」
話しながら進んでいると、階段を降り切った所で全員を巻き込む大きな魔方陣が輝いた。
パーティを分断されたようだ。私の隣にはリシュだけが居る。
全員ではないがいくらか量産した電話もどきをある程度渡してある。
アディとシュネー、夫妻とソラルナ、と分かれたようだ。それぞれに位置が掴めない為、階段を目指して其処で落ち合う事を決める。リシュを連れて迷路状のダンジョンを進んでいくと、結構な数の魔物が襲い掛かってくる。
リシュの魔法と私の刀術で蹴散らして余裕がある。そこまで強い敵ではないようだが、レベルが足りるかどうかのパーティが此処へ来たら初見殺しもいいところだ。死人が出る。どうやらそこそこ意地の悪いダンジョンのようだ。
少し駆け足になりながら敵を屠り、罠を避ける。階段が見えた。が、階段前に邪魔な大きさの魔物が陣取っている。
「鑑定、ミノタウロス。弱点は氷と水、斬撃だ」
言うが早いか、魔法を発動する。
「フローズンメイデン」
「アイシングピアーズ!」
其処へ駆けつけた夫妻とソラルナが魔法とスキルを発動させる。
「フローズンロック」
「狂奔斬撃!」
「圧縮」
過剰戦力に沈むミノタウロスを見ていると、シュネー達が来た。
どうやら罠に引っかかっていたらしい。
少し敵の数が多いと感じる。誰も潜っていないダンジョンなのだろうか。一層の状態を見ればなんとなく解る気もする。
スタンピードが起きぬよう、一度クリアした方が良さそうだ。シグニスの土地だとはいえ、此処はトルクスにも程近い位置にある。
「降りるぞ」
一歩手前の階段から見ると、大量に犇く敵がそこに居た。
「ホーリージャッジメント!」
「テンペスト!」
「赫灼の渦!」
「「重力場」」
「アイスピアシング!」
範囲魔法をそれぞれ別方向に撃って、かなりの隙間が出来た。
降りても問題ないようだ。其処からは魔法でも剣技でも各々好きに使って蹂躪していく。相手は悪魔系が多い。インプ、ウィルオウィスプ、サキュバス、インキュバス、ドッペルゲンガーなどだ。
「状態異常に気をつけろ!特に魅了だ!」
多分シュネーとアディには魅了は効かない筈だ。愛の双玉を使っているからだ。
ふらりとソラルナが顔を赤くして魔物に突っ込み掛けているのを見て解除する。
「キュア!」!続けて味方全体にバリアを掛ける。
「ホーリーバリア、ホーリージャッジメント!」
状態異常は苦手だ。ほぼ私には効かないようで助かってはいるが。半神だからという理由だったらなんか嫌だ。
かなり掛かり難くはなっているが、偶にふらっと敵に突っ込もうとするメンバーにキュアを掛ける。怒涛の様に押し寄せる敵に、私は。
「轟聖縦断!」
前へと直進して伸びる技を選択した。目の前が一気に切り開かれていく。長い通路はもうこれで押し通る。小部屋は皆の範囲魔法でどうにかなるだろう。
切り開かれた道を駆け、また目の前が敵で埋まると同じ事を繰り返す。スタンピード対策なので、階段が見えても後回しだ。階層の全ての敵を鏖殺して、それから階段を下りる。
またぎゅうぎゅうに犇いている。先ほどと同じように降りる場所を作って同じ事の繰り返しだ。だが、敵のレベルがそこそこ高い所為か、レベルが結構上がっているようだ。
敵の種類は変われど、ずっとモンスターのすし詰め部屋が続くと気力も減退する。30階層で一旦引き上げる事にした。ボスは淫魔の女王。ソラルナとアディの重力場で地に縫いとめられ、私は崩壊で留めを刺す。
ボスドロップは淫魔のイヤリングと神鋼、女王の真玉
真玉は状態異常無効の効果があった。自分でも作れるので帰ったら人数分用意しようと思ってたらこれか、と苦笑するしかない。イヤリングは魔法防御10000の効果があった。物理寄りのアディに渡す。装飾もかなり凝った綺麗な品だった所為か、アディは嬉しそうだ。其処で一旦家へ戻った。
リシュの作った晩餐は明日食べるとして、今日の分は料理長の作った物で腹を満たす。明日は攻略してしまいたいから、皆早く寝るように、と言うと、当然の様にシュネーが寝支度していた。もう馴染んでてウチの家族にしか思えないが、将来アディが婚姻するのだとすれば間違いなく家族になる。だから同じようなものかと思い、気にするのはやめた。
早朝から全員分の状態異常無効のペンダントを作り、配っていく。自分は掛からないと思い込んで掛かったらバカの所業なので、勿論自分の分もある。尚、黒神竜の逆鱗でなくても鱗で代用は出来たのだが、あちこちの鱗を剥ぎ取られて漆黒は今怒りながら拗ねている。近いうち何かで補填せねばなるまい…。朝食を食べ、リシュの作った昼食も持ち、装備も万端。転移でダンジョン前まで来ると、一気に30層まで降りた。
