11.デート?
おデート会ですね。恋愛要素ちゃんとあったんですよねこの話
完全休養日、という事と疲れもあって、アディはぐっすり眠れた。そして思い出した。
実は王子から昨日手紙が届いていたんだった。完全に忘れていた。バタバタしてたからね…。恐る恐る手紙を開けると、ふわりと香水が香った。んまあセレブ仕様なお手紙だなあ。内容は以前言っていた観劇に行かないかというお誘い。
本当は観劇なんて興味ないんだけどなあ。疲れてるからまだ寝ていたいし、どうせなら修練してる方が楽しい…。
愛しい婚約者、アディヘ
お茶会からそこそこ日が進んでしまっていた事を詫びよう。何やらスタンピードだのが発生していた所為で書類に追われてしまった。だが私の愛は全く揺るぎもしていない、信じて欲しい。
サリエル家の活躍は耳に届いているよ。素晴らしい事だ。此の度はSランクに昇級すると言うじゃないか。王都まで来てくれる日が決まったなら教えて欲しい。祝福に駆けつけたく思う。
サリエル家の活躍で焦った貴族派が、私やアディの命を狙っていると誰もが言うけれども、それはサリエル家の問題ではない。貴族派が悪いのだ。気にしないで居て欲しい。
新しく毒見役や影を雇い入れて居たのだが、消耗が激しい。一体誰が私やアディの命を狙っているのか…。貴族派の情報を洗いなおして犯人の家を探している。未だ蜥蜴の尻尾しか掴めていない。申し訳ない。
さて、以前誘った観劇だが、明日は体が空いているだろうか。午後2刻に馬車でそちらに向かう予定だ。
またその美しい貌を見せておくれ。きちんとエスコートをこなすから身を任せて欲しい。君の頬が赤くなるのを見るたび胸が騒いでどうしようもないのだ。我ながら恋は人を馬鹿にする、という言葉は真実であったと実感している。書類を片付けていてもそなたの顔が浮かぶようになってしまった。逢える事を楽しみにしている。
そなたに夢中なシュネーより、愛を篭めて
流石王族、昨日の今日で、こちらの都合も聞かずにやってくるとは。
パジャマで迎えてやろうかと一瞬考えたが流石にはしたないと考え直した。今は午前の11刻だ。ちょいちょいとメイドを呼んで予定を伝えると一瞬で顔色を変えた。ギリギリになって伝えて申し訳ないが、不可抗力だと思う。
ぱたぱた駆けて行ったメイドは仲間を呼んだらしい。鬼気迫る表情のメイド軍団に、またもあれよという間に衣服を脱がされ、ラベンダーの浮かんだ風呂に突っ込まれる。わしわしと髪と体を磨き上げられ、さっと水分を取ってオイルマッサージ。
こういう事をされると、あ、自分公爵令嬢だった、と思い出すよね。普段全然それっぽい事してないからね。マッサージ自体は気持ちいいので、悪い気分ではない。今日は紫とオールドローズピンクをメインに、以前は大人っぽさが全面に出ていたが、今日は柔らかさを出すようにくすみカラーで攻めるようだ。
普通に白とピンクのふわふわ系が似合わない顔でごめんね。悩むよね。髪を編みこんで少しフェミニンになるようゆるっとさせて髪飾りで纏めてくれる。うん、王子の好みは知らんけど、個人的には結構好みだな。
午後2刻というと観劇まで少し時間がある。お食事から始まる可能性があるので、迂闊に家で昼食を取るのは控えた。
それにしても私も命狙われてたのか。影さんが優秀で気付かなかったわ。使用人の新規雇用もしてないから今の所毒も盛られてないし、毒が盛られたら私が気付く。そもそも私には効かないけども。
あ、帯剣しちゃダメ?参ったな。暗殺者ホイホイの王子と一緒だと言うのに。まあ徒手空拳と魔法があるからなんとかなるかな?
メイクも終わり、時刻を確認するとギリギリだ。慌ててリビングに向かう。向かっている途中にセバスに逢い、王子が到着した事を告げられた。ほんっとにギリギリだ。
王子の元へ向かうと、さっと片膝を付いて手をとられ、そっと手の甲に口付けをされる。うう、なんだろうこれ、恥ずかしい…。ぱっと顔が赤くなった私に、王子はただでさえ煌く美貌を更に輝かせ、うっすらと頬を染める。私はこの隣を歩くのか!?私の存在が完全に埋没するんじゃないか?
