118.ロボット痴話喧嘩
痴話喧嘩はほどほどにね!
あと6箇所で終わる。半年も経たずに終わりそうだ。まあ、残りの箇所の難易度にもよるんだろうけども。最初に2ヶ月無駄にしたと思ってたけど、あれはあれで此処の敵に馴染むのに必要だった気もする。
恒例の早朝訓練は黒曜との高速手合わせだ。兎に角これに馴染んで新しい技でも浮かぶくらいでないと。反復練習で体に叩き込む。…む。
「黒曜ちと離れて。…我が速度についてこれる者なし。速度は力。この斬撃にて切れぬモノなし!速影無謬爪!」
速度が一定を超えると置き去りにされるモノの硬さはほぼ発砲スチロール程度である事は解っていたが、これはそれを使った技だ。単体相手に踊るような斬撃の乱舞。首・心臓・脚・頭部、全て致命傷になる場所ばかりを狙っている。
そして最後に距離を取る変わりに相手に蹴りを入れて間合いを取る。庭にあった大木がズタボロになって倒れた。そして腕が使い物にならなくなる。グレーターヒールを掛けて、スキルを切った。黒曜がそれをじっと見ていた。
「我が速度についてこれる者なし。速度は力。この斬撃にて切れぬモノなし!速影無謬爪!」
見事に同じ技をこなしてみせ、スキルが終わった途端にグレーターヒールを掛けてた。余程痛かったらしい。
「マリーは凄いな…こんな痛みに耐えながら毎度技を使ってたんだな…何故毎度自分にヒール掛けてたのか以前は解らなかったが、今は骨身に沁みて解るようになったぞ」
「多分、無間不断刃使ってる最中にしか発動しないぞ。痛みはまあ…慣れろ」
九の型・無限乱刃と比べると、足をそこまで使わない分痛みはマシだったんだけどな。手数的に多分双刀や二刀流、短剣の双剣使いなんかに一番向いてそうな気はする。
さて、スキルも一個増えたし、キリがいいのでご飯の用意をする。クリーンを掛けて、今日は焼きおにぎりとゴリラと大根の角煮、豆が主体のコブサラダ。黒曜が焼きおにぎりをキラキラした目で見てる。可愛い!!
毒の実ジュースも作ったが、食事で摂るのは水の方がいいだろうな。水は女神が汲んできている。えらい。
「んんんー!」
珍しく黒曜が叫んでる。焼きおにぎりはお気にめしたようだ。嬉しい。
「この焼いたおにぎりというのが美味しいのじゃ!!ぱりぱりでほくほくなのじゃ!!」
角煮を食べるのも久々なのか、涙目で大事にちょっとづつ食べている黒曜に目を奪われて、私は自分の食事が進まない。可愛すぎない?この人私の旦那様だよ?可愛い屋さんで爆売れしそうだよ?
ふう、と落ち着いてから自分の食卓を見る。みそ焼きおにぎり、好きだったんだよな。
ぱりぱり、ほっくり。うん、良い出来だ。黒曜の視線を感じる。視線を解読すると
おかわり、ないの?
あるに決まってるー!絶対すると思ったから!