「…漆黒さ~ん、ボス倒してみるか~?」
早速ご機嫌伺いしてみると、無言でペットハウスが開き、元の姿へと戻った漆黒が、一噛みで女王を食い殺した。その後、フン、と鼻息を漏らして私を睨むのも忘れない。そしてペットハウスへ。改めて漆黒が仲間で良かったなあと思う私だった。
ドロップは、女王のアンクレットと神鋼と女王の真玉。アンクレットは魔法攻撃が15000上がるアイテムだった。今まで取り分が少なかったリシュに渡す。そのうち真玉は纏めて王家に渡して、好きなアクセサリに加工して身につけておいて貰おう。
今日のダンジョンは兎に角みちみちに敵がすし詰めだから、従魔は出さなかったんだよな。今度普通のダンジョンに行ったら、むしろ従魔メインで狩りをして貰って楽しんでもらおう。
さて、方針は変わらない。唸る筋肉、アークケイヴトロールがみっちり詰まったすし詰めアニキ層。見た目が非常に嫌な感じだ。階段から範囲魔法で降りる場所を作り、轟聖縦断で廊下を一掃。小部屋は範囲魔法で。既に作業になってきている感は否めない。色々試したいなら、こんなスタンピード一歩手前みたいな場所でやるものではないのだ。
敵の強さは範囲魔法や技で一掃出来るレベルであったので、さくさくこなして行く。50層にて、ボス部屋の扉が見える。50層のダンジョンなんだろうか。ボス前で昼食にする。さっくりした食感が堪らないクロワッサン。鳩のソテーと温野菜のサラダ。フォンダンショコラまでついてきた。美味しさに頬を綻ばせながら食べる。ブロッコリー瑞々しいなあ…。シュネー、「くぅ…やはり此処は料理が美味しい…!」じゃありません。帰る時はちゃんとおうちに帰ってあげなさい。
食事も終わって用意が済んだら50層の扉を開ける。
「鑑定・スフィンクス!弱点は水と殴打!物理より魔法が効く!」
人面獅身のキマイラのような姿の魔物が踊りかかってくる。
「大渦!」
「ウォーターブラスト!」
「ウォーターシールド!」
「アイシクルショット!」
「ボルケーノエッジ!」
各々が魔法を叩き込むと、少し身を屈ませて攻撃をやり過ごすような体勢となり、隙を伺っているのが解る。隙なんて見せないぞ、と殺気を叩き込むと、スフィンクスの体が跳ねた。破れかぶれのようにこちらに牙を立てて突っ込んでくる。その勢いのまま、口元へ刀を交差させるようにすると、上下に分かれたスフィンクスの開きが出来た。凄いなこの刀…骨に当たる感触が殆どなかった。
ドロップは守護神のブローチ、神鋼、真実の目
ブローチは戦闘開始すると物理シールドをHP200000分張ってくれるというものだ。後衛に持たせたいので、ラライナとリシュで相談して貰う事になった。そして真実の目。嘘を見破るという特殊アイテムだ。これは王都の信頼出来る軍関係者に持ってもらった方が良さそうだが…うちにもいくつか欲しい。後でもう一度この階に来よう。
階段が開いた。ポータルへの記録は忘れずにしている。階段を下りると、またすし詰めアニキの層が見えた…。今度はアークウォリアーオークの団体様。筋肉暑苦しいですほんと。アニキを片付ける作業を繰り返し、5層後にはイヴィルドライアードのお姉さんのすし詰め。いい匂いはするんだけど、多分これ本来状態異常の塊みたいなやつなんだろうなと思う。状態異常無効持ってて良かった。漆黒さんの献身の塊ですほんと。
状態異常さえ防げれば、短調な蔦の攻撃しかして来なかった。多分捕まると生気やらを吸われるのだろう。アニキで培ったパターンで型に嵌めて行く。さくっと攻略し終わって、60層。
「鑑定!イヴィルドラゴンゾンビ!火と光と聖が弱点、物理は鈍器が弱点だ!」
多分、これがラスボスだと思う。一応、漆黒さんに声を掛けよう。ドラゴンVSドラゴンゾンビってちょっと見てみたい。
「漆黒さーん」
――聞いておったわ。ゾンビのドラゴンなど我に見せる心算か。もっと気を使え。心地悪いに決まっとろうが。聖魔法で魂を天に返してやっておくれ。そうすれば我の機嫌もなおるやも知れんぞ。
了解です漆黒さん。
「ホーリーフィールド…天地の風雨に晒されし傷ついた魂よ。今こそ天より御使いが来る。寄り添うて昇れ…アセンション」
ドラゴンゾンビはゆるりと首を回し、こちらに礼をするよう頭を垂れる。そのままゾンビの体から抜けた何かが光を放ちながら上へと昇っていくのが見えた。体はそのままその場に頽れ、静かに動きを止めた。
昇天しちゃったからな。此処のボスも別のものに変わりそうだ。
「凄い、マリー。私初めてマリーが聖女に見えた!!」
「神っぽかったよぉ~マリ~!」
