18.ダンジョンへ 2
おや。マリーさんが人間の範疇を超えてきたようです
久々のダンジョンだ。シュネー含む全員がきちんと装備を整えて集まっている。転移を使えるそれぞれが、2~3名の手を取り、ダンジョン前に集合。
前回の続きからと言いたいが、シュネーが登録していないので1層からやりなおしになる。アディとリシュにはそれぞれ土魔法・火魔法が両方10になるようお願いしておいた。
「シュネーはある程度レベルが上がるまで後ろの方で安全にしているか、影の中でも経験点が分配されるなら入っていてくれ」
「解った」
他の面々のレベルを考えると、順当に皆で叩くのもいいのだろうが、できれば以前の続きまで行きたい。マリーは若干すまなそうな顔で皆に伝える。
「以前の30層までは、私が敵を蹴散らして駆け足で進んでいいか?」
「ドロップ拾う時間くらいはくれるんなら構わないよ」
「じゃあ殲滅していこうか」
全員のカードを合わせ、シュネーも加えたPTを編成しなおす。
そしてダンジョンに入るや、駆け足になる。サクサクと敵を1刀で倒していくスピードが速い。アディとリシュの素材確保もそれに準じて早くなっている。全く苦労もせず、昼までにヴァンパイア(真祖)を倒すところまで駆け抜けた。シュネーは途中から走って追いつくスタミナが足りず、マリーの影に入っていた。
30階層で昼食にするぞ、と言われていたのでもぞもぞと影から出て来る。
リシュの鑑定を受けるとレベルは48。人数が増えた分で50には届かなかったようだ。しかし、此処からは戦闘に参加して貰う。
「シュネーは主に風魔法で。テイムに関してはなるべく強そうなのを弱らせてからにしよう。テイムしたい相手が居れば、攻撃する前に教えて欲しい。アディは土、リシュは火で」
「「「わかった(わ)」」」
「他の面々は…全部カンストしてるんで好きな技や魔法で攻撃してくれ」
「「「わかった(わ)」」」
31層からは全員で攻撃を開始、シュネーも後ろからウィンドブラストを撃っている。
35層まで来るとまた一段階敵の強さが上がった。軟体動物系だ。鑑定すると、魔法を受け付けない。物理で突くとダメージがある。全員手持ちの武器で突こうとするが、剣が突きに対応出来ていない。槍や刀、弓はOKのようだ。
そう言えば西洋剣って叩き潰すのがメインな仕様だったなと思い出す。
ラライナやリシュは短剣に持ち替えて突いている。こちらは有効なようだ。
魔法で一掃出来ず、一体一体が突きでないと仕留められないこの層は抜けるのが面倒くさい。一体が刺突一撃で倒れ、集団行動をとらないだけマシといったところか。稀に天井からも降ってくる。なんとか35層を抜けるが、まだ軟体生物ゾーンのようだ。結局39層までは軟体生物相手にうんざりしながら進む一行だった。
40層、ボス戦の前に一度階段で休憩を取る。苛々させられた軟体生物との戦闘を引き摺らないように、ゆっくりと間食を取る事にした。ボリボリ、と棒飴を齧りながらボスを想像するが、でかい軟体生物だったら、キレそうだ。
「あれってアイスピアシングもダメだったかなあ。魔法だけど突き属性に入ると思うのよね」
「試してみれば良かったんじゃないか?」
「魔法使える状態じゃなかったじゃない。皆敵周りに集まってるんだもの」
「まあ、それもそうか。もう出て欲しくないが、出てきたら接敵前に試せばいい」
温かいお茶を啜って、ふう、と溜息を吐く。
「さて…行くか」
巨大扉を開けると、冷気が吹き付けてくる。
「鑑定!凍土の女王、弱点は火だ」
言うや否や、火属性の魔法が連打で叩き込まれる。持っていないものは、剣を使ったり別属性の魔法を使ったりしている。流石に氷魔法は控えたようである。
「ファイアブラスト!」
「「ファイアグレネード!」」
「アースマイン!」
「ウィンドシェーリング!」
「ファイアエンチャント!――二ノ型多重斬衝!」
5人に分身して見える程の速度で、20回程敵を斬る。
大型の敵だが、苦しそうに吼えた。硬直の効果があるようで、数名が硬直した為、キュアで回復させる。
全体が氷で出来たような敵である為、うっすらと核の位置が見える。
「全員核の位置を狙え!」
「「「「「「わかった(わ)!」」」」」」
ずっと冷気に晒される体は、どんどん動きが鈍くなる。早めに倒さないとまずい敵だ。
「凍波」
ボスの短い詠唱を止めることができず、全員が氷の波に襲われる。
「ロックウォール!」
ギリギリで壁が間に合って、氷付けにされるのを回避できた。敵の波が落ち着いたところで、私は壁から飛び出し、瞬歩で間合いを詰め、飛行して核の位置まで飛び上がる。まだエンチャントは残っている。背後から核に向けて思い切り刃を突き立てる。核にきちんと刃先が食い込んで核が割れるのを確認し、背中から飛びのいた。
