14.クーデター
悪い子にメッする回ですね
それは突然の事だった。アスモルト公爵を明日にでも王宮へ呼んで審議を受けさせようとしていた矢先だった。
何処から現れたのか、10万の兵を引き連れたアスモルト・ディ・セレンダーク――セレンダーク家が王都に向けて出兵したのだ。如何に現王が無能で、自分達が優秀であるかを道々触れ回っている。
その報を聞いた王家とサリエル家は怒りと呆れの混ざった複雑そうな顔をした。
「身バレしたと思ったら足掻きよるわ。しかし兵の数がこちらで把握しているより多いのだが…」
「傀儡兵と…後はもしかすると隣国と繋がっているかも知れませんね。」
「エスタークか…確かにキナ臭いと思ってはいたが。これは唐突過ぎるな…」
王宮の会議室で、シュネーを含めたサリエル家の面々と第3部隊隊長ザイル・レスタート、王サンディレストと、王妃セレトゥリナが集まっている。何処に傀儡などが潜んでいるのか解らない為、非常に限られた面々だ。
「王都近くまで来た時点で、上空からキュアを掛けて傀儡兵だけでも先に解放しよう。今やると補充されてしまうかも知れない」
「それは心強い。是非お願いしたい」
「シュネー王子は、武具は身につけておいて欲しいが、戦闘への参加はまだ早い…結界を張るので篭っていて欲しい。王宮全体に張れない事はない…と思うんだが、張ると今日は魔法が使えないと思う。だが、宮内の傀儡や敵対者を炙り出せる。やっておくか?」
「ううむ…そなたの戦力が減るのは痛いところだが、今は少しでも信頼できる者を見分けておきたい。頼めるか?」
「解った。――聖体守護。除外条件は王家に敵対心を持つもの、重ねてキュア…っ」
王宮の広さにより、根こそぎ魔力が消費される。始めてマリーは魔力をほぼ使いきる事となった。真っ青な顔でマジックポーションを呷る。
結界を張った時点で、結界に触れた敵対者が王宮の外に放り出される。キュアを付与した事で、傀儡はポカンとした顔をしていた。
「傀儡であった者に中に入るよう伝えよ!中に入れないものは捕縛、もしくは殺せ!」
王が迅速に指示を出す。ザイルが短く「はっ!」と返事をし、第三部隊の兵舎へ向かう。
「ふぅ…、で、王よ。このバリアは3ヶ月ほど持続する。3ヶ月以内に王宮の人員補填を済ませて欲しい。――それで、傀儡でない者は全員死んでも構わないんだな?」
「うむ。クーデターや戦争で、手心を加えては士気も落ちよう。鏖殺して貰って構わない」
「そうか、解った。MP回復の為少し眠りたい。仮眠室などは空いていないか?」
「客室へ案内しよう。ゆっくり寝て、明日が多分本番となるので備えて欲しい」
「アディ、シュネーの装備を鍛冶屋から貰って来てくれ…」
マリーが寝ている間に、信用できる者が王宮内に留まって、王家の敵対者は捕縛に応じずほぼ全員が破裂した。実に王宮内の人員の1/6程度が傀儡か敵対者であった事が報告される。王子や姫の中にも隣国と繋がっている者が居たらしい。そちらは爆発しなかった為、捕縛されて牢へと入れられる。
シュネー王子は出来上がった武具を眺めて嬉しそうな顔をしたが、現在そんな顔をしていては士気に関わる、と判断し、すぐに顔を引き締める。
大勢の軍は進軍の動きが鈍くなる。輜重隊を引き連れているからだ。訓練されていない平民が混じれば尚の事遅くなる。――それが王族にとっての準備期間となる。
「残った者で隊を組みなおす!点呼!」
軍は上の者ほど欠けてしまっている。見所のある者などを新たな隊長に据え、再編していく。
5部隊あったものが4部隊に減ってしまったが、再編は無事に終わった。――総数5万。数の上では完全に公爵に負けている。だが、全員が軍で鍛えた者であり、徴兵された平民などが居ない分、精鋭といえる。
――それに。
「…明日はまた隕石が落っこちて来るんだろうなあ。俺達何人相手に出来ると思う?」
冗談めいた口調でザイルが言えば、同僚が笑って返す。
「100人以下に3000賭けるね」
「なんだ。じゃあ俺は1000人以下にでも賭けようか」
決戦前夜、兵舎には笑い声が響いた。
早朝、完全回復したマリーは起きたと同時に、風魔法を使えるソラルナ・アディ・リシュを呼ぶ。
「キュアで戻った者に離脱するよう伝えるので、軍の列から離れた者らを風魔法で吹き飛ばして更に距離を作って欲しい。メテオフォールを使って数を減らす」
「了解。そんな事だと思ったよ」
「王領に近づきすぎては街に被害が出る。申し訳ないが今すぐ出るぞ」
「「「応!」」」
さっと着替えを済ますと、客室のあった宮殿の窓から4人が飛行魔法で飛び出す。
幸い街の近くまではまだ到達していないようだ。かなりの距離を飛行し、森や草原などの自然が広がる田舎道を進軍しているところを見つけた。軍から矢などが届かない上空へと上がり、一息ついたマリーは唱える。