そんな内心は表に出さず、表面上はにっこりと笑う。
「御足労頂きまして、非常に光栄です、シュネー王子」
「ああ…やっと逢えたよ。そなたに逢えると胸が騒いで仕方がない。とても幸福だよアディ。今日の装いもとても似合っている」
シュネー王子は更に笑み零れ、その様子にうっかりときめいてしまう。顔が熱い。これは恥ずかしいのかシュネー王子が好きなのか解らない。解らないけど、うっかり恋してる可能性がある。うう、私、自分が思ってたより乙女かも知れない…!
馬車へと歩き出すと、自然に手を取られ、エスコートされる。
「あ、あの…あまりそういう事を言われると、ですね…。照れくさくてドキドキしてしまうのですが…」
「私に、そなたが?歓迎するよアディ。ずっと私にときめいていておくれ!そんな可愛い事を言われると私の方こそ、そなたにときめいて仕方がない。嬉しいよ可愛いアディ」
そんなやりとりをしながら、私達は馬車に乗る。流石王子だ。白馬じゃないですか。白馬の王子様って実際存在するもんなんだなあ。
馬車の中、私が座った座席の隣に王子が掛ける。む、向かいが空いてますよー…?
わざと隣に座ったのが解ったのは、きゅっと指を絡めて手を繋がれた時。くっ…策士め…赤くなった顔が元に戻る時間がまるでないじゃないの!
「…っあの、王子…手を…」
そっと手を離そうとすると、更に強く王子が私の手を握りこむ。
「そなたに会えずに寂しい思いをしていた私に、どうか手くらいは許して貰えぬだろうか…?」
あ。これアカンやつです、恋愛モードになってますがな。少しふざけた事でも考えてないと一気に落ちそうだ。
落ちきるのにはまだまだ早い。チョロインさんになってしまう。亜紀になる前のアデライドへの対応を思い出すんだ!
パカパカと軽快に走る馬車は、1店舗の前で止まる。エスコートされて店に入ると、お高価そうな宝飾品が並ぶキラキラした店だった。
「何か一つでも私からの贈り物を身につけて欲しいんだ。選んでくれないか?」
えーと。それは構わないんだけど、こういう時は普通、王子の色を纏うのが普通だよね…?プラチナはいいけど、アメジストじゃ格が足りない。冷や汗を感じる。――あ。でもこれいいな。透明ではなく、白の混じった紫。文様が複雑で見ていて飽きない。そんな球状の宝石をプラチナで蔦を象った繊細な細工が固定している。
王子の色を2色ともクリアし、私自身も可愛いな、と思える宝飾だ。透明でカットされているものより安っぽいと思われてしまうかも知れないが、私はこれを指差した。
「これなんて、可愛いと思いました」
「ほう。私の可愛い人は見る目も確かだね。チャロアイトか。なかなかの稀少品だな」
え?稀少!?もしかしてお高いものをねだってしまっているのか私!
ちょっと硬直してしまった私を後ろから抱き締めるように顔を合わせてくる。ヒイ!溶ける!美貌のアップしゅごい!
私の顔は真っ赤になっているだろう。
「私の色を選んでくれて凄く嬉しいよアディ…」
ちゅ、と髪にキスをされ、呆けている間に王子は支払いを済ませたようだ。私の首につけてくれる。
「凄く良く似合う。ふふ。私の色が似合うなんて、本当に可愛い人だねそなたは!」
「ふぁ…ふぁ、はい…っ!素敵なプレゼントを有難う存じます…っ」
だめだ…諦めよう…私はチョロインさんだったんだ…。王子の笑顔が眩しくて動悸がえらい事になっている。
私は恋をしている。
しかし、懸念は一つあるのだ。王子は強い女性がお好きなようだ。マリーの強さはゆうに私を超える。容姿だって私といい勝負だと思う。ヒロインと悪役令嬢と言う事もあり、私達はゲーム補正でどちらも非常に美しいとされている。…マリーに逢ったら、王子はマリーに恋してしまわないだろうか。
「この後は昼食を一緒にどうかな?お姫様」
「はい、丁度お腹がすいて来た所です。嬉しい提案ですわ、シュネー様」
どうなるか解らない事で沈んでは申し訳ない。私を蕩けるような目で見てくれるシュネー王子に寂しい思いをさせたくない。今は王子の事だけ考えよう。
「良い店を知っているんだ。案内するよ」
私の手を引き、エスコート。
また馬車の中、シュネー様は手を繋いだまま。こんなに全身で愛情表現してくれる人だとは思わなかった。
私はシュネー様に犬耳と尻尾を幻想する。うう。可愛い…可愛いんですけど、この方。
美味しいと評判の、個室のある料理屋で、雰囲気も明るくて素敵なお店だ。シュネー王子にエスコートされながら、予約されていた部屋へ向かう…と、なんだか見覚えがある女性がこちらに振り向いた。多分アデライドの時の知り合いだったように思う。仲良かったっけ?
