表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/155

26.お受験

やっとこれで序盤が終わります(*´∇`*)

 あれから軍は素行調査などが行われ、評判の悪い者は脱退させられた。


 その上で5人ほどのチーム分けをして、各地のダンジョンを順番に攻略させているらしい。


 元々の訓練もさせられるが、それと同時に、可能性があると言われながらも発現していない魔法やスキルの練習をさせられている。


 要領の良い者は1日で発現できたらしく、真剣に取り組むカンフル剤になったようだ。



 鍛冶屋への接触は悪質度を増してくる。あちらの兵士だと思われる身のこなしをする者が周りをうろつく事が多くなったらしい。結界は張ってあるが、影の人にも頑張ってほしい。


 技術や素材の流出は出来る限り抑えたい。それが戦争に(まつ)わる武具や兵器なのだから、適宜人数を増やして鍛冶屋の周りは厳重に護衛される事になった。一度鍛冶屋が1人で素材卸屋に行きたいと我侭を言ったらしいが、護衛が離れて5秒も経たぬ内に誘拐されかけ、慌てて護衛の影が割って入って事なきを得た。


 それからの鍛冶屋は外出時に囲まれるような護衛が居ても文句を言わなくなったそうだ。


 鍛冶屋、我慢して欲しい。頑張ってくれ。



 私達はと言うと、朝夕の修練以外は各々、リクハルトは仕事・ソラルナは学園・アディ・リシュ・私は家庭教師に教わる受験勉強だ。家庭教師たちは、私達が、一度教え聞かせただけで、ほぼ完璧に習熟するのに吃驚していたが、そのまま早足で受験に間に合うようペースを調整しながら教えてくれた。


 小テストも過去問のテストも100点でクリアし、受験の3日前には全ての受験の勉学は終了した。後は各自の心構えで問題なく学園に通えるようになるだろうと太鼓判を押されて、家庭教師の先生とは別れた。


「で、3日余ったがどうする?」


 今さら教本を読んでも全て暗記してしまっている。礼儀作法も出来るが、平民も通う学園では授業と公式の場でさえ取り(つくろ)えれば問題ない気がする。私は分厚い錬金事典を取り出して2人に見せてみた。


「やってみるか?結構面白い物が作れるぞ?」


 自分で見つけて購入し、今まで1人で使ってあれこれ制作していたので、2人に見せるのは初めてだ。


 2人は喜んで、3日で誰が一番凄いものを作れるか競争だ!と息巻いた。


 今まで置いてあるだけで未使用だった3つの釜のうち、2つが漸く日の目を見る。嬉しい。


 やはりレシピ通りのものはそう失敗がないらしい。幾つかは爆発していたが。難易度の高いものになって来ると、徐々に失敗率が上がっていた。…おかしい。私は失敗する事はほぼなかったのに。でもその失敗が負けん気を引き出して、上手い事2人の錬金レベルが上がっていく。