「幾つ欲しいんだ?」
「3つ…あと角煮も…」
黒曜の食器を厨房に持って行き、焼きおにぎり3つと角煮をよそって戻る。
もし黒曜が落ち込んだ時があれば、和食の好物を用意してあげるのがいいかも知れない!焼きおにぎりと肉じゃがとか。
角煮を一口。うっま。うっっっっま!!いかんこっちは私の好物になりそうだ。ゴリラ凄い。でも、ゴリラ肉は永遠にあるわけじゃないからね…。狩れるだけ狩るけど、食べちゃったらなくなるからね…。
カラン、と箸が落ちる。
「い…嫌じゃ嫌じゃ!この美味しい肉がいつかなくなるなんて嫌じゃ!!」
そんな事言われても。
「と…特別ステージにいつでも入れるようにしてやるのじゃ。一番美味しかった肉の上位の敵が出るようにする」
「また魔力の無駄遣いにならないか?まあ大分先の話になると思うけどな?」
「美味しいものに使う魔力に無駄などないのじゃ!此処を全クリアしたら、美味しかった肉を上から5個書いてもらって5位まで決めたらその敵だけ出すのじゃ!」
いつの間にそこまで考えてたん?今の一瞬で?凄いな食欲。
「まあ、そういうのを用意して貰えれば、私らも美味しいものが食べれて嬉しいけどな!」
「そうじゃろう!?じゃろう!?」
「ありがとな、女神」
にこっと笑うと、何故か女神が照れた。黒曜といい女神まで、なんなのその反応。
さて、私は焼きお握り3つと角煮で腹は膨れたので、ちょっと張り切りすぎて作りすぎた分はアイテムボックスに隠しておく。
地図で確認すると、以前クリアした近くには1つしか城マーク…いや重なるようにもう一個城マーク?がある。
「女神、これどういう意味?試練2個あるの?」
「試練は1個じゃ。後は行けば解る」
ほほう。戦争っぽいな。二国が関係して尚且つ試練になるというともうそれしか残らない。
ぴくっと女神の肩が跳ねる。
「…まあ、行ってみるか」
黒曜と手を繋いで、近くへ転移…すると、ガ●ダムとかマ●ロスとかにありそうな巨大ロボが手4つでにらみ合いしてた。
住民たちは慣れた様に避難している。むしろ雑談しながら歩いてる。
「あのっ…これっ…どうなってるんですか…?」
「ああ。王族の痴話喧嘩だよ。今日はちょっと長めだねえ。あのロビットとかいうのを手に入れてからヒートアップしちゃって…仲は良いけど良く喧嘩するんだよ、王と王妃。別々の城に別居してるけどね」
「あの…あのロビットとかいうやつは、壊すと修理したり別の機体があったりするんですか?」
「そこまでは知らないねえ。でもいつの間にか手に入れた、という感じだったよ」
ヲタクの悪魔が寄越したんじゃなかろうか。踏み潰されたりする二次被害を期待して。
仮にも王族がこんな事で住民に迷惑を掛ける事等あってはならない。びきっとこめかみに血管が浮く。
「ああああっヨニラちゃんが居ない!!またあの子は…どうしよう、戦闘区域に残ってたら…!」
生命反応を察知してみると、ロボの脚の2mくらいの傍に居る。危ない…!!!!なんでそんなとこに!?
「今凄く近いトコに居るようです、こちらに戻しますからココで待ってて下さい」
瞬速をかけてロボの脚付近に飛ぶ。うわ!!!ちょ 踏み潰されそうに…無間不断刃を掛け、更に速度を上げて子供を掬い取って…ぐ、スライディングだ!!!
スライディングでギリギリなんとかなった。子供は暫くきょとんとしていたが、火がついたように泣き始めた。
【何!?子供を泣かせた!?お前悪い奴じゃの。そんなだから子ども会で子供に逃げられるんじゃ】
【貴方かも知れないじゃない!!そういう責任逃ればっかりするから外交部署から文句が出るんです!】
「拡声!うるっせえんだよてめえらいい加減にしろよ!!!!!ロビットだな?それがあるから悪いんだな!?因みに子供はギリギリで助けたけど踏み潰されかけてたわ!」
寄ってきた黒曜に子供を渡すと、お母さんの所へ連れて行ってくれたようだ。
【踏み…っ!?】
【ちゃんと避難しないから…】
「拡声。ああそうかい。反省どころか相手に責任を擦り付けるのかここの王族は。絶対許さん。泣いて御免なさいって1000回言うまで許さん。大体自分達の喧嘩の為に民が避難しなければならないのが我慢ならん!!」
瞬速、からの無間不断刃、からの速影無謬爪!
