3.マリエール
やっとパパが出せました(^q^)
さっさと洗濯場へ戻るマリエールの後を、心配そうなロスクが追いかける。
「さっきまでザゼンとか言うのが必要なくらい体調崩してたんでしょう?顔色が酷かったもの。休んだほうがいいんじゃない?僕は心配だな…姉さんのそういうとこ。」
持ち場に戻ったマリエールは気合を入れなおし、ざくざくと洗濯をこなした。正直、座禅をする前よりパワフルで、倍のスピードで洗濯が終了する。
「心配するな。きっちり仕事をこなさねば、飯が貰えないだろう?それに鍛錬にもなる」
いつもならばモップで床掃除をする所だが、マリエールは雑巾を絞っていた。
まさかこの広い廊下や部屋を全て雑巾で拭いていく心算だろうか。慌てて止めさせようとするが、急にマリエールは動きを止めた。
「…クリーン…?」
洗濯場が急に光に満ち、新築のように見事な綺麗さになる。
「なるほど、こっちの方がより綺麗になると忠告してくれて居たんだな、ありがとうロスク」
「ええっ…いや、そういう訳じゃ…!えっ待ってマリエール姉さん、全部クリーンで綺麗にするなんて、余程魔力が多くないと無理だよ!」
「マリョクか…今ひとつ良く解らない能力だが、なに、気合さえあれば何でもどうにかなるさ。心配してくれてありがとう、私は頑張れるからロスクはロスクに必要な勉学に励むといい。悪い点数を取ると折檻されるのだろう?」
エレメンタリスクールに通っている訳ではない。通常貴族は高等学校になるまでは家庭教師がつく。そして教師から出されるテストを定期的にこなす必要がある。
そろそろ家庭教師が訪れる時間だ。マリエールは今までこっそり家庭教師の話を盗み聞きし、誰も訪れない埃臭い書籍の戸棚から本を失敬して独学で学んで居た様だ。
圭吾も同じように学園で恥を掻かない様勉強せねばならない。
男爵家には3人の子が居る事は周知である為、父母もマリエールを学園に通わせねば恥となる。それでも家庭教師をマリエールに付けない理由はマリエール自身が怠惰で頭が悪く、容姿も微妙だと喧伝したいようだ。
ロスクに家庭教師の出したテストを回してもらい、マリエールもテストをこなしているが、今のところ赤点を取るどころか満点に近い点数を取っている。圭吾はそんなに頭が良いと言う訳ではないが、この体が持つ高い知能のスペックでフォローして貰えれば、同じように勉強をすればいいと考える。
家全体を意識し、もう一度「クリーン」と唱えると家全体が発光し、外側も内側も、置かれている花瓶や食器なども全てが美しく磨かれたようになる。
ロスクは顎を落としそうになりながらがくがく震えている。
「ね…姉さん…?この家全体を1回でクリーンした…とか。いや…ははそんな馬鹿な…」
「合っているぞ?これで日課は全てこなせたのなら、私も勉学と修練をする時間が取れて有りがたい。食器洗いもクリーンでこなせるから、時折厨房を覗けばいいだろう?ああ、そうだ。マホウの修行もせねばならないな」
水気の飛んだ洗濯物を所定の位置に並べてにこやかに笑う。クリーンの範疇に自分も含まれていた様で、薄汚れていた体や髪がサラサラになっているマリエールは美しかった。
痩せすぎてこけた頬がふっくらと戻れば相当な美少女になるだろう。
「姉さん…この広さを一度でクリーン出来る人なんて多分姉さん以外居ないよ…。視認出来る範囲がせいぜいで…ああもう姉さんのステータスどうなってるんだよ!?」
「すてーたす?」
ぽんっと自分の前に現れる画面。
マリエール・エデランド/聖女<new>(盤倉 圭吾)14才/女
レベル1
HP650/MP870
力358
体力486
精神力350
知力265
忍耐671
徒手空拳10
刀剣術10
礼儀作法5
生活魔法7<new>
光魔法5<new>
雷魔法<未取得>
火魔法<未取得>
女神の愛し子
※今世と前世のパラメータがどちらも反映されている珍しいケース。聖女の称号の所為である。ステータス成長にも影響がある。また女神の愛し子の称号で、大切にされていれば常に幸運を引き寄せる。レベルとパラメータの上昇度は他に類を見ない。あまり聖女を虐げるようであればこの家に厄があるだろう。
「――と、書いてあるぞ?ええと…ヒール?」
ぽわっとマリエールの体を白い光が照らし、ひび割れや打撲などの怪我が癒える。
「は…いやもう何なの姉さん、常識が何処かに飛んで行ってるよ、そもそも教会でもないのに自力でステータスが見れる時点でおかしいんだけどさ…何処を取ってもツッこみ所しかないよ…イワクーラ・ケーゴって誰?」
「私だな」
「いや、姉さんはマリエール・エデランドでしょ!?」
「前の私だな。」
「前?…前世?」
「多分そうなんじゃないか?前は男だったもので、今かなり戸惑ってはいるよ」
「何一つ動じてないように見えるけど!?もっと取り乱すでしょ普通!?」
「良く顔には出ないと言われたものだよ、ははは」
「いや、絶対嘘。絶対余裕あるよ姉さん!!顔だけじゃなくて全身から余裕出てる!!というか、何そのステータス。嘘じゃないんだよね?――国でも獲る心算なの?」
「いや、私は武術を趣味にしていてな。国などとややこしいものは要らないな。強敵と闘えれば充分だ」
「姉さん令嬢なんだから無理言わないで!!」
洗濯場でわいわいとやり取りをしている間、館では「何か光った!」と騒ぎになっている事には気付かない2人だった。
「ねえ…姉さん」
ぐったりした様子で話しかけると、すぐに「何だ?」と応えがある。
「なんでヒール使えたの?使えるって知ってたの?」
「ステータス画面の光魔法ってところをじっと見ると使える魔法が一覧で見れるので使ってみただけだが、ロスクも怪我などしているのか?」
「いや…僕はいいよ」
そっかぁ…と、ロスクは遠い目をする。
「冒険者という職業になれば闘えると使用人の井戸端会議で耳にしたんだが…」
「姉さん!それは!学園卒業してからね!?」
「え…12歳以上なら登録できるとも…」
なんでそんな詳細まで井戸端会議してるの?うちの使用人ってなんなの?