「ギャァアアアアア!」
女王らしくない悲鳴だ。きちんと残心し、ドロップアイテムが落ちた所で肩から力を抜く。
ドロップは凍土の懐剣、神鋼、女王の魅了の3つだ。女王の魅了は、どうやら惚れ薬の類のようだ。
危険物として永久にアイテムボックスに仕舞っておこう。懐剣はシュネーのものとなった。斬った相手を凍らせる機能を持つが、それはそれとして、寝ている時などに肌身離さず身につけて置けるからだ。剣術スキルも適用される。
「残り20層だが、まだ行けるか?」
全員が頷いた為、探索を継続する。女王の間は寒すぎて休憩には向いていなかった。
41層へ向かう階段で、凍気のダメージが抜けるまで、暖かいお茶で体を温める。
休んだ後は攻略に戻る。敵の種類が変わった。邪妖精が其処かしこをうろうろと彷徨っている。半透明で体を浮かせながら移動する。固まって行動するものも多い。
「鑑定!邪妖精。物理は効かない。魔法を使え」
全員が範囲魔法で次々と敵を倒していく。この層は特に苦労しなさそうだ。
時折嘆きの精の悲鳴が響いて行動不能になる者をキュアで癒す。
この悲鳴を聞くと、わらわらと敵が集まってくる。が、元より全員が範囲魔法で駆逐できる。経験点を稼ぐには丁度いい層だ。50層まで同じ敵であったことに、ほくほく顔の一行。
「攻略してからのステータスが楽しみだねえ」
と、皆わいわいと楽しそうだ。丁度いいので晩餐を取る。
「あまり気を抜きすぎるなよ。ラスボスがドラゴンならいいんだが、違っているかもしれないからな」
「「「「「はーい」」」」」
ゆっくりとした晩餐を終え、きちんと体が問題なく動く事を確認し、攻略を続行する。
51層からはまた敵の種類が変わる。
「鑑定!インプ、エルダーリッチ、オールドマミー。光が弱点だ。リッチは魔法耐性が強いので、物理で攻撃するのがいいだろう」
最後の足掻きとばかり、やたらと数が多く密集している。
「ホーリージャッジメント!」
階段出口に範囲魔法を掛け、一掃しておく。皆そこに降りたつや、範囲魔法の雨を降らせ始める。残ったリッチは物理で一掃。
「「ファイアエクスプロージョン!」」
「アイシングピアーズ!」
「「ウィンドテスタメント!」」
「ロックエクスプロージョン!」
「ホーリージャッジメント!」
これを繰り返しているうちに次の階段が見付かる。此処も特に問題ないようだ。さくさくと進んで行ける。敵が多すぎて少し時間が掛かるのは御愛嬌だ。経験値的には美味しい。
59層まで密集地帯を抜けると、ラスボスの部屋が見える。ギルドではドラゴンがラスボスだったと耳にした為、多分ドラゴンが出る筈だ。
少し休息を取った後、大扉を開ける。
「鑑定! !?メタモル・アポクリファ!弱点は特にない…」
目の前のドラゴンにしか見えない敵は、擬態してドラゴンの体を装ってるようだ。普通に首を落としても意味がなさそうである。
一行も、ドラゴンではないと聞いて動揺している。何処を何で攻撃するのが有効かが解らないのだ。
解らないなりに全員が魔法を打ち込み始める。ドラゴンは動揺した様子も見せず、その巨体で体当たりを仕掛けようとする。
「「ロックウォール!」」
「ウィンドバリア!」
「アイスウォール!」
壁系魔法でなんとかぶちかましを止め、一行は距離を取ってまた魔法を撃ち始めるが、効いているのかどうかも解らないのだ。次第に焦りが生まれていく。
「…ホーリーケージ」
一先ず暴れないよう光の檻へ閉じ込める。暴れる敵に向かい、私は頭に浮かんだ魔法を行使する。
「圧縮」
「きゅいいいいいい!」
可愛らしい声を上げて、圧縮されるボス。人と同サイズくらいまで圧縮され、ぐったりとして体液をぼたぼたと地面に垂らしている。
「アポカリプス!」
「「ロックウォール!」」
流れ弾の危機を察知したアディとリシュが壁を張る。
敵を中心に光と闇が渦巻くようにその姿を隠していく。バチン!と弾ける様な音と共に、すうっと光と闇が消える。
残ったのは爆散したボスだ。かなり無残な状態となっている。圧縮された所を電子レンジの波長に良く似た光線に耐え切れずに内側から破裂したような有様だ。
この魔法は光と闇の魔法を10まで上げていないと使えない。実質私しか扱えないもののようだ。
折角ロックウォールを掛けて貰ったが、どうも単体攻撃のようだ。
ドロップ品が落ちる。アローオブアポクリファ、神鋼、毒感知の指輪。
「!?」
倒したはずのアポクリファが、スライムのような大きさで復活し、じいっと私を見つめている。
ああ、これは…
「テイム」
嬉しそうに私に擦り寄ってくるアポクリファ。名前を付けないと呼びづらいな…。スライム…スラ…イム…ライム?