神っぽくはなくていい。聖女で止めて置いて欲しい。
ドロップは癒されし竜の腕輪、神鋼、癒されし竜玉
腕輪も竜玉も徐々に体力が回復される魔法が込められているようだ。リジェネ効果のある装備。こういうのは一先ずシュネーじゃないか?あと、徐々に前列に出て来てるリクハルトも危ないから着けたほうがいいんじゃないかな。
提案は受け入れられ、シュネーとリクハルトが持つ事になった。
帰りにスフィンクスをもう一度倒し、守護神の指輪、神鋼、真実の目を手に入れた。指輪はブローチと同じくバリア機能のあるものだった。ラライナとリシュで好きな方を持ってもらう。
カードに記録してリターンで戻った。
ギルドの受付嬢はまだ死んだ目をしているのかと思いきや、テンションが戻っていた。死ぬほど作ってしまった在庫を全部売り払えたようだ。良かったね。
「で、今日は何処に?」
「シグニスと此処の国境近くのダンジョンがスタンピード間近になってたからクリアしてきた」
「………ッ!今日の私は一筋縄では行かないですよ?解りました。みっちり詰まったダンジョンを制覇してきたんですね」
「マッチョアニキのすし詰めが多くて辛かった…。」
「…それは私も見たくないですね」
「で、スフィンクスとドラゴンゾンビ倒してきた。ドラゴンゾンビは多分次に行ったら代わってると思う」
「は!?ゾンビをテイムしてきたんですか!???」
「いや、昇天させちゃったから…」
「そういうパターンもあるんですね…」
そこに素材売却を終えたアディとリシュが戻ってきた。
「じゃ、カード処理しますね……、はい、またのお越しをお待ちしてます!」
おお。ほんとに今日の受付嬢は至って普通だ、別人じゃないのか…?
「別人じゃないですからね?」
心まで読まれてしまった…。やはり別人だった。
休みの間、30階層以降を周回し、真実の目を集めておいた。人数分ある。アクセサリに加工し、全員に配っておいた。
ファムリタ関係がまだきな臭いし、鍛冶屋の親父はまだ狙われている。持っていて悪い事はないだろう。
60階層ボスは魔人ディレルゾという者に変わって居たが、特に強いとは思わなかった。多分また格落ち現象が起きているのだろう。
そうこうしているうちに、入学式がやってくる。
全員制服を着るが非常に似合っていて新鮮だ。
新入生代表の挨拶があるからと、私は早々に壇上に呼ばれた。校長の挨拶が終わり次第スピーチして欲しいとの事。草稿はもう覚えてきた。私の番になり、すっと前に出る。
「この春の麗らかな季節、私達は栄誉あるシルドラージュ学園へ入学することが出来ました。皆胸を張り、誇りを胸に勉学に励みたいと思っております。実技でも、私達は充分に学ぶ環境を与えて頂き……いや、駄目だ。嘘は吐けん。正直に言う。実技の試験官を見て思ったが、まるで実技環境が整っていない。いくら新魔法を覚えようと、パラメータが付いて来なければマトモな魔法は発動しない。闘う術があるならば装備を整えダンジョンへ潜れ。先生もだ。師たる者が1生徒に手玉に取られて悔しくはないのか。無理のない範疇でパーティーを組み、ダンジョンへ挑んでレベルを上げろ。一定レベルに達すれば魔法も使い物になるだろう。物理攻撃も同じだ。腕力も技もなく我武者羅に剣に振り回されていても何一つ殺せない。ノブリスオブリージェと言うだろう。貴族たる我々が、平民を守りもせずに逃げ出したいというなら無理に薦めはしないが、きちんと実力を上げて民を守る気持ちがあるなら考えて欲しい。――ダンジョンに赴く貴族達、平民達に祝福を!」
サービスよ?と悪戯っぽい女性の声が耳元に響き、キラキラと虹色の光が此処に居るもの全てに降り注いだ。体調を崩していたり具合が悪かったものも、光と共に癒えて行く。最後に光が渦巻いてふわりと女神を象ると、ゆっくりと消えていく。それまで無言で呆気に取られながら私の話を聞いていたものも、目を輝かせて歓声を上げている。
女神の祝福だ!と歓声を上げるものは多くても、実際にダンジョンに潜る者は一体どれだけ居ることやら。
私は演説台から降りて自分の席へ戻った。予定とはかなり違ったスピーチになった為か、教師陣が苦い顔でこちらを見ている。
本来、貴族はダンジョンに潜るなんて下賤の民がするものだと思い込んで、自分で探索したりはしないものなのよ、とラライナが以前忠告してくれた事を思い出す。先はあまり明るくなさそうだな、と自嘲した。
それでも一石は投じたのだと思いたい。
やっぱりやらかすマリーさん。
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