「キュアウェーブ!」
ざああっと軍の先頭から最後の輜重隊を含めて波打つように光が流れる。
「拡声、今、自分が何をしていたか解らない者は、すぐにその軍から離れろ!飛び火で死にたくなければ急げ!」
きょとんとする暇もない。訳が解らないままに武器を投げ捨て走り出した者たちは、軍の約半数を担っていた。これには笑う他ない。しかも傀儡を盾にする心算であったようで、先頭から半数までが逃げ出し、残っている者は進軍後半の者たちだ。マリーは風魔法で押し出されて更に距離を取る者たちをなるべく巻き込まないよう、最も後ろから屠っていく。
「メテオフォール」
残りの者の半数が一撃で壊滅する。
ちら、と避難状況を確認したマリーはもう一度唱える。
「メテオフォール」
残ったのは後半に居た者たちの中でも先頭に程近い場所に居た100名ほどになる。その中に物凄く趣味の悪い金ぴかの鎧の偉そうな者を発見する。
「プラントバインド」
その者だけを拘束し、逃げ腰になった残りの兵は範囲魔法で蹴散らす。
「ホーリージャッジメント!」
地に降り立ち、3名に減った敵に対し、拘束した首魁と思われる者以外の首を刎ねる。
首魁アスモルトを担ぎ、再び4人が飛行魔法で戻ろうとする。王都までやって来たが…。
「しまった、コイツは結界の中に入れない。審問関係者を宮殿から出して貰わないと…」
「私呼んで来るよ」
アディが駆け出す。
出てきた王族と審議官はアスモルトを認めて感心した顔をマリーに向ける。
「マリーよ、こやつの軍はどうなった?」
「殲滅した。1人も残っていない」
「なんと…!?こちらはまだ軍を動かしても居ないのだが!?」
「もう軍は今は必要ないな」
あまりの言葉に、王は白目を剥く。最近のトルクスでは白目を剥くのが流行っているのだろうか。
「で、コイツをどうする?」
蔦の隙間からむごむごと何かを訴える声はあるのだが、誰も気にしない。聞いても良いことは一つもない。
「あー、被告、アスモルト・ディ・セレンダークは国家転覆を試みた所を現行で捕縛されておる。よって、一族連座で断首刑とする」
ザンッ!
言葉と同時に風が吹いたかのように思えたが、その後に続いて落ちるアスモルトの首に、刀を振るわれた事を悟る。いい加減、マリーも煩わし過ぎて腹が立っていた、と誰もが其処でようやく悟ったのだった。
「さて、私はもう用無しかな」
呟くマリーに、慌てて王が引きとめる。
「此度の英雄をただで帰す事などできん。2~3日で良い。王宮に留まってはくれぬか」
…マリーは、シュネーのレベル上げと王の嘆願を測りに掛けた。――まあ当人の親が言う事だ。親に従っておけば、シュネーからの文句も出まい。
「解った。風呂と――それからちょっと休みたい。構わないか?」
「構わないとも!晩餐で行われる祝勝会には主役として出てもらうがそれまでは好きにしていてくれていい」
「主役?面倒…「はい、マリーを存分に祝って貰いますね!」…アディ…?」
アディは、マリーが認められる事が嬉しいのだ。何故かそれを避けようとするマリーを全力で押し戻す程に。
諦めた顔をしたマリーは、宛がわれた客室で、一時の平穏を噛み締めるのだった。
「なあ、賭けはどっちも外したって事だよな。これ」
「馬鹿。より少ない数字を出した俺の勝ちだ。ほら寄越せ」
納得の行かないザイルはしぶしぶ掛け金を相手のポケットにねじり込む。
「しかしなあ…」
「うむ…」
「「ゼロはねーだろゼロは」」
「俺めっちゃ頑張って再編したのに…!」
項垂れるザイルの肩を、相手はポンと叩いた。
「こっちに負傷者も死人も出なかったんだ。ベストの終戦だろうよ?」
「まあ…そうだが…聖女って何なんだ?戦女神の生まれ変わりか何かか?」
「俺も、聖女って字面で後衛から癒しを飛ばしてくれるものとばかり思ってたんだよな、最初は」
「どう考えても1国くらい1人で獲れるよな」
「だな。聖女が野心家でなくて良かったと思う。戦争は嫌いだ」
「軍に居るヤツが口にしていいのかね、そういう事。俺も嫌いだがな」
「「まあ、今回は聖女万歳!って事で」」
終戦を知らせる伝信鳥がセレンダーク領に届く。
セレンダークの館は、速やかに現地の守衛隊に囲まれ、中に居た者が全て連れ出されていた。操られた者、隷属の首輪をした者は丁重に保護される。家令やメイドは何処まで関わっていたかを確認する為に牢へと入れられる。そして家族であったものは、断首の刑を受けさせる為、捕縛され、王都へ送られた。
保護された者の中には、ファムリタの姿もあった――。
クーデターもパパ無双でした。
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