12.王子改造計画
かぞくがふえたよ!
今日は王子を連れ帰った時刻が晩餐の時間であった為、基本的な方針を話し合いながら皆で食事を摂った。
王子は晩餐を凄く珍しいものを見たような顔をして、一口食べた後に顔を輝かせた。ふわふわのパンに驚き、美味しさに驚き、なかなかの健啖家ぶりを発揮していた。
「食事中にごめんね、先ずは鑑定させて下さいね~ 鑑定!」
シュネー・エル・ラスキア・ド・トルクス /王太子(微毒/衰弱)14才/男
レベル1
HP153/MP210
力17
体力21
精神力50
知力215
忍耐120
剣術7
槍術10
礼儀作法10
影魔法7
錬金術<未取得>
風魔法<未取得>
時空魔法<未取得>
ビーストテイマー<未取得>
導師の弟子
※導師の弟子の称号で非常にレベルとパラメータが上がりやすくなっている。
「おお~…ってちょっとづつ毒盛られてるよこれ」
「キュア」
ふわりと王子の体が光り、ステータスから微毒/衰弱の表記が消える。
「っ!凄い…私の体が急に軽くなった…頭痛と倦怠感がない…」
「ずっと気付かずに我慢なさっておられたんですねえ~…」
「そのようだ…しかし今とてもスッキリしているよ」
体調不良が直った事で、パラメータやスキルに言及されていく。
「しかし王族のスキルってこんなにあるものなのか?なかなか壮観なんだが」
「槍カンストか。でも護身に槍は向かないのじゃないかね?…腕にもよるか…まずは体術が大事だしな」
「この影魔法って気になるなぁ。どんな魔法?」
「20分ほど何の影の中にでも入れる魔法だ。追っ手から逃げる時に重宝していた。リキャスト時間もないので、実質MPが切れるまでは隠れ通せる。その間は攻撃できないし受けないな」
それを聞いたアディはにっこりとして頷く。
「シンプルで強い魔法だね、それは。他に何が出来るの?」
「すまない、逃げる事にしか使って居なかったので解らない…文献を漁るか教会で訊くしかないな」
「マリーが取ってレベルを上げたら解るよね?」
「それが一番良さそうだな。教会は信用ならん」
「あ、そういやマリー、最後に使った魔法…あれ良かったのかな…聖属性って神しか仕えない魔法って言われてるのに。私の他に気付いた人が居たら大変じゃない?」
「状況が状況だ。集団パニックで見た幻とでも言って置けばいいだろう?」
「まあ…死体も回収されて証拠はない、けどね。神様として祭り上げられるマリーも楽しくていいのかも」
「アディ…他人事だと思って好き勝手言うな」
「「「「「もう人間じゃなくて神に一歩近づいてるんじゃ」」」」」
「私は人間だ!」
他の一行は、何故マリーがここまで人間に拘るのか解らない。神だっていいじゃない。
「未取得の魔法関係も凄いな。全部取得するとかなり強いじゃないか、婿殿?」
「取得するのにどうすれば良いかよく解らないのだ」
小首を傾げる王子。あざとい。王族あざとい。その美貌でそのポーズは可愛いじゃないか。アディが真っ赤になって見つめている。
「心配するな。明日から公爵家のスケジュールを体験して貰う。さくさく覚えて貰うぞ」
にやりと笑ったマリーがスケジュールを口にする。王子は良く解っていないのか、ふむふむと頷くばかり。
「で、冒険者登録をして貰って、毎週末の休日はダンジョンに行って貰う。最初は影に隠れたままレベルが上げられればいいのだが、まあダメでも陣形の中央に居てくれれば大丈夫だろう。公務は男性陣が働いたり学園で学んでいる間にして貰う。今の内に王家に書類を手配する手紙を出しておこう」
「恩に着る…影と平行して護身術が使えればかなり危険は避けられそうに思う。…毒は解らないので困るんだが…このところ銀のカトラリーを使っていたのに反応はなかったのだ。それでも毒をくらっていたなら反応しない毒を盛られているのだろうな」