「そもそも姉さん武器持ってないでしょう!鎧も!小手も!」
「依頼をこなすとお金が稼げるのじゃないのか?それまでは素手で…」
「素手で魔獣と闘う心算なの!?姉さん自殺したいの!?」
「いや…だがこのままのペースで飯を食っていたら体が作れないだろう…?」
わあ。戦闘狂みたいだこの人。
確かにガリガリに痩せ細っていて女性の柔らかさを感じることは出来ないけれど。
「…解った。僕の小遣いでせめて剣だけでも買ってから登録して。どうせ止めても勝手に登録するんでしょ…?でも学園にはちゃんと通ってね!?それを守ってくれないと買ってあげないから!」
男爵位だとしても貴族だ。そこそこの小遣いは貰っているし貯めている。マリエールには渡されていないけれど。
「解った。君は優しい子だな、ロスク」
本当に嬉しそうに笑うマリエールに、不覚にもロスクはときめいてしまう。
中身は男だし!姉だし!多分脳みそまで筋肉で出来てるよ!いや頭もいいんだったか…。
違います!ロスクは姉に不埒な気持ちなど持ってません!
「見繕いしたいだろうけど、姉さんは外に出る許可が出ないだろうから僕が適当そうなのを選んで買ってくるよ。そこは我慢してね!」
「うむ、恩に着る。いつか何かの形でお返しすると約束しよう。そろそろ厨房で野菜の皮むきをする時間だ。お前は授業をサボったことになっていないか?大丈夫か?」
「――――あ…」
どうやら晩餐後は二人揃って母の部屋へ赴かねばならないようだ。
晩餐後、ロスクとマリエールは母エルザの部屋に向かう。ロスクは憂い顔だが、マリエールの表情は至って穏やかなままで顔色が読めない。
「…失礼します」
ドアを開けると待ちかねたような母が笑みを湛え、扇をパシパシと掌に軽く打ち付けていた。
「ロスクは授業をさぼり、マリエールは私への態度がなっていない。それにロスク、マリエールと関わるなと何度言ったら納得するのかしら!そんな事だから授業をサボるような悪い子になってしまうのよ?」
ヒュン、と扇が舞い、ロスクへの攻撃が当たろうとした瞬間、マリエールがほんの少しロスクを引き寄せ、扇は宙をきる。
「…ッあくまで私に反抗しようというのね…この…ッ」
マリエールへ向かって何度も扇が舞うが、最小限の動きでマリエールがそれを躱す。
残像が見えるような速度だ。ドレスの裾を踏んでエルザの動きが止まる。肩で息をしているのを見るに、腕がもう限界なのかも知れない。
「貴女は授業をサボった事はないのか。もしサボったとして、こんな風に打擲されていたのか?」
「――そうよ!だから私はこんなに立派な貴族女性に――」
「貴女は、それをした親に対し、どんな気持ちでいた?ロスクは多分それと同じ感情を貴女に抱いていると思うが、構わないのか?」
扇を持ったエルザの腕に一瞬で蛇のようにマリエールの腕が絡んだと思えば、扇はマリエールの手に握られていた。ビタリとエルザの首に突きつけ、マリエールは問う。
「決してプラスな感情ではあるまい。貴女は親を憎んでいた。違うか?だから嫌われたくないファムリタにはこんな事はしていないだろう?」
「アナタなんかに私の気持ちが解るものですか!!!小賢しい説教なんて聞きたくないのよ!もう今日は部屋から出て行って!出て行け!!!」
マリエールとロスクは押し出されるようにして、部屋を出る。
荒れているのか、ガシャンガシャンパリンと何かが壊れる音が部屋から響いてくる。
何を言えばいいか解らない。ロスクは少し泣きそうに顔を歪める。
そんなロスクの目の前に、マリエールはひょいっと冒険者カードを翳す。
「クラスAだそうだ」
「ね…姉さんのバカ――!なにやってんの!?」
「お土産だ」
ロスクの手を取ると、無邪気な笑顔でまだ血のついている牙を渡す。
「フォレスト・アーク・キメラというらしい。倒して牙引っこ抜いてきた。何かの素材になるらしいぞ」
「素手で!?それAランクの魔物だよね!?何処行って遭遇したって言うの、この短時間で!!」
「うむ、それがな――」
野菜の皮を剥きに行ったマリエールは、生活魔法の上位にある「下拵え」を使ったという。