「あら…シュネー様にアデライド様。このような所で逢引ですか?余りにアデライド様の我侭でお困りでしたら、わたくしが代わって差し上げますよ?」
違った。敵だ。というか、「サリエル家の我侭姫」だった頃にマトモな友人が居る筈もなかった!
今まで微笑んでいたシュネー様の顔が一転し、虫でも見るような目になる。スッと目を眇めて発言する。
「…誰が私の許可なく話しかけて良いと言った?」
「あっ、だ、だって!あの我侭姫でしょう!?お困りじゃないのですか!?」
「喋っていいとは言っていないと忠告はしたぞ。次は不敬罪で牢に入れてやろう。私の婚約者は非常に可愛くて慎ましくて強くて素晴らしい人だ。そなたでは足元にも及ばぬ。非常に不愉快だ。去れ」
思ってもみなかっただろう、王子の言葉に、彼女の顔が盛大に引き攣る。顔全体でありえなさを伝えてくれなくても大丈夫だよ。昔のヤンチャな私は変わったのさ。
「~~~~~ッ!」
キッと私を睨み、無言で彼女は店を出る。威圧も殺気も伴わないただの睨みで怯む私ではない。笑顔でひらひらと手を振って見送ったら、更に凶悪な顔で睨んでくる。だから。せめて殺気の一つでも出してみろと。
面倒になったので、もう無視して王子と食事をしよう。2人で個室に入ると、コースで料理がどんどん運ばれる。
どれも、リシュの料理には今ひとつ手が届かないが、充分美味しい。この石パンだけは食べたくないが。
「美味しいですわね」
と、微笑むと、
「その顔が見たくて誘ったのだ。どうやら口に合ったようで幸いだ。」
と、微笑み返される。
あああ甘酸っぱい~~!
料理を堪能していると、不意に王子が寂しそうな顔をした。
「今まで…殺されかけた私を庇ってくれるものは少なかった。いても庇って死んでしまった…。駆けつけた応援部隊が動いて、はじめてこの命を保っていられた。初めてだったのだ。そなたは、私を庇って、尚且つ生き残ってくれた。襲撃に来た者はそこそこ腕がたったように思えたのに、そなたは全てを凌駕した…。嬉しかった。もうそなたなしでは居られぬほど恋慕した。……こんな理由では呆れられてしまうだろうか。だが、真実私はそなたに恋をしているのだ。信じてはくれまいか?」
私はそっと王子の手をとると、額に当てた。
「信じます。信じますから…私と共に生き残って下さい。私を上回る戦闘力を持っている人は少ない、とだけ。信じて下さいますか?」
「信じるとも…勿論信じるとも!でも強さだけでそなたを選んだと思われても困るところだな。私はあの時毅然と対応したそなたの横顔に一目惚れをしたのかも知れぬ」
「今はずっと傍には居れませんが、学園やその…お…お嫁に貰って下さったなら、傍にいる限り守り通してみせますわ。私は一途な愛をくれる貴方に恋をしました。おかしいですか?」
「いいや。これからもずっとそなたに枯れぬ愛を注ぐと誓う。共に居てくれ、アディ」
自然に2人の間が狭くなり、ちゅ、と小さく口付けをして離れた。
双方真っ赤な顔となり、顔色が落ち着くまでは店から出られなかった。
再び馬車へ。今度こそ観劇だ。演目はなんだろう。悲恋ものは嫌だなあ。
「冒険者などしているそなたにはこちらがいいのではと選んでみたのだ」
演目は冒険者が成り上がって姫を嫁にする話だった。現実では平民と皇女では成り立たない関係だが、創作ならばそんな無茶も押し通ってしまう。楽しそうな劇にちょっと興味がわいた。
劇場ではVIP御用達のBOX席だ。軽い飲み物と摘まむものをちょっと頼み、後はシュネーに寄り添いながら観劇を楽しんだ。一番盛り上がる姫への告白シーン。いきなり役者が倒れて起き上がらなくなった。急病だろうか!?それとも――。