 私は以前失敗した、2つの物体の間に通信を通し、会話が出来る状態へ持って行こうと頑張った。


 以前は片方を壊すとビープ音が鳴る程度のものしか作れなかったからだ。


 何度か失敗し、3日目の昼にようやく完成した。


 アディに片方持たせ、転移で少し遠い場所へと移動してもらう。


「あー、あー、聞こえるか、どうぞ」


「ちゃんと聞こえるよマリー!凄いよコレ!どうぞ!」


「ちゃんとテストが上手く行ったようだな。戻ってきていいぞ。どうぞ」


 受信か発信かどっちか一つオンになるようにしか組み込めなかった。そのうち双方向通信が出来る様にしたい。


 アディがいたく気に入って、自分とシュネーで会話に使いたいというのでプレゼントした。


 スクリーンも付けて、TV電話にして持たせてやりたい。もう少し研究が必要だな、と思った。


 翌朝は早めに出発する事になったので、夫妻も混ざって一通り通信機で遊んだ後は、晩餐と風呂を頂いて眠った。


 受験当日、私達は飛行魔法で会場へ向かう。早めについて、早めに鑑定を終えないと物凄く混んで来ると聞いたからだ。飛んでいくとそれほど遠くない会場へは直ぐに到着した。


 すとんと着地し、アディが受付のお兄さんへ声を掛ける。


「サリエル家の者です。これ、受験カードです。宜しくお願いします」


 にっこり微笑んだアディに、受付の者はぼおっと見とれて居たが、そのうちハッと気づいたようで3人分のカードに何やら透明な印を押して返してくる。


「会場はあちらですが、先に鑑定を受けて頂くので先ずはあそこにちらっと見えてるテントの方までお願いします」


 アディに蒸気したままの顔で告げるのを見て、私は苦笑する。擦れ違い様に、「アディには婚約者が既に居る」と囁いてからテントに向かった。


 テントの中はまだ人が疎らだ。さっくり終われそうで安心する。


 アディ・リシュ・私の順で鑑定をして貰ったのだが、結果を見た教師らしき人間は「あら、これ壊れちゃってるわ」と言い、奥から別の鑑定器を出してきたので、大人しくもう一度鑑定される。


「…………同じ結果………壊れて…ない?」


 だらだらと汗を掻きながら青年は結果と私達の間を5度見ぐらいした。


「あ…聖女、なるほど王から通達のあった……人神?人間じゃないじゃないのよ~!」


 失敬な。人間だ。


「パラメータが異常に高いとは聞いてたけど、此処まで逸脱(いつだつ)した能力だなんて聞いてないわ…」


 キッとこちらを見た青年は言う。


「実技テスト、絶対に本気出さないで!一応結界は張ってあるけど吹き飛んで生徒に怪我人が出かねないわ!」


「ああ、それはこちらも(わきま)えている。心配するな。ちゃんと手加減はする」


「剣術なんかのテストもあるけど、試験官を殺しちゃったら不合格どころか牢屋だからね!解ってるわね!?」


 試験官の注意で長く足止めされてしまっていると、シュネーがやってきた。


「あ、先生、シュネー王子も同類なんで」


「知ってるわよ!王から聞いてるわよ!!」


 王子の鑑定が終わるのをそのまま待ち、私達に1枚、教官用に1枚取ると、会場の方へ指差しされる。


「最初はペーパーテストだから問題なさそうだけど、実技は本当にちゃんと手加減してね?」


 何回念を押すんだ。そんなにやらかしそうに見えるのか。おネエさんに見送られ、私達は会場へ向かった。


 かなり早めに着いてしまったらしい私達は、カフェコーナーで少し時間潰しがてら雑談をしていた。すると。


「あっ、きゃー!ごめんなさい!」


 紅茶を持って歩いていた女子が…ファムリタだ。わざとらしく蹴躓(けつまづ)いて王子の服へ茶を掛けてしまう。


 私は何がしたいのか解らないファムリタの行動に首を傾げながら「クリーン、ヒール」と即座に魔法を掛けた。


 途端に凄い表情でこちらを睨みつけられる。王子に見えない位置でやっているのが実にあざとい。


「あたしったらドジで…熱かったですよね?ごめんなさい…」


 計算し尽くした表情と若干の涙目。女優になれるな、こいつ。


「解った。謝罪を受け入れるので離れてくれないか?」


 シュネーもちょっと引き攣った顔で違う席を指差す。


「他にも空いている。私達は仲間同士で話をしていたいんだ」


「で、でもあたし、知り合いも居ないから心細くて…一緒にお茶したいんですけど駄目ですか…?」


 凄いな。あそこからまだ粘れるのか。私はファムリタについてる筈の影に合図する。


「勝手な行動は困ります。それとさっきの鑑定で禁忌魔法が発現し、魔封じの手枷も付けさせて貰っているのを解っていますか。筆記が終われば一旦王宮で預かりますから、王子に絡まないで下さい」