一瞬で皮を剥かれ、料理に合った適正サイズにカットされたそれを料理長に渡したそうだ。料理長は言いつけてから一瞬で、頼んでもないカットまで済まされた食材を渡され、それを受け取ると豆鉄砲を打たれた鳩の様になってしまったらしい。
硬直する料理長とは裏腹に、時間が出来てしまったマリエールは音もなくスッと退散し、気付かれないよう気配を殺して家から出る。
街行く人に冒険者ギルドを訪ね、登録したいと申し出たマリエールに、受付嬢は困惑したそうだ。清潔そうだがボロボロの服、ガリガリに痩せて浮き出た肋。それとは裏腹に、獲物を狙う飢えた狼のようなギラついた目でうっすらと威圧が漏れ出している体。
通り掛かったギルドマスターに、面白半分で手合わせを提案されなければ、悩みすぎた受付嬢に受け付けて貰えなかったかも知れないという。
手合わせは3秒で終わったらしい。
瞬歩と呼ばれる高速移動でマスターの背後から気を纏わせた手刀を首元に突きつけたと言う。
余りの速さに騙された気分になったマスターとは3度仕合い、それぞれ手を掴んだだけの合気で投げ飛ばし2勝目、軸足を刈って倒れそうな所を顎を掠めたアッパーカットで沈めて3勝目を得たそうだ。
無事登録できたマリエールは一先ずはBクラスで。と、カタカタと人形のように震える受付嬢から、クラスをジャンプした階級を与えられた。
その足で少し街を出てみると、魔獣をトレインしたまま町に駆け込む冒険者に出くわした。
魔獣とすれ違い様に喉元へ発勁。手刀を突き込んだ喉元とは逆の後頭部から爆発したような傷を負わせ、そのままの足で獲物を引きずって行こうとしたが、痩せた体には少々重い。ギルドに持ち込みたい、と念じたところ、アイテムボックスというスキルを得る。
無事に獲物を収めたマリエールはギルドへ向かい、獲物を提出した。受付嬢は腰を抜かしたようでぺたんと座り込み、「な」という1文字の製造機になってしまった。まだ残っていたマスターに受付を頼むと、経緯を聞かれた。ありのまま伝えると、マスターは何処か宇宙でも見ているような遠い目になる。
そのまま解体と素材売却をお願いし、ランクは町への貢献も含めてクラスAに上がった――。
尚、町にモンスターを引き入れてしまった冒険者は資格の剥奪を受けたそうだ。
「で、食べ物を沢山買って来たんだ。あ、結構金額が大きかったんで剣も買ってしまった。折角好意で言ってくれたのにすまない。これで今日から屋敷の仕事もしつつ、鍛錬もしつつ、勉強も冒険も出来ると思わないか!?」
キラキラした目で語るマリエールに、ロスクはもう何を言えばいいのか解らずに、ぺたりと座り込んだまま死んだ目で「なあ、普通先に外出着を買うものじゃない?」と斜め上の返答を捻り出すのが精々だった。
パンツも貫頭衣のようなボロボロの膝丈ワンピースも穴が開いたり裂けていたりとおよそ街を歩くには適していない。良く冒険者ギルドを教えて貰えたなと感心するばかりである。そして今はさらに血飛沫が飛んでいる。
「もう遅いし服屋も閉まってるだろうし、場所も知らないからな。今日の戦果はこんなものだ。しかし服を買うとファムリタが持っていってしまうと思うのだが…」
「こっそり!こっそり買って、そっと外に出る時にだけ着ればいいんじゃないかな。家の中でそんな服を着せている事自体が申し訳ないんだけど…」
「服の替えもなかったからな。明日はこっそり服屋に行くよ」
「…なんか心配だから僕もついて行って良い…?」
ほんの少し目を離しただけでこの為体だ、明日もフリーにさせたらドラゴンでも狩って来そうで怖い。洒落にならない。
「構わないが、女性用の下着など買うがロスクは平気なのか?」
羞恥と破天荒の狭間で天秤が揺れる。
「…ついて…行きます…ッ」
思わずぽろりと涙が零れるロスクだった。
パパはマイペースな人です。周りに異常だと思われても本人は気にしていません。
少しでも楽しんで読んで頂けると嬉しいです。(*´∇`*)
★をぽちっとして頂けたらもっと嬉しいですw
不定期連載になるかと思いますが、エタらないように頑張ります