流石に大きさの違いから急所への攻撃に関しては無駄になっているが、刀を刺したまま脚を螺旋状に飛んで分解する。腰周り、胸、そして頭は目の部分を両方蹴破る。ついでに頭部は真半分にカチ割った。胸でやるとコクピットがありそうだから止めて置くが、蹴りで皹は入れておく。
両方の機体で同じことをして、スキルが切れた。これだけやれば動かせないだろう。
両手両足にグレーターヒールを掛けようとしたら黒曜が掛けてくれた。ん、なんかこういうの嬉しいな。
「今からサイコロ状に切り刻む。巻き込まれたくなければ機体から降りろ。10数える間に行動せねば機体と運命を共にして貰う」
黒曜に合図し、一閃万葬の多重使用を用意して貰う。
「いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお、ろーく」
【解った降りる!降りるから待ってくれ!!】
【私も降りるわ!!】
「なーな、はーち、きゅーう」
王族はなんとかギリギリで機体から降下し、ロビットから離れるように走り出した。
「じゅーう。黒曜さんやっちゃってください」
「一閃万葬!」
口に出したのは一回だけだけど、何回も繰り返してるのを悟られないよう、無間不断刃からの一閃万葬の連打。20回くらいかな。終わった黒曜にグレーターヒールを掛けてやる。
トン、と脚で蹴るとバラバラとサイコロ状になった金属が降って来る。さっと瞬速で後ろに飛び退き、もう一体もトンと蹴る。こっちも綺麗に切れてるね。後ろに下がり、走って逃げた王族を低空で飛びながら2人とも捕獲。うやむやにして責任逃れしようなんて国民の事馬鹿にしすぎじゃねえの。
「「ぐはっ」」
ぽいっと地面に投げ出すと、こちらを睨んでくる。
「ロビットを壊すなんて…あれは世界でも此処に2つあるだけの超稀少品ですのよ!?他国への牽制にもなっていたに違いないのに!!」
「そうじゃ!ワシらの外交が滅茶苦茶になってしまった責任を取ってもらうぞ!」
一気に威圧と怒りの殺気が辺りを支配する。
「なあ…そんな事しかいえねえ口ならなくていいよな?そんな事しか考えられない頭ならなくていいよな?そんな事しか行動できない体もなくていいよなあ?」
影になった顔から、三日月のように裂けた口が笑う。
ついでに我慢するのを止めた威圧と聖気、後光と羽が翻る。
「「て…天使様…?」」
「わりぃがもう一個上だ」
ブロック状の山の上に30回くらい天罰を落として全て塵に変えてやる。
「紹介遅れてすまんな。こちとら一応神のはしくれだ。見るに耐えん。国民の誰か、こいつらよりマシな施政をしそうな奴を知らないか?」
ぼそぼそと相談を始める国民達。一番多く聞こえたのは第一皇女、だ。
「第一皇女、居るか?」
「っはい!此処に!」
国民達を誘導していたようだ。そこから走ってきてくれた。息を切らしながらも、しっかりと胸を張る。
「本当にあの二人は他国の牽制にロビットを使用していたか?見た感じ弾薬などが全く装填されてないようだが」
「弾薬は…ロビットを手に入れた日に…その…豪華な花火だ…と全て空に打ち上げてしまい…ビームもあったのですが、そちらも山を崩せるのが楽しかったようで…エネルギー切れになってしまい…今は魔力で機体だけ動かせる、と言った状態で……他国の間諜なんかにはもうバレバレで…牽制にはなってなかったと思います」
「平地が多いと思ったら…なんであの二人が国王とかやってんの?明らかな人材ミスだよな。クーデターとか起きなかったのが凄い」
「…私が止めてしまったのです…もう次にやったら退位させると国民に約束をして…私が…国を治めるからと…」
もうこの辺で皇女はぼろぼろ泣いている。すげえな。トンビが鷹を生むってこの事か。
「アルシェリア!君だけに負わせはしない!私も共に頑張るから…!」
「ディボルト…ありがとう…今までも…これからも…!」
「そういや、わざわざロビットに乗ってまで、今日は何の喧嘩をしてた訳?」
「「第5皇女(5歳)がどっちの事をより好いているか、です」」
「………死なない程度にちょっとボコってもいい?死刑はちゃんと公開処刑にしなさいね」
「はい」
さくさくと捕らえてある国王の前に行き、スパァン!といい音を立てて頬を張った。
「ごめんなさいは?」
「おのれ、よくも儂にこんな」
バチィン!
「きさ」
ベチィン!!
「や」
手加減に疲れた私は背後に有るブロックで憂さ晴らしする
ガゴォオオッ!!!!
「ごめんなさい…」
「1000回言え。黒曜、数えて。言わなくなったら言って」
勿論次は王妃だ。
バチィーン!
「よくも女の顔に」
ベチィン!!
「覚えてなさ」
ボグッ!あ、しまった。歯折っちゃった。まあいいか。
「や」
バシーン!