 混沌魔術、というあらゆる状態異常を操る魔法だとの事。


 非常に残念な思考回路をしているのだな…傀儡を封じた後に発現したのがその魔法だという事は、本人に他者への悪意がぱんぱんに詰まってる事を指すようなものだ。


「嫌よ!大事な出合いシーンでスチルもあるんだから!私は王子とお茶するの!」


「はいはい、あっち行きましょうねー」


「嫌あぁああああ!!!」


 ずるずるとファムリタを引き摺って、影が逆方向へ消えていく。やっと騒がしいのが消えて、私達は胸を撫で下ろす。


「うむ。王子を狙っている、という事だけは解ったな」


「冗談じゃない。一番苦手なタイプだよ、彼女」


「根性だけは凄かったよね。私らをめっちゃ睨んでたしね」


「その分、試験に生かせればいいのに~」



 などと話していると、テストの時間が迫ってきた。


「移動しよう」


 それぞれの番号の席につく。程なくして裏返しの問題が配られていく。不正防止の為、筆記具も用意されており、それも配られる。一人一人の間に見えないよう魔法の壁が張られる。回答用紙が配られた後は時計を見ている先生が「はじめ!」と声を掛けた。


 私は時計を開発した人物が非常に気になりながらもさくさくと問題を解く。変に(ひね)った問題がなかったので、するする解いていける。時間が余った分はケアレスミスの見直しだが、問題なかった。


 その日のうちに結果を出すらしい。


 実技試験のあと3時間待って合否が貼り出されるという。なんという速さ…。


 実技試験は魔法と物理に分かれている。どちらにも適正がある者は、どちらも受ける事になる。戦闘の適正がない者はどちらも受ける事無く、筆記のみでの判断を下される。学園で学ぶのは座学だけでも良いとされているので、実技も出来る人間とは違った採点方法になるのだとか。


 逆に実技だけでも合格は出来るが、その場合は相当使えないと合格は難しい。筆記の後は王宮へ連れられて行ったファムリタは、筆記のみの採点になるのだろう。


 どちらを受けるか決まっている者は並ぶのが早く、少し悩んだ私達は出遅れた。先ずは魔法から行こうか、と話し合い、魔法実技の列へ並んだ。他の者の魔法を見ていると、なんだかこう…もう魔法でなくていいんじゃない?と言いたくなるひょろひょろ玉が的に届くかどうかの所で破裂する。酸っぱい口になりながら列を進んでいく。漸く私の番になったが、手元の紙を見ていた試験官が顔を引き攣らせている。


「マリエール・フォン・サリエル。くれぐれも、くれぐれも!手加減して撃ってくれ」


 そんな事を言い出す先生に、他の生徒は「何言ってるんだコイツ」という目線を向ける。


「解っている。適当に撃つぞ。ふぁいあぼーる」


 やる気の感じられない平坦な声での詠唱だ。限界まで手加減したファイアボールはぎゅるっと渦を巻くと全ての的を巻き込んで爆発した。…良かった。校舎の壁は崩れてない。()()()()()()()()()で済んだ。


「ウォーター」


 燃えた部分に生活魔法で水を掛けて消火する。先生は涙目になっている。


「手加減して欲しいって言ったのに…」


「先生、あれ以上手加減できません。限界まで弱めて撃ちました」


「………それなら仕方ない……な…」


 続くアディ・リシュ・シュネーは、的を壊してしまったが、校舎への飛び火はなかった。


 ステータス的になあ…そこまで手加減出来ないんだよなあ…。ちょっとしょんぼりする。


 今度は物理実技のテストへ足を向ける。全員己の使いやすい武器を持参し、試験官に斬りかかるが…腰が入ってないどころか、振った剣の重さでよろめいている有様だ。


「…何だコレ…」


 何故か自分がこの現状に無性に恥ずかしくなり、両手で顔を覆い隠す。いやほんと何だコレ!?その状態で剣術を修めたって言うな。絶対言わないでくれ頼む!涙目で顔を赤くしていると、私の番になったようだ。こちらの試験管は紙を持っていない。


