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24.戦

敵だって対応策を練るのは当然の事ですね

 早朝に目を醒まし、他の一行と同じく装備を整える。


 それを見たアディが不思議そうな顔をする。


「どうしてマリーが準備してるの?お留守番じゃないの?」


「折角癒せるんだから医療部隊に混じろうと思ってな」


「医療部隊…前のスタンピードの時は一度も使われてなかったよ?」


「万が一があるし、以前に誰でも癒すって言ったからな。医療部隊に詰めている事が解れば怪我人なんかが来るかも知れないだろう?」


 今まで留守にしている事も多く、更に公爵家だ。なかなか訪れるのに勇気がいる状態だったろう。


「そっか、それもあったね。頑張って!」


 空を飛べるアディ・リシュ・ソラルナは飛行魔法で敵の元まで飛んでいく。


 シュネーは王宮に戻り、自分の従魔を隊の者に認知させに行くとの事。


 サリエル夫妻と私はゆったり歩いて街の入り口へ向かった。


 サリエル夫妻は軍の待機列へ、私は医療テントへ向かう。


 すると医療部隊の方々が(かしこ)まった態度で(うやうや)しく私を扱う。


「いや、別に敬われに来た訳じゃない。普通にしていてくれ。後、戦争に関係ない怪我や病も治す予定だから、兵でない者が来ても通してくれ」


 言い終わるや否や。拡声された声で街に通達される。


「拡声!現在聖女は医療テントに来て下さっています!病や怪我人を治して下さると仰っているので、街に該当する者が居れば、テントまで来て下さい!歩ける状態でない者の家族はこちらで相談して下さい!」


 一瞬わっと街がどよめき、ちょこちょこと人が訪れ始める。


 四肢のいずれかを欠損し、軍に戻れなかった者などが真っ先に訪れた。


「グレーターヒール、次の方は右足と左腕ですね。グレーターヒール」


 意外と盛況になってきている。困ってる人が多かったんだな、と実感する。治るや否や泣き出す者も多く、医療テントの休憩スペースはそんな者が落ち着くまで利用したりしている。


 生まれつき両足がない子供などを連れた親なども来た。グレーターヒールで治らないのを見て絶望したような顔になるが。


「…エクストラヒール」


 良かった。こっちの魔法では対応出来た。しっかり生えた足に感動する親子。いきなり生えた器官に対応するにはリハビリが必要だが、なんとかなりそうだ。


「マリー!ごめんヒール欲しい!」


 いきなり飛行魔法で現れた殲滅組が血を流しながら現れた。アディの腕にはソラルナが抱えられている。


 意識のないソラルナは腹にクォレルが刺さったままだ。一気に引き抜いて即座にグレーターヒールを掛ける。


 リシュやアディは腕や足の肉が持っていかれている。念のため、ヒールではなくグレーターヒールで対応した。


「どうした。上空の敵の攻撃が届かない場所に居たのではないのか?」


「それが…敵が対策してきたみたいで、竜哭の弩砲(りゅうこくのバリスタ)って武器でこっちに攻撃が届くようになっちゃったの」


「雲に隠れて撃てないか?」


「…うん、やってみる。でもそうなるとソラルナの魔法は届かないし、出血で状態も良くないから此処で預かって」


「解った。寝かせておくよ」


 ソラルナをベッドへ運び、そのまま寝かせる。起きたら増血剤を飲ませておこう。大丈夫だ、今回はオリジナルじゃなくちゃんとレシピ通りだから問題ないはず。


 しかし、竜哭シリーズか。誰かこの国の者を装って鍛冶屋にオーダーした可能性がある。


 通常のように城に設置するならまだしも、移動砲台として動かされると非常に脅威だ。


 後で鍛冶屋には鑑定を詰めた魔石をいくつか渡しておこう。敵に利用されると非常に困る。


 その後はアディもリシュも来なかった。雲の上には武器が届かなかったのか。そうであると有り難いのだが…。


 殲滅組の安否を気にしながらも、途切れる事のない街の者たちにヒールやキュア、時にはピュリフィケーションを掛けながらジリジリと時間が過ぎていく。


 やっと街のものが途切れたが、まだアディもリシュも戻らない。こういう時間は苦手だ。


 医療部隊が街へ駆けて行く。身動きの取れない患者を運んで来るようだ。


「キュア、ヒール」


 何度か繰り返すと、そちらの患者の来訪も終わる。


 其処へアディ達が戻ってくる。


弩砲(バリスタ)は全部潰せたと思うんだけど…ごめん、3割ほど削り損ねた…もう街の近くまで来てるから白兵戦になると思う」


「ごめんなさい~力不足だった~」


「いや、対応を取られたんだ、7割も削ってくれたなら御の字だ。というか、7割も削られれば降参して国へ帰るのが普通なんだがな。――逃げ帰ると家族を殺されるとか、脅されている可能性も高いな。怪我人も今は途絶えているし、私も出よう」