「ご、ごめ……ごめんな、さい」
「そこのディボルト君、数えて。1000回な。言わなくなったら言って」
「えっ私!?はっはい!」
結局きちんと1000回のごめんなさいを言わせ、国民に酷い迷惑を掛けた罪として、公開処刑が行われることになった。まあ、断首というあまあまの刑だけどね。一瞬で痛みなんてほぼないからね。国民の人気の低さは、刑場に引っ立てられる間に、様々なゴミが投げ入れられているのを見れば解る。
外交は、むしろ国王たちのやらかしの尻拭いで大変だったらしく、外交部署には酷く感謝された。
そんな中、察知を全開にしていた私は、1人の不審者を見つけた。サッと人ごみをすり抜け、不審者の腕を拘束する。鑑定するとやはり悪魔だ。
「思い通りに行かなくて地団太踏みたい気分なのか?」
「そんな事はどうでもいい!!ボクの大事なコレクションを、貸してやっただけなのに壊してしまうってどういう事!?」
どうでもいいんかい。やっぱヲタクの悪魔でアタリだったようだ。
「この世界には早すぎる玩具だ。解っていて貸したんだろう。なら壊れても自業自得だ」
「五月蝿い!ボクに意見するな!!…あ?」
無詠唱の天の報復。腕を取られたまま、悪魔は塵になっていく。
「ま…待ってお前にも貸してや…」
台詞は間に合わなかった。というか、私はロボットものの事など解らんから貸されても困る。ああ、こっちじゃロビット、だったか。
皇女の元へ行き、一つ尋ねる。
「試練を知ってるか?」
「あ、はい。この国を乱す元凶となった悪魔を倒す事、です」
「ならいい。もう倒した。あとは2人で頑張れ」
「ああっ…ありがとうございます!!!」
「黒曜、終わりだ。もうクリア出来てた」
「うむ。帰ろう」
2人に手を振り、転移で家に帰る。
私は家に入る前にじゃが芋と玉葱を収穫する。ついでにまた植えといた。他の野菜のも。聖水を掛けて緑魔法で美味しく育つよう祈ってから家に入る。
自分と作物両方にクリーンを掛けてから厨房へ行く。下拵えで肉も野菜も準備できた。後は…ほんとに勝手にやってくれるんだよなあ。適宜の水、調味料材料が鍋に入ってコトコト。
付け合せにほうれん草の白和え、まだ魚が新鮮なまま3尾あったので塩焼きに。ごはんはもう炊けているので、女神がよそって配膳してくれている。こちらも出来上がった肉じゃがを大皿に移している。それを黒曜が持っていってくれている間に毒の実ジュース…んん?今日見当たらなかったぞ??
「避難所にいっぱい植えてたのじゃ」
また女神自ら摘みに行ったらしく、麻袋を出してくる。解るかそんな場所!!
「避難所以外だとあのロビットが多分踏み荒らしてたと思うのじゃ…」
「そうか。なるほど。ありがとうな」
さて、いただきます!
「んんんんん!」
じゃが芋と玉葱が肉の美味さに追いついた!!!めっちゃ美味しい―!!
「んんんんんんんんん――!!」
黒曜さんの感動長いな!!!でも良かった、満足いく肉じゃがだったようだ。
「んー!!肉じゃがも美味しいし、魚はまたふわふわだし、白合えも美味しいのじゃー!」
海沿いの町とかあれば海産物も使えるんだけどなあ。内陸部ばっかりなんだよな。
「お嫁に来てください…!!!!」
黒曜がキラキラした目で言って来るのに思わず吹いた。
「もう行く予定だから!肉じゃが美味しかったんだな、ありがとうな」
黒曜の髪をなでなでしてやる。ってうおお凄い。黒曜どんだけ肉じゃが食べてるの!?もう3分の1しかない。
一応自分の分をもう少し取り分けて、あとは黒曜にやる事にした。大好きな人が沢山食べるのがいいと思う。
食後はコーヒーチェリーのパンナコッタ。コーンスターチはあるんだけどなあ。ゼラチンが見当たらない。作ってもいいんだけどね。珈琲を飲みながら、黒曜の膝に甘える大事なお時間です。
「明日はどんなのが来るんだろうなあ…」
「今回みたいなのだと、有る意味楽だけど市民が可哀想だしな」
「ま、行って見なきゃ解らん。さて、風呂はいって寝るか!」
まあ、私はちょっと王族に夢見すぎなのかも知れない。でもあれはないわ。
王族が豪華な暮らしをしているのは、いざという時の責任を果たし、国民に還元する為だと思ってるマリーさんには、今回の王族の在り方は我慢がならなかった様子です。
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