「マリー・フォン・サリエル。武器を持って前に出なさい」


 一先ず殺さないよう素手で相対する。


「武器はいいのか…?」


「使うと貴方を殺してしまうかも知れないから持ちません。本来は刀で闘います」


「………俺は試験官なんだぞ…?ひよっこに負ける筈がないだろう。刀を装備せねばやる気なしと見做して0点だ」


 ふうーっと大きく溜息をつく。この人事については後で王に伝えておこう。しぶしぶと刀を構える。


「来い!」


「――ふっ!」


 以前冒険者にやったのと同じように、一瞬で衣服と獲物だけを切り裂いて裸にする。


「行きました。何本勝負ですか?」


 スッと刃先を顎の辺りに突きつけ、殺気を出しながら聞くと、試験官は泡を噴いて倒れた。


 すると、代打の試験官らしき女性がこちらに駆けつけてくる。女性の手には紙が握られていた。


 ガタガタ震えつつ、担当試験官の不手際を詫びてくる。必ず紙に目を通せと言われていたのを無視したそうだ。


「いや、別に構わないのだが、人事の見直しをするよう、王には伝える。それでいいだろう?」


「はっ、はい!マリーさん満点でクリアです!」


 続くアディ・リシュ・シュネーの3名の事も把握している代打の試験官は、提案をした。


「お三方については、私の打ち込んだ剣を止められるかどうかで判断させて頂きます!」


「「「解りました」」」


 勿論難なく受け止めた3人は満点合格だそうだ。


 どうもこの学園は実技に力を入れていないと判断した。多分実技講義は受けるだけ無駄だろう。


「座学だけ受けようか。実技受ける意味がなさそうだ」


「「「賛成」」」


 多分、合格ラインには余裕で達している筈だが、一応3時間暇を潰そうとさっきのカフェスペースではなく、校外のカフェでお茶を飲みながら軽食を頬張る。


「しかしなんでシュネーは長々ウチに居たんだ?いや、別に構わないんだが」


 シュネーは少し顔を赤らめながら言う。


「こっちにはアディも居て…共に暮らすのが嬉しかったのと…」


 其処で逡巡(しゅんじゅん)するように言葉を止めるシュネー。


「……シが…飯が美味いのだ、こっちの方が!」


 食いしん坊さんかお前は。


 しかしアディはそんなシュネーを見て可愛い、と頬を染めている。


「あー…でも石パンは辛いな。リシュ、パンのレシピだけでも書いてやってくれ」


「勿論いいですよぉ~」


 持参していたメモ帳にカリカリと筆記する音が響く。その間に、とアディは私が作った通信機を王子に片方渡して使い方を説明している。和やかでいいな。待機タイム。シュネーと長く一緒に居るのも久々だしな――


「あっ王子!!」


 うわ。探してたのか!?わざわざ裏通りにある店を選んだのに何件回ったんだ!?執念深くないかこいつ?


 さっと書き終ったメモをシュネーに渡すリシュ。カタンと席を立って促した。


「そろそろ3時間ですよぉ~。貼り出しを見に行きましょう?」


 あからさまにファムリタを完全に無視し、歩き出す。


「ちょ…ちょっと待って!あたしも一緒に…」


「私はお前に口を開いて良いと許可したか?」


「へ?え、あの」


「私は王族だ。知っての通り、上の者に口を開くには許可が要る。私はお前の発言を許可しない。付いて来るな」


「っ……」


 ファムリタは呆然と立ち尽くす。


「行くぞ」


 呆然としたままのファムリタを放置して、私達は結果を見に行った。勿論全員合格だった。


「ゅるさなぃ…マリー…!」


 そんな怨嗟(えんさ)の呟きは、風に(さら)われて誰の耳にも届かなかった。


ラクラクお受験でしたね。あやかりたいものです

読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!シュネーは気に入った料理のレシピをどんどん貰えば良いと思う

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