「もうすぐ軍が見えてくる頃だよ」


 そのまま私は飛翔し、敵軍の真上に行く。


「ホーリージャッジメント」


 メテオフォール程の範囲がないこの魔法なら、味方を巻き込まずに済む。


 お返しとばかりにまだ残っていた弩砲(バリスタ)から攻撃されるが、「反射」で撃った者にクォレルが帰っていく。弩砲(バリスタ)台毎(だいごと)壊れるのが見えた。


 幾度か繰り返し、なんとか兵を減らすことに成功する。元が10万であったなら今は1万といったところか。2割ほど削れたようだ。


 前方に残るのは殆どが徴兵された農民などだ。


 後は夫妻とシュネー、玉妃に任せて問題ないだろう。


「アイスワールド!」


 しょっぱなからラライラがやらかす。アイスワールドの攻撃範囲はかなり広い。凍りついた味方をキュアとヒールで解放して回る。


「ラライラ、その魔法じゃ駄目だ。もっと範囲を狭くしろ。あと、乱戦になったら範囲魔法は止めておけ」

 ちろりと舌を出したラライラが指示通りに動くのを確認する。玉妃は駆け出し、接敵間際の敵兵を蹴散らして回る。


 シュネーは槍で漏れてきた敵を1人づつ倒して回る。


 特に問題はなさそうだと胸を撫で下ろし、医療テントへ戻る。ソラルナが起きていたので増血剤を飲ませた。


 程なく戦争はシュネーの勝利宣言で終結し、後は敗戦国であるエスタークとトルクスのトップが集まって協議となるだろう。


 ハッキリ言って、エスタークの民度は非常に低い。土地を貰うと住民がついてくる事を考えると、土地は貰わないだろう。その辺りは私が考えてもどうしようもない。上に任せよう。上にはリクハルトが宰相として参加するだろうから顛末は其処から訊けばいい。


 わいわいと和やかな雰囲気になった者達を眺め、私は転移した。



 お約束のように、鍛冶屋は倒れていた。スタミナポーションでテンションを上げた分だけ、反動もかなり酷いと予想される。


「キュア、キュア、キュア。ヒール、ヒール、ヒール」


「っは!?ワシは一体何をしておった…??」


 スタミナポーションの反動で倒れたであろう事を伝えると、きまりの悪い顔をする鍛冶屋。いや、私の所為なんだが…もしやあの後も徹夜したのか?


「ほいほい、今日は何の用じゃ?」


 恐らく鍛冶屋の作品が、敵国の手に渡っていた事を話すと、情けない顔で座り込む。


竜哭の弩砲(りゅうこくのバリスタ)…確かに注文を受けた事があるわい…敵国に使われるなぞ……ええい口惜しい!!!」


 私は魔石に一杯の鑑定魔法を収めたものを6個ほど鍛冶屋に握らせた。


「これで相手を鑑定できる。もう敵国の者に作品を渡さないで欲しい」


「うむ、これからは気をつける事にする。済まなかったな…迷惑をかけた…」


「竜哭の弩砲(バリスタ)はほぼ壊しておいたので、近いうちに修理を頼みに来るかも知れない。気をつけて欲しい」


「うむ、わかった」


 だがこれで隣国は鍛冶屋の存在を知ってしまったのだ。作って貰えないなら拉致か殺害に及ぶ可能性が極めて高い。


「――聖体守護。除外条件はエスタークに利を(もたら)そうとするもの、鍛冶屋に危害を(もたら)そうとするもの。重ねてキュア」


 MPが増えた所為か、鍛冶屋が狭かった所為か、そう苦もなくバリアを張った。


「竜の素材などを持ち込んだ私の所為だ。せめて住居にバリアを張ってみた。それでも客には鑑定を使って欲しい」


「いや、引き受けたワシの所為じゃよ。心づくし、恩に着る。また何が用が出来れば直ぐに頼って欲しい」


「ああ、また良い取引が出来ると嬉しいよ、私も」


 鍛冶屋に別れを告げる。


 思ったとおり、何度かバリアに阻まれ入れない者が居たり、鑑定するとエスタークに居る友人に頼まれたという者などが何度も現れているようだ。鍛冶屋へのバリアは欠かさないようにするしかない。専属にならないかと声を掛けてウチへ勧誘する事も考えたが、それだとオヤジは他の者に武器を打つ楽しみを失ってしまう…。


 一応はその話も鍛冶屋にしてみたのだが、やはり自由に槌を揮いたいようで、鍛冶屋は此処がいいのだと笑った。


 影の人を呼び、1人鍛冶屋へ回してもらえないかと相談したが、王命で私を守っている為、それは出来ないと断られた。


 なら、今回の褒章で、鍛冶屋に影をつけて貰うよう頼むしかないか、と溜息をついた。



 しかし、夜会もパレードもしないと言ったのに、何故か王家から招待状が来た。


 読んでみると、王家とサリエル家のみの小規模なパーティーで、聖女から話しかけない限り勝手に話しかけないと制約を設けてあると言う。――流石にここまで気を使われては参加せざるを得ない。


 サリエル家の面々は新しくドレスやスーツをオーダーしている。私は以前作って貰ったスーツで参加しようとしたけれど、一行に止められた。こういう王家の絡む場では、暗黙の了解で新しいものを作るのが定例のようだ。


 私はまたスーツを頼む事になった。




「なあ、今回は俺、1人倒せたぜ」


「マジか。俺後列に居たから敵なんか倒すどころか見てねえよ」


「俺ら居る意味あるかこれ…いや、楽して給料貰えてるんだから文句はないんだけどさ」


「隕石出してる嬢ちゃん達が学園に通うらしいからな。そうしたら少し出番も増えるんじゃないか?」


「そっかぁ…そうしたら出番が増えるかもなあ…でもそれはそれで嫌なんだよな」


「戦争に出番なんかなくていいよ俺は。憎しみは連鎖するんだ。サリエル家なんてさぞ恨まれてるだろうよ」


「あー…そうだな。はぐれ魔物を退治したりしてる方が気が楽だな俺も」


 ぼんやりと夜空を眺めていた兵士達は、苦笑した。勝利の美酒なんて洒落たものではないが、ぬるくなったエールを乾杯し、飲み干す。そしてそれぞれの(ねぐら)に戻った。


相変わらずマトモな人数が到着出来ないエスターク兵。普通の戦では7割も削られると逃亡しますから、脅されているのでしょうね。

読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!実は兵士の会話は書いてて楽しいです。

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