「……よし、お前は今日からライムだ」
名づけられて嬉しいのか、ライムがぴょんぴょん跳ねる。
ドロップのアローオブアポクリファは、刺突攻撃の層で悔しかったらしい、ラライナが持つ事になった。毒感知の指輪は私に寄越される。
まあ確かにどんなに体を鍛えても、毒はどうしようもないだろうけれど。キュアで治せる分、私が喰らわずに残って、喰らった面々をキュアで癒せ、という事かも知れない。ありがたく受け取っておこう。
さて、ダンジョン踏破だ、ギルドへ連絡に行くか。
「ドラゴンじゃなかった!?た…確かにボス部屋まで辿り着いたクラスSの冒険者が逃げ帰ってきて普通じゃないとは言ってましたけど」
「メタモル・アポクリファという、擬態に長けた魔物だったようだ。ほら、こいつだ」
「何言ってるんですか、どう見てもそれスライムじゃないですか」
「…ギルドが潰れてもいいならドラゴンに擬態するよう命令してもいいが…」
「うわー素敵な従魔ですねー!すっごく強そうです!」
くるんと掌を返した受付嬢はにこやかにライムの様子をびくびくしつつ伺う。
「…待って下さい、ラスボスを従魔にしたって事ですよね?しかも誰も勝てないから未踏破のあのダンジョンの」
「ああ、カードはこれだ」
全員がカードを提出する。受け取ったソルナはカードを処理し…
「レベル100超えてる~!!!???ええ!?シュネー王子以外全員!?どうなってるんですかバケモノ姫!!!聞いた事ないですよ!?」
「たまたま聞いてなかっただけじゃないか?」
「そんな訳あるかあああああぁ!!!!1週間後に!王都本部で皆さんのクラスアップの確認をされますが、どう考えても過剰戦力ばかりですからね!?王都の試験官、殺さないで下さいね!?」
もう全員人外のPTじゃないか、という疑惑の目を一行に向けるソルナ。
「もう…もうこれ以上驚くような事はないですよね?実はやっぱり人じゃなかった、とか」
「神人というのになったようなんだが」
「やっぱり!!!!やっぱりマリーさんは人外だったんだ!!!私は間違って居なかった!!!!バケモノ姫!!!もうなんでもバケモノ姫の所為で説明できる気がしてきましたから!!!」
目をぐるぐるさせて発狂する勢いの受付嬢に魔法を掛ける
「沈静」
「…はっ!?私は今まで何を…?あ、ええと、未解放ダンジョンの踏破、おめでとうございます!これからも宜しくお願いしますね!」
その間にアディとリシュは、拾った素材の換金をしている。
「シュネー王子も…このレベルなので、Bまで上げておきますね…。」
半分生気を持っていかれたような顔をしたソルナに見送られ、私達は家に帰った。
「早速鑑定しますね~」
わくわくした顔でリシュが言う。
シュネー・エル・ラスキア・ド・トルクス /王太子14才/男
レベル93
HP9500/MP10500
力9820
体力9760
精神力8973
知力7680
忍耐9891
剣術10
槍術10
礼儀作法10
影魔法10
錬金術1
風魔法10
時空魔法2
ビーストテイマー1
導師の弟子
ダンジョン踏破者
※導師の弟子の称号で非常にレベルとパラメータが上がりやすくなっている。
リクハルト・フォン・サリエル 36歳/男
レベル102
HP10860/MP12450
力10125
体力12300
精神力9896
知力8700
忍耐10520
賢人10
剣術10
徒手空拳10
礼儀作法10
生活魔法10
火魔法10
女神の加護
導師の弟子
ダンジョン踏破者
※愛し子であるマリーを幸せにしている為、加護がついた。また、導師の弟子の称号で非常にレベルとパラメータが上がりやすくなっている。
ソラルナ・フォン・サリエル 16歳/男
レベル102
HP10290/MP13500
力9869
体力13400
精神力12500
知力9200
忍耐9893
剣術10
徒手空拳10
礼儀作法10
生活魔法10
風魔法10
水魔法10
女神の加護
導師の弟子
ダンジョン踏破者
※愛し子であるマリーを幸せにしている為、加護がついた。また、導師の弟子の称号で非常にレベルとパラメータが上がりやすくなっている。