貴族派最大のトップには財務大臣などが居る。刺客や毒を送り込むには一番怪しいのだが、何も証拠がない。犯人を捕らえても、大臣との関わりがなく、下手をすれば王派閥の人間が混じっているのだ。聴取しても首を傾げて襲えと命令された、盛れと命令されたと言うが、誰に命令されたか、という話になると誰も覚えていない。まるで操られているかのようだ。
暫しリビングに沈黙が満ちる。が、今のところは打開策が浮かばない。王子が公爵家に居る間に思いつけばいいのだが。
其処からは一旦話から離れて、残りの晩餐を食べる。デザートが提供されると、王子の顔が輝いた。甘い物がお好きのようだ。幸せそうにデザートを食べるシュネーを、アディが微笑ましく見守っている。
「さて、明日はシュネーの武具を揃えに行こう。鎧下やベルトも。食事が終わったら皆眠った方がいい。明日の朝も早いからな」
解散、となり、それぞれ風呂に入って眠る。シュネーは久々の深い眠りを享受した。
朝早くに起こされ、シュネーは少し眠そうだ。顔を洗って少しスッキリさせると、目に力が戻った。
訓練着とやらを渡され、着替えるとそのまま中庭へ連れて行かれる。
「朝の修練、魔法だよ。一緒に頑張ろう?」
と言うと、全員が揃っている方へ案内する、…手を握って。
魔法のレベルが頭打ちになっている面々は、如何に魔法を合わせた高位複合魔法を生むか練習してみたり、徒手空拳の方で気や勁を扱う練習をしている。そうではないアディやリシュはまだ頭打ちになっていない魔法が複数あるため、カウンターストップを狙って伸ばしたい魔法の訓練を始める。
シュネーの元にはマリーが参じ、コツを伝授していた。
「あ…アイテムボックス!」
空間に腕が入るのを見たマリーが笑む。
「よし、時空魔法が発現したようだな。次に行こう」
「はい!」
ウィンドカッターを唱えさせること数度。ひゅう、と涼しい風が吹く。
「風魔法も発現だな。次に行こう」
シュネーは少し不思議そうな顔をする
「使い物になるまで特訓などはしないのか?」
マリーは苦笑した。
「先ずは全部発現させてから、好きな魔法から重ねて練習をして貰いたいと思っているよ」
「なるほど…差し出口失礼した」
「とはいえ、残りの二つは私も未体験だ。取りあえず分離から行こうか」
鉄鉱石を取り出して、シュネーに握らせる。
「石と鉄を分けて、鉄だけ取り出してみろ」
シュネーは困ったような難しい顔をし、掌の鉄鉱石に集中する。鉄だけ、鉄だけ、と少し呟きが漏れている。
暫くすると、鉄鉱石が光り、鉄と、少々鉄を含有した石に分かれた。シュネーは笑顔になる。
「できた!」
顔を上げるが、マリーの姿が見当たらない。ちっちっち、と何かを呼ぶような声でシュネーは気付く。野良猫をテイムさせようとしているのだと。少し離れた所に猫が居るのを見て、意識を集中させる。
「―テイミング」
失敗だ。猫はまだ警戒態勢のまま、マリーを見ている。
何度もテイミング、と繰り返す。猫は少しづつシュネーの方を見出している。
「テイミング!」
「にゃお!」
猫と自分を繋ぐような光が灯り、成功を感じる。野良猫はシュネーの足元に擦り寄り、ご飯を強請っている。
だが、本来は騎乗できる魔物や動物、一緒に戦う能力を持つ魔物や動物をテイムするのが定石だ。野良猫をどうしようか迷いながら、王子はテイミングを解除した。ご飯は持ってきてあげる。
「凄いな。一刻足らずで全て取得か。では、好きな魔法を今やった手段でレベルを上げていけ。的はあちらにある。――ああ、テイミングだけはこちらではなくダンジョンで行った方が良いだろうな。少し弱らせてからやると成功率が上がると聞いている。あと、済まないが影魔法を一度見せてくれないか」
「ああ、構わない」
マリーの影を見つめてそのままスッと姿が消える。そしてまた影から出る。
「これでいいのか?あ、自分の影には入らぬ方が良い。時間いっぱいまで自力で出られなかった。自分が消えるとその影はなくなるからな」
「――充分だ」
攻撃魔法が使いたかったらしい、王子は風魔法を選んだ。アディの傍に行き、彼女の狙っている的の横のものを狙ってウィンドバレットの練習を始める。