だだだっと足音が響いて、客席が包囲される。BOX席からは遠いが、多分2Fはそれぞれ扉の外に居るのだろう。
「拡声」を使った大声が、舞台から響く。
「此処に来たヤツの中に、俺たちが探しているターゲットが居る。騒いだり音を立てたりしなければ見逃してやるが、騒いだやつはこうなる」
ドン、と倒れた役者を蹴りつけると眼窩に刺さった投げナイフが露になり、流れた血が見える。あれはダメだ。もう助けようがない。
他の客は必死で悲鳴を手で押さえているが、大声で悲鳴を上げた女性は即座に殺され――なかった。攻撃を受け止め、賊を倒した者が居たのだ。
「ほう。なら私をそうしてみればいい。出来るならば!」
聞き慣れた声が響き渡り、客席の中で独り立ち上がった人物が居る。監視しようとしたのか隠れて護衛してくれたのかどっちかは解らないが好都合だ。マリーが居ればこの数の敵を倒す程度の事は容易い筈だ。
現に、走り出したマリーにナイフは当たらない。まずは舞台上から、そして袖へ、1F通路へと走り抜けていく。その後に漏らす事無く賊の死体が転がっていく。ならば私は2FBOX席の扉前に居るだろう賊共を仕留めよう。
「シュネー様、私も行って参りますが、来られますか?ここで篭城されますか?」
「そなたの居ない間、私は身を守る術がない。護衛は2人付けていたのだが、この静けさでは仕留められてしまっただろう。付いてゆく」
「ハァッ…!」
扉に貼りついている可能性も考慮し、練りこんだ勁を扉の中央に当てる。扉が吹き飛び、亡くなった護衛2人の死体が露になった。
「ぐああっ!?あ…腹…俺の腹…が…」
扉ごと吹き飛んだ男が悲鳴を上げた。扉に背を預けていただろう賊の体内に勁が徹って腹側から炸裂したのだ。もう助かるまい。最後は何やら聞き取れない声を上げたかと思うと賊は自らの血の海へ沈む。
「右回りに賊を制圧します。数が多いので生かして捕らえるのは難しいです」
「解った!」
駆け足で、鎧袖一触、気を纏わせた手刀で敵の首を的確に狙って落としていく。5人程纏まった敵がこちらの動きを止めようと剣を抜くが、大した腕がない事は構えを見ると解った。駆け足の速度は落とさない。瞬歩、からの手刀飛燕4連。残った一人は顔面に勁をお見舞いする。
そこから暫くは接敵しなかった事を思うと、先ほどの5人が此処の周辺に配置されていたのだと解る。また敵の姿が見えた――と思うと、その敵の頭が落ちる。
「マリー?」
「アディか。無事でなによりだ……それがお前のこ…婚約者というやつか?」
「はい」
答えると同時に、マリーの体から今まで見た事のないくらいの威圧が生まれる。ほぼシュネー様へ向けているだろうに、その余波でも全身が粟立つ。
「おまえは、アディを幸せにする自信があるのか?」
「ぐうぅ…っ、い、今は!まだ私は未熟だ!しかしそのうちに、アディの持つ力とは別の力でアディを守りたい!」
暫く思案顔だったマリーが不意に威圧を納める。
「根性だけは認めよう。だけど先ほど自分の言った言葉には責任を取れ。アディを守れ。――そうしたら認めてやらなくもない」
「はい!…ええと」
「姉なんだけど父のようなものなの。しかし良くあの威圧に耐えられたましたわね」
「お養父さん…のようなものと思って良いのだろうか」
「そうね、もう1人ちゃんと父が居るけどね」
少し怖い。マリーが私より強い事など見て解った筈だ。マリーに靡かないで。お願い…!
ごほん、とシュネー様が咳払いをする。
「マリーさん、私には今は何の力も無い。王となった際には国ごとアディを守ると約束する。どうか将来、私にアディを下さい」
シュネー様の言葉に涙が滲む。私を、選んでくれた…!