ラライナ・フォン・サリエル 32歳/女
レベル102
HP9987/MP15340
力9860
体力10870
精神力10863
知力10230
忍耐10230
短剣術10
徒手空拳10
礼儀作法10
生活魔法10
氷魔法10
女神の加護
導師の弟子
ダンジョン踏破者
※愛し子であるマリーを幸せにしている為、加護がついた。また、導師の弟子の称号で非常にレベルとパラメータが上がりやすくなっている。
アデライド・フォン・サリエル(盤倉 亜紀)14才/女
レベル105
HP15890/MP14760
力16210
体力17890
精神力10230
知力10710
忍耐15640
徒手空拳10
刀剣術10
礼儀作法7
アイテムボックス9
錬金術1
生活魔法7
鑑定7
毒吸収2
毒探知2
毒無効1
テイマー1
影魔法3
闇魔法10
緑魔法7
氷魔法4
土魔法10
風魔法6
水魔法4
火魔法10
時空魔法8
女神の加護
導師の弟子
ダンジョン踏破者
※愛し子であるマリーを幸せにしている為、加護がついた。また、導師の弟子の称号で非常にレベルとパラメータが上がりやすくなっている。
リシュリエール・フォン・サリエル(盤倉 美鈴)14才/女
レベル102
HP10350/MP16800
力9600
体力10560
精神力13890
知力12530
忍耐13870
調理10
礼儀作法9
癒し手(精神)10
鑑定10
アイテムボックス9
錬金術1
短剣術8
徒手空拳10
テイマー2
影魔法5
生活魔法7
土魔法10
緑魔法3
氷魔法3
風魔法6
水魔法4
火魔法10
時空魔法8
女神の加護
導師の弟子
ダンジョン踏破者
※愛し子であるマリーを幸せにしている為、加護がついた。また、導師の弟子の称号で非常にレベルとパラメータが上がりやすくなっている。
マリエール・フォン・サリエル/聖女/神人(盤倉圭吾)14才/女
レベル110
HP198700/MP206500
力105740
体力128420
精神力105410
知力108700
忍耐103420
徒手空拳10
刀剣術10
礼儀作法8
アイテムボックス10
錬金術10
鑑定10
テイマー10
影魔法10
生活魔法10
光魔法10
闇魔法10
雷魔法10
土魔法10
緑魔法10
氷魔法10
風魔法10
水魔法10
火魔法10
時空魔法10
聖魔法5
重力魔法2
大物狩り
生態クラッシャー
ドラゴンキラー
ビーストキラー
インセクトキラー
プラントキラー
アンデッドキラー
アモルファスキラー
スタンピード潰し
導師
女神の愛し子
ダンジョン踏破者
※今世と前世のパラメータがどちらも反映されている珍しいケース。聖女の称号の所為である。ステータス成長にも影響がある。また女神の愛し子の称号で、大切にされていれば常に幸運を引き寄せる。レベルとパラメータの上昇度は他に類を見ない。また、聖属性を扱いこなした功績で神と人半々の存在へ生まれ変わっている。今後も何か功績になる事があればまた神へと一歩近づくだろう
ライム/メタモル・アポクリファ(1才/性別なし)
レベル150
HP168700/MP106500
力98600
体力85700
精神力165410
知力10870
忍耐183420
擬態10
愛し子のペット
※スキルなどは擬態した相手のものに準じる。愛し子のペットの称号のおかげでレベルとパラメータの上がりが良くなっている。
皆、無事に大分とレベルがあがったようだ。
「多分、導者の弟子っていうスキルの所為だと思うよ、100以上って」
「ふむ、どうやらそのようだな」
「でも多分神人になるのはマリーだけだと思う」
「あれは聖魔法の分でついたんだと思うよ」
わいわい、とステータスボードを見比べながら話をする。
しかしダンジョン踏破直後なのだ。皆に解散してきちんと寝るように伝える。
今日も騒がしくていい一日だった。
マリーさんは諦めた方が楽になると思う。
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