マリーは王子のやった一連のスキルを真似、無事に錬金術とテイマーと影魔法のスキルを発現させた。
ダンジョンで拾った錬金素材を無駄にせずに済みそうだ。
そこへセバスがやってくる。どうも王家の使いが書類を持ってきたが、結界に弾かれて入れないとの事。
名前を聞いて、メモを取り、別の人間に持って来させるよう指示する。そして、弾かれた人間の名前はシュネーに害意ある者だと王家に伝えるようにと付け加える。セバスは一礼し、指示に従うべく門の方へと去って行った。
「どうも、あんたにお熱な連中の多いことだ」
首を竦めてみせると、シュネーは困り顔で笑う。
「少し風通しが良くなるといいのだが」
「いや…こんな程度じゃ操り主まで辿り着くのはかなり難しそうだと思うぞ」
さて残り時間で自分は錬金釜を4つ手に入れて来よう、と言い、クリーン、と唱えた後に平民の外出着に着替えて外へ出る。
他の者は動じる事無く、朝食までの時間鍛錬をし、まだ少し残っている冷えたスポーツドリンクを飲んだ。どうやら好評のようなので、マリーは冷やしたスポーツドリンクを常にアイテムボックスへ入れるようになった。
朝は忙しいので、風呂ではなく各自クリーンで済ませる事が多くなる。シュネーはアディに掛けて貰う。
錬金釜を4つ手に入れたマリーは、丁度良く他の皆と朝食を摂る事ができた。シュネーはまだ料理の美味しさに感動している。ふわふわパンとスパニッシュオムレツ、オレンジジュースにデザートだ。シュネーは本当に美味しそうな顔で食べるので、食べさせ甲斐があるとリシュは笑った。
アディは折角のチャンスだからと「あーん」をしたいと思ったが、行儀が悪いと言われそうで尻込んで居る。
マリーは突っ込まない。リシュと仲良く会話しながら無視している。
そこに、やっと結界を通れる使用人が公務を持参したと報告が入る。執務室へ届けるように言い、残りの朝食を平らげた。
「夕方にも修練を行うので、シュネーは覚悟して欲しい。晩餐の2刻前に行う」
其処からは各自勉強や仕事に打ち込む。ラライナは空いた時間で気や勁が出るように抜け駆け特訓をしているが。
マリーは王子を連れて冒険者ギルドへ向かった。当然のように物陰から急に襲い掛かってくる無頼漢は頭を飛ばす。基本的に、マリーの使う刀術は確実に首を飛ばすのが基本的方針なのである。某妖怪首●いてけ、である。受付嬢は王子を見て、マリーを見て、もう一度王子を見た。
「今度はロイヤル攻めですか!!?なんでロイヤル様が冒険者登録しに来るの!?!マリーさんだからですか!バケモノ姫!」
「彼は剣術7、槍術10だ。問題なかろう」
今日は軽めの発狂で済んだようだ。受付嬢はブツブツ呟きながらも王子にクラスEのカードを手渡す。
表情が言っている、どうせまたすぐレベルもクラスも上げる気なんでしょう?と。
其処に突っ込む事はせず、「ありがとう、では」と挨拶をしてささっと家に戻る。そして王子とマリーもまた、公務と勉強に励むのであった。
晩餐前、集まった一同は少し気の毒そうな目をシュネーへ向ける。初心者は体力作りからだ。ダンジョンでステータスを上げる前までは皆キツい思いをしたものだ。
各自型稽古に入る前に、少し走って体を温める。シュネーからは、付いていこうという意思は感じられるが、どんどん周回遅れになっていく。皆が型稽古に入った時には、疲労困憊であまり足が上がらなくなっていた。マリーは其処でランニングを止め、暫しの休憩を取らせた後、腕立て伏せやスクワットを開始させる。
悲痛な顔で繰り返すシュネーに、一同は同情するが、必要な事であるのも知っている為、心の中で声援を送った。
『『『『『シュネー王子、ファイト!!!』』』』』
こうしてある程度鍛え上げられた後は、ダンジョンだ。まだ3日ある。
それまでは何度も根を上げそうになるシュネーだった。
シュネーさんのぷちお引越しでした。
読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!負けるな王子ー!