「一つ条件がある。嫁はアディ以外を娶るな。愛人なぞ以ての外だ。アディ1人をずっと大切にすると誓え」
父の出した条件に、シュネーは笑って頷いた。
「誓います!」
「うむ」
少しばつが悪そうな顔をそらす。
約束を破れば天罰があると思え、と小さく呟くと、私に向き直る。
「まだ外の様子が解らない。確認して問題なければ客を帰そう」
「じゃあ私が見てくる。マリーは皆に伝えて!」
「拡声!現在館内の敵は掃討し終わったが、外にまだ居るかも知れない。確認して安全ならそう伝えるので、もう少し落ち着いて座っていてくれないか」
不安そうなざわめきが聞こえるが、客は1人も死んでいない事からか、なんとか声に従ってくれる。
シュネー王子にはマリーの傍に居てもらう事にする。飛行魔法でBOX席から一気に1Fへ。そして扉をくぐって行く。
外に10人ほど纏まっているのを確認。
「ダークヴォルテックス!」
範囲魔法で一蹴、周辺を飛んで回るが、さっきので最後だったのかもう賊の姿はなかった。ここで1人だけ離れて居るものならば生け捕りにしたかったのだが仕方がない。
館内へ戻り、無事を伝えようとした瞬間、気配を感じて避ける。チッ、と舌打ちが聞こえる。どうやってか透明に姿を窶した敵が1人居るようだ。
「プラントバインド!」
伸びた蔦が透明の何かを絡めとり、グルグル巻きに捕らえる。そこでマリーを呼ぶ。
「拡声!マリー!透明になった敵を一人捕らえたよ!他にも居るかも知れないけど、私じゃ細かい察知がきかないの!探して!」
今の私の傍には居ない。それくらいしか察知できない。
「では、邪な思いを抱えているものを選別するバリアを張る。バリアから弾かれ、壁との間で圧死したヤツが賊だ。」
「わ、待ってこの賊外に置いてくるから!」
ぐるぐる巻きの男を抱えて駆け出すと、同じく出口から出ようとする気配を2つ感じる。
「ハァッ!!フン!」
2つの気配に勁をお見舞いすると、体を爆発させた賊の遺体が2つ現れる。放置して、館外へ逃れた。同じような者がまだ居るかも知れないと思ったが、今度こそもう気配は感じない。
「ジャッジメントバリア!」
と魔法の詠唱が聞こえてくる。そんな技なんてある訳がないと見縊った賊もまた、聖属性のバリアと壁の間に挟まれて圧死する。…うん。そうだよね。今の光属性じゃなかった。また新しいのが生えたんだねマリー。
捕らえた男は騎士団預かりとなった。シュネーが一番信頼しているという3番隊の隊長へ賊を預けて、マリーとシュネーと私の3人で馬車に乗り込む。
どうやらシュネーは、マリーが聖女である事を知っていたようだ。不敬罪な口調に態度で文句が出なかったのはその所為か。
「シュネーはいつもこんな風に狙われているのか?」
「そう…ですね。日常となってしまいそうで少し怖いです」
「なら、落ち着くまでウチへ避難してみてはどうだろうか。書類などは部下に運ばせて」
「マリー?父母に確認取らずにいきなりそういうのはダメじゃないかな」
「家についたら聞けば済む話だ。いいのであれば、荷物も部下に運ばせて、もう家からなるべく出なければ良い」
「王様の都合だってあるでしょうに」
「書類と一緒に手紙で確認すれば良いだろう?なんだ、アディは王子と共に居たくないのか」
「そんなことはないよ!なんてこと言うの!」
「…そなたは安全に暮らしているようだ。少し…避難させて貰えれば、私も気を休める事が出来て嬉しい」
そなたと共に有れる事も、と小さく付け足した言葉に、私は真っ赤に。マリーはそっぽを向いた。
結論から言うと、王子は我が家で事情が落ち着くまで暮らす事になった。王からも宜しく頼みたいと返事があって、今日から同居だ。気を利かせたのか、私の部屋の隣にあった客室がシュネー王子の部屋となった。なんだそれ聞いてないしドキドキしっぱなしでどうしろと!
「どうせなら、護身に徒手空拳と短剣術くらいは身につけろ。教えてやるから光栄に思うように!」
またマリーの弟子が増えたようだ。でも、確かに護身はある程度身につけて欲しい。レベルも1じゃなく、いくらか安心出来るレベルになってから帰してあげたい。マリーは王宮から荷運びに紛れて敵が入り込む対策として、さっきのバリアを門の所に設置。半年毎に張り直す程度でもつそうだ。
「じゃあ…」
「「「これから宜しく(ね)!」」」
マリーさんの婿試し回とも言いますね。シュネーさん無事クリアです。
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サリエル家は現在修羅の館と化してますが、シュネーは無事仲間入りできるでしょうか。